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呪賦ナイル YA  作者: 城山古城


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第十話 戦いの狼煙

 決勝リーグ最後の実況を務めるのは富沢梅子だった。午前中の実況も彼女である。プリズマのプロダクションからは最後はプリズマ全員でとの要請があったが、この実況案は富沢梅子が進言していたものであり、そこには最終日はすべて富沢梅子、一人でやることも条件として入っていた。


 富沢は午前中も気合を入れての熱況をしていたが、午後もその勢いを落とすことはなかった。その熱の源となるのは隣にいる八雲だった。そう、何を隠そう富沢梅子はミリオタであり、特にその中でも遠矢八雲のことが大のお気に入りであった。その彼女の動力源はもう一つ追加された。佐伯総将、この男もお気に入りであり、特に八雲と総将が絡む所は彼女の頭をショートさせるほどの高出力を叩き出す。所謂、ご褒美を超えた神饌(しんせん)であった。二人が会話をするだけで、涎が止まらない。


「さあ、始まりました! 決勝リーグ最終戦。午前の結果から、両者ともに勝てば優勝する一戦です。先程、佐伯三佐、遠矢二尉からありましたように勝利するためには最大火力を持つ神宮選手と最大防御力を持つ武選手をどう倒すかで勝負が決まります。この二人が優勝の鍵となりますが、両チームの作戦はどのようなものなのか!」


 メインモニターには呪具から発信されるビーコンにより各選手の位置が表示されていた。


 その動きはチームによって違っていた。チーム武帝はその場を警戒していたが、チーム五芒星(ファイブスター)は開始と同時に忠陽以外は動いており、その動きから忠陽に合流しようとしていた。


「これは……」


 富沢はチーム五芒星の動きに驚いていた。


「チーム五芒星は合流だな」


 総将は笑みを浮かべる。


「ですが、チーム五芒星の動きを見ていると集合地点は賀茂選手となります。先程のお話ですと、いかに神宮選手を守りつつ、相手の戦力を減らすかだと考えますが……」


「八雲妹が考えた作戦は防御陣地の中での撃ち合いだろうな。それなら賀茂の方へ向かっていくのに納得できる」


「さすが、ゆみちゃん。考えたなー」


「確か、本予選リーグのチームエーメンとの戦いで構築した土の砦でしたか。ですが、この市街地Aでは賀茂選手が砦を作る場所がないように思えますが」


「作らなくて良い」


「それはどういうことですか? 佐伯三佐……」


「市街地戦においては建物がその塹壕や、砦の代わりになる」


「なるほど……。ということはもしかすると決勝リーグ、チーム臥竜戦で見せた罠を張るということですね!」


「その通り、富沢ちゃん、賢いな!」


 八雲に褒められ、富沢はくねくねと恥ずかしがっていた。


「確かに作戦としては理に適ってますね。この大会は各人の初期位置がバラバラです。そのため合流するためには時間がどうしても掛かります。その時間を使って、賀茂選手は罠を張れば、即席の砦を築ける。いや、なんとも合理的! ですが、ここで疑問なのですが、だったら賀茂選手を倒せばいいじゃないという考えに至りますが……」


「そりゃあ、なあ?」


 八雲は総将を見て、同意を促す。


「ちゃんと言え、八雲!」


 総将は眉間に皺を寄せた。


「一体何なんでしょうか。佐伯三佐?」


 総将は二人が似た者同士かと思ってしまった。


「それは、賀茂が見つけられないからだろ」


「なんと、ここで賀茂選手の隠形というわけですね! 実に厄介!」


 富沢のわざとらしい答え方に総将はため息を吐く。


 大地は進行方向に面倒くさそうに歩いている近藤を見つけた。


「あ」


 近藤は間の抜けた声を発した。


 大地は笑みを浮かべながらも、近藤の前を走り去った。


「わりぃな、稔。今は相手してらんねぇだわ。後でなーーーー!」


 近藤は冷静に通信を始めた。


「浩平、すまん。いま大地が俺の前を通っていった」


「何!? なんで見過ごした!」


「いや、だってよ。急いでたみたいだったし……」


「どっちに向かった」


「北東……」


 浩平へ遠山から通信が送られてきた。


「松前くん、賀茂くんがどこにも居ないよ……」


「当たり前だろう! 賀茂は隠形で隠れているんだ。痕跡を探せ!」


「浩平、今どこにいる?」


 真が浩平に焦ったように聞いていた。


「中心地から南南東だ。お前は今どこにいるだ?」


「俺は北東だ。氷見を見かけた。ものすごい勢いで中心地に走ってるぞ。今、追いかけている」


 浩平はそれで動きを止め、もう一度考え直す。その瞬間に一つ通りの先で由美子を視認した。


「こいつら、中心に向かってる!」


 浩平は即座に走り、由美子を追いかける。


「ちょっと待ちなさい。あなた達! むやみに追いかけたら相手の思う壺よ!」


「涼井先生、違う! 遠山以外はそれぞれ見つけたヤツを追え! その先に賀茂が居るはずだ!」


「松前くん、どうしたのよ、急に!?」


「あいつら、合流を目指している」


 遠山は北西の位置にある高い建物におり、スコープの調整ノブで距離の倍率を変えて、観察していた。まずは大地を一瞬見るとやはり中心地に向かっているようだった。次に由美子、そして朝子と同じように中心に向かっていることが分かった。


「浩平くんの言う通り、中心に向かってるみたい。いいじゃん、合流させておけば。私たちも合流すればよくない?」


「馬鹿野郎! 相手が先に防御陣地を作ったりしたら、神宮の矢がバカスカ飛んでくるかもしれないんだぞ!?」


 それを聞いて、真は朝子を追うのを止めて、浩平の方へと向かう。


「浩平、神宮は今どこ?」


「中心から二ブロック離れたところだ」


「先にそっちに向かう!」


「遠山! 神宮を狙え!」


「怒鳴らないでよ。聞こえてるから!」


 遠山はスコープ越しで由美子を視認する。すると、遠山の目はさっきとは違い、虚ろの目をし始めた。


「見つけた。でも、走っていると当たりにくいんだからね」


「なんでもいい。足止めしろ!」


 遠山は相手の呼吸をスコープ越しに感じ、同じように整える。それから深呼吸をして、ゆっくりと吐き、相手のリズムに合わせて引き金を引いた。


 放たれた銃弾は由美子の行き先へと向かっていく。その到達は一秒ともかからない。だが、その銃弾は当たることなかった。由美子が作り出した六角形の呪防壁が頭部への銃撃を防いだのだ。


「防がれた! なんで!?」


「バカ! 賀茂に見られてるんだよ!」


 浩平の指摘に遠山は狙撃体制を崩して、辺りを見回すも気配がない。


「い、いないよ!?」


「違うよ、遠山。式神だ。賀茂くんは式神を通してタイミングを見ているんだ。どこかに烏がいない?」


 真の言葉で遠山は再度見晴らすとそこには数匹の烏がいた。それが歯がゆくて仕方がない。


「遠山、それよりもこっちだ。もう一度撃て。今度は足元を狙え!」


「うん、分かった!」


 遠山はすぐに狙撃銃を構え、由美子を見つけると、雑に弾丸を数発放つ。その一発が由美子の足元のコンクリート壊し、由美子の動きを止めた。


「ナイスだ! 遠山!」


 浩平は足を止めた由美子に一気に近づく。由美子はすぐに体制を整えて、住宅の屋根を上へと飛び登る。


「逃がすか!」


 浩平は後を追わず、拳に闘気を集中させて、建物を殴りつけた。建物は瞬時に破壊し、由美子は足場を失っていた。それでも由美子は端材を使って、再度隣接する建物へと飛び移る。隣の建物へと着地すると、正面に真の姿が見えた。真は由美子が飛び移った三軒先の屋根で待ち構えていた。


 由美子と相対した瞬間に悪寒のようなもの感じだ。


「ここで速くもエース対決だあああ!!!」


 観戦会場では富沢が唸った。


「君の攻撃は僕には通らない……」


 由美子は風の魔術で真の居る建物と、眼の前の建物を壊した。そして、真とは戦わず、その場から逃げようとしていた。


「なんと、神宮選手、逃げの一択だ!」


 だが、その実況の後、由美子は上がってきた浩平に近づいた。


「と、見せかけての、松前選手への奇襲!!?」


 由美子は呪力帯びた拳で浩平を殴りつける。浩平は辛うじて防御態勢を取っていたが、その拳の威力は思った以上に重く、怯んでしまった。その隙を狙って、由美子は屋根からおり、建物で下道を走っていった。


「これはどういうことでしょう。攻撃は最小限。それも直線的に速く合流地点に向かうのではなく、下道を使って遠回りをしてるぞ!?」


「狙撃への対策だな。よく見ている」


 総将が言った。


「遠山選手の狙撃ですか? ですが、さっきも防いでいましたが?」


「そう何度も同じ事ができるとは限らない。松前を攻撃した理由は遠山に撃たせないためだ。味方が近いと撃ちづらい。そして、建物を使って射線を消す」


「さすがはですね、神宮選手!」


 遠山は別の場所へと移動し始めた。


「ごめん、位置を変える」


「悪かったな、射線を消して」


「あの子、よく見えてる」


 由美子が下道を通ると、さっき建物から落とされた真が先回りしていた。


「逃さないよ」


 由美子は相手と近づくことはなく、その場から逃げようとするも真に後ろにいる朝子に気づき、呼びかける。


「ダメ!」


 朝子はその言葉で相手が気づいてしまったと思い、顔をしかめる。


「その攻撃は通らないよ」


 朝子はなにか変な気配を感じ、攻撃を止めて、すぐに後ろに飛び退く。


「天野川流拳術、初伝。旋風連脚!」


 真はまず由美子向けて蹴りすると小さな闘気の刃が放出され、その蹴りの反動を使って、朝子に回し蹴りをしながら、小さな闘気の刃を放った。由美子はその攻撃を風の魔術で相殺し、朝子は鉄鞭でそれを受け止めるが小さい闘気の刃だというのに体ごと押されていた。


「なに、この技!?」


 追撃とばかりに真は朝子に近寄る。その瞬間、また変な気配を感じた。


「天野川流拳術、初伝。針通し!」


 朝子はその攻撃も鉄鞭で受け止めたが、鉄鞭に当たった瞬間に胸に衝撃が走る。朝子は声にならない痛みを叫んだ。それと同時に朝子の呪具が動作し、呪防壁を張った。


「今のはなんだ!? たしかに氷見選手は武選手の攻撃を防いだぞ!?」


 富沢は思わず、実況席から立ち上がり、モニターに近づいてしまいそうになっていた。


「鎧通しの一種だろう」


 総将が答えた。


「つまり、受け太刀とか、防具を身に付けていても攻撃が当たるってことですね?」


 富沢の質問に総将は頷く。


「氷見さん!」


 由美子は追いついた浩平から逃げつつも、呼びかけた。


 朝子は胸の痛みを確認しつつ、息を整えようと必死に息を吸っていた。


「お前の相手は俺だろう!」


 浩平は由美子に戦いを挑むも、由美子は避けるだけで、まともに取り合おうとしなかった。それに苛立ちつつも、浩平は再度仕掛ける。だが、朝子の呪防壁が解けた瞬間、由美子は姿を消した。


「何!? 黄倉のときのやつか!?」


 真の眼の前には由美子がおり、由美子は朝子の肩を組む。


「気持ち悪いけど、ごめんなさい」


「ちょッ――」


 由美子は朝子と一緒に消えた。真達がその姿を再度確認できたのは遥か遠くであり、もう市街地Aの中心点の近くだった。


「空間転移の一種か、あれ?」


 浩平は真に問いかける。


「たぶん、そうだろうね。仕留め損なったよ」


 真は拳を強く握る。それを見て、浩平は真の肩を軽く叩く。


「仕方ない。俺達も合流しよう……」


「そうだね。稔はどこだろう?」


「おい、稔! どこにいるんだ?」


「いやさあ、中心点の近くに居るんだけど、めっちゃ呪符があるんだけど。これ、罠だよな」


 それを聞いて浩平は頭を掻いたあと、近藤に罵声を浴びせる。


「おい、稔! 罰としてお前はそこに突っ込め!」


「はあ? なんで俺なんだよ。そういう役目は真だろう?」


「真くんは温存しておくのがセオリーでしょう?」


 遠山は楽しそうに近藤に返事していた。


「おいおい。おれはどうなってもいいのか?」


「お前は本来の役目が出来ない以上、お前が居なくなっても戦力的にはそう変わらん」


 浩平の返事に近藤は頭を掻いて、空を見上げた。


「そうだよなー。俺は役立たずだからなー」


「そ、そうは言ってないだろう」


「あ、近藤くんが拗ねた。これは大変だよ、浩平くん」


 ケラケラと笑っている遠山に浩平は眉間に皺を寄せる。しばらくして、深い息を吐き、それに向かって叫ぶ。


「あー、悪かったよ。稔!」


「まあ、ぼちぼちそっちに合流しますかね……」


 真もその通信のやり取りを聞きながら嬉しそうに笑っていた。


 朝子は真の技と由美子の空間転移で顔が青ざめており、その場にへたり込んでいた。


「大丈夫? 氷見さん……」


 呼吸が未だに整わない中、朝子は由美子を睨みつける。


「大丈夫……なわけ……ないでしょ……」


「姫さんよ、なんでこんなにお嬢がグロッキーなんだ?」


 大地は由美子を質問すると、由美子は複雑な表情を浮かべる。


「そいつが……わるい……」


 朝子は手が震えながら由美子を指差す。


「仕方がないでしょう! あれしか……方法が……」


「まあまあ、二人共。皆で合流できたんだし……」


 青い顔をしながらも朝子の威圧は忠陽を黙らせるほどはあった。


「そうだぜ。俺が言うことをちゃんと聞いたんだから、褒めろよ」


「それは当たり前!」


 由美子は大地に詰め寄り、朝子は言葉に出せずとも大地に苛立っていた。


「それよりもゆっくりしてて良いのか? 相手は待っちゃくれないぞ」


 由美子は大地がまともなことを言ったため、余計に腹ただしく思い始めた。


「分かってるわよ、そんなことぐらい! 賀茂くん、相手チームの動きはどう?」


「皆、合流をしているみたい。今ならこちらが先手を取れるよ」


「ありがとう。なら、すぐに始めた方が良いわね」


「お嬢はどうするんだ?」


 大地の質問に由美子は口を尖らせる。


「今は休ませて置いたほうがいい。その分はあなた達に負担をかけるかもしれないけど、わたしたちの目的はあくまでも遠山さんを倒す。それまでは時間稼ぎでいいから」


「あいよ。まあ、俺がバシッとやってやるから見てろって」


「大地君、僕らの役目は足止めだよ」

「よくない!」


 忠陽と由美子から言われ、大地はつまんなそうな顔をしながら頭を掻く。


「氷見さん、あとどれくらいで回復できる?」


「五分頂戴」


「分かった。賀茂くんたちがかなり押されてきたら――」


「分かってる。そのときは援護に行くわよ」


 朝子は深呼吸をし始めた。


「神宮さん、武さんはどうだった?」


 忠陽が由美子に尋ねた。


「竹中会長の奇門遁甲の陣とは違うみたい。やっぱり対象は自分で、範囲は数メートルぐらい。でも、合流を優先したから細かい検証はしてないわ」


「ありがとう。攻撃は当たらないと思ったほうがいいみたいだね」


「そう思ってもいい。注意してと言いたいところだけど、できれば近寄らない方がいい」


「罠をたくさん仕掛けてるから、試してみるよ」


「よろしくね、賀茂くん」


「あ、神宮さん。これ」


 忠陽は由美子に三枚呪符を渡す。


「式の視覚共有の呪符。起動すれば感覚共有出来るようにしておいた。遠山さんにはダミーを数体自動で追尾させてる。神宮さんならうまく使えるよ」


「ありがとう。助かるわ、賀茂くん」


 由美子はそう言うと建物を登り、狙撃をしようと弓を作り出した。


「賀茂……気をつけなさい……」


 忠陽は朝子の方を向く。


「ありがとう、氷見さん」


 忠陽がその場から立ち去ろうとすると、朝子が呼び止める。


「待ってよ……。話、終わってない。陣ってやつも……注意するべきだけど……単純に、あいつは強い……」


 忠陽はその忠告に喜んでいた。


「ありがとう、その情報あるとないとじゃ、全然違うよ」


「そうか? 変わらないと思うぜ」


「うるさい!」


 大地は朝子の怒鳴り声に顔を引っ込める。


「バカ大地!」

「そうだぞ、ダイチィー。賀茂を見習え!」

「そうです」


 さらに追い打ちを掛けるように典子、葉、鞘夏までもが大地を叱責する。大地は天を仰ぎ見て、ため息を付く。どうして、うちのチームの女はこんなに気の強い奴ばっかなんだと大地は思う。そして、弦の音が鳴った。

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