第十話 勝っても負けても焼肉
竹中達が観戦会場に入る十分前、由美子たちは演習場である市街地Aに集合していた。チーム五芒星のメンバーはチーム武帝のメンバーと出会っても、喧嘩することなく、お互いに静かに挨拶をしていた。だが、生徒同時は良くても、藤と涼井はそうはいかなかった。
「昨日は、紛れで、勝ったみたいね!」
涼井は藤の顔に近づき、言った。
「はあ!? 実力よ! そんなことも分からないの?」
「あら、ごめんなさい。同じ高校出身のチーム臥竜に勝ちを譲られて決勝戦に進んだから、そうは思わなかったわ。一日目は竹中くんたちにボコボコにやられてたし」
「視力大丈夫? いい勝負してたし、相手を病院送りしてやったのよ!」
藤は涼井のでこに頭突きを加える。涼井はその痛みで怯んでしまった。
「ふ、藤ちゃん、ちょっと!」
朝子が藤の服を掴み、涼井から引き離そうとしていた。
涼井は負けじと藤に頭突きをする。その痛みを藤は堪えながら、互いの額をくっつけながら睨み合っていた。
「病院送り? なら、今日あんたたちを病院送りしてやるわ!」
慌てて遠山が涼井を藤から引き剥がそうとした。
「ちょっ! 柚ちゃん、それはまずいって!」
「うっさいわね。相手は伏見先生の教え子たちだからと言って、容赦しなくていいのよ!」
「いや、それなんか違わなくね?」
近藤が面倒くさそうにしていた。
藤は目の色を変えて、忠陽たちに言う。
「あんたたち! こんな女の生徒に負けるんじゃないわよ! 勝ったら、今日は高級焼肉店で祝勝会するわよ!」
「お、まじで! それいいな」
大地は藤の言葉に喜んでいた。
「なにを~~! 近藤! 今すぐこの街で一番高級な焼肉店を予約しなさい! 前祝いよ! 必ず勝って来なさい!」
近藤はその場から離れ、携帯で弄り始めていた。
「稔、お前……」
浩平は稔の行動に呆れていた。
「柚ちゃん、みっともないよ」
「うるさい! この女にだけには負けられないのよ!」
「いつもの藤ちゃんじゃないよ。落ち着いてよ」
「黙ってなさい! この女には負けたくないのよ!」
忠陽は呆然と二人のキャットファイトを見ているしかなかった。その中で真はにこやかに、由美子は優雅に前に出た。
「ごめんね。涼井先生、藤先生との勝負になると見境がないんだ」
「いえ、藤先生も同じ思いのようですので、こちらこそ、ご迷惑を掛けます」
二人は笑っていた。
「でも、勝つのは僕らだ」
「でも、勝つのは私達です」
その瞬間、全員が凍りつき、静止した。
由美子は手を差し出す。真は嬉しそうに握手する。
真はか細い手だというのにこんなに力が入った握手はないと思いながら、握り返す。由美子はこんな優男なのに意外に力があるのだと思いながら笑顔を絶やさなかった。
「おい、姫さん、絶対力入れてるだろう……」
大地の囁きに忠陽は頷く。
「宮袋くん、なにか言った?」
由美子の地獄耳に大地は恐怖し、背筋を伸ばした。
「いえ、何も言ってません!」
両者は手を放し、互いの控え室へと向かう。浩平は熱くなっている真を見て、物憂げにため息をついた。
控室に入ると、藤は上機嫌に由美子を褒める。
「よく言ったわ! 神宮さん! もう高級焼肉店を予約してあげたわ! みんな、今日は絶対に勝つのよ!」
由美子はため息をつく。
「藤先生、お気持ちは分かりますが、もう少しスマートにして頂けませんか?」
藤は由美子から視線を逸らす。
「しょ、しょうがないじゃない。私にだって負けたくないときだってあるのよ……」
「てか、なんで、藤ちゃん先生はあの先生に負けたくないんだよ」
大地は藤に聞いた。
「そ、それは……あいつ、学生時代から私を目の敵にしてるのよ……」
「本当にそれだけ? 藤ちゃん、そういう人って無視するじゃない」
朝子は藤に疑いの目で見ていた。藤はさらに顔を逸らす。
「あーー! 分かったぁ!! 藤ちゃん、あの先生に伏見先生を取られたくないんだ!!!」
葉は元気よく言い放つ。藤は余所余所しくアチラコチラを見ていた。
「な、な、な、なんのことよ。べ、べ、べ、別にそんなの関係ないし」
葉は適当に言い、自分が怒られて話を終わらせようとしたのに、どうやら図星らしい。葉は言い放った手前、どうすればいいのか分からず固まってしまった。
「あーー、なる。そりゃ、そうなるわな」
大地が頷く。
「ということは、あの先生も伏見先生が好きってこと?」
典子が口に出していた
「二人ともいい趣味をしているわね。はあ、あの男が関わっているなんていい迷惑だわ」
「じ、神宮さん。それはちょっと……。藤先生も真剣なんだから」
「賀茂、それでもあの男と藤ちゃんが付き合うのは私としては嫌なんだけど」
生徒たちの中でガヤガヤと話し始めていた。藤はその会話が聞こえ、堪らず赤面してしまう。
「もう! 私のことよりも、あなたたちの事が大事でしょう! 私はあなた達と一緒に戦うつもりで仕掛けたのよ!」
「はいはい。藤先生の色恋のお陰で緊張の糸も解れたことだし、真面目な話をしましょう」
「神宮さん!!!?」
由美子は葉を見る。葉は次に何をするのか気づき、パソコンを開け、控室のモニターに投写する。
「もう分かっていると思うけど、今日の相手は、かなり! 守りに主体した相手よ。イメージとしてはビリー隊をイメージするといいわ」
大地でも頷いたが、典子は誰という顔をしていた。
「アタッカーというのは語弊があるわね。ここでは前衛が松前さんと近藤さん、その後ろに武さん。後衛が遠山さんになるわ」
モニターは大まかな陣形の配置と、それぞれの選手のデータが映し出されていた。
「チーム武帝の中で注意すべきなのは武さん。チーム武帝の守り主体としているのはこの人おかげと言ってもいい。チーム臥竜の竹中会長とは同門で、天野川流兵法の使い手。だから、奇門遁甲の陣を使ってくると思う。武さんには攻撃が当たらない可能性が高い。ログを見る限りだと、竹中会長みたいに対象を全員ではなく、恐らく自分に絞っているみたい。あの周藤さんでさえ、直接的な戦いを避けてるようだから、何かしらあると思っていいわ」
「なあ、その奇門遁甲の陣って何なんだよ。そんなにスゲーのか?」
大地の間の抜けた質問に一同が凍りつく。
「大地くんはあのとき居なかったから分からないよね。簡単にいえば、こちらの攻撃が当たらない。あっちの攻撃は必中すると思ったほうがいいかも」
「なんだよそれ、そんな技があんのか?」
「技じゃない、術よ、術」
朝子は大地に強く言い放つ。
「だったらどうするんだよ? 俺達」
「まだ、話は終わってない。質問は良いけど、私達の作戦の内容は相手チームの内容を話してからでいい?」
由美子の言葉に大地は不満ながらも頷く。
「もう一人、注意してほしいのは松前さん。この人、甘利さんや黄倉さん、母里先輩と比べて身体は小柄だけど、同じくらい硬い存在と言えるわ。ログの中でも甘利さんと黄倉さんといい勝負をしている。ただ、黄倉さんのような補助効果の術はないからまだ楽に戦えると思うわ」
「あんな筋肉ダルマが二人も居たら、最悪よ……」
「氷見さん!」
藤の叱責に朝子は口を尖らせる。
「たしかにそうね。私も氷見さんの意見は同意。でも、宮袋くん以上にタフな存在では有るのは確かだから注意して」
忠陽たちは頷く。
「遠山さんはチームの中での紅一点。でも、チームで一番得点を取る狙撃手でもある。この人の狙撃は正確で、外したところは一、二度しかない。後衛だから比較的に狙われにくいんだけど、それなりに前衛の対策もしているみたい」
「そいつは注意しなきゃいけないところとかないのか?」
大地は由美子に聞いていた。
「射線に入らないことかしら。一番いいのは相手チームの人を使うこと。あなたが敵と一緒にいる限り、彼女は撃つつもりはない。味方に当てることが嫌みたい」
「なんだ、そんなことでいいのか?」
由美子はため息をつく。
「あのね。相手チームの人間と一緒にいるってことはいつも付かず離れずをしなきゃいけないの。戦っているていうのにそんな余裕あると思う?」
「あ、そうか!」
大地は周りから苦笑いされていた。
「あなたたちアタッカーが彼女の対策を気にしてもしかたないわ。宮袋くんは前だけ見てればいいわよ」
「おっ! そうなのか? その方が有り難えや!」
典子は大地の反応に呆れ果てていた。
「最後に、近藤さん。この人のことは調べても分からなかった。ログを見ても、地味な動きしかしてないし、主に松前さんと遠山さんのサポート役をしていたわ。でも、対チーム美周郎戦では黄倉さんも、甘利さんもかなり警戒していた印象がある」
「みのりんはやる気なさそうにしてるけど、相手の弱点を突くのは得意だったよね、大ちゃん?」
「あん? まあな……」
大地はお茶を濁すかのように答えた。
「典子さんと宮袋くんは、近藤さんとは知り合いだったわね?」
「うん。伴くんと、大ちゃん、みのりんはウチの保育園に居たから……」
「まあ、幼馴染っていうやつだよ。小学校の頃は、稔と俺と伴でよく玉嗣のチームと喧嘩してたんだよ」
「そうなの……。たしか呪術医を目指しているって兄さんたちの前で言ってたけど、呪術は得意なの?」
「ごめん。みのりんとは中学以来会ってなかったからよく分からないんだ。医者目指しているのだって、あのとき初めて知ったから……。でも、みのりんの言い方は変わらないんだなとは思った。面倒くさそうにしながら、言うことはしっかりと言う。大ちゃんたちの後ろに隠れていたけど、やることはやっていた、そんな人だね。ねえ、大ちゃん?」
「まあ、そんな感じだ。あいつの考えてることは分かんねえけど、あいつが俺達の背中を守ってくれてたから、玉嗣たちとも互角に張り合えた気がする」
「あなたたちの言葉からすると、ちょっと厄介な相手になりそうね」
「なんだよ、俺が稔に手を抜くとでも思ってるのか?」
「違うわよ。私達にもいるでしょう。そういう人が!」
大地はその意図に気づき、声を上げる。
「確かに。意外に頼りになるやつは居るな、ウチのチームに」
大地は忠陽を見た。
「そうね。意外によね……」
朝子も忠陽を見ていた。
「え、僕? 僕はそんなんじゃないよ」
周りから笑いが起きていた。
「それはそれとして、黄倉さんや甘利さんが近づかないっていうのは気になるわ。それにチーム臥竜は安藤先輩を近藤さんにぶつけていた。だから、まずは相手の出方を慎重に見ながら戦うことが重要ね」
忠陽たちは頷いた。
「それでよ、どんな作戦いくんだよ?」
大地は戦いたいという気持ちを逸らせながら、由美子に聞いていた。
「まずは合流優先、じっくり行くわ」
大地は舌打ちをする。
「こら、宮袋くん!」
藤が声を上げるも、聞いていなかった。
「大ちゃん、この前はそれで皆に迷惑を掛けているんだよ? 分かってる?」
大地は典子に指摘され、眉間に皺を寄せる。
「じっくりいくというのも、相手は私達のミスを確実に狙ってくる。さっきも言ったけど、遠山さんが一番のポイントゲッターは確かよ。私達がすべきなのは相手に点を与えないこと。与えないようにするにはあっちに狙撃をさせないようにするのが大事」
「だったら、乱戦に持ち込めばいいじゃねえか」
「バカちん。さっきもお姫様が言ってたでしょう? 付かず離れずをするのが難しいって」
朝子の指摘に大地はぐぬぬと漏らす。
「だから、まずは私と遠山さんの勝負になる。宮袋くんはビリー隊との戦いで、一人で集団戦を挑めばどうなるかは知っていると思うけど、同じ轍を踏みたい?」
「いや、止めとく。でも、姫さんとその女とどう勝負するんだよ?」
「撃ち合いよ。どっちがミスをするか、その勝負になると思う。相手が攻めてきたとしても、あなた達が守りの姿勢を取れば負けることはない。なんて言っても、こっちには罠と防御陣地のスペシャリストがいるのよ?」
「ボンの出番ってわけか……」
「今回、場所は市街地A。これも合宿の時、宮袋くんがビリー隊にやられたときと似ていない?」
「分かったよ。今回は序盤、大人しくしてれば良いんだろう」
大地以外は皆笑っていた。
「私もそれなりに頑張るつもりでいるけど、陣地が崩れて来そうになったら、作戦を変更する。そのときは私達が逆に打って出るから、そのときはよろしくね」
「オーライ。それまでは大人しく従ってるよ。でも、姫さんは撃ち合うんだろう? だれが俺達の指揮を取るんだ?」
「そうね……。氷見さん、お願いできるかしら?」
「私!? なんで、私なのよ!?」
「だって、賀茂くんは罠を張るのに手一杯でしょう? 宮袋くんに指揮を頼める?」
朝子は苦々しい思いで、その言い分を飲んだ。
「それじゃあ、作戦内容も決まったし、相手のことを確認したし、これで作戦会議は終わりね。何か他にあるかしら?」
全員無言で何もないことを示した。
「さあ、行きましょう。勝っても負けてもこれで最後。私達ができることをやりましょう!」
由美子の言葉に全員が気合いの言葉を発し、拳を上げる。
「あ、それと今日の打ち上げは勝っても負けても高級焼肉みたいだから楽しみですね、藤先生」
由美子の可愛らしい言い方に藤は小悪魔的なものを感じた。
「そうか! 藤ちゃん先生が予約してくれたんだっけ? いや、今日は腹いっぱい食べるぞ!」
「そうだね、僕も高級焼肉店なんていったことなから楽しみだよ」
「たぶん、焼肉将軍じゃない? たまに藤ちゃんがさっきの先生と一緒に行ってるって聞いたよ」
「やっぱり仲がいいんじゃない? 藤ちゃんとあの先生……」
「大ちゃん、お肉だけじゃなくて野菜も食べなきゃ駄目だよ!」
生徒たち言葉を聞いていると藤は財布の中身の心配をして始めた。
「あとで、京介と相談しないと……」
藤は携帯を取り出し、伏見にメールを送っていた。
時間になり、忠陽たちは運搬ボックスへと入っていく。運搬ボックスは忠陽たちを乗せて、移動し、その間に通信チェックをし始めた。そのときに藤の携帯が振動し、藤は伏見からの返信を見た。そこには藤の心配事などには一切触れず、忠陽たちに向けて一言告げていた。
「みんな、伏見先生からの伝言」
「なんだよ、グラサン先生なんて言ってんだよ?」
大地が面倒くさそうに聞いていると、藤は元気よく答えた。
「楽しめ!」
それを聞いて、全員が鼻で笑っていた。それからすぐに試合開始の演習場一体にブザー音が鳴り響く。
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