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呪賦ナイル YA  作者: 城山古城


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第十話 美周郎戦、終結

 由美子は距離を取りながら、術の発動が速い魔術に切り替えて戦っていた。それでも、黄倉の鋼気功を損傷させるには至らない。黄倉は由美子の魔術を気にすることなく、突進する。その速さは見た目を無視するかのようで、一瞬にして由美子に追いつく。その度に由美子は空間転移を行っていた。


 空間転移術は由美子の呪力の激しく消費する。由美子は残り一回ぐらいしか逃げられないほど呪力を減らされていた。その一回を使えば恐らく呪力切れで戦闘不能状態に陥ってしまう。由美子にとって崖っぷちの状態であった。


 由美子は汗を拭い、なんとか勝ち目を考えていた。


「その様子だとバテてきてるな。あと少しだな」


 黄倉は金棒を拾い上げ、構える。


「もう降参したらどうだ? 女を痛めつけるっていうのはあまり趣味じゃねえ。彼女にも怒られるからな」


「か、か、彼女!?」


「ああ。今日も応援してくれてんだけどよ、女子に相手にはもっと優しくしろだのって煩せえんだ」


 由美子は疑うよな目で見ていた。


「お前、俺に彼女が居ることが不思議か?」


「い、いえ……」


「ったく、人は見かけで判断するなって言われなかったのか?」


「すみません……」


「意外に素直だな、お前」


 黄倉はニッコリと笑っていた。その笑顔は優しく、いい顔だった。由美子は自分を叱責する。


「さて、次で最後だ! 俺の倒し方は見つかったか?」


「いえ、見つかりません。でも、確実に殺す方法なら知っています」


「なら、そいつを使え。本当に殺せるんならな!」


 黄倉は闘気が溢れ出ていた。


「彼女のことを聞かなければそういう手があったんでしょうけど……」


「お、そいつは(わり)ぃ」


 黄倉の肌は更に褐色を強めていく。


「鋼気功、八十パーセント!」


 巨城の城壁のような威圧感を放つ黄倉に由美子は息を呑む。紫電を使えば、確実に黄倉を殺すイメージはある。だが、そんなことはできない。とするれば、あと一つの方法は捨て身しかない。近距離での矢を当てる。それも賭けであり、あの鋼気功を貫通する威力が出せるか分からない。


 由美子は迷っていても仕方ないと息を吐く。弓を作り出し、弦に手をかける。


「覚悟を決めたな。それじゃあ行くぜ!」


 黄倉は地面を蹴る。地面には黄倉の足跡が鮮明に刻まれる。突進してくる黄倉は鋼鉄の猛牛のようだった。


 由美子は自分に何度も言い聞かせる。焦らず、確実にと。その思いとは別に弦に掛ける手は震えだす。後十メートル。黄倉の身体は大きく見え、それに当たったら無事では済まそうなイメージが生まれる。


 黄倉が地面についた左足を蹴ろうとした時、左足に何かが絡みつく。黄倉はすぐに視線を足元に向けると、朝子の鞭であることに気づく。左足は地面を蹴った瞬間に鞭に引っ張られる。黄倉の身体は宙に浮き、受け身も取れないまま地面に激突する。


「お姫様! 頭!」


 朝子が大声で叫ぶ。


 由美子は狙いを黄倉の頭に定め、残りの呪力込めた矢を解き放つ。黄倉の呪具が危険と判断し、呪防壁を全開で起動させる。


 しばらくして、演習場の野外スピーカーから試合終了のブザー音が鳴った。由美子はそれを聞き、安堵し、その場にへたり込んだ。


「し、試合終了ですっ!!! 勝ったのはチーム五芒星(ファイブスター)だ!」


 観戦会場からも歓声が上がった。


「それにしても、最後のは……」


 八雲が言いにくそうにしていた。


「あのまま行けばチーム美周郎の勝ちだった。黄倉の技は良いが、その使い方をもう少し柔軟にする必要があるな」


 総将の言葉に八雲も頷く。


「例えば、あの場で黄倉選手が神宮選手を戦闘不能した場合、氷見選手と黄倉選手の一騎打ちになると思います。その場合はどのような結果になると思われますか?」


 芹子は総将に聞いていた。


「黄倉が勝っていたかもしれない。黄倉には絶対的な守りと氷見を凌駕する力がある。本予選で見せた氷見の調子なら互角だっただろうが、今日はそうじゃなかったからな」


「お言葉ありがとうございます。この結果を受けまして、リーグ戦状況を確認いたします。現在、武帝は一得点、美周郎は一得点、五芒星は二得点、臥竜が二得点となります。午後の結果次第ではまた変動すると思われますが、チーム美周郎は自力での優勝は難しくなってきました。逆にチーム五芒星は午後の臥竜が武帝に引き分け、負けとなれば自力優勝が見えてきます」


「そうだな~」


「遠矢二尉、どうかされましたか?」


「いや、午後の試合は恐らく竹中は勝ちを狙わないだろう」


「どうしてですか?」


「昨日の武帝と美周郎戦を見ても分かるが、武帝はどちからというと守りに強い。対してチーム臥竜は機動戦に強い。この二つのチームが戦うとにらみ合いになるんじゃないかなって」


「にらみ合い?」


「勝ちにこだわらなくてもいいってことだ」


 総将が八雲の代わりに答えていた。


「チーム武帝にとって勝算が低い臥竜戦よりも勝算が高い五芒星戦で勝てば良い。臥竜戦で重要なのは臥竜の戦力を下げつつ、負けなければいいことだ。それは臥竜も同じ事を言える。だから、お互い作戦時間を目一杯使って、相手の戦力をいかに減らすからを狙ってくる」


「なるほど。ですが、なんか他力本願的ようにも見えますが……」


「リーグ戦は局所的な戦いではなく、中期的な戦略を考える必要がある。インターバルが短いため、一戦一戦が次に繋がる戦いだ。その場で負けたとしても、相手の戦力をごっそり削れば、明日はいつもないミスを犯してしまうことだってある。そうすれば自分にとってもプラスになるという考え方が必要だ」


「解説ありがとうございます。それでは決勝リーグ二日目、午前の部をこれにて終了とさせていただきます。皆様、ありがとうございました!」


 観戦会場では拍手が鳴り響く。


 由美子は立ち上がろうとすると、人影が見え、細い手が見えた。由美子は顔を上げると、顔を背けながらも手を差し出す朝子の顔を見た。


「お疲れ……」


 由美子は嬉しそうな顔をしながら笑い、その手を取った。


「ありがとう。氷見さん……」

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