第十話 鳳凰の産声
一方、由美子は周藤が長中距離になれば、由美子の浄化と弓術よって周藤の得意とする炎の術が封印し、近接戦闘を選ぶとその動きに合わせて間合いをとりながら自身も近接戦闘をとる。周藤の誤算があるとしたら、その格闘術は周藤が舌打ちするほどに生半可なものではなかった。
「術師というのは、元来格闘を好まないと思っていた。しかし、最近の高家では呪術以外にも格闘術が流行っているのかな?」
「御生憎様。私の周りには口よりも手を出す人ばかりだから、自然と身についただけです」
「それは安心した。君みたいな女性を相手にするのも一苦労だからな!」
周藤は由美子に再び格闘を挑むも、連撃の一つ一つを読まれる上に、正確に防いでくる。深呼吸をし、自分に冷静になれと言い聞かせる。
「困ったものだ。次はどのように君を招待しようか考え中だ」
「チャームを持っておきながら今更何を……」
「済まない。このチャームは俺の意思と関係なく起こってしまうんだ」
由美子は真面目に謝られたので調子が狂う。
「先天的なものだ。このチャームのせいで、俺も随分嫌な思いをした。黄倉のお陰で多少増しにはなったが」
周藤は由美子から距離を取ることなく、両手に炎を出す。
「さて、君の間合いも、動作も理解した。ここからは近距離での術比べと行こうか。君の、浄化という力だったかな? それは弦の音で周囲のマナに伝達するのだろう?」
由美子は目敏いと思った。
「ならば、俺には問題ない。神宮の技の真髄まで見抜けぬが、今ここで君を倒すには充分な情報量は貰っている。君は魔術と格闘攻撃を一緒にはできまい。俺を相手にするのなら、宮袋をぶつけるべきだったな」
周藤は馬歩と呼ばれる中華拳法の、足を広げ、腰を落とした状態になり、両腕を広げ、右手は由美子を指し、左は天を指していた。
「その選択肢はありません。宮袋くんとあなたと相性が悪い」
周藤は不敵な笑みを浮かべ、由美子へと近づく。由美子は構えつつ、相手の出方を見ると、周藤は由美子との格闘の間合いの前で拳を振りかざす。すると、炎が弾となって襲いかかる。由美子は呪防壁を二、三枚作り出し防ぐもどんどん炎の弾はやってくる。
周藤は手だけでなく、足でさえその弾を作り出し、放っていた。
「鳳羽炎舞!!」
由美子は歯を食いしばり、その炎弾を耐えしのぐ。その勢いを増すばかりか、反撃の機会を与えない。
「守っているばかりでは俺には勝てない」
由美子は腹ただしく思いながら、攻撃の規則性を見る。相手は両手足から四発出る。ただし、実際は三発だ。集中的に出せるのは両手の二発であり、足はそこから一発は出せても、もう片足は接地しているため、遅れてやってくる。それなら、防げないことはない。その二発目が放たれたときに距離を詰め、三発目を防ぎきれば魔力で強化した拳を与えることができる。
由美子は最後の足による四発目を見た瞬間に走り出す。四発目の炎弾は一つしかないため、躱すことが簡単だった。次に両手による誤差のない二つの炎弾を、足を止め、無駄のない一点の呪防壁を作り出し、防ぐ。そして、追撃の三発目見た瞬間、呪防壁を作るとともに走り出す。
観戦会場では由美子の呪防壁の使い方に歓声が沸く。
由美子は相手との距離が差し迫った中でも冷静に周藤を見ていた。周藤は獲物がやってきたという喜びの顔であり、型がちょうど両腕が上がり、羽のようになっていた。足は片方だけ上げており、所謂鶴拳のようにしている。由美子はこれが本命の技だと気づく。
「君ならここまで来ると思っていた」
周藤は瞬時に全身に炎を帯びる。炎の勢いは増し、まさに鳳凰のような形を作り出す。
「我が奥義をとくと味わえ! 鳳凰天翔!!!」
周藤は回転し、周囲二、三メートルくらいに鳳凰の炎の羽を撒き散らす。中心は炎で焼き尽くしながら天へと飛翔する。宙へと舞い上がった周藤は由美子の呪防壁が発動していることに口を綻ばせる。
「で、出ました! 周藤選手の必殺技、鳳凰天翔!! まさにその技は華麗にして苛烈な炎! 神宮選手、やはり呪防壁が発動している!」
歓声会場でもその技に声が沸き上がり、目を見張っている。その中で八雲と総将は冷淡だった。
「お、お、お二人共、あの技はいかがでしょうか?」
「う~ん、三十点。総将は?」
「零点だな。防がれて当然だ」
「ふ、ふ、防がれた? ですが、神宮選手の呪防壁が発動していますが――」
芹子は慌ただしく、自分の手元にあるパソコンを確認すると、そこには由美子の呪防具による発動サインがなかった。
「神宮選手の呪防具が発動していない! 機械の故障でしょうか……」
芹子は隣にいる大会委員に確認しようとした。
「簡単なことだ。八雲妹は自分で呪防壁を張っているだけだ」
「そんなことが――」
芹子は気づく。局所的な呪防壁を張れるなら、全体的なものも可能はず。
「では、周藤選手の鳳凰天翔は完全に防がれたと……」
「当たり前だろう。事前に構えをしていれば、防げないことはない。それにあの技は本来、多人数に向けた技だろう。全方位の呪防壁で防げないことはない。呪防壁は本来、身体に薄い膜を張るように作るのがセオリーだが、今回は学生の生命の観点から攻撃が当たらないように球体にしてある。八雲妹はそれを逆手にとって、相手に心理戦をしているみたいだな」
「なぜ、それをする必要があるのでしょうか? それにチームでは相手の呪防壁の発動回数を確認できます」
「会場いる人間も君もあの技で呪防壁が発動したと勘違いをしていた。勘の良いやつは大会委員に確認を取るが、それでも時間が掛かるだろう? その時間でも騙せれば、八雲妹は次の一手を撃つことができる」
芹子は悔しそうな顔をしていた。
「ゆみさん、大丈夫ですか?」
「大丈夫、鞘夏」
「でも神宮さん、勝負は互角になったわ。落ち着いて、立て直しましょう!」
「藤先生、私の呪防壁はまだ一回も発動していません」
由美子は冷静に指摘した。
「え、嘘?」
通信の中で慌ただしく、藤は確認する。
「賀茂くん、もう一度、奇襲、頼めるかしら?」
「ちょうど、亜門さんが呪防壁で拘束されてるから、今なら行ける。氷見さん、いいかな?」
「いいわよ。私もそっちにいくようにして黄倉先輩だけを引っ張ればいいでしょう?」
「うん、それで行こう。まずは囮で隠形して、黄倉さんに攻撃を掛ける。それで次は周藤さんに行く。二分貰える?」
「ありがとう。頼むわ」
周藤はゆっくりと地面に着地すると、由美子の呪防壁が解けるまでの時間を使って、次の攻撃の準備をし始めた。
「悪いが次で決めさせて貰う。君はチームの主柱だ。それを焼き尽くさない限り、君のチームは倒れない」
「御生憎様。私が倒れても、私達のチームは倒れない。私達一人ひとりが独立した柱よ。それでもその柱を支えてくれているのは鞘夏であり、葉さんであり、典子さんであり、藤先生なの。でも、その中で厄介な柱は私じゃない。どの柱も支えてくれている賀茂くんよ。あなたたちが先に倒すべき相手は私じゃないわ」
周藤は顔を横に振る。
「確かに賀茂は隠形や偵察、不意打ちを得意とする。それは自分に力がないからだ。氷見や宮袋のように自分で点を取ることができない存在が厄介な柱だとは到底思えないがな」
「そうね。それはあなたが賀茂くんを知らないからよ。賀茂くんはね、ここぞっていうときに一番信頼できる人なの。あなたを倒すのは私じゃない。賀茂くんよ!」
由美子は呪防壁が解けたと思わせるようにわざとらしく動き出し、周藤から距離を取る。周藤は離れていく由美子を気にせず、炎を空中に集め始めた。
「接近戦で駄目なら、自分の得意な距離で戦う。必然的に君は距離を取る。だが、そこは俺の秘奥義の距離だ」
炎は太陽のように光り輝く。その大きさから人を焼き尽くすには容易であり、周藤が秘奥義と誇張したわけではないことが分かる。
「さあ、神宮の技と俺の秘奥義、どちらが勝るか、力比べと行こうか!」
「公朗! そっちに氷見と賀茂が行ったぞ!」
周藤はそれでも気にせず、由美子を見ていた。
「周藤先輩! さっき神宮さんの呪防壁は発動していません。恐らく、自分で呪防壁を作ったようです!」
魯の通信に周藤は思わず、声を上げる。
「何ィィ!!!」
周藤は由美子を見ると、由美子の口もがニヤリと意地の悪い顔をしていた。
「神ンンン宮ゥゥゥ!!」
「周藤先輩、呪防壁を作れるのなら、それぐらい想定しいないと」
周藤はその言葉ですべてを察し、声を荒げながら、黄倉に問う。
「欣司、賀茂はいつ、消えた!?」
「消えたのは一、二分前だ。亜門も今そっちに向かってる!」
「おのれ! 欣司、俺を守れ!」
「分かってる。氷見を無視して向かってる」
「亜門、お前は氷見を倒せ!」
「うっす!」
周藤は頭上に掲げた炎をそのままにして、自分の全方位に対して炎を一瞬燃え上がらせた。すると、空間が揺らぎ、忠陽の姿が現れる。
「そこか!」
忠陽は瞬時に風の刃を作り出し、周藤に対して放つも、周藤は六角形の呪防壁を作り、風の刃を弾き飛ばした。
「火、玉石倶に焚く。すなわちすべて灰と帰し、新たな生命を生み出す」
頭上にあった炎は幻想の鳥となり、甲高い声を挙げる。
「我が炎で焼けぬものなど、ない!!!」
鳥の羽ばたきは地面に炎を落とし、地面にある草花を焚いていた。
由美子はその術を見た瞬間、忠陽には防げないものと思い、すぐに弓を引く。だが、眼の前に黄倉が立ちふさがる。
「悪いが、邪魔させてもらうぜ」
黄倉は体全体が浅黒くなり、身体が金属になっているかのように見えた。黄倉はそのまま由美子へ突撃し、弓を引かせないようにしていた。
「邪魔しないで!」
黄倉の太く長い金棒が襲いかかるため、由美子は周藤から距離を離される。
「我が秘奥義を受けよ! 鳳炎、神誕!」
火の鳥は羽ばたき、忠陽へと向かう。火の鳥が羽ばたく度に周りの空気を焼き、その熱は忠陽の鼻腔から乾ききった空気を与える。
呪符を取り出し、あがきとも呼べる土壁を何層繰り出し、勢いを止めようとする。壁を破壊するたびに火の鳥の力は減衰しているようだったが、すべてを突破し、忠陽に襲いかかる。忠陽の呪防具は危険と判断し、呪防壁を張る。火の鳥の嘴が呪防壁に当たると、火の鳥に蓄積された炎が勢いよく開放し、爆発を起こしながら周りの土や草を焚く。その衝撃で忠陽の呪防壁は割れ、忠陽にその爆炎が降り注ぐ。
「賀茂くん!」
由美子は眼の前にいる黄倉を無視して、すぐに忠陽の下へ飛んだ。
「消えた!?」
黄倉は辺りを警戒しても由美子の気配すら感じなかった。
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