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呪賦ナイル YA  作者: 城山古城


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第十話 呑み取りの槍、それは真の黒田武士

 戦いのスピードが速すぎて、会場ではざわざわと言葉が飛び交う。


「えーーーっと。呪防壁の発動状況から、神宮選手は戦闘不能、また絹張選手も戦闘不能となります!」


「おい」


 総将はメインモニターを見ながら、八雲に声を掛ける。


「分かってるよ」


 八雲は総将を見ずに答えた。それに気づき、麻希は八雲に質問する。


「あの、何かあったんですか?」


「いや、総将は俺のゆみをよってたかってイジメたあいつらを許せって言ったんだよ」


 総将はため息をつく。


「ああ、そうですか……。それにしても神宮選手、一人を退場させ、母里選手の呪防壁を一回発動させています。形勢逆転の一撃じゃないのでしょうか」


「そうだろうな。自分の自信作を壊されて、驚いているだろうよ」


 八雲はドヤ顔をしていた。総将は額に手を当て、首を横に振っていた。


 浩平は真の手が強く握られていることに気づく。


「おい、どうした真?」


「え?」


「いや、だから……」


 浩平の視線に気づき、真は手を見ていた。


「ああ。なんだろうね、これ……」


 真はすぐに手を強く握っては開くのを繰り返し、浩平に笑いかけていた。


 一方、竹中は放心状態でいた。


「おい、亮!」


 安藤に大きな声を掛けられ、竹中は我に帰る。


「え? どうした?」


「次に行くぞ」


「うん……そうだね……」


 竹中は由美子から目を離せないようだった。


「おい、亮! しっかりしろ! お前はこの勝負に勝ったんだ! だが、チーム戦ではまだ勝ててない」


「うん、そうだった。油断せず行こう……」


 絹張はそんな竹中を見て、俯く。


「会長、すいませんでした」


 無線を通じて、単独で絹張は竹中に呼びかける。


「いや、構わないよ。君のお陰で……僕も……助かった……」


 母里が竹中の肩を叩く。それに気づき、竹中は作り笑いをする。


紫苑(しおん)、俺が会長を守ってやるよ」


「ごめんね、あとはお願い」


 竹中はすぐに一拍し、また一拍すると違う紋様がこの演習場に広がり始めた。


「さあ、あと三人。だけど、僕らが劣勢だ。陣立ては石陣八陣で行くよ。今度は氷見くんだ。一つも落とさず、油断せず行こう」


 安藤は竹中に拳を差し出す。竹中はその拳に自分の拳を合わせる。


「ごめんなさい。鞘夏、賀茂くん、氷見さん。私はこれまでよ……」


 朝子は鉄鞭を強く握る。


「そんなことないわ。神宮さんのおかげで絹張さんは戦闘不能、母里くんは呪防壁が一回。今のところ、私達が優位よ!」


 藤は全員に呼びかける。


「由美子、朝子。私、何もしてあげれなくてごめん」


「別に、葉のせいじゃないわよ。あのいけ好かない生徒会長のせいでしょ!」


 朝子の声には怒りが含んでいた。


「神宮さん、お疲れ様。あとは僕らに任せて」


 忠陽が由美子に声を掛けた頃、ちょうど息を切らせて鞘夏がやってきた。忠陽は鞘夏に頷く。


「ゆみさん、私も頑張ります」


「ありがとう。鞘夏……」


 朝子はもう一本の武器を取り出す。それは一昨日、咲耶から貰った警棒だった。昨日の夜まで二刀流の特訓を行ったが結局、総将の攻撃を受けられるようにはなったが完璧に防御することはできなかった。朝子はただ漫然とこなしていただけだろうかと不安がよぎる。


 神宮由美子、確かにお姫様のように気品が有り、優雅にして、沈着冷静、今日も懸命に戦い続け、チーム臥竜に一泡吹かせている。高慢な所を見られるが、それは人々の偏見であり、それを裏付けられる教育と自覚を持っているだけだ。


 朝子は自分ならと考えた。生まれも育ちも違う自分だが、果たして自分なら同じ境遇にいれば出来たのだろうか。いや出来ないだろう。ここまで出来るのは由美子だからである。


 そのような考えに至った時、朝子は自分を嘲笑(あざわら)う。由美子達との出会いで、自分が何かが変わっていくような気がしていくのが嫌でもあり、怖くなった。


「よう」


 朝子はその声に気づき、顔を上げると霧の中から槍を肩に担いだ母里が現れた。朝子は警棒をしまい、鉄鞭を母里に向けた。


「いいのか、一本で。お前はもう囲まれている」


 銃撃の音がなると、母里の背後から回り込むように現れ、朝子に襲いかかる。朝子は間一髪で動き出し、その銃弾を避けた。しかし、そこには母里が追いつき、槍を振りかぶっていた。


「悪いが今日は楽しむつもりはないんでねぇ」


 朝子は鉄鞭で母里の剛撃一閃を受け止めると、膝に衝撃が走った。


「こ、こ、こんなの、あいつの一撃に比べれば……」


「だが、おめえの動きは止まったな」


 さらに銃撃の音がすると、同じように母里の背後を回り込み、朝子を襲う。朝子の呪防具は危険と判断し、呪防壁を展開し、母里の槍を押しのけ、安藤の銃弾を防いだ。


 朝子は顔を歪まさせた。


「あと一回だ」


 こんなにも無力なのか。自分はチームのためにも一矢報いることすらできないのか。


 急に夏の匂いに汗と生臭さが混じった臭いを朝子は思い出す。次第にセミの幻聴が聞こえ、辺りに響き渡り、うるさかった。


「あの子を守れるのは貴方だけ……」


 朝子はその声が聞こえた瞬間に耳を閉じ、大声で叫んだ。


「うるさい、うるさい、うるさい!」


 黒い蛇が朝子にねっとりと絡みつく。


「急にどうした?」


 母里は目を細める。


 朝子は頭を抱え、呻き始める。それと同時に黒い蛇はっきりと浮かび上がり、母里の目でに見えた。


「おい、お前、大丈夫か!」


「母里くん、どうしたんだい?」


「会長、今、コイツに黒い蛇が絡みついて!」


「真守、見えるかい?」


「母里、こっちからだと見えないぞ……」


 その黒い蛇がドンドン大きくなるのが母里には分かった。


「いや、だけどよ……」


 母里は構えを下ろし、朝子に近づこうとした。


「母里! 近づくな。お前しか見えていないなら、少し離れろ」


 安藤の言葉で我に帰り、母里は少し離れる。


 女の声が朝子に耳元で囁く。


「その力はあの子ためのもの。友達のためじゃない……」


「痛い! 苦しい! ……熱い!」


 朝子は苦痛の表情を浮かべ、体を震わせながら呟く。


「あなたが愛していいのはあの子だけ……」


「麟くん……」


 朝子の目はうつろい、意識がないように見えた。


「約束よ」


「約束?」


「ええ、私は黙っておく。その代わり、あなたは私のもの」


「約束する。だから、麟くんだけは……」


「いい子ね。なら、立ち上がりなさい」


 朝子は女の声に従い、立ち上がる。黒い蛇は身体に纏わり付きながらせせら笑う。朝子の鉄鞭は鞭に形状を替える。


「痛みは愛へ。苦しみは欲情へ。悲しみは嫉妬へ。さあ、それを奪うのは誰?」


「みんな……。みんなが私から麟くんを奪うの」


「そうよ。この世にいるみんながあの子の命を奪うわ」


「麟くんは渡さない。麟くんは私が助ける……」


 朝子に絡みついた蛇は右手に持つ鞭へと移り、鞭は黒い蛇に具現化する。


「あれは何でしょうか!? 朝子選手の鞭が黒い蛇になっているように見えます!」


 麻希は驚きながら実況に熱を入れる。総将は黙ったままメインモニタ―を見ていた。


「おい、総将……」


 八雲は総将を睨んでいた。


「俺は何もしていない。黙ってろ」


 八雲は不服そうな顔をしながらメインモニターを見た。


 母里は鞭が黒い蛇に変わると、朝子を警戒し始めた。いつもの強気な朝子とは違い、今は生気が抜けた状態だった。なのに、右手の武器に具現化した黒い蛇を見て、直感的に命の危険を感じる。


「会長、陣を替えてくれ」


「……分かった。奇門遁甲の陣で行くよ」


「すまねえ」


 母里は野性的な感があの黒い蛇に触れては行けないと告げている。だから、ここは嫌でも竹中の力を借りる必要があった。


「安藤先輩、使い魔を何体かお願いします」


「いいが、お前らしくねえな」


「先輩、あの蛇に触れるとヤバい気がする。使い魔も消えて問題ない奴を出したほうがいい」


「…………分かった」


「準備はオッケーだ。母里くん、いつでもいいよ」


「悪いな、会長!」


 母里は走り出す。その隣を追走するように安藤が放った二匹の犬の使い魔が走った。


 朝子は虚ろなまま、黒い蛇を振り回した。その動きはいつものような鞭とは違い、地面を這う捕食者のように動き出す。


「氷見くん、君の位置は凶と出た。その攻撃は母里くんには当たらない」


 蛇は母里を捕食しようと口を開くも、眼の前に石ころに阻まれ、口を閉じ、方向を変える。


「あの蛇にも陣の効果は効いているみたいだな」


 母里は真っ直ぐに朝子に向かった。


 黒い蛇はその間にも安藤の使い魔を一匹、二匹と捕食する。その様子に安藤はドン引きしていた。


「マジかよ……。丸呑みなんて、完全に蛇じゃねえか……」


 黒い蛇は方向を変えて、母里へと向かっていった。


「母里、そっちに蛇が向かったぞ」


「安藤先輩、後は頼みます」


「おい、何するつもりだ!」


 母里は自身の闘気を高め、槍も覆った。


「氷見、今日は楽しめねえとは思っていたが、それなりに熱い勝負を期待してたんだがな……」


 母里は槍を上段に構え、舞い始めた。


「酒は呑め呑め呑むならば、大和一のこの槍を、呑み取る程に呑むならば、これぞ真の黒田武士!」


 槍が元の上段位置に戻ると、母里の身体から溢れんばかりの闘気が出てきた。


「喰らいな! これぞ、呑み取りの槍だ!!!!」


 朝子の頭上に振り下ろされるその一撃を朝子の呪防具は危険と判断したのか、全力で防ごうとした。


 その間、黒い蛇は母里に纏わりつく。


 纏わりつかれた母里は身体から生気が失われていくのが分かった。


「母里!」


 安藤が叫ぶ。


「しゃらくせえ! 蛇ごときがぁぁ! てめえなんぞ、俺が喰らいつくしてやる!!!」


 母里は大声で声を掛けると、朝子の呪防壁さえも切り裂き、槍の穂先が地面に当たったと同時に朝子を吹き飛ばす。黒い蛇は母里から離れ、宙に浮いた。その瞬間、母里は渾身の力を捻り出し、飛び跳ね、黒い蛇に一閃を叩き込む。


「二度と邪魔すんじゃねえ! このクソアマが!」


 黒い蛇は切り裂かれ、断末魔を上げるかのように鉄鞭の形に戻り、朝子の手から離れて地面に落ちた。


 母里は着地に失敗し、その場に倒れ込む。


「あーあ、疲れたぜ」


 母里は朝子を見た。朝子は気絶しているようで安堵する


 母里は霧の空を見た。こんなときに青空があればと思い、竹中に文句を言う。


「会長、この霧も止めてくれよ」


「そうだね。この霧はもう意味はないね」


「そういうことじゃねえよ……」


 竹中は首を傾げた。


 母里は槍を使って、身体を震わせながら立ち上がった。


「母里、本当に大丈夫か?」


「なに言ってんすか。モクの一本でも呑ませて欲しいっすよ」


「それは校則違反だからできないね」


「へ、少しは目をつぶってくれてもいいだろう」


「君の喧嘩を僕は大分目をつぶっているはずだよ」


 母里は舌打ちをした。


「さあて、後は賀茂と真堂か……。後は頼みますよ、安藤先輩」


「なんで俺だけなんだよ。お前も働け!」


「十分働いたじゃないですか……」


 八雲はメインモニターを見て、マイクを切り、大会委員を呼びたした。それに気づいた総将は同じく、マイクを切った。その行動が気になり、麻希は同じくマイクを切り、二人を見る。


「軍医の四鏡燈を呼び出して、至急演習場まで送れ。必ず母里を保真守しろ。今は気を張って、立っていられているが、危険な状態であることは変わりない。いいか、試合を中止してでも保護しろ」


 麻希は口に手を当てた。


 八雲は伏見が居た方向を見ると、もうそこには伏見は居なかった。


「あ、あの……遠矢二尉……」


「平生を装えるか?」


「え?」


「普段通りにできるかと聞いている?」


「え、あっ、はい!」


「なら、今はそうしろ」


「おい、お前……映像を止められるか?」


 総将は大会委員に聞いていた。


「はい。可能です」


「だったら、今は止めろ」


「で、ですが……」


「壊れたって言えばいいだろう」


「は、はい!」


 総将は麻希を見ると、麻希は小さく頷く。


 画面はすぐに真っ黒になり、会場からざわめきが走る。


「えーー、申し訳ございません。ただいま、映像の出力に不具合が発生しています。しばらくお待ち下さい!」


 会場内からブーイングが走っていた。


 母里は遠のく意識の中、それでもチームの勝利のために歩いていた。それは意地でもあり、絹張と約束のためでもあった。


「おい、母里、本当に大丈夫か?」


 安藤は母里に近づき、肩を貸す。


「悪いっすね、ちょっと立ち眩みしただけっすよ」


 竹中は母里の顔が血の気が引いてくのが分かった。


「母里くん、君はここで休みたまえ」


「ふざけんじゃねえ。俺はまだ戦える」


「それは無理や」


 三人は廃れたビルの中から出てきたヘラヘラとした隻腕、サングラスの男に、自然と構えた。


「なんで、あんたがここに居るんだよ」


 安藤は警戒した。


「母里くんを預かるで」


 竹中と安藤は互いを見る。


「ありがとうございますと言いたい所ですが、何故、今はあなたが来ているのですか? 試合は中止ということですか?」


「いや、辛うじてまだ続いている。続けたいなら、大人しく母里くんを僕に渡せ」


「俺はまだ……戦……」


 母里は力が抜けて、その場に倒れ込もうとした。肩を持っていた安藤は一度母里を引き上げ、ゆっくりと母里を地面に下ろした。


「亮……」


「そうだね。伏見先生、彼のことをお願いします」


「分かった。それと一つ忠告や。忠陽くんは本気で怒っているやろ。気いつけや」


「気をつける?」


 安藤は眉間に皺を寄せる。


 伏見は式を放ち、母里を担がせた。


「ご忠告、ありがとうございます。でも、いいんですか? 僕らにそんなことを言って」


「忠陽くんには人を殺すことはして欲しいくない。君のためやない。彼のためや」


「賀茂贔屓じゃねえか」


「当たり前や。ボーナス百万が掛かってる」


「おい……」


 安藤は肩の力が抜けていた。

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