第十話 神宮由美子の作戦会議 Part2 其の三
「あとはチーム臥竜ね……。正直、あのチームとはまた戦いたくないわね……」
「藤ちゃん、分かってくれるか。あたしも大変だったよ!」
「森田さん、あなたはただ見てただけでしょう?」
「そんな事ないよ! 皆に色々伝えたりしてたよ、私!」
「森田さんのお陰で色々助かったよ」
「おう、賀茂。褒めてくれるなら、チーズケーキ頼んでいい? あんたの奢りで」
藤と由美子は笑った。
「しょうがないわね。私が奢ってあげるわよ」
「やった! さすが藤ちゃん、愛してる~!」
「はいはい。そう言ってくれるのはあなただけよ」
「へい、マスター! チーズケーキ一つ!」
立尾は苦笑いしながら、復唱した。
由美子はコーヒーに口を付け、その甘さからちょうどいいコクの苦みを堪能していた。
「由美子は、正直どうなのよ。もう一度戦っても勝てる自信ある?」
由美子はコーヒーカップをゆっくりと置く。
「正直、勝てるかどうかと聞かれると分からないとしか答えられない」
忠陽たちもその答えが出ることを分かっていたようだった。
「コーヒーのおかわりいるかい? 今日はサービスしとくよ」
立尾はコーヒーサーバーを持ちながら、声を掛けた。由美子は笑顔でそのコーヒーカップを皿ごと差し出した。
「学生も大変だね。聞こえてくる会話がなんか全国大会の決勝戦のような話みたいだ」
「店長、この島では決勝戦なんだよ? そうなるよ」
由美子のコーヒーカップに注ぎ終わり、葉のコーヒーカップに注いだ。
「そっかそっか。君たちはすごいんだね。こいつ、足引っ張ってない?」
立尾は葉にコーヒーカップを渡す。
「はあ? なにそれ?」
立尾は笑いながら忠陽のコーヒーカップに注ぐ。
「そんなことないですよ。森田さんにはチームのサポートで助けられています。飲み物だったり、オーダー表を書いてくれたり、僕らが苦手な細かいことをやってもらっています」
「それなら良かった」
立尾は忠陽のコーヒーを注ぎ終わると、朗らかな顔を忠陽たちに見せた。
「所詮、勝ち負けは天気みたいなもの。晴れの日もあれば曇りの日もある。だから、勝負事は楽しいって昔の人は言ってたね」
「店長はさ、昔部活動とかしてたの?」
「そりゃあしてたさ。俺達の時代は強制的に部活動に入らされるからな。これでも野球で地方大会の決勝戦までいったんだぜ。でもさ、後一点守りきればっていうときにミスして、負けちゃった。ミスしたやつは皆に泣いて謝ったけど、俺は不思議と怒る気になれなかったよ。そんなときに監督が言ったんだ。そりゃ、負けるときもある。重要なのはお前たちが次で勝てばいいんだって。三年の夏にだよ? もう引退だっていうのにそんなこと言うんだもん。皆、次っていつだったって聞き返したよ。そしたら、監督はこう言ったんだ。お前らの人生はまだ始まったばかりだ。次の戦いで勝ちゃあいいんだよって」
忠陽たちから不思議と笑みが溢れる。
「お前ら、いつも言ってんだろう? 勝ち負けなんていうのは運だ! 運なのに悔やんでも仕方ない。悔やむんだったら、楽しかったって顔をしろ。その方が人生は何倍も楽しいってね。これ、どう思う?」
「それ、あたしたちに聞く?」
葉は立尾に聞き返した。
「いや、おれは今でも分からないからさ。もしかして、分かるかなって」
「店長が分かんないことを私らに振られてもわかんないでしょう」
「それもそうだな」
立尾は笑っていた。その後、藤のコーヒーカップに注ぎ終わると奥へと引っ込んだ。
「勝ち負けは運か……」
由美子はそう呟きながらコーヒーを見る。
「どうかしたの、由美子?」
「ううん。何でもないわ。それよりも、チーム臥竜のメンバーについてだけど、私はこのまま鞘夏に出てもらいたい。賀茂くんはどう思う?」
「僕はできれば大地くんに出て欲しいけど、この前の一戦でいうと、大地君は相性が悪い気がする」
「相性?」
葉は忠陽に聞き返す。
「まずは安藤先輩。ログで見たけど、通常の弾道と曲がる弾道がある。厄介なのは僕や氷見さん、大地君じゃあ防ぎようがないってこと。神宮さんが答えを出してくれたけど、呪防壁を出すなんて僕の呪力量じゃ難しいよ」
「銃をあんな風に使えるなんて初めて知ったけど、簡単にできるものなの?」
「銃自体に術式を組み込めば簡単にできるけど、それでも複雑な弾道を作ることは難しいわ。それに魔銃は弾の精製、術式付与、属性付与をつけると一発でも結構魔力がいるはずよ」
由美子の解説に葉は驚いていた。
「由美子の弓と矢も同じ原理なの?」
「そう思ってもいいわ。ただ、銃自体に術式を練り込んで作る分、魔力だけを注ぐだけの簡単なものだと思う」
「へー。由美子はさ、何枚かの小さな呪防壁を何枚か作って、それをつなぎ合わせて、防いでたけど、賀茂じゃあやっぱ難しいの?」
「難しいわよ。魔力もバカになんないし。それと呪防壁は二年生になってから必修よ」
藤が間に入って答えていた。
「え、マジ!? 賀茂ができないのに私にもできるの?」
「できるとかじゃなくて、魔術体系として攻撃があるのだから、防御もあることを学ぶの。必修だけど、呪防壁を作れるかで判断はしない。まあ、殆どの生徒は呪防壁を作ることができなくて、そこで魔術の道を諦めるんだけどね」
葉は自分がそうなる未来が見えたのか、笑いながら誤魔化した。
「そういう意味では真堂って器用なんだね……」
「鞘夏の防壁って、一般的な魔力による防壁とは違うのよね。だから、普通の呪防壁よりも固くて、扱いやすいのかもしれない。あれって賀茂家の技なの?」
「ごめん、僕も知らないんだ……」
由美子はそれ以上何も言わなかった。
「安藤先輩の相手をするにはやっぱり、鞘夏が必要よね……。それにあの魔銃の使い方を見る限り、戦い慣れてる。宮袋くんだとすぐにヤラれる可能性はあるわ」
由美子はそう言いながら考えていた。
「由美子、朝子だったら、どうなの?」
「たぶん、鞭を使うと思うわ。相手としては近距離には入れたくないから、中距離のレンジで一方的にやるんだけど、そこは氷見さんの距離でもあるから」
「なるほど。でも、曲がる弾は難しいね……。そうなると真堂、一択だな……。賀茂、他にもあるのか? 宮袋との相性の問題」
忠陽は頷く。
「相性がいいのはやっぱり母里先輩だよ。お互いに戦うことを楽しめる。絹張先輩はトリッキーで他に不意打ちができるようなもの隠し持っていそうだから、大地君とはあまり良くないね」
由美子が頷く。
「あの伸びた水の剣、初見じゃあ避けきれないよ。藤ちゃんは避けられる?」
「そんな無理に決まってるじゃない」
藤の正直な反応に忠陽たちは笑う。
「あと、問題なのは生徒会長の竹中先輩だね……」
忠陽の言葉に由美子は大きなため息をはく。
「由美子が戦いたくない理由はそこか……」
葉の言葉に藤は苦笑いする。
「賀茂くん、竹中くんと戦っていた時って何が起こっていたの? ログを見てたんだけど、よく分からなくて……」
忠陽は由美子かタブレットを借り、そのシーンを見る。ちょうど、忠陽が竹中に土の槍衾を放ったところだったが、忠陽の斜め後ろから放たれた水の刃が土の槍衾を切り裂いていた。
「ここです。竹中先輩は僕がいる方角が凶だと言ったんです。そうしたら、攻撃が本当に当たりませんでした」
「そんなのあり得る? 方角が凶って、占いじゃん」
葉は呆れ返っていた。
「占術、奇門遁甲式……。竹中先輩は本当に占いをしていたのね」
由美子は呟く。
「たしか、葛城二佐が試合終了後、天野川流に関して話していたのよね?」
藤は忠陽に聞いた。
「みたいですね。鏡華、妹が言ってたんですけど、天野川流は陰陽道をベースにしてて、陣って言われる付与効果を付けてるとか。その付与効果が占いだって……」
「なに、そのジンって? お酒?」
忠陽は葉の頭の上に?が見えた。
「陣は陣形の陣よ。結界術の亜種で、よく時代劇とかで武将が陣形を汲んだり、陣立てを見せ合うんだけど、その陣形を呪術として昇華させたのが、陣」
由美子の解説に葉は呆けたように返事をした。
「陣は結界術と違って、この世界との遮断をしないの。あくまでも術者が作った術式を敵味方に付与させるためのもの。呪力消費が結果術よりも少なく、広範囲にできるんだけど、その付与効果が結界術より絶対的なものではないのがデメリットね」
「よく分かんないな。絶対的でないものを使って何の意味があるの?」
「陣の由来は陣形から来ているって言ったでしょう? 陣の目的は戦うときの意志の統一と効率的な攻撃と防御なの。術者の術式によって思念が統一され、知らないうちにその術式の行動を取ってしまうことが多いわ」
「じゃあ、賀茂は知らずに翼志館の生徒会長の占い通りに動いたってわけ?」
「その可能性は高い」
「だけどさ、占いって当たりハズレがあるじゃん。毎回、相手の占いが当たるっておかしくない?」
由美子は忠陽を見る。
「賀茂くん、概念呪術って知ってる?」
忠陽ははっと気がつく。
「そうか。人々の中では占いを信じたいという気持ちがあるんだ。その気持ちを呪いとして具現化させているのか……」
「どういうこと?」
葉の頭がゆらゆらと左右に揺れる。
「世の中には、その考えや在り方、言葉が呪いとなる場合があるの。伝統なんかがそれに当たるわ。千年も続く老舗の食べ物や製品にはそれだけ信頼や信用があって、他の製品よりも良いものだと思うでしょう?」
「確かにブランド物のとかよく見える! ねぇ、藤ちゃん?」
「それはそうよね。というか、なんで私?」
「藤ちゃん、ブランド物のバックとか持ってるの、私、知ってるんだから」
藤は驚きとともに、目敏いと思った。
「つ、つまり、ブランド物なら良いものだという先入観自体が相手に仕組まれた呪いの可能性があるわけね!?」
藤は誤魔化そうとした。
「はい。藤先生の仰るとおりです。竹中先輩の場合、式占術になるんですが、本来必ず当たることはないです。ですが、長年続けている結果、概念呪術となり、少なくてもこの島では、竹中先輩の式占術が具現化するものへと変化していると考えたほうがいいでしょう」
「それって、やばくない? 何とかできないの?」
「概念呪術には対抗手段が少ないの。単純に呪力を高めて相手の呪術を防ぐか、対抗する概念呪術を作るか」
「マジで少な! 由美子は防げそう?」
「難しいわ。言霊だって、気を抜けば引っかかりやすいもの……」
「森田さん、竹中先輩はその状況の結果を占いに当てはめるんだ。そうなったら、嘘であっても、僕は信じちゃうよ。外れたら、ラッキーと思うぐらいに」
「むむむ。奴は半兵衛か!」
藤と忠陽は笑っていたが、由美子はポカーンとしていた。
「今のところ、竹中くんに対しての有効的な対抗手段はなさそうね……。そう言えば、神宮さんの浄化の力では概念呪術は解けないの?」
由美子は眉間に皺を寄せる。
「私の浄化の力じゃあ、無理ですね。私がやっているのはこの世界に流れているマナを有るべき姿へと替えているだけです。概念呪術はその概念自体が変異したものなので難しいですね。……兄さんなら……」
「えっ? 八雲さん?」
「あ、いえ。なんでもありません」
忠陽はその兄が神無であることを察した。八雲の言うには暁一族は呪術自体を壊す。恐らく概念自体を壊す何かがあるのか。それ自体普通の呪術じゃない。
忠陽はそれに興味が湧き、自分の中で考えてみた。
「賀茂くん、聞いてる?」
「え? なに?」
由美子は頬を膨らます。
「竹中先輩のこと。藤先生が言っていたようにまずは、竹中先輩ではなくて、他メンバーを倒す。最後に竹中先輩を倒す。私もその方法しか考えられないわ」
由美子の圧力で忠陽は仰け反る。
「う、うん。それで良いと思うよ。竹中先輩には対抗手段がないもんね……」
由美子は忠陽の様子で察した。
「兄さんのこと、考えてたんじゃないのでしょうね?」
「あ、いや、その……」
由美子はため息をつく。
「あなたが幾ら考えても無駄よ。言ったでしょう? 概念呪術には対抗する概念呪術を作るかって。竹中先輩の作った概念呪術なんかよりもっとタチが悪いんだから。それよりも眼の前のことに集中しなさい!」
忠陽は由美子に頭を叩かれる。その様子に藤と葉は笑っていた。
「そんな叩かなくてもいいじゃないか……」
「由美子は焼いてんだよ」
「な! ちょっと!」
葉の言葉に由美子は顔が赤くなり、立ち上がる。
「わ、わたしがそんなことを思うわけないじゃない!」
「こら、森田さん。変なことを言わない」
「はーい。今度から気をつけまーす!」
店の中はコンクリートのせいか、笑い声が大きく聞こえていた。
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