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呪賦ナイル YA  作者: 城山古城


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第十話 力がほしいか

 大地は陸軍庁舎入口の衛兵に葛城蔵人に合わせてほしいと頼むと断れた。必死に頼み込み、揉めているとちょうど車が通りかかった。


「なにやってんのよ!」


 大地はその声に振り返ると、明らかに不機嫌な月影奏が運転席に居た。助手席に金髪で妖精のような顔で苦笑いをしたアリス・シュタイナー。後部席にはヘラヘラとやる気なそうにしている黒髪優男の服部平助が手を降っていた。


「いや、その……」


「はっきり言いなさいよ。男でしょう!」


「蔵人さんに会わせてくんないかなって……」


 奏の顔は厄介事を持ってきた人間に対しての忌避と、面倒くささが滲み出たものだった。


「ダメだよな……」


「駄目も何も、アンタのせいでアイツは懲罰房入りよ! このスカポンタン!」


 大地はその事実を聞き、居た堪れなくなった。


「奏ちゃん、そこまで怒らなくても……」


「ったく、あんたらは面倒事を増やす呪いでも掛かってるのかしら!」


「そんなことねえよ! だいたい、あんたらって、俺だけだろう?」


 アリスと平助は苦笑いしていた。


「俺だけじゃねえのか!?」


 大地は驚く。


「乗りなさい! 会わせてあげるわよ」


 大地は奏の一言に状況が掴めなかった。


「いや……でも……」


「会うの? 会わないの? どっちなのよ!?」


「アイマス!」


「おい、何だそのイントネーション」


 平助は笑っていた。


「だったら、速く乗れ!」


「ちょっと、待ってください! 一般人を入れるわけには――」


 奏は衛兵を睨みつける。


「この男は港湾事件の関係者よ。そして、私達の関係者でもある。文句は?」


「あ、ありません……」


 大地は奏に指示されるがままに後部座席に乗った。


「おいおい、奏。このままだと、後で司令から抗議が来るぞ……」


「来るなら寄越しないよ! この基地の考え自体、抗議してやるわ!」


「奏ちゃん、落ち着いて。葛城二佐も問題としてはあげるみたいだから、ここで私達が問題をあげるのは良くないわ」


「分かってるわよ!」


 苛立ちが強い奏を見て、大変なんだと大地は思った。


 面会室で待っていると、アリスが蔵人を連れてきた。蔵人の片目には青痣ができており、顔は腫れぼったくなっていた。両手に手錠を掛けられており、上着は土と血でまみれていた。


「あんた……」


「大丈夫だよ。一般人に手を出したんだ。当たり前の懲罰だよ」


「いや、大丈夫って……」


 大地は自分のせいでこんなにも痛めつけられている事実を知り、後悔した。


「蔵人くん、私は――」


「ありがとう、アリス。大丈夫、彼は話をしに来たんでしょう?」


「はい」


 アリスはそう言うと、部屋から出ていった。


「で、僕に何が聞きたいんだい?」


 大地は頭を深く下げた。


「僕は君に謝られることをしたのかい?」


「ああ。あんたは俺に気付かせてくれた」


「僕はただ君を見て、ムカついただけだ。手を出したのは事実だ。君が謝る必要はない」


「でも――」


「そんなことを言いに来たのなら、僕は戻るよ。本来、君に面会するのも独房官は渋ってたからね」


 大地は悔しさが込み上げていた。


「なら、単刀直入に聞く。あんたは力がほしい、強くなりたいと思わないのか?」


「それは思うよ。力があればどんな敵を倒せる」


「俺はこの前の試合で、姫にも見捨てられ、そしてよく喧嘩をしてたやつからもつまんないと言われた。俺はあの合宿で強くなったと思っていた。だけど、この有り様だ。おれは強くなったのか?」


「さあ、どうだろうね。僕だって前の自分よりも強くなったと思っているさ。だけど、現実は君を殴りつけ、怪我を負わせた。それって強くなったと言えるのかって葛藤しているよ」


 大地はその言葉が胸に突き刺さる。


「おれはあの時、強くなりたいと思っていた。だから、昔みたいに喧嘩に明け暮れれば、姫も見返せるし、玉嗣(おうじ)だって見返すことができると思ったんだ。けど、おっちゃんがよ、ああ、知り合いのおっちゃんが、力を求めればその限りはないと言ったんだ。それを求めすぎて苦しみを背負うことになるって。それが行き着く先は化け物になることだって」


「そのおじさんの表現はいい表現だ」


「どうしてだ?」


「力を求めた先には苦しみがあり、化け物になるところが。僕らの世界ではそれが当たり前の世界だから」


「当たり前? それならあんたは化け物ってことか?」


「残念ながら僕はそうじゃないよ。僕らの隊に居る人間は全員そうさ。でもね、戦場ではそう表現するしかない存在がいる。それにこの世には生まれながらにしてそういう存在がいるのも確かだ」


「あんたは化け物になりたいのか?」


「どうだろうね。なりたいのかと聞かれればなりたいのかもしれない。その力があれば大切なものを守れるなら……」


「おっちゃんにも聞いたよ。俺が守るものために化け物になったらどうするって。おっちゃんは心の力で命がけで俺の心を取り戻すって言っていた」


「いい人だ。そのおじさんが君を大切にしてくれるのも分かるし、君もそう思っているのが分かるよ。いい人に出会えて良かったね」


 蔵人のいつもの優しい笑みに大地は頷く。


「でも、現実はそんなに甘くはない。弱肉強食の世界、強ければ勝ち、弱ければ負けるというのが現実だ。だけど、ここには一つだけ間違えがあると僕は思っている。勝ち負けを決めるのは僕らじゃない他人さ。僕が軍に入ったのは生まれながら軍人の子どもだったからでもある。それが最近、その目的がはっきりするようになったんだ。母さんや父さん、それに隊の皆、僕にとっては大切な人間だ。だから、僕は守るべきものために戦うようになった。もし、僕が化け物と対峙して、勝ち目がなかったとしても、僕は戦うよ。一分一秒でも大切な人、大切な仲間を守るんだ。たとえ、化け物に負けたとしても、僕が仲間を助けられたなら、僕にとっては勝ちなんだ。それは他人が決めることじゃない。僕自身が決めることさ」


 大地は蔵人の目をまっすぐに見ていた。


「だから、僕は化け物にならなくてもいい。無理に力を求めない。僕は今ある力でどう戦うかを考える」


 大地は再び深々と頭を下げる。


「ありがとうございます! あんたのお陰でなんとなく分かったような気がする」


 大地は顔を上げて、蔵人を見た。


「俺もあんたの考えと同じだ。もう、他人の評価なんて気にしねえ。俺は俺の守りたいものを守るために力をつける」


 それが自身の炎のあり方って合宿でも言われたことも大地は思い出す。


 きっかけは典子をいじめる奴らが気に入らなかったのかもしれない。だけど、俺の炎は自らの敵をやっつけるためにあるのではなく、大切なものを守りたかったからだ。それはいつもおっちゃんに教わってきたことだ。


「君の気が晴れたのなら嬉しいよ。あのときの君の目つきはただの暴力を振るう人だったから」


 大地は気恥ずかしそうにして言った。


「やっぱり、あんたはお節介な人だな……」


「よく、そう言われる……」


 蔵人は苦笑いしていた。だが、その笑顔が大地にとって素敵なものであり、三十郎の次にかっこいいと思った。


 大地と蔵人が部屋を出ると、そこには八雲が立って待っていた。大地を見るなり、無言で優しく蹴りを入れる。大地は受け身を取れず、床につまずく。


「な、何するだ!」


「ウチの隊員に迷惑をかけた借りだ」


 大地は不満そうであるが、頭を掻く。


「八雲さん……」


「あと、ウチの妹を心配させている怒りも入っているぞ」


 大地と蔵人はそっちが本音だろうなと思った。


 大地ははっと気づき、そのまま蔵人に土下座する。


「頼む、この二日でいい! 俺に稽古つけてくれないか? 昨日みたいに全力で!」


 蔵人は困った顔をする。


「君の思いは分かったけど、このままの状態ではね」


 大地が顔を上げると、蔵人は八雲に手錠を見せる。


「だめだ、明日までは懲罰房入りだ。これ以上の譲歩は無理だ」


「なら、八雲さんが相手してくださいよ」


 蔵人はニコニコと笑っていた。大地の頬が上がる。


 その瞬間、八雲は気づく。この二人に嵌められた。


「おい、俺だって色々忙しいんだぞ」


「そうか。八雲さんが稽古してくんないとなると、これは決勝リーグじゃあ、負けるな……」


「そうだね。この事実を妹さんに話すとかなり怒るだろうね」


「ゆ、ゆみはな、そんなことじゃあ怒らねえぞ」


「もし、そうだとしても母さんは怒るだろうな……」


「あの隊長、姫にだけ甘いもんなー。それなら、あの執事の人も」


「そうだね、おじいちゃんなんて、問答無用で八雲さんを殴るだろうね……」


 二人は目を細くして、八雲を見つめる。


「あーー! 分かったよ! やればいいんだろう、やれば!」


「アザーズ!」


「てめえら、覚えてろよ!」


「姫にかっこいい兄貴で良かったなって言っとくよ」


「それ、忘れんな!」


 大地はなんとなく八雲の扱い方を理解した。

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