第十話 チーム臥竜戦 其の三
竹中は笑みを浮かべながら忠陽と対峙していた。
あの歳で自分の存在まで消せる隠形を作り出させるのは血統というものだろうか。それとも何かが彼に起こったのか。昨日の戦い方も入学当初に思った控えめで押され弱い人間のイメージが変わりつつある。彼の中に何が起こったのか、知りたい。
その衝動を抑えつつも、忠陽の動きを見張り、指の一つの動きから行動を予測し、こちらも合わせる。そうすると、忠陽は次の行動へと移す。まるで、竹中と忠陽は将棋の一手の前の思考の対決していた。
「この間、武さんに隠形を見破られました……」
この言葉は陽動。だが、興味深い。
「そうか、真ならあり得るね」
「奇門遁甲……会長には僕がどう見えているんですか?」
「そうだね。君の位置が分かると言えばいいかな。今は君が隠形を解いているから完全に見えているよ」
「武さんは僕をちゃんと見えていましたよ」
「僕に挑発は効かないよ。それに真と僕じゃあ目指すものが違う」
「天野川流兵法……でしたっけ?」
「そうだね。僕は真にみたいに軍に入るつもりはない。天野川流兵法を呪術として体系化させるつもりだ」
「呪術……?」
「天野川流兵法の思想の元は君も得意な陰陽道だ。僕が君を認識できているのもその副産物似すぎない」
「なら、貴方も呪術師であることは変わりない!」
忠陽は式符をばら撒き、式を竹中へと飛ばす。
式は陽動、本命は隠形によっての呪術……いや、近接戦闘か
竹中は動きながら式を一つずつ払いのけると、背後から忠陽が現れる。
「その方角は凶と出た。君の攻撃は僕には当たらない」
忠陽が放った式が竹中との間合いを遮り、攻撃ができなかった。忠陽はその場に留まり、竹中の様子を見た。
「会長、位置に着きました」
「ご苦労さま、絹張くん。護、どうかな?」
「あのお嬢様、強えわ。だけど、なんとか、押し引きして連れてきてるぜ」
「母里くん、あと少しだ」
「ああ? うっせえ、今楽しんでるんだよ」
竹中はその返答に笑っていた。忠陽はその笑顔を見て、不安を感じる。
「やばい、やばいぞ! チーム五芒星! 包囲網は着々と完成しつつある!」
紫倉はハラハラドキドキしながらメインモニターを見ていた。それは観客も同じでメインモニターに食い入っていた。
「さて、賀茂くん。君にはもう少し僕と戦ってもらおう。君が厄介なのはその術じゃない。僕と同じ匂いがするからさ」
「同じ?」
「こう言い換えればいいかな。伏見先生と君は似ている」
忠陽の中で嫌な予感が過ってしまう。
「呪術の基本とはなにか、それは嘘だ。嘘は人の欲望そのものだ。そして、それはやがて呪いとなる。君は嘘の味を知っているのだろう?」
その言葉が忠陽の胸を締め付け、それに抗うかのように式符を出し、石礫を放つ。その攻撃を竹中はいとも簡単に避ける。
「だが、嘘が輝くためには重要なものがある。それは嘘を信じる人だ」
忠陽は土に槍衾を放つ。
「その方角は凶と出た。僕には当たらない」
忠陽の斜め後ろから放たれた水の刃が土の槍衾を切り裂く。忠陽はその方向を見ると絹張がいることに気づく。
「囲まれた!?」
絹張が剣を頭上に抱え、水を貯めていることが忠陽には分かった。忠陽はすぐに対応するために、呪符を取り出す。
「その方角は凶と出た。僕から目を話してもいいのかい?」
忠陽その声の先に振り返ると、竹中が目の前まで迫っている。忠陽は呪符を捨て、竹中に応戦する。そうすれば下手に水の魔術を撃たないと考えての判断だった。
忠陽は先に、様子見で竹中へ攻撃をするも、竹中はサラリと避け、その腕を掴み、投げ飛ばす。
宙に浮いた忠陽は藤の言葉を思い出す。竹中は古武術を習っていた。天野川流兵法は単なる兵法とは違う。古武術や呪術、兵学を組み合わせたことを言っていると気づく。
「絹張くん!」
「分かってます! アクアショット!」
頭上の水たまりが球体の弾が勢いよく飛び出た。七発目には水たまりもなくなり、すべて忠陽へと向かっていく。
忠陽は無我夢中に呪符を取り出し、土を出す。その土は十分な量ではないため、硬質の水の弾丸は徐々に削りとる
「賀茂くん!」
由美子は弓の弦を弾く。忠陽に襲いかかろうとした残りの水弾と土壁は消えた。
「い、今! 賀茂選手へ放った水弾が消えました! これは一体何ですか?」
紫倉は良子に尋ねる。
「浄化だ。それよりも見てみろ。包囲網は完成した」
由美子はすぐに絹張に長棒に替え、叩きつけようとするも、絹張は無理せず、その場から後退する。
「時は今! 由美子くん、ここからが正念場だ」
竹中が冷たい笑みを浮かべると、忠陽たちの周りに忠陽の式神のような使い魔が現れた。
「ななな、なんと! 使い魔らしきものが出現しました! これは完全に逃げ場を失ったぞ、チーム五芒星! 絶体絶命のピィィィンチ!!!」
由美子は辺りを見回すとすぐ近くで戦っている鞘夏や朝子を含めて囲まれている状況だった。
「十面埋伏……」
忠陽は呟く。
「鞘夏、氷見さん、こっちに来れる?」
「無理に決まってんでしょう! この男を相手にするで手一杯よ!」
朝子の無線が飛ぶ。
「氷見さん、私達は囲まれているわ!」
「え?」
朝子は母里の槍を鉄鞭で弾き返し、瞬時に当たりを見回す。
「よそ見してんじゃんねぇ!」
母里の一撃は鞘夏が紫の防壁を作り、防いだ。
「クソッ! 硬えなあー!」
朝子は安藤の動きに気づき、安藤が撃つ前に鉄鞭を鞭に変え、攻撃を加える。安藤は驚きつつも、距離を取り、使い魔たちに攻撃をさせる。朝子はその使い魔を一種にして払い除けたが、使い魔たちはすぐに復元した。
「なによ、こいつら復活するじゃない! ズルじゃないの?」
「文句言わない!」
「分かってるよ、藤ちゃん! お姫様、なんかいい方法ないの!?」
由美子は周りを見回す。相手はドンドン包囲網を狭めてくる。数分もすれば四人で背を合わせて守らなければいけなくなる。
「葉さん、私達の呪防壁の発動回数と相手チームの発動回数を教えて」
「え? まって! えっと、えっと、えーと! 由美子、賀茂、真堂が一、朝子が零。相手は竹中と安藤が零、絹張、母里が一!」
由美子はそれを聞いて、目を瞑る。竹中も絹張もそれをみて一旦攻撃の手を止めた。
由美子は深呼吸をして、目を開く。
「氷見さん、あなたに託すわ。母里先輩を倒して!」
「ちょっと!」
「私達のチームで呪防壁が発動していないのはあなただけ。母里先輩の攻撃は賀茂くんが受けた限りでは即退場にはならない。なら、相打ちを狙って、貴方が生き残ればまだ活路は開ける」
「氷見さん、死中に活を求むよ!」
藤に言われても、朝子はそんなことができないと思い、焦る。そんなとき総将の言葉を思い出した。
「生きたいのならば戦え! 自分より強い者に勝つためには生きようとする意志を持て!」
朝子は復唱するように呟く。
「生きようとする意志を持て……」
「え?」
由美子は声が漏れる。
「いいわ、お姫様。あんたの口車に乗ってやる! 私が活路を作る!」
朝子は猫が威嚇するような低い体勢になる。それとともに朝子の呪力が濃密になっていった。
「はん! なんだそれは。もう一段階あるっていうのか! 面白え、受けて立つ! いいよな、会長?」
「構わないよ。そのための包囲だ」
母里は槍を回し、穂先を朝子に向けた。
「いつでも来い! 楽しもうぜ!」
「生きようとする意志を持て……」
朝子はまた呟く。
「私が! 麟くんを、守る!」
母里は朝子を睨む。
「戦場で恋人の名前を呼ぶやつはなぁー、甘ったれやつの言葉なんだよぉぉ!」
母里は槍を構えて朝子に突進してきた。それをフォローするかのように安藤は朝子に銃撃を放つも、鞘夏の防壁によって止められた。
「うるさい! 私にとって、麟くんは! 生きる希望だ! それを馬鹿にするやつは、誰であっても許さない!!!」
朝子が怒りのまま鉄鞭を握ると、鉄鞭に呪力が大量に流れ出した。
「お前は、私が殺してやる!!!!」
二人の叫びが木霊し、互いの意地がぶつかり合う。その激しい鍔迫り合いが辺りに力の本流を作り出し、強い突風を巻き起こす。殆どの者がそれに気を取られ、見ていた。
由美子はそんな中、冷静に弓を引く。それに気づいた絹張は止めようと動き出す。
「絹張くん、後ろだ!」
竹中の無線で絹張は後ろを向く。
「え?」
そこには忠陽が居た。絹張はしまったと思った瞬間には風の刃が絹張に届く。絹張は二回目の呪防壁を発動させてしまい、戦闘不能となった。
「氷見さん、ありがとう。あなたのおかげで活路ができたわ!」
由美子が引いた弦の音は雷鳴を届かせる。
「紫電!」
「護!」
竹中が安藤に無線を入れると同時に安藤の命を守るために発動された全力展開の呪防壁を突き破り、頭部の横を通り過ぎていった。その攻撃に安藤は唖然とするしかなかった。安藤が戦闘不能と判断された瞬間、使い魔たちは消えていった。
鍔迫り合いの中で朝子の力が弱まるの母里は感じた。
「御託を並べた割にはそれだけかぁぁ! 生きる希望? そんな者に縋って生きているなんぞに負けるわけにはいくか! このクソヤロウぉぉぉ!」
母里は朝子の鉄鞭を弾き飛ばす。
「貰った!」
母里は勝利を確信し、朝子の姿を見るとそうではないことを理解した。
朝子は鉄鞭が無くなっても、自らの拳を先に繰り出していた。
「なん、だと……」
他人への思いが勝利への執着心を大きくしたのか、それとも最初からそれを狙っていたのか。今となっては考えても仕方ないことだと分かりながらも、自分の勝利を捨てるさることができず、母里はあがき一閃を繰り出す。その一閃が届く前に朝子の拳は母里の顔面を捉え、殴り飛ばしていた。
その一撃は母里に呪防壁を働かせ、戦闘不能状態に陥れた。
「な、な、なにが起こったかの……。ほ、ほ、包囲網が破られた……。あまりのスピードに、何をいっていいのか、わ、わかりません……」
観戦会場から音が無くなっていた。
「麟くんを馬鹿にするからだ……」
朝子は力が抜けるのを感じた。
「あれ……」
朝子はその場に倒れ込み、意識が遠のくを感じる。
「氷見さん! ……氷……! ……見……ん!」
「藤ちゃん……聞こえているよ……私、勝ったよ……」
そのまま朝子は倒れ、呪防壁が働き、戦闘不能と判断された。
鞘夏が朝子に駆け寄り、様子を見る。
「……大丈夫です。気を失っているみたいです」
「ありがとう。鞘夏。こっちに合流をお願い」
「はい」
鞘夏は通信を終えると、改めて朝子に深々と頭を下げた。
「ありがとうございます。氷見さん……」
忠陽と由美子は自分一人となったというのに余裕の笑みを浮かべる竹中と対峙していた。
「これで、あなた一人だけです、生徒会長。どうされますか?」
「そうだね。このまま戦ってもいいのだが、それは次の機会にしよう」
「仲間が一所懸命戦ったのに勝ちを取りにいかないんですか?」
「母里くんは難色を示していたが、この試合は最初から負けるつもりだった」
「どういう意味ですか?」
由美子は眉を顰める。
「お互い、翼志館高校の生徒だ。僕は君たちよりもエーメンを決勝リーグに上げるつもりはないよ」
「巫山戯てるんですか?」
「巫山戯ていない。君たちは将来我が校を引っ張っていくメンバーだ。そのメンバーを成長させるために決勝リーグを経験させるのは当たり前だ」
「気に食わないですね。その上からな物言いは」
「それは僕が生徒会長だからさ。僕は翼志館高校のすべてを任せられている。今起きていることも、そして未来のことも。由美子くん、君はこの国の将来を背負う人物だ。君ならそれは分かってくれると思うだが……」
「分かったとしてもあなたのようなやり方は気に入りません」
「それは残念だ……」
「決勝リーグに行っても、僕達はあなた達には負けません。今日はその試金石だ」
忠陽は竹中に強く言い放つ。
「君たちが全力で戦い、僕が作った包囲を突破してくれたことは嬉しい限りだ。でも、戦いはまだ終わりじゃない」
「だったら、それを示しなさい!」
由美子は構えた。鞘夏が後ろかやってきて、由美子に続いて構えた。
「これはリーグ戦だ」
竹中のその余裕な表情に忠陽は腹が立つ思いだった。
「今日負けても、終わりじゃない。リーグ戦で重要なのは敵の情報をいかに引き出し、それを敵チームにどれだけ共有させるだよ。これは僕らにとっての見えない援軍となる」
忠陽は竹中の意図に気づく。
「やっぱり、学校なんて関係ないじゃないの」
由美子は竹中を睨む。
「誰も君たちに勝たせるとは言っていないよ。優勝するのは僕らチーム臥竜さ」
「そのための威力偵察なんですね……」
「さて、僕はこれでリタイヤとさせて貰うよ」
竹中は呪防具を外した。
由美子は悔しさを押し殺しながら、朝子のもとへと向かった。
「竹中選手、リタイヤを選んだ! 包囲網が破られたのは痛かったか!?」
紫倉は驚き、会場からはどよめきが生まれた。
良子は鼻で笑う。
「気に入らんな」
「え、あ、その……どういうことですか?」
「チーム臥竜の目的はこの試合に勝つことじゃない。威力偵察だ」
「威力偵察!?」
「ああ。すべての行動がチーム五芒星のデータにはない力を観察している。安藤の魔弾、あれで二人の防壁の使い方が分かる。乱戦時の賀茂の脅威。幸か不幸か、氷見の今まで以上の動き。そして、包囲網を敷いたとしても食い破る突破力。他のチームは今以上に認識を改めるだろう」
「あ、あの……それはここで言ってもいいのでしょうか?」
「構わん。それでゆみたちが負けるのなら、奴らの実力はそこまでだったということだ」
「そ、そうですか……」
「竹中という男、あの包囲網は見事だが、手の内をさらけ出しているわけではないだろう。天野川流兵法はそんな容易いものではない」
真は自分のことのように喜ぶ。浩平と遠山はそれを無言で祝福していた。
「そ、そんなに凄いんですか? その天野川流兵法というのは……」
「天野川流兵法は陰陽道をベースとして、兵の動かし方、体術を作り出した。天野川流の特徴は陣と呼ばれる敵味方に付与効果与えるものを使用する。陣は外界と隔絶を伴う結界術とは違い、術者を中心とした範囲で術者の術式通りに付与する。だが、その効果は結界術よりも弱く、環境に作用されやすいが効果範囲が広く、最大で五百メートルに及ぶ場合がある。天野川流の陣の付与効果は、その思想である陰陽五行の式占術。簡単に言うと占いだ」
「占い? そんな効果を意味あるんですか?」
「陣でよく使われる効果として、味方の攻撃力を上げたり、敵の気分を害したり、味方の機動性を上げたりというものがある。さっき言った通り、天野川流の陣は占い、敵味方の吉凶を示す。その効果を使って、どの攻撃が当たり外れるか、どの方角へ進軍すれば被害が抑えられるかを示すことができる。だから、厄介だ」
「たしかにそうですが、占いは当たるも八卦当たらぬも八卦と言いますよね?」
「呪術の基本は嘘だ。占いが嘘であったとしても、それを信じた人間におり、本当に起これば、それは呪い、呪いへと変わる」
紫倉はハッと気がつく。そして、良子に対して何度も頷く。
「私はお前が言った、当たるも八卦当たらぬも八卦という言葉が、呪いに対しての概念武装と思うがな……」
「お言葉ありがとうございます。これにて、本予選Bブロック午後の部を終了致します。葛城二佐、本日は本当にありがとうございました!」
良子は無言で立ち上がり、会場を出口へと向かう。紫倉は苦笑いしながら見送った。
「本日の解説はミカこと、紫倉愛心花でした! 皆さん、ありがとうございました!」
会場から拍手が起き、紫倉を褒め称えていた。
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