第十話 チーム松島戦 其の二
忠陽たちの居場所が分かりやすいように戦場を五目のように区画を分けています。
本文最初に戦場区画分けを乗せますので、ご利用ください。
演習場に試合開始を知らせるブザー音が鳴り響く。
忠陽たちが乗っていた運搬機はその扉を開け、選手に出るように促す。選手が出た後、運搬機は空をに上がり、演習場から姿を消した。
「賀茂くん、索敵!」
忠陽は鴉を模した式神を数十匹作り、空高く回せる。
「おっと、ここで賀茂選手、鴉を作り出し、空を飛ばせた。他の試合ログを見ましたが、おそらく式神かなにかでしょう。まずは敵の位置を調べるのかぁぁ?」
梅子の実況に熱が入る。
「あれで、俺達の居場所を探っていたのか。式神の数といい、多くないか? 完全に操れるのか?」
浩平は真に言い、真は頷いた。
浩平と同じ質問を浩平と離れた席にいる甘利も同様な疑問を呟いていた。
「恐らく、式神はほぼ自立駆動でしょう。ほんとうに感覚共有しているのは二、三匹。それにしても、どうやってその方法を考えたか、そっちの方が知りたいですね」
魯は興味深そうにしていた。
「何にせよ、あの賀茂という男、あのチームの目であり、耳であるみたいだな。これはパラメータには現れないものだ」
綺麗な顔の長髪、男だというのに妖艶な顔し、人を魅了するような気配を持つ男が言う。この男の名前は周藤公朗、東郷高校の現生徒会長である。人は彼の容姿から美周郎と呼んでいる。
「周藤さん、気になります、彼?」
魯が周藤に尋ねた。周藤は女性が見ればうっとりする笑みを浮かべ、頷いた。
「へん、あんなひ弱な男、俺が戦えばイチコロよ!」
筋骨隆々の男が高笑いを上げる。
「欣司、他の客に迷惑だ。抑えろ」
「わりぃわりぃ」
変わらない音量のダミ声が会場に響き渡る。
梅子は咳払いをして、実況を続ける。
「さて、賀茂選手、索敵が終わったのか、移動を始めました」
アルファファイブのポイントで合流した先に集合をしていた由美子たちは忠陽と合流すべく、ガンマセカンドに向かっていた。
大地はじれったいらしく由美子を急かす。
「おい、姫さんよ。もう行ってもいいか?」
「駄目よ、賀茂くんと合流が先! 言ったでしょう。わたしたちが他の三人を陽動するって」
「わかってるけどよ……」
「それぐらい我慢しないさよ。あとは隙にやらせるって言ってるんだから」
朝子は大地を宥められ、口を尖らせる。
「賀茂くん、敵はどんな行動している?」
「松島さんはイータセブンまで下がってる。他はイプシファイブで合流中だね」
「鞘夏、ログお願い」
「はい、分かりました」
「賀茂くん、デルタスリーまで集合地点変更できるかしら?」
「え、いいよ」
「宮袋くんがはやく戦いたいみたいでグズってるの」
「グズってねえ!」
忠陽は笑う。
「分かったよ」
大地は釈然としない様子だった。
由美子たちがデルタスリーまでたどり着いたとき、先に住宅で隠れている忠陽を見つけた。
「さて、この市街地A、住宅街での戦闘を想定された演習場です。賀茂選手は先に上手く住宅の壁をつかって隠れています。一方チーム松島は一松選手、二松選手、三松選手で円陣とりながら、互いの死角を消して、徐々に進んでいます。距離にして一区画、その違いではありますが、チーム五芒星は相手の居場所を把握している。この差はデカいぞー」
富沢は潜伏と緊迫した状況を語るかのように声を潜めて言った。
「そうなると、やっぱり賀茂をさきに倒したほうがいいのか? 三本松を見ても、賀茂たちと戦うと、どうしても後手に回っちまう」
近藤は真たちに聞いていた。
「そうはならないだろう。このアドバンテージは確かに大きい。だが、決勝リーグで戦うときにはチームの行動のクセがだいたい分かるはずだ。それなら、逆にこちらから打って出ることもできる。遠山はアウトレンジから援護、俺達は乱戦に持ち込めば、俺達の方が有利だ」
浩平の言い分に近藤は納得した。
「賀茂くん、相手の様子はどう?」
「慎重に動いてるよ。なんだか、これまでのログと違うみたい……」
「それだけ、あっちも必死ってわけね」
朝子の言葉に忠陽は頷く。
「なら、予定通り、私達が仕掛ける」
忠陽と朝子は頷く。
「あなたは鞘夏の指示に従って、松島さんのところへ行きなさい」
「合点承知!」
大地はニンマリと笑顔になる。
「大ちゃん、負けないでよ」
通信で典子の声が入る。
「負けるわけ無いだろ!」
「大地くん、頑張って!」
忠陽から応援の言葉を貰い、大地は拳を突き出す。忠陽はその拳に自分の拳を突き合わせた。大地は拳を突き合わせた後、真剣な表情に変わった。
「さて、私達はどうする? 相手の選手のログを見たかぎりでは一対一でも大丈夫と思うけど」
「アイツのところも気になるし、勝ちに拘るなら先に優勢を取っておいた方がいいんじゃない?」
朝子の提案に由美子は違和感を覚える。
「それは私達、三人で連携するってこと?」
「その方がいいでしょう?」
「そうね……」
「なに、不満?」
「不満じゃないわ。むしろその方が良いと思う」
「だったら、良いじゃない」
「二人共、喧嘩しない」
藤の言葉に、由美子と朝子は口を揃えて「していない」と答えた。
「こういうときだけ息ぴったりなんだから……」
藤は二人と通信に乗せず、作戦室内で呟く。その様子に典子も葉も苦笑いしていた。
「なら、前衛があなたと私、賀茂くんはサポートでいい?」
「ええ、それでいいわ」
「賀茂くん、いつもの地殻変動お願い。相手の円陣が崩れたら、私達が攻撃をする。そのあと、賀茂くんは残った敵を足止めする」
「足止め? 倒せばいいじゃない?」
「敵に賀茂くんの有用性に気づいてほしくないの。ただでさえ、毎回賀茂くんには索敵をお願いしている。相手チームはまずは賀茂くんを潰すべきと思っているはずよ。ここで賀茂くんが相手を直接的に倒す手段があると思わせるのは後々こちらの有利を作れなくなる。一人は今回で手の内を全部晒すのに、他はそうしたくないわ」
「そういうこと。なら、分かったわ」
大人しく引き下がる朝子に由美子は不満を抱く。
「なによ、あなたの言う通りにするのよ。文句ある?」
「ないわ……」
「じゃあ、いくわよ。優等生」
「それ、止めてくれない?」
由美子と朝子は動き出した。それを追うかのように忠陽は黙って動いた。
その行動を見て、観客室の実況、富沢は唸る。
「おーーっと! チーム五芒星も二手に分かれたぞ! 相手に対応した形なのか? 宮袋選手だけが単独行動をしている! その行先はなんと松島選手に向かっている。Cブロック出場者の殆どは松島選手との交戦を避けていたが、このチームは違うぞ! これは完全勝利を狙ってのことかぁぁ!?」
それを見て、玉嗣は笑っていた。
「やっぱり。成ちゃんと戦わないわけないよ」
「先に仕掛けたのはチーム五芒星! 賀茂選手だああ!」
忠陽は三本松と五メートルくらい距離を置いた前方に現れ、式符を地面にしつける。すると、地面のコンクリートが隆起し、三本松の足場が凸凹の状態になった。
三本松の円陣は崩れ、意識がバラバラになってしまっていた。
「兄弟、落ち着け! 一旦ここを離れるぞ」
「何言ってんだ! 敵は眼の前だ! 一気に倒すぞ!」
「おい、兄弟たち、こんな足場でどうするんだ!」
三人が慌てふためくなか、側面から由美子と朝子が現れた。
「ああーーっと! ここで側面からの奇襲だ!」
梅子の声が会場に響く。
由美子は二松の腹に長棒を突きつけ、コンクリートに押しやる。コンクリートに押し付けれた後にはその顔を払い、気絶させた。
「二松選手、ダウン! 意識を失ったことにより、呪防具が戦闘不能と判断しました!」
すると、二松を中心に呪防壁が展開された。
由美子と同時に、三松も朝子の鉄鞭で一突きされ、倒れていた。
「三松選手もダウン! 戦闘不能だ! 速い! 速すぎるぞ! この子達は本当に一年生か!?」
一松は二人がすぐに倒れたことに動揺し、由美子と朝子を交互に見ていた。
「ち、ち、チクショー! 俺達は天下無敵の松島組だ! て、てめえらに負けたとあっちゃ、兄貴の面目が立たてねえ!」
「そんなの、知ったこっちゃないわ!」
先に振りかぶったのは朝子だが、由美子の攻撃も同時に一松に与えていた。朝子は腹部、由美子は顔と会場内でも手を覆いたくなるような容赦の無さにどよめきが生まれる。
「一松選手も一撃で、いや二撃で? 合体攻撃でダウンだー!」
一松のその姿に浩平が憐れむ顔をしていた。
「浩平、どうしたの?」
真が浩平に問う。
「いやなに、三本松の奴らが可哀想に思えてな。あいつらは正直、松島の腰巾着としか思っていなかったが、ここまでやられ役だと可愛そすぎてな」
「浩平の方が酷いんじゃないかな?」
「そうか、そうなのか?」
浩平は近藤と遠山にも聞いたが、二人共頷いた。
「賀茂は陽動だけか……。注意したほうが良さそうだな」
周藤が呟く。
「周藤さん、どうしてですか? あの野郎にそこまで警戒する必要はないでしょう?」
亜門は疑問に思う。それに対して魯が周藤の代わりに答えていた。
「亜門くん、賀茂くんはあれだけの式神の使い方ができるんだ。悪目立ちしているのは当然だ。他のチームはまず賀茂くんを倒そうと考えている。そこにだよ、もし賀茂くんが呪術で相手を倒せる手段を持っていたとしたら、君なら倒す優先度を上げるかい?」
「まあ、上がるぜ。当然……」
「なら、次に相手の立場になってみよう。もし、君にそんな仲間が居たとしたら、その情報を他のチームに与えたいと思うかい?」
「いや、次のリーグまで黙っておいて、ここぞというときに出す」
亜門は意図に気づき、魯を見る。
「そういうことか。なら、賀茂は敵を倒せるだけの術を持っているってわけか!」
「それだけじゃない。あの敵の足場を凹凸にした呪術、小さな力で優位な状況を作った。その思考が脅威になる」
「なるほどですね、周藤さん!」
「へっ! つまんねえ戦い方だ!」
「甘利、お前も足元を掬われるぞ。言葉通りにな」
甘利は周藤を睨みつける。
「誰が、足元を掬われるって? お前の中ではそんなに俺が弱っちぃのか?」
「いいや。お前は強い。だが、賀茂は虚実の戦いができるかもしれん。竹中にやられたのを忘れたか?」
甘利は舌打ちをする。
「もう三人、やっちゃいましたね。開始、十分!」
典子の言葉に葉も藤も頷く。
「まあ、合宿のときに比べると相手が弱すぎて、当然なのよね……」
「はい! 藤ちゃん先生!」
藤は肩の力が抜ける。
「なに、高畑さん?」
「大ちゃんも言ってたけど、合宿ってそんなに地獄だったんですか?」
「ええ。宮袋くんたちが逆の立場になった感じ」
「え! そんな? 朝子たち、結構強いと思ってたんだけど……」
葉は驚いていた。
「相手は本職の軍人さんよ? 勝てたのだって、条件付きでやらないと話にならないくらいよ」
「なんで、そんな所に行ったのさ、皆、よく心が折れなかったね」
「折られたわよ! ポッキと! 後、私も!」
「藤ちゃん色々と大変だったんだね……」
葉は藤の肩に手を置く。
「ありがとう。って、慰められても嬉しくないぃ!」
「鞘夏、ログお願い」
由美子から通信が入った。
「はい。記録しています」
「ありがとう」
そのことに典子は頭を傾げる。
「ねえねえ、鞘夏さん、どうして記録なんかしているの? 後、映像ログを見れば分かるんじゃない?」
典子は鞘夏に近づき、尋ねていた。その近さに鞘夏は戸惑う。
「あ、ごめん……」
「いえ……。高畑さんの仰るとおりですが、映像ログだと大体でしか分かりません。ゆみさんの狙いは見返すためではなく、本予選や決勝リーグのために行っていると思います」
「どうして?」
鞘夏は言いにくそうにしていた。
「多分、忠陽様が関係していると思います。忠陽様はこれまで索敵で目立っています。相手はまず忠陽様を最初に狙う可能性があって、忠陽様の居場所の特定のために私達の行動を研究すると思います。ゆみさんはその対策に自身の行動を分析して、本予選や決勝リーグでは別の戦術を選ぼうとされているのではないかと思います」
「なるほど……。さっきからアルファなんちゃっているのはそのためなの?」
「いえ、それは今回の演習場のレーダーが七掛ける七のマス目上にできているので、自分の現在のポイントが分かりやすいにしているだけに過ぎません」
「それは合宿のたまものね」
藤の言葉に鞘夏は頷く。
「でも、賀茂くん狙いは、賀茂くんが隠形を使っちゃえば大丈夫じゃない?」
藤が鞘夏に言う。
「私もそう思ったのですが、忠陽様もゆみさんも隠形は完璧じゃないと思っておいたほうがよいと考えているみたいです。現に、岐湊高校の偵察時に隠形が効かない相手が居ましたらか……」
「そうよね……。チーム武帝にはそれを知られているのよね……」
「どうしたの、藤ちゃん? なんでそんな嫌そうな顔をしているの?」
「だって、あの女に負けたくないじゃん!」
葉と典子は一昨日の涼井との張り合いを思い出し、納得した。
「賀茂くんの隠形ってそんなに凄いの?」
藤と鞘夏は頷く。
「本職の軍人さんでも、まず賀茂くんを狙うくらい居場所が分からくなるわ」
「それチートじゃない?」
葉は驚いていた。
「チートじゃない! 賀茂くんの修行の成果よ。あっ、でも、鞘夏さんは隠形を使った賀茂くんの居場所が分かってたわよね? あれってなんでなの?」
藤の問に鞘夏は口を閉ざしままだった。
「あ、大ちゃんが松島さんの所に着いたみたい」
典子の声に藤たちはモニターを見る。
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