第十話 醜い争い、そして宣戦布告
一次予選リーグの六十四チームからチーム数は一気に減り、二次予選リーグは十六チームが本予選リーグを掛けて争うことになる。この二次予選リーグは上位各ブロックの上位二チーム、計八チームが本予選リーグへと進出することができる。
各ブロックへ振り分けはくじ引きであり、チーム五芒星はCブロックに割り当てられ、由美子が警戒をしていたチームとは別のリーグだった。
昨日の夜、忠陽から偵察失敗の報告を聞き、由美子は忠陽の身の安全を心配した。だが、忠陽の明るい声と武帝からの取引を聞いて、すぐに心配損だったというが分かった。
由美子は忠陽を言葉攻めようとしたが、同じく自身も臥竜への偵察がものの見事に失敗し、竹中の不敵な笑みを思い出すと、口を閉ざしてしまった。
武帝の取引内容は遠矢八雲への紹介であり、彼らの将来を教えてもらう限りには、純粋な憧れであることが分かるため、由美子は了承した。忠陽からは、由美子からお願いすると八雲は必ず来ることを言われ、忠陽との電話が終わった後、由美子はメールで八雲にお願いをしていた。八雲からはすぐに二つ返事で返ってくるの見ると、忠陽に心が見透かされていて、嫌な気持ちになってしまった。
二次予選リーグ、一日目。
総合体育館前にいると、先に居たのはチーム武帝であり、真は忠陽たちに手を振りながら迎えていた。
互いに自分のチームを紹介するなか、大地と典子は近藤と小学校が同じであり、子供の頃、よく遊んでいたことが分かった。近藤は医師を目指しており、スポーツマンという外見よりも、物事をよく観察し、考える人間だと大地に紹介された。
「ねえ、忠陽くん、どうしてこうなっているの?」
忠陽は典子に聞かれ、苦笑いしていた。
「なんでだろうね……」
生徒たちは割と和気あいあいと互いの紹介を済ませたのに対して、担当教員たちは互いに互いを牽制し、睨み合っていた。
藤と睨み合っているのはスレンダーでメガネを掛けた茶髪お団子ヘアの女性だった。メガネを掛けている分ツリ目のようにも見え、態度とその灰色のスーツに黒のズボンの服装から高圧的な人間にも感じた。
「どーも! チーム五芒星の担当教員、藤です!」
「こちらこそ! チーム武帝の担当教員、涼井です! そっちの生徒が何やら当校に侵入したみたいでかなり迷惑だわ! あなたと同じで節操がないのよ!」
「そっちこそ、ただ偵察したただけで、人を紹介しろなんて何様のつもりよ!」
「うちの生徒はどこかの色気だけを振りまく女と違って、礼節を思うじるから、失礼なことにはならないわよ!」
「へー、うちの生徒はどこかの悪知恵が働く女と違って、嫌味も陰口も言わないから、自然と人が集まってくるのよ」
次第に互いに手をつかみ合い、醜い力争いを行っていた。二人は生徒たちが聞こえないように言い争いをし始めた。
「そう言えば、この間の飲みのお金貰ってなかったわね」
涼井は藤を押し込んだ。
「何言っているのよ! あんたの酒癖でお店にどれだけ迷惑をかけたか。あの店から出禁って言われてるんだから!」
藤は涼井を押し返した。
「いいじゃない、あんな店! だいたい価格が高いくせにお酒の量が少ないのよ」
互いに頬を付け合っていた。
「何言ってんのよ! 雰囲気が良かったら京介を後で誘おうと思ったのに!」
「ほら、本音が出ましたー! やっぱりそうじゃない! そうはさせるもんですか!」
涼井が巻きかえし、藤を押し込む。
「高校の時から一々絡むな! 京介にフラレたクセに!」
藤も負けじと力をいれ、涼井を押し返す。
「一度、フラレたからって、諦める女がどこに居るのよ! 未だに告れない女には言われたくないわよ!」
火花が散る二人の様相に忠陽は悪寒を感じ、由美子と朝子はそれ自体が女の執念のように見え、醜く感じた。
「君等、相変わらず仲ええな」
ヘラヘラと笑って現れたのは片腕がない、サングラスを掛けた伏見だった。藤と涼井はすぐに互いに手を放し、服装を整えた。
「おう! グラサン先生」
大地に続いて、まばらに忠陽たちは伏見に挨拶をする。
「グラサン先生はこの先生と知り合いなのか?」
「ああ、彼女は涼井柚くん、藤くんとは同級生で僕の教え子や」
「ええ、私が! 教え子の中で一番弟子の涼井柚よ」
「はあ? 私が! 一番弟子よ」
「ふ、藤ちゃん……」
葉が藤を止めようとする。
「何いってんのよ。あんたの方が成績悪かったでしょう!?」
「柚ちゃん、抑えて抑えて」
遠山が涼井のスーツの袖を引っ張る。
「そうや、そこで八雲たちと会うて、君らに呼ばれたっていうから連れてきたわ」
伏見の後ろに半袖Tシャツにズボンだけが戦闘服の八雲、上下戦闘服の奏、タンクトップ姿に短パンの樹が居た。
「よ! お前ら」
八雲の姿を見た瞬間、チーム武帝の真、浩平、遠山は背筋が伸び、直立敬礼状態になっていた。
「あれ、八雲さん帰ったんじゃないんですか?」
「何言ってんだ。要人はあの馬鹿皇子だけじゃねえんだよ」
「そっか。なら、俺の練習相手になってくれよ!」
「バーカ。そんな暇じゃねえよ」
「じゃあ、なんでここにいるんだよ?」
「そりゃ、かわいいゆみの頼みじゃ、来るしかないだろ?」
大地は呆れていた。
「で、賀茂? 紹介したいやつって誰だ?」
「あ、あの……。この方たちです」
忠陽はチーム武帝を一人ひとり紹介していった。
「自分は、武真と言います。来年は陸軍大学に入りたい思っています。宜しくお願い致します!」
「おいおい、そんなに緊張するなよ」
八雲は真の肩を叩く。
「あ、ありがとうございます!」
「陸軍大学でいいのか? お前のその感じだと現場に入隊した方が活躍できるんじゃないか?」
「す、すごい。気づかれたんですね」
「まあな!」
虚勢を張ったような笑いを八雲はした。
「嘘つくな、このポンコツ!」
奏がじっとした目で八雲を睨んでいた。八雲は笑うの止めた。
「ぼ、僕は天野川流兵法を世に広めたいと思っていまして、まずは大学で古今の兵法軍学の勉強をしたいと考えています」
「なるほど。悪いな、俺は兵法軍学はあまり知らなくて。総将なら知ってるけど、あいつ紹介してやろうか?」
「い、いえ! 遠矢さんを紹介してもらえるだけでも有り難いことです」
「いいよ。アイツ、本予選リーグからこっちに来るから。そんな大したことじゃないし」
「あ、ありがとうございます」
八雲は次に移るとすぐに浩平は敬礼していた。
「おいおい、ここは軍隊じゃねえぞ……」
「失礼しました」
浩平は敬礼を止めたが、そのガチガチな様子に八雲は笑う。
「自分は、松前浩平と言います。来年は陸軍に入隊し、是非、彼杵の特殊呪術連隊に所属したいと考えています」
「そう言ってくれるのは嬉しいけど、桜花出身以外は所属希望を出せないはずだぞ?」
「八雲……。そのための顔合わせだろ? お前がなんとかしてやれよ」
樹の苦言に八雲は驚く。
「はあ? 俺にそんなことできるのか?」
「おめえじゃねえよ。姐さんに言えばなんとかなるだろう?」
「おい、そうなのか?」
八雲は伏見に聞いていた。
「なんで、俺に聞くねん。あの女に聞いてみればいいやないか」
「新人じゃあ、まず無理よ。なにか実績を残しておかないと、良子さんだって引き抜けないでしょう。それに最初からうちの部隊に入って辞められても困るし」
奏が冷静に答えていた。それを聞いて、浩平は肩を落とした。
「なら、私達がこの大会で優勝したらどうでしょうか?」
八雲は遠山の強気に笑みを浮かべる。
「君は?」
「遠山茉莉花と言います。私も浩平くんと同じく彼杵の呪術連隊に配属希望です。とくに、第一小隊に」
「俺の部隊に入りたいのか? あいにく今のメンバーで間に合ってる。それに君がそこに居る二人以上に戦えると思えない」
「それを実証するためにこの大会で優勝します。それなら、どうですか?」
「遠山さん! 申し訳ありません、うちの生徒が……」
涼井が八雲に平謝りする。
「いいですよ。これぐらいがちょうどいい」
「ええよ、涼井くん。どっかの馬鹿は十二の頃に俺がこの国で最強になってやるって言っとたらしいからな」
伏見は笑いながら言っていた。
「おま! なんで知ってんだ、それ! 総将だな!? 総将なんだな!」
忠陽たちから笑われているなか、遠山はその眼差しを変えていなかった。
「なあ、あんたら、なんで八雲さんたちの部隊なんだ? 一週間居たけど、地獄だったぜ?」
大地の言葉に八雲たちは苦笑いしていた。
「わ、私と真くんと、浩平くんは去年、そちらで仮入隊をしたことがあります。私はその時、橘樹さんのところで銃の扱いを習いましたが、そのとき感銘を受けました」
「あたし!?」
樹は驚いていた。
「あんた、変なことしてないでしょうね?」
奏は樹を問い出す。
「してねーよ。学生に手を出すなんて、そこまであたしだって非常識じゃないさ!」
由美子は疑いの目で樹を見ていた。
「いやいや、ゆみちゃん、信じてよ。あたし、そんなことする?」
「だって、私を変な目で見てたじゃない」
「いや、それはゆみちゃんがかわいいから――」
「おい、樹。お前の好色に関してとにかく言わないが、俺の妹に手を出すな!」
「てめえには関係ねえだろ!」
「あの! 樹さんと神宮さんはどのような関係でしょうか!?」
遠山は目を鋭くして聞いた。だが、真たちはそっちじゃないと心のなかでツッコミを入れていた。
「あたしとゆみちゃんは……」
樹は由美子に近づき抱きついた。
「は、離れなさい!」
「おい、樹! 俺の妹から離れろ!」
樹は暴れる由美子と引き剥がす八雲をものともせず、笑いながら遠山に言う。
「師弟関係を超えた関係かな」
樹は遠山に微笑む。遠山は拳を握り、その背には炎が見える。
「なら、私がその子に勝ったら、私を弟子にしてください!」
遠山の気迫に由美子は背筋に寒気を覚える。
「その時になったら、考えるよ」
樹は由美子の頬を舐める。由美子は前身に鳥肌が立ち、大声で悲鳴をあげる。
忠陽たちはその危機を理解し、全員で由美子から樹を引き剥がしにかかった。
辺りは騒然とし、由美子の目には涙が溜まっていた。どこから持ってこられた縄で樹は縛り上げられており、不満そうな顔をしていた。
「なんだよ、いいじゃんか。少しぐらいは」
「よくねえよ! この腐れアマ!」
ブーブーと不満を樹は言う。
八雲は頭を掻きながら、遠山に話す。
「まあ、この大会の優勝者には一条財閥の援助で一つだけ願いを叶えてくれるらしい。なんでもとはいかないだろうが、それに賭けるのも有りじゃないか? それに皇国軍も一条財閥を無碍にはしないだろうよ」
「絶対に優勝します!」
八雲は遠山の意気込みにため息をつく。
「で、君もうちの隊に入りたいの?」
八雲は近藤に聞いていた。
「いや、俺は医者になるっす」
「え?」
「軍隊とか、人を殺す職業なんてなりたくないんで。それにおれはこいつらみたいに強くないっすから。医者になるのはガキの頃から約束っていうか、夢っていうか。ほら、この島の学生って呪術で体をやられる奴がいるでしょう? そいつらの面倒をみてやりたいと思って」
八雲は自嘲する。
「そうか。いい夢だ。霊障の治療方法なら、うちの専門的な軍医がいる。そいつの弟子になったほうがいいじゃないか?」
「いや、いいっす。おれは地道に医師としての資格をとって、地道にここで働きますよ」
「名前は?」
「近藤稔っす」
「良い医者になるといいな」
「ありがとうございます」
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