第十話 偵察?? チーム武帝 其の一
岐湊高校は天谷市の北区にある。北区はこの天谷市でも学校数が多く、忠陽の妹、鏡華も北区のお嬢様学校に通っている。また、北区の港はコンテナ船が入ってくるため、倉庫の規模が大きく、この天谷でも一番大きな倉庫街となっていた。
この規模の大きい倉庫街をすべて管理するのには人手が足りない状態であった。倉庫街の中でも、空き倉庫街があり、そういう場所は学生の秘密基地となっていたり、身元不明な人間のたまり場でもあった。そのためか、学生と大人の抗争が多く、一時期は警察、呪捜局が連携して取締していたくらいである。転機が訪れたのは、エーメンの台頭と岐湊高校の現生徒会長就任であった。
エーメンは呪術を隠れ蓑とした大人の悪事から学生を守るための自警団であり、その存在はこの島で瞬く間に広まった。呪捜局や警察が手を出せない相手でも制裁を与え、その犯罪を白日のものとするため、学生や一般人から義賊のように扱われている。そのため、呪捜局もその扱いに困るほどであった。
一方、岐湊高校の現生徒会長は二期目であり、その頭角は一年生のときから表しているようだった。当時岐湊高校は武力による学校統治の極地であり、力こそが正義であり、強い人間がその学校統治任せられる存在だとして、我こそが生徒会長であると内部抗争を起こしていた。その内部抗争に終わらせたのが、現生徒会長であり、終わらせた功績と畏敬の念から生徒たちは現生徒会長を【武帝】と呼んでいるのである。
忠陽は岐湊高校の校門に着くと、思っていたよりも綺麗なことに安心した。大地から聞いた武帝とよばれる所以から荒廃した建物と世紀末ヒャッハー状態の様相を想像していたが、学生は和気あいあいとしており、よく見られる放課後。学校の窓ガラスは一枚も割れていないし、バリケードも気づかれていないことには安堵する。
隠形を解かずに、そのまま何食わない顔で校門を跨ぐが内心は嫌な気持ちと緊張していた。それは人を騙して貶めるような行為と同じような感覚でもあった。予選リーグでも同じように偵察を行ったが、一向に慣れない。
人気のない場所へと入り、忠陽は十数匹の式を放つ。式は鴉となって空へと飛び立ち、各校舎や設備へと取り付かせる。そこから忠陽は一体の式と聴覚と資格を共有させ、生徒たちの言葉を聞いていく。数分共有させて、必要な情報がなければ次の式へと移っていった。十数分の中で武帝の居場所に関する情報がなかったため、忠陽は校舎内へ侵入し、まずは生徒会室へと向かった。
生徒会室は中央棟の四階にあり、二階から三階へ上がろうとしたとき、忠陽は背後から呼び止められた。
「君、翼志館の生徒だよね。誰かと待ち合わせかな?」
忠陽は背中から寒気を感じ、鳥肌が立つ。
「うん? どうした、大丈夫かい?」
忠陽はゆっくりと振り向きかえると、そこにはログで移っていたとおりに、セミロングの黒髪、優しい瞳に中性的な顔をした男子生徒が居た。武真、武帝と呼ばれた生徒会長だ。
「いや、その……」
忠陽は言葉を濁すも真は優しく微笑みかけた。
「もし、よかったら案内するよ」
思っていないほど親切であり、柔和な言い方に忠陽は驚きさえ感じるとともに不思議にも思えた。
「えーっと。その……」
「真、何してる。今日は第二演習場だぞ。このままだと十秒無駄にする」
「うん、分かってる」
真が振り返ると、またログで見た男が現れた。眉間に皺ができそうなほど生真面目そうで、鋭い目つき、麻色の長髪で後ろ髪をポニーテルにした男。松前浩平。現生徒会副会長。
「どうした、何を止まっている」
「え、いや、そこに翼志館の生徒が居て」
真は忠陽を指差し、浩平はそこをじっと見つめる。
「何を言っている。誰も居ないぞ……」
「え、でも……」
浩平は首を傾げる。しかし、もう一度、真を見て、再度真が指差す方を見た。
「出てこい。他校の生徒が無断で入ることは重大な問題。今なら穏便にしてやる」
忠陽は隠形を解き、姿を表す。
「本当に居たんだな……」
浩平は一瞬驚いた顔を見せたが、すぐに眉間に皺を寄せ、目は鋭さを増した。
「翼志館の生徒が何用だ。しかも、無断で。まさか、竹中の差し金か!?」
その語気に思わず、両手を胸のあたりまで上げる。
「いえ、違います」
「竹中じゃないとしたら、お前は誰だ。どこの生徒だ!」
浩平は忠陽に近づこうとするのを真が止める。
「浩平、そう強く言うと、相手は何も言えないよ」
浩平はそのことに気づき、一旦深呼吸をする。
「ねえ、君。ちょっと付き合ってもらえるかな。こんなところじゃあ何だし、まずは生徒会室へ行かない?」
真の優しい口調に忠陽は頷きそうになったが、口を閉ざし、固まってしまった。真は忠陽の心情に気づき、苦笑いした。
「生徒会室じゃあ、君の身が危ないね。そうだ、近くの喫茶店に行こう。浩平、どこか近くに喫茶店なかったっけ?」
「ちょっと待て」
浩平は携帯を取り出し、調べ始めた。少し待つと、検索結果が出たのか、顔を上げる。
「喫茶店なら、ここから一キロ先に一軒、二キロ先に三軒あった。だが、星が低い。全部三つ星以下だ。それに接客が悪いと書かれている。三キロ先に五つ星があったが、レビュー数が一件しかない。俺としてはお勧めができない」
その正確性に忠陽は言葉が出なかった。真は苦笑いしている。
「相変わらずだな。この場合は彼と話ができればいいから、接客はいいじゃないか。彼が安全だと思う場所で」
「分かった。なら、ファミレスも候補に上げていいか」
浩平は忠陽と真、両方を見た。
「それでいいよ」
忠陽は無言で頷いた。
「よし。なら、ここから近いいつものファミレスに行こう」
「ありがとう、浩平。君、もう一度姿を隠れることはできる?」
「おい待て、真。そうしたら、逃げられるぞ」
「大丈夫、僕が見えてるから。それに彼は逃げないよ」
「分かった。真が言うなら、そうなのだろう」
忠陽は真の指示通り、再び隠形し、二人の案内で学校を出た。学校を出たところで、隠形を解き、二人の後ろに付いて、ファミレスへと向かった。
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