第十話 偵察!! チーム美周郎 其の一
朝子は昼休みに藤に呼び出されていた。
「なんでよ、藤ちゃん!」
「先生!」
朝子は唇を尖らせる。
「というか、当たり前でしょう。チームのために一丸となって頑張る。神宮さんたちも他のチームを見に行くんだから、あなたも手伝いなさい」
「そんなの、あのヘタレにやらせればいいじゃん。その方が効率がいいわよ」
「氷見さん、言葉を改めなさい。ヘタレじゃなくて賀茂くん」
朝子は唸っていた。
「とにかく、行ってきなさい。宗先生にお願いして、了承を頂いているんだから」
朝子は宗という言葉を聞いて、顔を歪めた。
「なによ、その顔……」
藤は朝子のほっぺたをつねり、引っ張る。
「いだい、痛いよ、藤ちゃん!」
「藤先生でしょう!」
藤は朝子のほっぺたから手を放した。
「まったく、どうして素直に聞いてくれないのよ……」
「怒らないでよ、藤――」
藤の目がギラッと光る。
「先生……」
「いい? これはあなたのためでもあるのよ。大学、行きたいんでしょう?」
「分かったよ、藤先生」
放課後になると朝子は葉と一緒に体育教員室に向かった。
体育教員室では、先生たちが朗らかに談笑していた。その中心に居たのが宗丈尚だった。白いは袖のポロシャツに藍色のジャージズボン、肌は浅黒く、焼けていたの地黒なのか分かりにくいぐらい健康的な体をしていた。
宗が朝子に気づき、白い歯を見せ、手を上げた。
朝子と葉は会釈をする。
「やあ、二人共。藤先生からは聞いてるよ。周藤くん達を見たいんだろ?」
朝子は顔を反らし、黙ったままだった。葉はそれに気づき、大げさに頷いた。
「そうなんですよ。……でも、宗先生、いいんですか?」
「うん? いいってなにがだい?」
宗は腕組し、考える。
「いや、あたしら、学校は同じだけど、学戦リーグじゃあ敵じゃないですか? その、言ってしまえば敵情視察になっちゃうんですけど……」
宗はハッと気付き、納得した。
「そうか、そういうことになるな。藤先生に頼まれてついつい浮かれてしまっていたよ。だが、今さら駄目だというのもおかしいだろう。藤先生から頼まれたときも別に問題ないと私は思っていたからそこまで気にすることはない」
宗は笑顔で、朝子と葉の肩に手を置いた。だが、宗はすぐに気づき、手を引いた。
「おっと、女子生徒の肩に手を乗せるとは配慮が足りなかった。すまない」
「あー、別に気にしてないんで」
「そう思ってくれると助かるよ」
宗は白い歯を見せながら微笑んだ。浅黒い肌と、そして健康優良者たるその体と、スマートな顔は体育教師というのに女子生徒からも人気であった。また、どんな生徒のお悩み相談にも乗り、道を指し示すため学校中で人望があった。
そんな存在が朝子にとっては窮屈な存在となっていた。朝子の中では誰かも好かれる存在というのが好ましくなく、またそれ付け加えて誰にでも優しいという人間性が自分の中で信用しきれない人物だったからだ。
「さあ、二人とも善は急げだ。第一演習場に行くぞ! 今日は、そこに周藤くんたちが居るはずだ」
鼻歌混じりでいい気分の宗は、二人を置いてけぼりにするかの勢いで体育教員室を後にする。朝子は乗り気ではないが、藤からの頼まれごとと思い、仕方なく第一演習場に行くことにした。
朝子たちは第一演習場を訪れると、早速大声が聞こえる。二人の男子生徒が戦っており、その気迫は熱となって、朝子たちに襲いかかる。
逆立つ茶髪にヘアバンドをつけた男と、黒髪を真ん中分けであり、耳覆うくらいのボリュームに堀の深い顔が特徴的な男が一合重ねるごとに鬼気を飛び散っていた。
茶髪の男は呉鉤と呼ばれる中華由来の幅広片刃の曲刀を使っており、自らの体重と腕のしなりを利用して相手に攻撃を加え、また剣撃だけでなく、体術も組み合わせて攻撃していた。
一方黒髪の男は長柄の先端が、木造の刀の形をしおり、薙刀よりも大きい鉤鎌刀を使っている。
宗は二人の熱気を気にせず、その二人を見ている小柄でひ弱そうな青年へと近づく。ひ弱そうな男は立ち上がり、宗に一礼する。
「二人共、気合が入っているね。いい打ち合いだ」
「はい。亜門くんも甘利先輩に負けていません」
「なるほど、これは楽しみだな」
「決勝リーグまでには間に合いますよ。ところで、そちらの二人は?」
「お、そうだった」
宗はひ弱そうな青年に朝子と葉を紹介する。宗は朝子たちにひ弱そうな青年を二年生の魯虎鷹と紹介した。
「なるほど、敵情視察というわけですか。周藤さんが居なくて良かった」
その声が聞こえたのか、黒髪の男が手を緩めた。茶髪の男は同じように強さで剣撃を放っていたため、黒髪の男が持つ鉤鎌刀を簡単に弾き飛ばしていた。
「おい、亜門! 何やってる。集中しろ!」
「す、すみません」
亜門はすぐに鉤鎌刀を取りに行くも、その意識は朝子たちに向けられていた。甘利は首をかしげ、亜門の意識する方向を見る。
「そうか。周藤くんは居ないのか。それは残念だ」
「周藤さんが居たら、先生を文句言われたんじゃないですか?」
「周藤くんはそんなこと言わないだろう」
魯は笑みを浮かべた。
「まあいいでしょう。それで何が知りたいのですか。話せることは私が話しましょう。その方が周藤さんもそんなに怒らないでしょう」
「すまないな。魯くん」
「ちょっと待ってください!」
その声の主を見るとさっきまで戦っていた黒髪の男、亜門だった。
「どうして、敵に情報を与えるんですか?」
「何を言っている。同じ学校の生徒じゃないか」
宗の返答に亜門は眉間にしわ寄せ、魯と甘利は笑っていた。
「学戦リーグはチーム戦です。学校は関係ないじゃないですか。そいつらは敵です」
「そんな悲しいことを言うんじゃない、亜門くん。彼女たちは君と同じくこの学校の未来を担う存在だ。情報交換は必要じゃないか?」
宗から見える白い歯の輝きは、この男の心を表しているのかと葉は考える。
「そいつらは裏切り者です! 藤先生と同じく、あのサングラスの先生の尖兵です」
「亜門くん。藤先生はとってもいい先生だ。それに伏見先生はそんなことをする人じゃない。彼はこの島の生徒のことを誰よりも考えている先生だ」
伏見のことだけは朝子の中で納得できなかった。
「亜門、お前の負けだ。宗師傅はそんな小さことを考えてるんじゃない」
甘利が亜門の肩に手を置く。
「亜門くんの言うことは分かるよ。でも、先生はさっき情報交換と言ったんだ。僕らだけ情報を与えるわけじゃないよ」
「さすが、魯くん。名軍師だな」
「僕が軍師だなんて……。世に連なる軍師に申し訳ない」
宗と魯は互いに笑っていた。
「それで君たちは僕らの何を知りたいんだい?」
「別に……」
「朝子!」
魯は笑っていた。
「聞いていた通りのようだ。無愛想、傍若無人、傲慢、自己中心的」
「ちょっと――」
葉が魯の食ってかかろうとしたが、宗に止められた。
「でも、君は特定の人間だけには温厚篤実、和顔愛語といったような人間だ。この学校では藤先生と森田さんだけにはその一面を見せてくれる。本当の君は一体どんな顔をしているのかな?」
朝子は魯を睨む。
「お前!」
亜門が朝子に近づこうとするのを甘利が止めた。
「私、あんたみたいな人は嫌い。そうやって、人間を丸め込んでいるんでしょう? つまらない奴」
魯から自嘲するような笑いがこぼれる。
「申し訳ない。でも、僕は君がなにかに怖がっているようにしか見えないんだ。今の君はとてもつらく見える。周藤さんに君を推薦しなかったのは、君には争いごとを似合わないと思ったからだ」
「なにそれ、何様のつもり?」
「そうだね……」
魯の苦笑いに朝子は苛立ちを覚えた。
「さて、話を戻そう。僕らの情報は本予選リーグに進めばいずれ分かることだ。君たちのこともね。僕らが与えられる情報はそこに居る亜門くんだ。彼は今は控え選手だが、決勝リーグまでは僕より強くなる。だから、彼と一本勝負をしよう」
「それ、別にしなくてもいいんじゃないの? あんたたちになんのメリットがあるの?」
「そうだね。その勝負で亜門くんが勝ったら、君が生徒会に入るのはどうかな?」
「はあ?」
「僕は今年、生徒会長に立候補する。君は僕のもとで働いてもらうんだ」
「さっき言ってることと違うんだけど。大体――」
「受けろ、下級生!」
亜門から凄まじい闘気が溢れていた。
「虎鷹を馬鹿にする奴は俺が叩きのめしてやる」
「亜門くん」
「お前は黙ってろ、虎鷹。さっきから舐めた態度を取りやがって。お前には教育が必要だ!」
鉤鎌刀を朝子に向ける。
「宗先生……」
葉は宗に見て、助けを求めるが、宗は楽しそうな笑顔でいた。
「よし、分かった。戦いで解決するというのは本来好ましくないが、これはこの学校のためでもあり、君たちの青春でもある。僕が立会人を努めようではないか! 氷見くん、君はこの勝負受けなさい」
朝子は言っても無駄だと悟り、鉄鞭を抜く。
「朝子!」
「勝てばいいんでしょう?」
葉は朝子を止められないと分かり、それ以上は口出ししなかった。
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