第十話 チームの名は…… 其の二
十四時半頃に忠陽たちは第一視聴覚室に移動する。その時に大地からも電話が掛かってきたため、忠陽は鞘夏と由美子を先に向かわせ、自分は大地の出迎えに行く。
学校の外来入り口の前には大地と典子が居た。もしかすると、思っていたが典子は付いてきたようだ。
「やっほー」
「おう」
「来てくれてありがとう」
「大ちゃん、まっすぐ行くか分かんないから付いてきちゃった」
「おい、俺はガキじゃねぇぞ」
「ホントかな? 何か悪いこと企んでじゃないの?」
「だから、ちげーって言ってんだろう!」
その言葉から忠陽は察した。
「高畑さん、電話の件は神宮さんへのお礼だよ。本当は一昨日に携帯ショップに行こうって言ってたんだけど、結局勉強会が長引いて行けなくて。そのお礼で大地くんの知り合いの携帯ショップに連れて行こうって」
「だから、言ってんだろう……」
それでも典子は忠陽でさえも疑いの目を向けている。
「ボン、こんなやつほっといて行こうぜ」
大地のそっけない態度に典子は頬を膨らませる。
三人で第一視聴覚室に向かうと、もう藤や朝子もおり、忠陽と大地を待っている状態だった。
視聴覚室は階段状の席配置になっている。四人座れる机の幅が一列に三席あり、それが七段あった。教壇には伏見がおり、部屋の奥にある窓側の一列目に由美子と鞘夏がおり、入口の近くの二段目の席に藤と朝子が座っていた。
典子が顔を覗かせるなり、朝子はギラッとした顔で典子は睨みつけていた。典子はヘビに睨まれたカエルのように硬直し、愛想笑いをしながら部屋から出ようとするも、大地に手を捕まれた。
「グラサン先生。コイツ、俺をここまで送るために着いてきちゃったからさ。参加させてもいいか?」
「は?」
朝子に眉間にシワが寄る。
「お嬢、硬いこと言うなよ。大会でも人が多ければサポート役になるだろう?」
「それはええな。僕は別にかまへんで。藤くんはどうや?」
「私は構いませんよ」
「由美子くんもかまへんか?」
由美子は席を立ち上がった
「典子さん、お手伝い頂けますか?」
そう言って、頭を下げる由美子に典子は戸惑った。しかし、すぐに大地の掴む手が強くなるのに気づき、典子はその手をゆっくり話して全員に向けてお礼を述べる。
「ちょっと……」
「ええやないの。人が多いほうが楽しくなるやろ?」
「あんたが言うと、ややこしくなるようにしか聞こえないんだけど」
朝子のボヤキに一同笑っていた。
忠陽は鞘夏の隣に座り、大地と典子は真ん中の三段目付近に座った。
「ほな、始めるか。まずは学戦トーナメントに登録するメンバーやけど、由美子くん、忠陽くん、朝子くんに、宮袋くんの四人や」
鞘夏の名前が呼ばれなかったことに呼ばれた四人は声を上げる。
「ちょっと、待ちなさいよ。なんで鞘夏が抜けているのよ!」
由美子は席から立ち上がっていた。それを鞘夏は諌めるように由美子の手を掴む。
「まちいや。これは本人の希望や」
由美子は鞘夏を見ると、鞘夏は頷く。
「鞘夏さん、本当にそれでいいの?」
「はい」
忠陽の問に鞘夏はしっかりと答えた。
「まあ、と言うても不足の事態は起こる可能性がある。やから、鞘夏くんには予備メンバーとしては登録させてもらうで。もし、由美子くんたちがなにかの原因で出れへんときに不戦敗になるは避けたいからな」
「構いません」
「姫さんが出ないってことはねえだろうよ」
「当たり前よ。むしろ、あなたの方が遅刻して欠場は有りえそうね」
「なんだと!」
大地は席を立ち上がる。そんな大地を典子は落ち着かせる。
「はは。言えてる……」
大地は朝子の物言いに苛立ちを覚えたのか、口が勝手に動いていた。
「お前だって、麟くんがいないの、とか言って試合でなさそうじゃねえか!」
「麟くんは関係ないでしょう!」
朝子も席を立ち上がっていた。
「み、みんな、仲良くしようよ……」
忠陽はぼそっと言った。
「こら、全員席に座りなさい!」
藤の叱責に三人は渋々席に座る。
「仲がええのはええけど、話が進まんで」
伏見のボヤキに三人は体を震わせる。藤が抑えろというジェスチャーを三人に送っていた。
「メンバーのリーダーは由美子くんで行く。副リーダーは…………。そうやな、鞘夏くんで行こうか」
「え? なんでその子が副リーダーなのよ」
「消去法や」
「は?」
朝子は聞き返す。
「いや、君や宮袋くんだったら方針で絶対喧嘩するやろ? 忠陽くんは僕の指示で色々と動いてもらう予定やし。そうなったら、仲がええ鞘夏くんやろ」
大地と朝子は妙に納得できる答えだった。
「それよりもよ、グラサン先生はボンに何をやらせようとしてるんだよ?」
「そうですよ、伏見先生。…………まさか、賀茂くんを使って他の選手に潰すんじゃ――」
「妄想は放っといて――」
藤はムッとし顔になる。
「忠陽くんには隠形を使って、他のチーム、選手の情報を探ってもらう」
その答えに大地と朝子は声を出して納得する。
「そして、その情報を藤くんにデータ化してもらうちゅうわけや」
藤は頷いていたが、すぐに気づく。
「伏見先生は何するんですか?」
「僕? 僕は何もせいへんで」
「はああぁぁ?」
「落ち着けいや。何もせいへんというよりも、何もできへんのや。大会運営委員から数名の先生は試合中に助言を与える立場は禁止されてる。そんな人間が情報をまとめても本場に助言を言えなかったら意味がない。やから、今回チームの担当教諭は藤くんにする」
「わ、私が!」
「そうや。担当教諭は試合中に助言を与えるのはルール上ありや。これは教員の育成も兼ねているらしい。僕ができへん以上、このチームを知ってるのは君しかおれへんやろう」
藤は戸惑っていた。
「いいじゃん。藤ちゃんで。そこの男より数十倍もいいわ」
朝子が言った。
「私も賛成です」
由美子も賛同していた。
「じゃあ、そういうことでよろしゅう」
「ふ、伏見先生……」
伏見は藤の戸惑いを無視しながら、次の話に移っていた。
「ほんで、今日のメインはこのチームの名前や。何にする?」
「雑……」
大地は頭に両手を置きながら、背もたれに体重を掛け、寛ぎ始めた。
朝子や由美子、忠陽は視線が泳ぎ、周りを見ている。
「なんや、この名前がいいというないんか? ないんなら、伏見先生の下僕達にしとくわ」
「絶対イヤ!」
「はあ? 巫山戯ないでよ!」
由美子も朝子もすぐに反応した。
「ほな、なにがええんや?」
「大地様と愉快な仲間たちってのはどうだ?」
「却下よ」
「頭でもわいてんの?」
由美子と朝子の言葉に大地の顔は歪む。
「二人共、大地くんはわざと言ってくれてるんだから」
とっさに忠陽は言っていた。
「でも、センスがなさすぎよ。四字熟語とかのほうが数倍いいわ」
「じゃあ、お姫様だったら何がいいのよ? 言ってご覧なさい」
「考え中よ。そういうあなたもなにかあるの?」
典子は大地の袖を引っ張った。大地はそれに気づき、典子の顔を見ると話したそうにしているため、典子の顔に耳を近づける。
「ねえねえ、なんでこんなにギスギスしてるの?」
「いつものことだよ」
「でも、チームでしょ? 纏まった方がいいと思うんだけど……」
大地は考える。
「賀茂くんも大変だね……」
「なんで、ボンが大変なんだよ」
「だって、今日は初めて見ても賀茂くんだけが私の話を聞いてくれそうだもん。大ちゃん達、賀茂くんに無理なこと言ってない?」
「いや……」
「ほら、なにか言ってるんでしょう」
「俺じゃねえよ。作戦を立てるのは姫さんだよ。そっちのほうが結構無理なことを頼んでるぜ?」
話がまとまらないため、それぞれチーム名を書くことにした。大地は乗る気がないため書かなかったが、他の四人はそれぞれ紙に書いて、藤に渡し、藤はホワイトボードに名称を書いていった。
布都御魂、五芒星、八咫烏、第四小隊と出ていた。
「布なんちゃらってなんて読むんだ?」
大地は困った顔をしていた。
「フツノミタマよ、知らないの?」
「いや、知らねえよ」
由美子の押し付けに大地は呆れながら言っていた。
「あのなんとか鳥ってのは?」
「ヤタガラスだよ」
「なんか、ボンのは厨二病っぽくていいな。第四小隊ってありきたいじゃねえか?」
「悪いわね、考えつかなかったのよ」
朝子は鼻を鳴らしながら、そっぽを向く。
「で、五芒星は俺でも呼べるぜ。でも、五芒星って地味だよな……」
「あんた、さっきから文句しか言ってないじゃない」
朝子は大地を睨む。
「おれはさっき文句を言われただろう? お相子だよ、お相子」
「はい、ハーイ!」
「えっと……高畑くんだっけ?」
「はい、そうです。五芒星っていうのをファイブスターって呼ぶのはどうかな?」
「ファイブスター?」
由美子が首を傾げる。
「そう! ほら、みんな一年生じゃん? だから、五人の新星っていう意味でもいいじゃないかなって? 本来の五芒星って意味とは違うかもしれないけど」
典子の天真爛漫な笑顔に由美子も朝子も黙った。
「この名前って誰の案かな?」
由美子たちは鞘夏を見る。鞘夏は黙ったままだった。
「鞘夏、どうなの?」
「私は……」
「五芒星は、陰陽道で五行相剋の働きを表したものであり、魔除けの呪符としても用いられるもんや。分かりやすいのは清明九字や。今でもその伊勢のあたりでは水難事故防止のために海女の服には清明九字や九字切り印、いわゆる格子状の印をつけて、魔除けとすることがある」
忠陽はそのことを聞いて、顔が綻ぶとともに、内心では自分を恥じていた。
「私、この五芒星でいいわ」
鞘夏は由美子の言葉に驚く。
「あなた達はどうなの?」
「おれは別に構わないぜ? お嬢はどうなんだよ?」
「別に、反対する理由はないわ」
朝子はぶっきらぼうに言う。
「僕も賛成するよ」
「でも鞘夏、呼び方はファイブスターでもいいかしら?」
「えっ?」
典子は由美子の発言に戸惑う。
「五人の新星っていうのもいいでしょう?」
由美子は笑顔で言っていたが、その顔は幼さを残していた。
「はい。構いません」
「あなた達は?」
忠陽たちは異論がないということで、名前は五芒星ということで決定した。
「ほな、君らはこれから五芒星や。じゃあ、解散」
伏見はそう言うと、部屋から出ていった。
それぞれ動き出す中、忠陽は大地に声を掛ける。
「おう、そうだった。姫さん、ちょっといいか?」
「なに? 賀茂くんから時間を開けてくれて聞いてるけど……」
由美子は警戒をしながら答えていた。
「あのさ、これから携帯ショップに行こうぜ。あんたの携帯古いだろ? だから、携帯選びにちょうどいい店があるから紹介するぜ」
由美子は驚いた顔をしていた。
「なんだよ。俺が親切にしたらおかしいのかよ」
「そうじゃないけど……。急にそういう言われてもどんなすればいいかわからないわよ。それに携帯って私一人で変えられるの?」
「変えるのは親が必要だろう……。まあ、気に入った携帯があるかを見ればいいじゃん」
由美子は考える。
「どうかな? 神宮さん。機種変更は漆戸さんともお話して、今日は携帯を選ぶだけでも。これからグループチャットも必要になると思うし、鞘夏さんにも見てもらいたいから」
由美子は息を吐き、頷く。
「分かったわ。変なお店だったら、私帰るわよ」
「携帯ショップにいかがわしいも何もあるか!」
といつつも、大地は黙る。その妙な間に忠陽は不安を覚える。
「大ちゃん、どこ行くのよ?」
「ほら、玉嗣たちの店だよ」
「あー! 私の携帯を選んだ店?」
大地は頷く。
「いかがわしい店じゃないよ。ただ…………」
「ただ?」
忠陽は聞き返す。
「ちょっとクセが強い店かな」
典子が苦笑いしていたのを見て、由美子は一段と不安になった。
「ちょうどいいわ。氷見さんも一緒に行きなさい」
「はあ!?」
「なによ、チームでしょう? 学校が違うんだから、こういうときは一緒に行動しなさい」
「え、でも、今日はー!」
「何かあるの?」
忠陽と大地の頭に浮かんだのは麟太郎のことだった。
朝子は悔しそうに大地を睨む。
「そんなに睨むなよ。嫌ならいいんだぜ。俺は勉強会のお礼だからさ」
「駄目よ。皆で交流を深める。これも大事なチーム作りよ!」
忠陽たちは藤の圧力に押されていた。




