第十話 チームの名は…… 其の一
三
九月一日。暦では秋というのに、日は高く、地面からの照り返しが強かった。海も近いせいか、潮の香りとともに湿気が体にベタつく。運動の秋、読書の秋、食べ物の秋と言われるが、この人工島において言えるのは読書の秋かもしれない。
終礼のチャイムが鳴ると、忠陽と鞘夏、由美子はすぐに校内放送で伏見から呼び出された。
職員室に向かうと、伏見が忠陽に手を振り、呼んでいた。
「昼ご飯はどうする?」
伏見は出前の注文表を忠陽と鞘夏に渡した。
「それとも一回家に帰るか?」
「これ、どういうつもり?」
由美子はその対応に訝しんだ。
「なんや、姫はいらへんのか? せっかく夏休みに手伝うてくれたからご馳走してやんのに」
「あなたたちが人にご馳走するなんて、裏があるに決まってるでしょ!?」
「姫は要らんようやな。忠陽くんはどうする? 僕のオススメは天重か、カツ丼セットやな。うどんはこの時期冷たいほうがええで」
「えっと……」
忠陽の食いつきに由美子は肩落とす。
「賀茂君!!」
職員室で由美子の大きな声が響くと、視線が一斉に集まる。
由美子はそれに気づき、咳払いをし、自分を落ち着かせる。
「先生、僕はオススメの天重で」
「姫は本当にいらんのか? 食堂は開いてへんぞ。それとも一旦帰るか?」
由美子は忠陽を見て訴えかけるも、忠陽は笑みを浮かべて、注文表を差し出す。
由美子は悔しそうにメニューを取り、見る。
「鞘夏くんは何する?」
鞘夏は忠陽を見ると、忠陽はその視線に気づき、ただ頷くだけだった。
「箱そばというものでお願いします」
「お目が高いな。それはその店の一番人気や」
由美子はそれを聞き、すぐに同じものを頼んだ。
「出前は食堂に届けるさかい、食堂で待っとき」
「先生は一緒に食べないんですか?」
「ああ、僕か? 机見てもらえば分かるように先生らしい仕事せなあかんから無理や。誘ってくれてありがとうな」
忠陽は伏見の机を見ると、書類が沢山あり、お世辞にもきれいとは言えない状況だった。
三人は食堂で待っていると、三十分後ぐらいにハーフヘルメット、白の調理服に藍色の前掛け、銀色のおかもち持った二十代ぐらいの男が現れた。
由美子はその姿を珍しそうにまじまじと見ていた。
「出前……」
男は無愛想に言うと、忠陽は立ち上がり、男に近づく。
「どこに……」
「ここで大丈夫ですよ」
男はおかもちをテーブルに置き、蓋を上に引き、棚にある品物を出した。どれも箱になっており、男がどれが何かをぼっそと言う。忠陽はそれを聞いて、箱そばと言ったものを鞘夏と由美子に渡す。
箱そばの蓋を開けると、箱の中は蕎麦と蕎麦猪口、薬味で仕切られており、蕎麦猪口にはつゆが漏れないようにラップに包んでいた。
男は品物がそれぞれに行き渡るのを確認すると、毎度と呟く。
「あ、あの! 食べ終わったら、箱はどうするんですか?」
忠陽の指摘に男は気づき、一度考える。
「職員室に置いてくれ。他のものと一緒に取りに行く」
そういうと男はすぐに帰ってしまった。
忠陽たちはあっけに取られていたが、すぐに我に帰り、昼食を食べることにした。
昼食が終わり、忠陽は重箱を職員室の伏見のところへ訪れた。伏見はその重箱を受取、隣の机に置いた。
「先生、いいんですか?」
「いいよ。今日はおらへんし。あ、そうそう。十四時半頃に藤くんが朝子くんを連れてくるらしい。宮袋くんの方は連絡つかへん。君のほうから連絡を取ってくれへんか?」
「分かりました。大地くんが来たら、どこに案内すればいいですか?」
「第一視聴覚室でええよ。そんな時間も取らへんし。空いてるやろ」
大雑把というか、傍若無人というか、伏見のこういう態度は先生達の間ではどう思われているのだろうかと忠陽は考える。
「頼むで」
伏見はそう言うと、すぐに終わりそうにない机の書類に再び手をかけていた。
忠陽は職員室を出ると、すぐに大地に電話してみた。すると、呼び鈴はなるものの、一向に出なかった。忠陽はこういうときのために、典子と連絡先の交換をしていたため、すぐに典子に電話した。
典子は呼び鈴が三回鳴ったくらいで電話に出た。
「もしもし、高畑ですけど」
「こんにちは、賀茂です」
「あ! 賀茂くん! 誰かなと思ったよ」
忠陽は連絡先を登録されていないのかとすこし落ち込む。
「ごめんね。どうしたの?」
「大地くんと連絡つかないけど、一緒にいる?」
「ううん。大ちゃん、今日、学校に来るの遅かったから。もうそろそろ、うちに来るんじゃないかなと思うけど」
「もし、来たら大地くんに翼志館に来るように伝えてくれない?」
「うん、いいよ。なんなら、私が捕まえてそっちに連れて行くよ?」
「そうしてくれると助かるよ」
「オッケー! 翼志館に着いたら、この電話に連絡すればいい?」
「うん、この番号にお願いします」
「はいはーい。大地を捕まえてきまうす」
「お願いしまうす」
二人は笑いながら電話を切った。その後すぐに大地から電話がかかってきた。
「ボン、どうした?」
「あ、今日の集合の件だけど――」
「さっき、グラサン先生とも話した。そっちには十五時だろ。心配すんなよ」
電話の外から典子の声が聞こえる。
「おい、なんだよ……」
典子は大地に詰め寄っているようで、その声が遠いが聞こえている。
「わかってるよ。てか、今、ボンと話してんだよ」
典子は大地を疑っているようで、更に詰めていた。
「いや、本当だって。今スピーカーにするから待ってろよ」
大地がボタンを押す操作音が耳に伝わる。
「もしもーし、賀茂くん、大ちゃん捕まえたから、すぐに連れて行くよ?」
「十五時からだって、今十三時だろ?」
「そういって、大ちゃん遅刻するでしょ? 早めに行ったほうがいいんだよ。今からそっちに行っても大丈夫?」
「うん、大丈夫だよ。校門まで来たら、また電話してくれれば向かいに行くから」
「おい、ボン、てめえ」
「藤先生は十四時半ごろ着くらしいから早めにできるなら、それでもいいかなって」
「早めに? まあ、それだったら店に早めに行けるな……」
「神宮さんにも迷惑かからないと思うよ」
「……分かった。今からそっちに行く」
「ありがとう。じゃあ、また後で」
「うん、じゃあな」
典子が大地にまた詰め寄る言葉を発していたが、そこでブツっと切れてしまった。
忠陽は大地が典子へ真剣に説明する姿を想像すると、少し笑えてくる。その気分で食堂へと戻っていた。




