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呪賦ナイル YA  作者: 城山古城


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第十話 知り合いが多いファミレス

 中央街にあるファミレス、ジョイマックス中央店。


 価格が手頃な価格帯であり、学生たちでも楽しめる場所である。休日には学生たちの屯場(たむろば)にもなっており、夜の九時までは客層の年齢が低くなる。しかし、夏休み時は帰省する人間も多いため、この店にとって閑散期となってしまうのだ。


 八月二十八日、時計の針は午後七時を回る。忠陽たちが店に着いた時、順番待ちはなく、すぐに席に通されると、ちょうど隣の席に見知った男女が居た。


 忠陽は宮袋大地と高畑典子と目があった瞬間に言葉が漏れる。


 大地は金髪パーマでいつもの赤いティーシャツに黒いズボンといかにも不良姿であり、典子は白いティーシャツに青いジーンズ姿とさっぱりした服装だった。


 大地は口に運ぼうとしていたハンバーグを止め、典子はストロー加えた状態で止まった。


「ボ、ボ、ボン! なんだよ、こんなとこで奇遇だな」


「そうだね。合宿の疲れで外食にしようってなって……」


「そりゃそうなるわな……」


 大地は青いワンピース姿の鞘夏を見て、言った。


 鞘夏は二人に会釈をする。


「二人は……」


 忠陽は大地と典子を交互に見る。大地は視線を外したため、典子がため息をつきながら答えた。


「……大ちゃん、私との約束をすっぽかしたから、その埋め合わせの帰り」


「しょうがねえだろ……急に合宿って話になったんだから」


「でも、約束したし!」


 典子はむくれていた。


「ボン、突っ立っていないで、座れよ」


「そうだね」


 忠陽と鞘夏は大地たちの隣の席に座る。


「お! あんた、そういう服も持ってるんだな」


 大地は鞘夏の水色の花柄のワンピースを見て言った。


「は、はい…」


 そのワンピースは夏休みに由美子たちとのおでかけの時に買った服だった。


「似合ってんじゃぁねえか」


 大地は屈託のない笑顔を向ける。ただ、鞘夏はどう反応していいか、困っていた。


「そういうときは、ありがとうでいいんじゃないかな」


 忠陽は鞘夏に笑って見せた。


「あ、ありがとうございます」


「大ちゃんが人を褒めるなんて珍しい。私には褒めないくせに」


「なんだよ、何むくれんでだよ。大体、いつも一緒にいるのに褒めるもクソもねえだろ……」


「そうかな?」


「そうなんですか?」


 典子と鞘夏は一緒に大地に問い詰めていた。


「な、なんだよ。二人して……」


 鞘夏は我に戻り、一歩引いた。


「女の子はね、綺麗だね、かわいいねって褒めてほしいの。それだけで嬉しいんだよ」


「はいはい、わるぅーございました。のりちゃんはかわいい、かわいい」


「ねえ、賀茂くん! こういう男をどう思う?」


 忠陽は典子の問に苦笑いした。


「どうかな……。もう少し気持ちを込めればいいじゃないかな……」


「ボン、てめえ、裏切ったな……」


「どっちも一緒だよ。ねぇ、真堂さん?」


 鞘夏は典子の同調圧力に戸惑っていた。


「そういや、典子。明日、お前んちで勉強会していいか?」


「えっ? なにそれ? 合宿にいって考え方まで矯正されてきたの?」


「ちげーよ。学戦トーナメントの話をしたろ?」


 典子は頷く。


「よく分からないけど、大地が好きそうな喧嘩の大会でしょう?」


 忠陽たちは肩透かしを喰らう。


 忠陽は典子に学戦トーナメントを説明した。


 学戦トーナメントとは、今年から新たに始まる学校間呪術戦対抗試合をより少人数にし、個人の能力にスポットを当てる大会である。チーム戦であり、一チーム最大四人で出場することができる。ただし、チームの登録は最大六人であり、対戦前であれば出場者の入れ替えは可能である。トーナメントには生徒の安全のため、呪防壁を自動で展開する呪具を装着する。その呪具が二回発動すると戦闘不能と判断し、呪防壁を貼り続けたままその選手を行動不能とする。


「それと、うちで勉強会がするのとなんの関係があるの?」


 典子は大地をじっとした目で見ていた。


「学戦トーナメントに出るには最低限夏休みの宿題を終わらせておかないといけないんだ」


 忠陽の弁明で典子は態度を少し和らげた。


「だったら、うちじゃなくてもいいじゃない……」


「このファミレスにしようぜって言ったんだけどよ、ボンが迷惑だって言うからよ」


「確かにそれは迷惑だよ」


「そしたら、グラサン先生がおっちゃんの家はどうかって……」


「グラサン先生って、呪捜局であった賀茂くんたちの先生?」


「そっ」


 典子は苦虫を噛んだ顔をする。


「高畑さんにご迷惑をかけるなら他のところを探します」


 忠陽はすぐに答えていた。


「いいんだよ、たまにしか人来ねえんだし」


 典子は大地の頭をすぐに叩いていた。


「勝手に決めるな!」


「いいだろ、別に……」


 忠陽の視線に気づいた典子は身振り手振りで忠陽に怒ってないことを示していた。


「迷惑だなんて思ってないよ、全然。大ちゃんが宿題をやってないのはいつものことだし。夏休みの終わりの二日前はいつも大地と二人で夏休みの宿題を終わらせるのが恒例だから」


「でも……」


「今日、私からお父さんに話してみるよ」


「そうして貰えると助かります……」


「そんな堅苦しいこと言うなよ。折角、この俺が真面目に勉強しようと思ってるんだしよ」


「どうせ、全部見せてって泣きつくんでしょう?」


「う、うるせぃ!」


 二人のやり取りに忠陽が笑っていると、入り口の方から聞き覚えのある声が聞こえてきた。


「ねえ、麟くん、今日はお姉ちゃんがなんでも奢るよ〜。何が食べたいぃ?」


「朝姉、引っ付かないでよ。暑苦しい……」


「だってだって、麟くんと会えなくて寂しかったんだよ……。いいじゃん、甘えさせてくれたって」


「しょうがないじゃん。合宿だったんでしょう?」


「お姉ちゃんね、本当は行きたくなかったんだよ。本当だよ。信じてよー」


「分かってるよ。くっつくのとそれは別でしょ?」


「麟くんニウムが必要なのです」


 そんな二人の声が聞こえながら、店員の先導により忠陽たちの席を通過する。


 その瞬間、大地は飲んでいたメロンソーダを吐き出した。


「ちょっと、大ちゃん、汚い!」


 相手はそのスラッとした綺麗な足を止めてしまい、ワナワナと体を震わせる。


 忠陽は知らないふりをし、視線を合わせようとしなかった。


 鞘夏は短髪の女の子をじっと見つめていた。


「お客様、どうかされましたか?」


「あ、いえ……」


「どうしたの、朝姉? 早く行こうよ」


「そ、そ、そーだねぇ。早く行こう……」


 ドットブラウスにジーンズスカートの私服姿の氷見朝子は作り笑いをしながら、店員の指示に従い、奥の席へと向かう。


 朝子が奥に消えると、忠陽と大地は顔を見合わせる。


「お、おい……」


「そうだね……」


「あれが麟くんか……中学生くらいか?」


「そうだね……」


「それにしてもスゲー猫なで声だったな……。ブラコンとは分かっちゃいたが、ありゃ病的だぞ……」


「知り合い?」


 典子が忠陽に聞く。


「え、あ、うん。氷見さん。合宿メンバーの一人」


「じゃあ、明日来るの?」


 忠陽は首を横に振る。


「ちょっと用事があって、多分来れないよ」


 典子はふーんと答えていた。


「用事てのが、あの麟くんだろ? どんだけブラコンなんだよ……」


「大地、その言い方はひどいよ」


「いいんだよ、言えるときに言っとかないと、あっちから罵詈雑言が飛んでくるんだから」


 大地がそういうと、足音が聞こえきた。


「ほら、来た」


 朝子は大地たちの席で止まり、大地を睨む。


「なんでいんのよ?」


「ちょっと――」


 典子がその言い方にカンチと来たのか、言い返そうとしたが、大地が遮っていた。


「しょうがねえだろ。同じ島にいんだからよ」


「だからって、今日、この場所にいなくてもいいじゃない!」


「そりゃ、悪ぅございましたぁ! っていいのかよ、そんな顔を見せて、リンくんが驚いちゃうぞ〜」


「馬鹿にすんな!」


「大声出すなよ、他の客に迷惑だぞ」


 大地はストローを加えた。


「残念でした。あんたらが見えないように奥の席にいますぅ! 会話だって聞こえませんー!」


「そりゃ、良かったな。だったら、俺らに構う必要ねえだろ。後はそっちで楽しくやってろ! 邪魔なんかしねぇよ」


「本当でしょうね」


「当たり前だろ。てめぇの猫なで声なんか聞きたくねえよ」


「大地!」


 典子が大地を怒る。大地は我関せずだった。


 朝子は忠陽に視線を向けた。


「ぼ、僕たちはご飯食べに来たら、偶然大地くんと出会っただけだから。ご飯を食べたら、すぐに帰るよ……」


 朝子は自分の手を強く握る。その後、鞘夏を見て、すぐに奥の席に戻っていった。


「ったく、なんであんなになるんだか」


 大地はため息をつく。


「…………わけじゃないよ」


 典子は呟いた。


「はぁ? なんて言った?」


 大地が聞き返す。


「別に何でもないよ」


 典子は笑顔で答えた。大地はその顔を見て、頭を掻く。

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