第十話 懐かしき膝の上
一
忠陽と鞘夏は家に帰宅するなり、葛城良子の地獄の訓練から開放された安堵からその場にへたりこんでしまった。
互いに情けない顔を見て、笑うしかなかった。
お互いが笑い終えたあと、忠陽は鞘夏に今日はファミレスにしようと言った。
鞘夏は少し間を開けて、笑顔で答えた。
忠陽は数分その場に数分座り、鞘夏と他愛のない会話をした。会話している中で、忠陽は地獄の訓練前はあんなにも意識していたのに、普段通りに戻っていることに気づく。それが嬉しくもあり、寂しくもあった。
「ファミレスは近くにはないよね……」
「この辺りであれば歩いて二、三十分でしょうか。子供連れも多いため、私たち二人であれば他のお店に行くほうが良いかもしれません」
「なら、あのファミレスにいかない?」
「あの、というと……」
「この島に来たときのファミレスだよ」
鞘夏は少し考えていたが、小さく頷いた。
二人は互いに自室に戻り、普段着に着替えるようにした。その際、忠陽は鞘夏に給仕服ではないように念押しした。そうしなければ、ファミレスに行くのにも給仕服か制服を着てきそうだった。
先に忠陽がリビングに入ると、まだ鞘夏は居なかった。鞘夏が出てくるまで間が忠陽は不安で仕方なく、気を紛らわせるためにリビングのテレビをリモコンで起動させた。
テレビは全国放送の夕方のニュースをやっている。それを鏡華の特等席である長い幅のソファーに座りながら見ていた。
内容はまったく入ってこず、忠陽はウトリウトリとし始め、人間をダメにする鏡華専用ソファーで寝てしまった。
忠陽が目覚めたのは、辺りが暗くなっていたおり、テレビのチラつく光でゆっくりと目を覚ます。
忠陽は意識が判然しない中、頬にソファーとは違う感触がすることに気づいた。朧な気分で見上げると、鞘夏の顔が見えた。鞘夏の顔は少し恥ずかし気な顔をしていた。
忠陽は見上げたときの後頭部を包み込む感触を理解し始める。自分の頭は彼女の太ももの上にある。
「お、お目覚めですか?」
「う、うん……」
二人は見つめ合う。ただ、それは仲睦まじくではなく、硬直していただけだった。
「さ、鞘夏さん……その……」
「あの!」
「はいっ」
「もう少しこのままでもお願いします……」
「えーとっ……」
鞘夏は顔を上げ、表情を隠すようにしていたが、忠陽には顔が紅くなるのが分かった。
「いいよ」
「えっ!?」
鞘夏は忠陽を見る。
「あと十分だけ」
「はい!!」
忠陽は顔をテレビへと向ける。テレビは天気予報をしていた。明日は晴れらしい。
忠陽は目を閉じる。こうやって膝枕をされるのは心地良かった。何よりも心穏やかに包まれる気分である。鞘夏から仄かにいい匂いがする。それも何だか懐かしい……。
「あの……」
忠陽はゆっくりと目を開ける。
鞘夏から何も言葉が出なかった。忠陽は頭を鞘夏の顔が見れるように寝返りをうつと、鞘夏の顔は紅潮していた。
「あの……」
忠陽は不思議と落ち着いていた。
「鞘夏さん、落ち着いて」
鞘夏は頷く。
普段はこんな距離で見ることもない鞘夏の顔を見て、忠陽はやっぱり綺麗だと思っていた。
鞘夏が唾を飲み込むのが分かった。
「二人だけのとき………」
鞘夏は口をパクパクとさせ、震えていた。
「陽くん……って呼んでも……よろしい……でしょうか?」
忠陽は精一杯伝えようとしている鞘夏を見て、可愛らしく思った。
「うん。いいよ」
鞘夏は顔を転ばせながら喜んだ。その笑顔は忠陽の心を和ませる。
「わたしのことは……鞘夏って呼んで……ください……」
そこに居たのは主従でなく、一人の女の子だった。
「分かった」
鞘夏は安堵していた。
「僕からもお願いがあるんだ」
「なん、でしょうか?」
「二人だけのときは敬語を使わないでほしい」
鞘夏は二回頷く。
「それと、陽でも構わないよ」
「ううん。わたしは陽くんがいいの」
忠陽は何故か笑みがこぼれた。
その時、鞘夏のお腹の音が小さい音で鳴るのを聞こえた。
鞘夏な顔はより一層紅みを増す。
忠陽は屈託のない笑顔で笑った。
「僕もお腹空いたよ。そろそろ行こうか?」
鞘夏は頷いた。
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