第九話 我が家へ 其の二
天谷空港に着くと、到着ロビーで預け荷物を受け取り、一旦集合した。
「ほなら、みんなお疲れさん。あとは自由行動や。残り少ない夏休みを楽しみいや」
「あんたのせいで、あと三日しかないじゃない!」
「三日もあれば十分や。英気を養える」
朝子は伏見に噛み付く。
「氷見さん、落ち着いて……」
藤が間に入って、朝子を落ちかせようとした。
「始業式が終わったあと、十五時に翼志館に集合。今後のことを打ち合わせするで」
誰も返事をしなかった。
「分かったら、解散や」
忠陽たちは解散しようとしたとき、伏見は付け加えて言い放つ。
「あー、最低限、夏休みの宿題は終わらせておきよ。終わってなかったら、大会も出られへんぞ」
忠陽たちは動きを止める。この悪魔的なタイミングで言い放つ男を全員睨みつけた。
「なんや、終わってへんのか? あんなの初めの一週間で終わるやろ」
忠陽たちは自分たちの見回す。
「鞘夏、賀茂くん、終わってる?」
「僕はあとちょっと……かな」
「私もです」
「氷見さん、貴方は?」
「私はもう終わってる。あんたは?」
「終わらせてるわよ」
「出る出ないはともかく、夏休みの宿題が終わってなくて出られなかったら、月影に笑われる! そんなのは嫌よ!」
「ええ、そうね。あの女が高笑いされるのは腹が立つ」
朝子と由美子の中で奏の人物像が誇張されすぎており、忠陽は苦笑いした。
四人の視線は大地へと移る。
「なんだよ……」
「大地くん、宿題は?」
「そんなのやるわけねえだろ」
「今日中に終わらせなさい!」
「今すぐやれ!」
たたみかける由美子と朝子の圧に大地は仰け反る。
「いや、あんなの脅しだろ? な、藤ちゃん先生……」
藤は首を振る。
「あんた、出ないと、出れないじゃ全く違うのよ! 分かってる? 私たちのこの一週間はなんだったのよ!」
朝子はさらに詰め寄る。
「あなた、私が出れなかったらあの女にも、アイツにも笑われて死ぬまで馬鹿にされるのよ。なんとかしなさい!」
由美子もさらに詰め寄る。
「いや、わかった。分かったから、そんな攻めんなって!」
大地がこうまで押されているのに忠陽は笑うしかなかった。
「ほなら、全員で勉強会すればええやん」
伏見の一言に全員固まる。
「なんで、こんな奴のために麟くんとの時間をあげなきゃいけないのよ!」
「君ら、仲間やろ? 仲間は助け合わなきゃアカンで」
大地もその言葉に調子づき、同意する。
「あんたのせいでしょうが!」
朝子の殺意の目に大地は一歩引く。
「賀茂くん、明日以降の予定は?」
「僕なら大丈夫だよ。一緒にやろう」
「鞘夏は?」
「陽様が大丈夫であれば、ご一緒可能です」
「なら、四人でやりましょう。場所は……」
由美子が考えていると、大地が適当に呟く。
「いつものファミレスでいいんじゃねぇ?」
「大地くん、それは迷惑じゃないかな……」
「目黄の和尚に頼めばいいやん」
伏見の言葉に大地も忠陽も頷く。
「大地くん、三十郎さんに聞いてみて」
「分かった。帰りにおっちゃんに頼んでみる」
「で、私はどこに行けばいいの?」
「神宮さんには、僕からメールで住所を連絡するよ」
「分かったわ。明日の何時にする?」
「大地くん、九時はどうかな?」
「はえーよ。十二時にしてくれよ」
「しょうがないわね、十二時に決定」
大地は笑みを浮かべる。
「あなたは、暇だったら来れば?」
由美子は朝子に言った。
「暇なんて、できるわけないでしょ……」
朝子は目を逸らす。
「なら、このメンバーでグループチャットを作ればいいじゃん」
大地の提案に忠陽は乗った。
「いいね、それ!」
そんななか由美子は不思議な顔をした。
「グループチャットって何?」
「なんだよ、姫は知らねえのか?」
大地が自身の携帯を取り出し、グループチャットを見せる。
そこにはメールの文章とは違いより会話に近い形で表示されていた。
「こんなやつ。携帯にアプリを入れると、会話みたいにやり取りできるんだよ」
「そのアプリを入れると携帯が壊れたりしない?」
由美子の問に、朝子も大地も笑った。
「何よ!」
「流石にお姫様よね」
「バカにしてるの?」
「そりゃ、流石にな。まあ、でも明日教えてやるよ。とりあえず、お嬢の連絡先くれよ」
朝子は眉間にシワを寄せる。
「仲間外れにされたくなきゃ、出せよ」
大地に言われ、渋々携帯を差し出す。大地は端末情報を読み取り、登録をした。
「へー、翳すだけで登録できるの?」
由美子の驚きに大地は疑問に思う。
「姫の携帯を見せてくれよ」
「えっ、私の携帯?」
由美子はバックから取り出し、大地たちに携帯を見せた。
それを見ると、大和にしかない旧式の携帯だった。
「ガラパゴス……」
「この携帯ってそういう名前なの?」
「いや、そうじゃなくて今時の高機能型じゃねぇんだと思って……」
「爺やにこの携帯を渡されただけから」
忠陽は納得した。
「女の携帯選びは難しいんだよな……」
大地は呟く。
「鞘夏はどんな携帯?」
由美子に聞かれ、鞘夏は無言で携帯を取り出し、見せる。
その携帯は高齢者によく使われる現代型携帯だった。
「おい、イージーフォンじゃねぇか。ボン、ちゃんとしたやつ買ってやれよ」
「あっ、いや……」
「たんに、この子がこれが使いやすいから選んだだけでしょう? 別にいいじゃない」
「お嬢のはどんな奴だ? もう一度見せろよ」
朝子はもう一度携帯を見せると、ケースは女子高生らしいデコレーションが加えられていた。
「これだよ、これ。俺が見たかったのは!」
「何が違うの?」
大地の反応に由美子は疑問に思う。
「見るからにして、女の子らしいじゃねぇか」
由美子の反応はいまいちだった。
「とにかく、携帯が現代型じゃねぇとアプリを入れられないからグループチャットができないんだよ」
「別にいいじゃない」
由美子のあっさりとした答えに大地はムッとする。
「じゃあ、姫だけ仲間外れぬされるぞ」
「別に! したければどうぞ!」
由美子の琴線に触れたの感じ取った忠陽は間に入る。
「ほら、鞘夏さんの携帯も選び直すついでに神宮さんも携帯を選び直すのはどうかな?」
「陽様、わ――」
「あ〜、なんだか僕も選び直したくなってきたな……」
「どうしたんだよ、ボン。わざとらしいな」
「あんたのせいでしょう」
大地は朝子の言葉に首を傾げる。
「じゃあ、明日の午後に携帯ショップに見に行こう! ねっ!」
由美子は渋々頷く。
「話はもうええか?」
伏見の問に皆頷き、その場で解散した。
忠陽と鞘夏、大地、朝子、藤の五人は電車、由美子は迎えに来た漆戸に連れられ車に、伏見はすぐに姿を消していた。
忠陽と鞘夏は途中で第一環状線に乗り換え、家の近く駅に降りた。
一ヶ月半ぶりのマンション見て、なんだか懐かしさを感じてしまう。
「陽様、どうされましたか?」
「いや、なんだか懐かしくて……。この一ヶ月半、特に八月から色々とあったから」
「左様でございますね……」
忠陽は鞘夏を見る。夕日に染まる鞘夏の顔は美しく、儚げなかった。その顔であの夜見た顔を思い出し、感情が昂ぶる。しかし、今度は同じ罪を犯すまいと、心を鎮める。
鞘夏は忠陽の視線気づき、首を傾げる。
「さあ、帰ろう。我が家へ」
忠陽はマンションに入り、エレベーターを使い、自宅前まで着く。鍵を取り出し、回すと解錠の音が鳴る。
忠陽はドアを開け、まず鞘夏を中へと入れた。その後を続くように入り、玄関に荷物を置くと、なんだか疲れがどっと出てきて、忠陽は玄関の框に腰掛けていた。それは鞘夏も同じようで、玄関の奥に荷物を運んだ先でその場に座り込んでいた。
「陽様……。申し訳ございません。すぐに動きます」
しかし、鞘夏は立てなかった。
「あれ……」
可愛らしい声が玄関に響く。
「鞘夏さん、無理しないで。……実は、僕も立てないだ」
鞘夏は忠陽の顔を見ると、情けない顔をしていた。
お互いに顔を見合わせ、笑い始めた。
忠陽は笑いながらもその笑顔が素敵だなと思い、いつまでも見ていたかった。
「鞘夏さん、今日はファミレスにしよう」
鞘夏は少し間を開けて、笑顔で返事した。
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