第九話 我が家へ 其の一
十一
庁舎の片付けが終わり、昼ご飯を食べたあと、忠陽たちは八雲が運転する高機動車に乗り、空港へと送迎される。
空港の車両駐車場には十数分で着き、全員降り、空港発着ロビーへと向かう。
「八雲、もうええで。そんなにおったら、姫にシスコン丸出しのウザイ奴と思われるで」
「いいんだよ。だいたい、うちのゆみは寂しがり屋だから、そんなことはしねえ」
「兄さん!!」
由美子は体をワナワナと震わせながら、八雲に詰め寄る。
その行動はみんなに笑いをさそう。
八雲は由美子の頭を撫でながら、落ち着かせる。
「この一週間はどうだった? 死ぬ思いしただろ?」
忠陽と大地、朝子、藤の四人は顔を引きつる。
「死ぬ思いじゃねぇーよ。殺すつもりだっただろ」
大地の言葉に三人は頷いた。
「俺達はあれ以上にいつも戦ってるんだ。この国がいつも平和である事を感謝してほしいな」
「公僕が一般人に押し付けがましいわ」
伏見の鋭い言葉に八雲は肩透かしを食らう。
「うるせい。お前だって、教師だろ!」
「うちは私立やから、雇われ従業員なんや」
八雲は苦虫を噛み潰す。
「ほ、ほら、みんな! 八雲二尉にお礼を言わないと!」
藤は誤魔化すように周りを急かす。
全員、言葉が揃わず、バラバラにお礼を言い始める。
「こら! あなたたち!」
「そんなん、ええよ。互いにギブアンドテイクや」
「伏見先生!!」
「お前、やっぱり教師向いてないじゃねぇか? 藤先生の方がしっかりしてるぞ……」
伏見はヘラヘラと笑っていた。
「さて、時間やし、先に手続きを済ませるわ。またな、八雲」
伏見は軽く手を振り、荷物検査へと向かった。
「あなたたち、あんな薄情な大人になっちゃだめよ」
藤は忠陽たちに言う。
「いや、なれねぇだろ」
大地の言葉に全員頷く。
「まあ、近いうちにそっちへ行くから、あれでいいじゃねぇか」
「近いうちって、いつ?」
由美子の目は輝いていた。
「三週間後」
鞘夏以外、驚きの声を上げる。
「あれ、言ってなかったっけ?」
八雲は首を傾げる。
「聞いてないわよ、兄さん! 大体、重要な事でしょ、それ!」
「そうか? 今回バカ皇子がそっちを訪問するから、警備をウチに名指ししてきたんだよ。ま、佐伯ジジイの差金だろうけどな」
由美子はそれを聞いて、後退る。
「アイツ……来るの?」
「楽しみにしてたぞー。お前に会うのも久しぶりだから」
「イヤよ! あんな奴に会いたくない!」
由美子のその拒絶っぷりは尋常ではなかった。
「三週間後って、学戦トーナメント戦よね」
「そうだぜ。だから、予選落ちとか、変な奴らに負けないでくれよ。俺達の株が下がる」
「別にどうでもいいじゃない、それ」
由美子は朝子の腕を掴み、血走った眼で訴える。
「どうでもよくないわ! アイツが来るのよ! アイツが!」
「痛いわね、私が言っているのはそういうことじゃないわよ」
八雲が由美子の首根っこを掴み、朝子から引き剥がす。
「ほら、ゆみちゃん。諦めなさい。公ごとなんだから出てくることは当たり前でしょ」
由美子は絶望的な表情を浮かべ、鞘夏に抱きつく。
「嫌よ、いやよ、イヤヨ……。ドウシテ、アイツガクルノヨ――」
大地はそんな取り乱した由美子を見て、八雲に聞いた。
「バカオウジとか、アイツって誰なんですか?」
「あー。それは見てのお楽しみだ」
八雲は笑顔で誤魔化した。
忠陽には何となく心当たりがある。やんごとなき方のため、面識はなく、誰のことを指しているのかが分からなかった。
「そろそろ荷物検査通らないとマズイんじゃねぇか?」
八雲は時計を見て言った。
藤はそれに気づき、慌てふためく。
「すいません、二尉。なんか、きちんとご挨拶できなくて」
「いや、別にいいんだよ。その方がしんみりしないし」
「天谷では私たちが必ずお見送りをします」
藤はそう言い、おじきをして五人を急かす。
五人はドタバタしながら、荷物検査場へ入っていく。
それを八雲は手を振りながら見送った。
*
飛行機に搭乗し、席につき、直ぐに寝たのは大地だった。その様子を子供みたいと嘲笑っていた朝子も離陸した後には藤に寄り掛かるように寝ていた。由美子と鞘夏も姉妹のように話していたが、忠陽が話し声がしないと思い、見るといつの間にか寝ていた。
忠陽はこの一週間を思い出すように目を瞑る。
皇国陸軍第八師団特殊呪術連隊第二中隊との出会い、早朝からの過酷な訓練、葛城二佐によるしごき、演習の戦い方、月影静流との出会い、バーベキュー、必殺技……。
この一週間が地獄でもあり、たった一週間では経験できないことが沢山あった。
まどろみの中で忠陽は最後の演習が終わり、気絶し、起きたときの皆の顔を思い出す。みんな、笑っていた。
忠陽は映写機から映し出されている光景を見て、笑う。
「お花畑みたいな青春だな。それで、俺から逃げられると思ったのか?」
忠陽はもう一人の自分の声を掛けたことにより、顔色が無表情になる。
「逃げられるとは思ってないよ。君は何度も入れ替わろうとしただろ?」
「てめえみたいな甘ちゃんじゃあ、どうせすぐ逃げるだろう?」
「確かに逃げたかったよ……。でも、君には渡さない!」
「その強がりはいつまで続く? てめえはあの教師に乗せられてんだよ」
「そうだろうね。でも、先生は君のことも見てる。僕が呪詛を使えるようになったのは父さんや母さんへの恨みや憎しみだけじゃない。君の僕への憎しみ、君が誰かへの強い憎しみだ」
「流石にじゃねえか、俺! 俺はそうやって生み出された。お前自身の呪いだ」
「静流さんには母さんを許してほしいと言われたけど、今の僕にはそれができない。父さんもだ。僕らがこうなったのは、あの二人のせいでもあるから……」
忠陰は暗闇の中で高らかに笑う。
「てめえは、やっぱりお花畑だな。何も分かっちゃいねえ」
「どういうことだ?」
「ささっと、俺に体を渡せよ。そうすればいいようにしてやる。鞘夏だって、お前の劣情のまま、抱いてやるよ」
忠陽は歯を強く噛み、怒声をあげる。
「巫山戯るな!!」
「あーあ、つまんねえ奴。鞘夏は俺達のなんだ? それすら忘れてるとはお前は薄情な奴だな。まあ、仕方ねえよなぁ! 鞘夏の事をすら覚えていなかった奴だからな!」
「五月蝿い!!」
忠陽は忠陰の胸ぐらを掴む。
「どうした? 殴れよ?」
忠陽は睨むばかりで何もしない。
「お前は鞘夏を傷つけることしかしねえんだよ」
「そんなことはしない!」
「じゃあ、なんで無理やり唇を奪った?」
「それは……」
「アイツを泣かせていいのは俺だけだ。アイツを傷つけていいのは俺だけだ。てめえには渡さねえ」
忠陰は低い声で忠陽に言う。
「どうせ、お前は新しい玩具に夢中だろ? すぐに鞘夏なんか忘れるんだろう? だったら、その体を寄越せ」
忠陰は手をかざし、忠陽に黒い闇を纏わせる。
「俺がすべてを終わらせてやる」
黒い闇は忠陽の口を塞ぎ、闇の中へと沈み込ませる。
忠陽の叫びは響かず、暴れれば暴れるほどに闇へとのめり込む。
「陽……様……」
柔らかい光が一筋指していく。
その光が二人を照らす。
「陽様……」
忠陽はその声で目覚めると機内は慌ただしくしていた。
周りを見ると、由美子たちは荷物を取り出し、機内から出る準備をしている。
「陽様、天谷に着きました」
忠陽は鞘夏を見ると、心配そうな顔をしていた。
「ご気分は優れませんか?」
忠陽は苦笑いして、大丈夫だよと言った。
「おい、ボン。いつまで寝ぼけてんだ? 準備しろよ」
大地に急かされるように忠陽は自分の荷物を受け取り、機内から出る準備をした。
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