第九話 特別演習 其の二
静寂を保つ森の中、良子は周りを警戒しつつ、前進していた。
足元の草地を見ると、真新しい踏み潰された形跡が見える。忠陽がこの場所を通ったように見えた。その後を目で追うと、一本の木に行き当たる。
一本の木には微かに呪力の残滓が感じられる。それを見て、良子は鼻であしらう。
その罠に紐づくようなものを良子は探し始めた。
始点の罠から人が逃げる方向を予測し、その先に上手く隠している呪符があった。
良子はその罠を見て、顔を歪ませる。
「気に食わん」
その隠し方に薄笑いをした男の顔が連想され、吐き気がした。
良子はその呪符に銃口を向けた。しかし、引き金をすぐには引かなかった。息を吐き、深呼吸をし、銃を降ろした
感情を殺し、改めて、周りを見ると、うまく隠している呪符こそが起点であり、それから自身の後方に仕掛けている呪符が連動するようになっていた。
良子はその場から離れ、少し下がった位置から起点である罠を銃撃で破壊すると、その辺り二、三メートルが石礫と土の槍による筵となった。
「平助か……」
六道なら、もっと小さいなもので最大の効力を発揮させる。その一つとして呪詛だ。呪詛は人の邪な思い、願望が極まった状態や、相手を故意に貶める感情を具現化したもの。それを受ければ、一時的であれ、身体能力、判断能力が下がってしまう。そうなれば、こういった罠でも致命傷を受けかねない。
「賀茂、どうする?」
奏からは忠陽が邪術を習得したことを聞いている。それがどこまで効力があるかは分からない。だが、危険な術であることは変わりない。警戒しつつ動く方が得策だ。
良子は気配を消しつつ、森の中をゆっくりと歩いていく。
数十メートル進むと、罠を数箇所発見した。複雑なものではない。さっき処理したと同じく遠隔自動で組まれた呪符だ。同じようにその呪符を攻撃して、わざと発生させるしかない。
良子は気配を消すことを止め、罠を一つずつ、銃撃によって解体していく。
解体をすると、連鎖的に周辺から罠が発動する音を立てる。罠は今までの比ではなく、次々と良子へ襲いかかる。
良子はその一つ一つを避けるべきもの、破壊するべきものを瞬時に判別し、冷静に対応する。
細かい罠は一通り避けたと思った時に、良子目掛け木が倒れるとともに大きな石が降ってくる。
石の大きさは今の良子の武装では破壊しきれない。良子はその場から離れ、崖の方へと逃げた。
木は目標を捉えきれずに倒れ、その衝撃で土埃が舞う。土埃が空中に舞うと、呪符が顕になった。良子はそれを見て、舌打ちをした。
呪符は光り、強い風が吹き出す。風は周りの枝や葉を巻き込み、良子を吹き飛ばす。
崖から落ちた無防備状態の良子に追討ちをかけるように、石礫が襲いかかる。
良子は体を縮こませながら、防御姿勢をとり、石礫をやり過ごした。
良子は地面へと着地をすると、すぐに右足が取られる感覚に気づく。地面を確認すると泥沼のようになり、ゆっくりと沈んでいく。
良子は焦ることなく、周りの気配を探る。
その瞬間に自身の足を取られていない左半身後ろに人の手の感触と黒い光が走った。
良子はその不快感を耐えながら、わざと後方に倒れたふりをして、忠陽の腹部に肘鉄をくらわせる。
忠陽は痛みでその場に膝をついた。
「甘いな」
良子は右足をぬかるんだ地面から引く抜く。
「両足をとれば、まだ勝ち目はあっただろうに。所詮、貴様は典型的な術者だ。非力な貴様では私に接近することが命取りになる」
良子は一歩ずつ忠陽に近づく。
「ここまでの戦術は今までの中で一番いい出来だ。お前らしい戦い方であり、褒めてやる。だが、最後の呪詛流しは不合格だ。それに……」
忠陽は顔を上げる。呪詛を受けても平然と立っている良子を見て、悔しさがこみ上げる。
「お前はまだ、ゆみに相応しくない!」
良子は忠陽の顔を蹴飛ばした。
忠陽は今までの食らった格闘の中で強い痛みを感じ、周りの景色が歪み始めた。地面を掴みながら、なんとか立とうとするも思うように動けない。
「演習は終了だ」
良子は忠陽にそう告げ、その場から去っていった。
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