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呪賦ナイル YA  作者: 城山古城


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第九話 特別演習 其の一

 空が見える。水色の景色に薄い雲が時たま見えた。その雲を掴もうなどとは考えられない。頭によぎるのは、相手の強さだった。


 索敵から捕捉までの洞察力から、その思考を反映した俊敏な動き、そして、陽動や牽制からの即時の展開、容赦のない銃撃と肉弾戦。


 これが実戦であれば、見つかったあと即座に死んでいるのだと忠陽は朧気に思った。


 五十には近い彼女が若い男性以上に動ける理由が分からない。


 伏見先生が死ぬなと言うのが頷ける。


 ただ、単に自分は息が上がっているだけで、なにも返していない。


「どうした、賀茂。すぐに立ち上がれ!」


 忠陽は息を整え、立ち上がる。


「十分後だ」


 良子は森の奥へと入っていく。


 忠陽はスタート地点に戻ると、いつも以上に心配そうな顔をしている鞘夏が居た。


 忠陽は鞘夏に笑みを浮かべたが、鞘夏はズボンを掴んだまま、感情を押し殺していた。


「鞘夏くん、忠陽くんの治癒を」


 伏見はヘラヘラした顔で、忠陽に近づく。


「どないやった?」


「正面からじゃ勝てないです……」


「まあ、それは分かっていたことや。でも、そのお陰で相手の強さはイヤというほど分かったやろ?」


「そりゃ五回も正面から戦えば分かりますよ」


「あんた、本当に教師か? 姐さんと正面から戦わせるなんて普通させないだろ」


 ビリーはため息混じりで忠陽に近づく。


「今後のためにもええ薬になるからな。ああいう手合いと正面から戦うことは愚策やったやろう?」


「マジでそれをやらせることないだろう。わざとやってること、連隊長、絶対気づいてるぜ」


 平助も呆れていた。


「だいたい、連隊長と正面から戦えるのって、うちの部隊じゃあ八雲さんと加織と蔵人ぐらいだろ? その中でまともに戦えるのは正直八雲さんぐらいだ」


「そないこと、忠陽くんだって分かってる。なあ?」


「まあ、何となく……」


「で、勝つためにはどうするんだ?」


 ビリーは伏見を問いただす。


「別に戦う必要はない。と言いたいところやけど、それじゃあ、忠陽くんのためにはならへんな」


「勝利条件は姐さんを制圧することだ。この条件って、一対一だと賀茂にとってかなり不利だ。賀茂の術で力攻めっていうのはな……。やっぱり、頭を使うしかないな」


「頭ねぇ……」


 伏見はビリーの言葉には乗る気では無かった。


「なんだよ、それ以外何があるんだよ? だいたい、そういうのはアンタの専売特許だろ?」


「ほな使用料を貰おうか?」


 伏見はビリーに手を差し出す。


「馬鹿野郎! 比喩だろうが」


「いや、隊長。コントしないでくださいよ」


 伏見は忠陽を見た。


「忠陽くん、あの女に初日言われたことを覚えてるか?」


 忠陽は良子の言葉を思い出す。


「思い出しました……」


「姫のために……。と思うのも馬鹿らしいが、戦ってみてどうや?」


「どうでしょうね。なんか、それだったら、二日目の訓練の方がそれに近い気がします」


「僕も同意見や。となると、この訓練は君のためのものやな……」


「それ、なんか関係あるんすっか?」


 平助は若干引き気味だった。


「忠陽くん、戦い方を変えよう。ええか。相手の間合いに入るな、入れさせるな。この森の中なら君の得意な隠形をすれば見つかることはない。やけど、術の使い方で君の居場所をある程度特定することは可能や。気をつけて戦い。さっきと同じように僕らであの女の居場所や行動は伝えるさかい」


「はい。自信はないですけど……」


 鞘夏は治癒を止めた。


「ご武運を……」


 鞘夏は深々と頭を下げた。


「うん、行ってくるよ」


 忠陽は開始位置につく。合図というのはない。時間が来たらお互いに動き始めるというルールだ。


 忠陽はすぐに隠形をした。


 これまでの戦いで、隠形をしなければすぐ良子に見つけられていた。


 忠陽はその場からすぐに離れる。極力、足音はたてずに移動するが、それでも木の葉や枝で足音は鳴ってしまう。


 一度、木の上をつたい、足音を消してみたが、木々の揺れは木の葉がざわめく。その音で居場所がバレていた。


 葛城良子という戦士は熟練の戦士だ。不用意な行動はすぐに位置が知らせることになる。そのことを考えると、この場所は自分に有利な場所ではないように感じた。


「賀茂、姐さんを見つけたぞ。西の方角、距離二百だ」


「意外に近いな。忠陽くん、どないする?」


 忠陽は考えた。今まで戦っても正面から挑むことは下策だ。ならば、搦手(からめて)になる。良子の裏を取るにもしても、戦術を多く作る必要がある。この距離で良子を惑わすだけの戦術を忠陽は浮かべられない。


「忠陽くん、逃げい」


 伏見の言葉で忠陽はふと気づき、口元を緩める。


「いいんですか?」


「戦いは前に進むだけやない。逃げるのは戦略的撤退やなのうて、戦術で言えば後退や。でも、やることは分かってるな?」


「はい。逃げて、罠を仕掛けます」


「方針が決まって何よりだ。姐さんは西、距離百五十だ。逃げるとしたら、南東だろな。平助、罠を張れるポイントはあるか?」


「えっ? 急になんすか?」


「お前、めんどくせーとか考えてないだろうな? 姐さんからは協力しろと言われてるだろ」


「わ、分かってますよ……」


 平助は慌てて双眼鏡で南東を見た。


「そっちに逃げるなら、多分、距離百行ったところに小さな崖がある筈だ。まずはそこだな。そこを本命とするなら、今の場所から小さな罠を張って置いたほうが無難かな……」


「無難ね……」


 伏見の反応に平助は口をとがせる。


「なんすか……。他に良いほうがあるんすか?」


「あの女やったら、そんな小さな罠を作っとったら本命がバレる。むしろ、小さな罠を本命にした方が効果的や」


「じゃあ、崖の罠はどうするんっすか?」


「勿論、派手にやる。だけど、その後に本命の小さな罠が来たらどうや? 派手にやった分、気づき難いもんや。それでも足の一本でも取れればええ方やな」


「足一本って、なんか、えげつない事言ってるっすね」


「まあ、姐さんなら実際なら無傷っぽい気がするがな……」


「賀茂、そこに沼と石礫の罠を仕掛けられるか?」


 平助は双眼鏡で地形を見ながら問いかける。


「やってみます……」


「よし。それを張ったら、次のポイントに移動だ」

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