第九話 必殺技 其の五
深呼吸をし、心が落ち着いた段階で、大地は炎を出し始めた。しかし、周りに炎は発生しても纏うことができなかった。大地はさらに力を込めるが周りに炎を渦巻状に巻き上がらせるだけだった。大地は数秒もしないうちに、息切れを起こし、炎を出すのを止め、地面に膝をついた。
「ほらやっぱり……」
「だけど、いい具合の炎じゃねぇか?」
「何言ってんのよ、炎を纏わないと意味がないでしょう。八雲、あんた、甘すぎ」
「お前が何でも出来すぎるんだよ。普通はこんな感じだ。俺だってそうだった」
大地は二人が近づくのに気づき、顔を上げる。
「あんた、どうやって炎を出してるの?」
「いや……なんていうか、バァーとかグワァーとか……」
奏は無意識に大地の頭を叩いていた。
「イッテェ! 何すんだよ!」
「擬音を使うな。それじゃあ、私が何を教えればいいか分かんないッ」
大地は痛む頭を触りながら考えた。次第に唸りだし、奏の方を見る。
「分かんねえよ。言葉にできねぇーよ」
樹はまたくすくすと笑う。
「奏、お前は頭がいいから言葉で分かるけど、あたしや八雲や、コイツは体で覚えているんだよ。もっと、コイツの思考に合わせてやれよ」
奏は悔しそうな顔をしていた。樹はそんな奏を見て、大地に声を掛ける。
「オイ、ガキンチョ。その炎はどうやって覚えたんだ?」
「ガキンチョ言うな!」
「うっせーよ。速く答えろよ、あたしは暇じゃないんだ」
大地は頭を掻く。
「覚えたんじゃなくて、小学生のときから炎は使えた。でも、制御ができなくて、知り合いのエロ坊主から制御の仕方を教えてもらった」
「坊主?」
奏は考え込む。
「どんな制御方法だよ?」
樹が大地に聞いていた。
「なんか、心の中で呪文を唱えろって」
「どんな?」
「のうまく、さんまんだ、ばざらだん、かん」
樹が奏を見る。
奏が納得したというような顔をした。
「それは真言。所謂、仏の教えよ」
「おっちゃんもそう言ってたなぁ」
奏は大地を睨む。大地はすぐに口を閉じた。
「アンタね、ちゃんと理解しなさいよ。あんたの頭はノミ以下かッ!」
奏は大地の頭を殴る。大地はその痛みで頭を抱えた。こうも何度も女性に殴られるのは典子以外いなかったが、その拳より痛い。
「真言はね、言葉で仏の教えに触れ、体現しようとするのよ」
「よく分かんねぇよ」
奏はまた拳を振り上げようとしたが、止めて、ため息をつく。
「真言を唱えることで、精神統一して、悟り……」
奏は大地の顔を見ると、大地は難しい顔をしていた。
「あんたに言ってもしょうがないわね……。重要なのは魔術よりも自由が効かないということよ」
「じゃあ、どうすればいいんだよ?」
「真言を唱えるのを辞めて、火を使えるようになったときの事を思い出しなさい」
「そう言われても……」
奏は八雲を睨むが、八雲はしょうがないと無言で奏を言い聞かせた。
「宮袋、何を躊躇ってるんだ?」
「いや、昔、炎をうまく使えなかったせいで友達を傷つけたことがあって……」
八雲は大地の肩に手を置く。
「そうか。そいつは大変だった。だけどよ、ここにいる奴らは簡単に傷つかねえ。だったら、お前の本来の炎を見せても良いんじゃねぇか?」
「わかったよ……」
八雲は奏を見た。
奏は頷き、大地の目の前に立つ。
「あんたには初めて炎を使えたときの頃を思い出してもらうわ」
大地は首を傾げる。
「なんで、思い出さなさきゃいけないんだよ?」
「それがあなたの思いだからよ」
「思い?」
「あんたは術式とか、魔力を感じ取ってるわけじゃないんでしょう?」
「よく分かんねぇけど、感覚で炎を出してる」
「そういう人間はすべからく術者の思いや願いが現れる。だから、初めて炎を使えたときのことを思い出しなさい」
大地は頭をかく。
「何歳のときに使えるようになったの?」
奏が大地に問う。
「……小ニの頃かな?」
「小二のいつ頃? 暑い日だった? 寒い日だった?」
「うーん……。よく分かんねぇよ」
奏はまた、ため息をつく。
「目を瞑りなさい」
大地は少し反抗的に嫌だと言い返す。
「宮袋、やれ」
八雲の脅しとも取れる怒りの気配に大地はしぶしぶ従った。
「イメージしなさい。あんたは今、七、八歳よ」
「って言われてもな……」
「いいから、イメージしろ!」
目を瞑った状態での奏の罵声を聞いた大地は背筋を正した。
「ったく……。あんたは今、七、八歳」
大地は頷く。
「初めて、炎を使えた」
そう言われてもイメージができなかった。暗闇の中には何一つ灯らない。
「周りには誰か居た?」
大地は記憶を探ると見えたのは幼いときの典子だった。
「なんで、お前が浮かぶんだよ……」
大地は小声で呟く。
「何か言った?」
「いや、こっちの話っす」
「もう一度言うわ。七、八歳の頃、炎を初めて使ったとき、周りには誰がいたの?」
「友達……」
「他には?」
「たぶん、友達をイジメてた奴……?」
「それは昼?」
「ああ、昼だった」
「そこはどこ?」
「公園……」
「あんたは何をしていたの……」
大地は段々と質問に答えていく中で、昔のことを思い出す。
炎が使えたのは自分たちより高学年の小学生から典子を守った時だ。
「友達を守った」
「なんで?」
「なんで? ……そんなの当たり前だろ」
「もっと具体的に! イジメてた奴が気にいらなかったの?」
「違う……」
「友達をイジメられたからムカついたの?」
「そりゃ……ムカついた。でも、そうじゃねぇ……」
目を閉じた大地はその光景を映し始めた。
ガキ大将に立ち向かい、殴られ、地面に突き飛ばされる。駆け寄る典子の目には涙が浮かんでいた。
自分の非力さを呪い、大地は力を望んだ。すると、心の中に仄かに燻りが生まれた。
大地は立ち上がり、もう一度立ち上がり、ガキ大将に突進する。簡単に避けられ、大地は蹴躓き、地面に倒れ込んだ。再度起き上がり、ガキ大将を睨む。
ガキ大将は余裕の表情で大地を見下していた。
大地は再度立ち上がる。勇気という言葉ではない。力を持つものへの怒りだった。
何度も大地は立ち上がり、ガキ大将に歯向かう。十度目に達したときにはガキ大将も何度も立ち上がる大地に気味悪さを感じ始めていた。
大地の身体から煙のようなものが体から立ち昇り始め、周りの子供たちも異変を感じ始めた。
ガキ大将は足を引き始めたその時、大地の体は燃え盛る。
「俺は、その力の使い方にキレたんだよ」
その言葉同時に大地は目を開くと自身の体から炎が湧き上がる。
樹は間の抜けた声で驚き、八雲は口元が緩む。
「なんだよ、これ!?」
大地が体を動かそうとしたとき、湧き上がる炎は弱まりを見せる。
「動くな!」
奏の罵声に大地は驚き、炎が掻き消えた。
「何してんのよ!」
「いやだって、急に声をかけるから!」
「バカ! せっかく、アンタ本来の本来の炎を出せたのよ!」
奏は大地に近づき、眉間に指を突き刺し、追い詰める。
「だってよ〜。自分の体から炎が出てりゃびっくりするだろ……」
「何言ってのよ! あれはあんたの思いよ! それを拒絶してどうすんのよ」
「あの炎が俺の思い?」
「そうよ、あんたの強い思いや願いよ。だから、アンタが湧き出てんのよ」
「じゃあ、俺はキレたらあんな風に炎を出すのか!?」
大地は奏の両肩を掴み、詰め寄る。
「女の体に気安く触るな!!」
大地は奏に投げ飛ばされる。
樹はその姿を見て、大笑いした。
八雲は大地に近づき、手を差し伸べる。
大地は頭を摩りながら、八雲の手を取り、立ち上がる。
「宮袋、お前らしい良い炎だったぜ。猛々しく、ちょっとじゃあそっとじゃあ消せない炎。もう一度、やれるか?」
「やってみる。……でもよ、あの炎は大丈夫なんすっか?」
「何が?」
「いや、俺自身とか、人を傷つけねぇかって……」
八雲は吹き出し、大声で笑う。
「なんで笑うんっすか……」
「なあ、宮袋、自分の炎に負けるのか?」
「いや、負けねぇ……っすよ……」
「あの炎で戦う相手は誰だ?」
「そりゃ、敵っすよ」
「なら、それ以外の相手には使わないんだろ?」
「そうっすけど……一度、関係ないやつを傷付けたことがあって……」
「安心しろ。そうならないように俺達が相手になってやるよ。自分の炎ぐらい使えるだろ?」
「うっす……」
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