第九話 演習 五日目 其の一
五日目、午前中の演習の前に調整した防護呪具の説明を受けるため、第二演習場に集められていた。
忠陽たちは演習場の中心に集まっていたが、その集団とは別に演習場外に二人の人物がいた。
伏見は藤と一緒に演習場に入ると、その二人の姿を見て、ほくそ笑む。
藤はそれに気づいた。
「どうしたんですか?」
「いや、知り合いがいるみたいや。ちょっと、挨拶に行ってくるわ」
「京介、ちょっと!」
伏見は二人に近づくが、女が男に言い寄り、ベタベタとしていた。そのせいか男は伏見と藤に気づくことなかった。
「女なんて興味ないみたいな男がえらい変わったものやな」
男は伏見に気づき、顔をしかめる。
「総将、誰よこいつ!」
総将と呼ばれた男は中性的な顔をしていて、髪で耳が隠れており、美形であった。
藤は軍服の階級章を見て、良子より印が一つないことから三佐だと分かった。
「咲耶、ちょっと離れててくれ」
総将は咲耶を遠ざけようとしたが、咲耶は離れようとしなかった。
「止めろ、咲耶」
「嫌よ! なんでそんなことをしなきゃいけないのよ」
咲耶は総将を睨みつける。
「なんや、尻に敷かれてるみたいやな」
伏見は頬を釣り上げ、不敵に笑った。
「お前……」
総将は苦い顔をした。
「なによ、文句あるの!?」
「別に……。ただ、そのガキ大将がこうも丸くなるの見れて面白うてな」
「伏見先生!」
藤は伏見の袖を掴む。
「総将、私、コイツ嫌い!」
伏見は声を出して、笑う。
「さすがは一条の薔薇姫。気の強さが半端ないな」
咲耶は奥歯を噛みしめる。
「止めろ、咲耶。コイツに口で勝てやしない」
総将はその表情を変え、男らしい顔つきがなり、その周りに闘気みたいなものをか持ち出した。
「お前こそ、以前は死んだ魚の目をしていたのに、今は昔のようにムカつく顔に戻ったみたいだな」
伏見は総将の言葉を飄々と受け流していた。
「お陰さんで。あの時、どこかのバカに顔を思いっきり殴られたからな。今も顎の調子が悪いわ」
総将はまた苦い顔をした。
「先生、お二人とはお知り合い何ですか?」
藤は伏見に尋ねた。
「そっちの男とは子供からな。佐伯の暴れん坊、佐伯総将や。女性の方は、大会のスポンサーである一条財閥の副社長、一条咲耶。二人は恋仲なんや」
藤は大声を出す。
「一条財閥のふ、ふ、副社長!?」
「そういう、あなたは誰よ!?」
咲耶は伏見を不審に思っていた。
「こいつは伏見京介。元六道の人間だ」
総将は咲耶に伏見を紹介した。
「六道? 通りで……」
咲耶は総将の説明で納得していた。
「そちらの女性は誰なんだ? まさかお前には彼女ができたわけじゃないだろうな?」
総将の言葉に藤は頬を染めた。
「何言うんとのや。教え子に決まってるやろう」
藤はすぐに眉間にシワを寄せながら、染めた頬を膨らませる。
その様子を見て、咲耶はクスリと笑う。
「で、ここに何をしに来たんや? 脳筋の八雲と違って、三佐のお前は頭を使わんといかんから、忙しいやろう?」
「別にいいだろう? お前の教え子を見に来ても」
「意外に三佐も暇なんやな」
「暇じゃないわよ。だから、ここで話をしてるんでしょう?」
咲耶は不機嫌にそう言った。
「公私混同やな。面倒くさいやっちゃな……」
「はあ!?」
「はあ!?」
咲耶と藤の反応に伏見は流石に顔色を変えた。
「別に良いじゃない。呪具の開発や武器開発協力しているうちが、総将と会うなんて普通でしょ?」
「そうですよ。ちょっとぐらいプライベートのことを話しても」
「藤くん、君……」
「大体、男ってのは好きだ好きだって言っても本音でどう思うってるか分からないでしょ? ちょっと強引にしてやらないと逃げるんだから!」
「そうですよ! あの手この手で逃げるんだから!」
「あなた、気が合うわね……」
咲耶は藤に手を差し伸べる。
「そうですね」
藤はその手を掴み、固い友情を握力で確かめ合う。
総将はその姿を見て、笑った。
「お前も、尻に敷かれてるな」
「なんでやねん」
伏見はため息をつく。
「それで、あの子らで学戦トーナメントを優勝できるのか?」
「そんなもん付録にすぎへん」
「目的はそこじゃないというわけか。なら、手伝わないわけにいかないな」
「そういうことか」
「そういうことだ」
「あの女、手が早いな」
「八雲の妹もいるから嬉しいんだろうよ」
総将は優しい笑みを浮かべる。
「あの、手伝うとは……演習に参加されるんですか?」
「藤くん、こいつが演習に参加したら、容赦ないから生徒に怪我させるで」
「それはちょっと……」
藤の総将の第一印象は優男だった。伏見のいつもの虚言かと思ったが、なんだか不安を覚える。
「京介、お前な……」
「僕は嘘は言うてへんで」
咲耶も笑っていた。
高評価、ブックマーク、感想もよろしくね。




