第九話 演習 四日目 其の四
由美子は遠くからビリー隊に倒される状況をを見て、大地の突撃は奇襲として成功したように見えた。
「ねぇ、賀茂君。もう一度突撃してみない?」
由美子は忠陽たちに念話で呼びかけた。
「えっ? 大地くんはどうなったの?」
「案の定、やられたわ」
「だったら……」
「でも、奇襲みたいになってたのよ」
「そんなじゃあ、よく分かんない。分かるように説明してくれない?」
朝子が由美子に言った。
由美子はビリー隊が罠を破壊中にその側面を大地が突撃したこと、その時にビリー隊に動揺が見えたと伝えた。
「私はもう一度同じようにしてどうなるかが見たい」
「あんたね、それって私達に突撃しろって言ってるの?」
由美子は黙ったままだった。
「まあ、このまま行っても逃げ続けるだけでしょう? やらないよりはやった方がいいけど、あのバカみたいに突撃するのは嫌よ」
「そうね……。賀茂君、今からあの人たちの進行方向に罠は張れるかしら?」
「難しいかも……。それだけで服部さんが見破られる可能性が高い」
由美子は考える。
「別に罠をはらなくても良いんじゃない。コイツが罠みたいなものでしょ?」
由美子は何かに気づいた。
「そうよね……。賀茂君の使い方は裏にも表にもできる」
ウキウキする由美子に忠陽は不安を覚える。
「ねぇ、それよりも密集しているアイツらに突撃するのはあまり良くないわ。一対一でも勝てないんだから、密集された余計に勝てないわよ」
朝子は冷静に指摘した。
「心配しないで。そこは賀茂君が何とかするから!」
「ちょ、ちょっ待ってよ、神宮さん。僕は何をすればいいのさ」
「別に簡単じゃない。兄さんを吊り上げたみたいに分断すればいいのよ。そうすれば私も撃ちやすいし」
「あれは……八雲さん一人だったから出来たわけで――」
「別に吊り上げなくても、分断すればいいじゃない? 地形変化、得意でしょ?」
「もっと具体的に言ってよ……」
「頼りにしてるわ、か、も、の、君」
忠陽はため息をつく。
「イチャついてるところ悪いんだけど――」
朝子は忠陽と由美子から同時に否定された。
「はいはい。それで、賀茂が敵を分断するのは分かったけど、誰を狙うのよ?」
「ビリー、さんかな……」
由美子は不安そうに答えた。
「ハッキリしなさいよ。お姫様……」
「ウルサイわね。しょうがないじゃない。あなただって、分からないから聞いたんでしょ?」
「はあ? あんた、リーダーでしょ?」
会話だけだというのに、いがみ合った表情をしているのが、忠陽は手に取るようにわかる。
「二人ともこんなとこで喧嘩しないでよ……」
「分かったわ。指示通りあのキザ男を狙うわ。あんたはどうするの?」
朝子は隣にいる鞘夏に聞いていた。
「私は……」
鞘夏は黙ってしまった。
「鞘夏さんも氷見さんと一緒に行動して、できれば昨日みたいサポートして貰えると嬉しい」
忠陽は鞘夏の沈黙を察して、お願いをした。
「かしこまりました」
それぞれビリー隊を奇襲するための位置につくと、由美子に指示を仰ぐ。
「待って。次に罠を壊しているときに、仕掛けるわ」
ビリー隊は先程の大地の突撃が効いているのか、ゆっくりと周りを警戒しながら進んでいる。
先頭の平助が停止の合図を送り、その二秒後に全体が止まった。
「待ち伏せされてますね、これ」
ビリーは平助の判断をすぐに受け入れた。
「アリス、索敵」
ビリーの指示を受けて、アリスは自身の魔力をぶつけて、魔力の波を作る。その波は周辺に伝播していく。その伝播する波の揺らぎの変化で忠陽達を特定していく。
「その建物の影に二人居ます。あと正面の建物に一人」
「オーケー! アリスは側面の建物に砲撃、平助は正面を対応しろ!」
朝子はその声に気づき、隣に居た鞘夏の手を取り、走り出す。
「バレてるじゃない! どういう事よ、お姫様ぁ!」
その後、すぐに朝子たちが居た場所へと爆撃魔術が飛んできた。
「落ち着きなさい! 援護するから逃げて」
「簡単に言ってくれる!」
由美子は遠く離れた場所から密集したビリー隊にいるアリスに狙いを定める。
「賀茂君、援護お願い」
「わかった!」
由美子は矢を放つと、それに気づいたアリスは正面にいる平助の前に魔防壁を二重に敷いた。
矢は魔防壁の一層を穿き、互いに霧散する。
忠陽は姿を表し、地面に呪符を押し付け、土の呪術を開放した。すると、土の槍が無数に現れた。
槍は魔防壁とぶつかり、相殺した。
そのとき、再度弦音が鳴り響く。
「散開!」
ビリーの号令で全員が散開し、その場から離れた。
由美子が放った矢は地面に接触し、爆発した。辺りには粉塵を撒き散らす。
粉塵が晴れると、ビリーは状況確認をする。
「全員無事か?」
その問いに全員が答える。
「平助、由美子ちゃんの居場所は分かるか?」
「一時方向、距離五百ぐらい」
「アリス!」
「もう居ません」
「他は!?」
「全員、逃げてます」
ビリーは深呼吸をする。
「俺達も一旦引くぞ」
「殿は僕が務めます」
「蔵人、頼む!」
ビリー隊はそこから五百メートル後退し、体制を整えた。だが、忠陽たちはあれから攻めて来ず、制限時間となり、演習終了のブザーが鳴り響いた。
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演習が終わり、忠陽たち五人が休憩室に戻ると、八雲が出迎えてくれた。
「お疲れ、一人を除いては良かったんじゃないか?」
大地にはしかめっ面になった。
「まあ、それも宮袋の犠牲があって気づけたんだろう」
大地は鼻を鳴らした。
「そのお陰で、ニ回目の奇襲はバレバレだったけどね……」
朝子は呟く。
「てめぇ!」
大地は朝子を睨みつける。
「さすがに二度目は服部さんに気づかれてしまってましたね……」
忠陽は八雲に意見を求めていた。
「ま、しょうがない。同じ失敗はしないさ。今回の各自の撤退判断、それにその援護の仕方は良かった。氷見、よくあそこで堪えたな。ゆみと賀茂の援護に合わせて再度横槍をいれるんじゃないかと思ったが」
「そんな考えなかったわよ……」
「いや、それがいい判断だ。今は無理してやる必要はない。ただ、危険を冒さないと勝てないこともあるってことだけ覚えてほしい」
「どういう意味?」
朝子は訝しむ。
「ゆみと賀茂が足止めをしていたとき、アリスを狙えば、奇襲が成功した可能性が高かったってことだ。でも、これは運の要素でもある。平助や蔵人が警戒してるかもしれないし、確実に成功するとは限らない。だが、場合によってはその一歩を踏み出せば勝てる可能性は高くなる」
朝子は八雲の言葉でどういう状況だったのか理解した。
「それは……私の判断ミスよ……」
「なに落ち込んでんだよ。俺は撤退したことがいい判断だって言っただろう? むしろ、そう判断するのが難しいんだよ」
「どうして?」
「勝てると分かったら、その欲求を自制することが難しいからな。無意識とはいえ、目先の勝利よりも負けない戦いが出来たことはお前らにとっては勝つよりも価値がある」
朝子はそっぽを向いた。
八雲は忠陽に救いを求めるも、忠陽は苦笑いした。




