第九話 演習 四日目 其の二
演習は三戦目に入っていた。
忠陽たちの動きは演習の回数を重ねるごとに悪くなっていく。連携が悪いと言わけでなく、単純な疲弊と共にビリー隊を攻めあぐねていた。
由美子の考え方は自身の攻撃的な性格を表すかのように攻めの一手である。そのため、作戦自体、チームの中で攻撃的な大地や朝子は、初めは賛同していた。
一戦目では由美子の作戦と相性の悪い防御主体とするビリー隊を攻めあぐね、すべてが裏目に出てしまい、ものの十分も立たないうちに終わってしまった。
二戦目には大地は由美子の指示に従わず、自分本意な動きをし始めた。
それに巻き込まれたのが忠陽と朝子だった。
当初、由美子は大地と忠陽の連携に期待していたが、向こう見ずな大地の戦いを冷静に対処するビリー隊の面々に忠陽の援護に入る余地はなく簡単やられてしまう。
その穴埋めするために前に出てきた朝子が平助の罠に掛かり、一発拘束受けてしまう。
焦った忠陽はビリーに隙をつかれて、隠形を解いてしまったため、狙撃されてしまった。
三戦目になると、二人は由美子の指示に反発するようになっていた。
それよりももっと焦れったそうにしていたのは展望台にいた八雲だった。
八雲はじっとはしていられないようで、折あるごとに立っては座ってを繰り返したり、急にストレッチをしていた。
三回目の戦いが終わったときに八雲は外に出ていこうとした。
「どこに行く? 八雲」
良子が八雲を呼び止める。
「ちょっと、コーヒーでも買いに行こうかと……」
八雲は頬をぽりぽりと掻きながら言った。
「なら、僕はカフェオレを頼む。藤くんは?」
「えっ、わ、私は……」
藤は伏見を見ると、早くと促される。
「ミルクティーをお願い致します」
「私は……ブルーマウンテンでいい」
「そんなものある筈ねえだろ」
八雲は良子の頼みに眉をひそめる。
「あの女の店に行けばあるだろう。行って来い」
「何言ってんだよ、急に……」
「そうやな。八雲、静流姉さんのコーヒー頼むわ」
伏見も賛同したことにも不思議に思った。
「ささっと行け。あの女の店は十一時からだ。あと一時間はあるな」
藤は良子らしからぬわざとらしい言い方に眉をひそめた。
だが、八雲はなにかに気づいたらしく、良子にお礼を言い、その場から出ていった。
藤は伏見に小さな声で尋ねた。
「あの言い方、変ですよね? どういう意味なんですか?」
伏見は口角を上げて、藤に小さな声で返した。
「ツンデレや」
藤は首を傾げていた。
八雲は展望室から出て、向かった先は忠陽たちがいる休憩室だった。
入るなり、由美子と大地、朝子が絶賛言い合いをしていた。
「八雲さん……」
忠陽は八雲に気づき、助けを求めた。
三人の言い合いはヒートアップしており、八雲が部屋に入ったことにも気づかない。互いの戦い方を議論というよりも一方的にぶつけていた。
八雲はまず三人を間に入り、言い合いを止めた。
「兄さん! 邪魔しないでよ!」
「そうだぜ! 八雲さん、邪魔すんなよな」
「それで勝てるんなら邪魔しねぇよ!」
由美子と大地は黙ってしまった。
それを朝子は冷笑したが、八雲に注意された。
「いいか、言い合いをするってことは勝ちたいという意志は同じなんだ」
三人は八雲に注意されて、互いに目を合わせないようにしていた。
「おい、ちゃんと俺の話を聞け! こっちを見ろ!」
八雲の怒声に三人はびっくりし、しぶしぶ八雲に目を向ける。
八雲はため息を吐きながらも、話を続けた。
「まず、攻めるのを止めろ」
「ちょっと待てよ。攻めなければ勝てないだろう?」
大地が立ち上がり、反論する。
「それはお前たちが、相手より突破力があっての話だ。あいつらに勝つ方法の一つは蔵人とアリスの突破だ。だが、突破できなかった場合、ビリーの狙撃と平助の罠の餌食になる」
「そんなのあんたに言われなくても分かってるわよ。でも、相手は待ってるんだから攻めるしか方法がないじゃない!」
朝子は感情のままに言い放つ。
「だからといって、相手の土俵に乗ってしまえば負けるのは当たり前だろう」
二人は口を閉ざし、苦い顔をする。
「誰も攻めることするなとは言ってない。まずは、攻めるの止めろと言ってるんだ」
「兄さん、それじゃあ同じ意味よ。攻めないなら何をするのよ。私達に、アイツの妹みたいに砲撃戦をやれっていうの?」
「お前が奏みたいに戦えるならな」
由美子はムッとした顔になる。
「攻めないなら誘い出すしか無い。つまり、奇襲だ」
全員が八雲を見る。
「だが、平助が入る以上、奇襲は入りにくい。あいつの隠密、索敵能力は高い。あいつに奇襲を入れるなら、虚実を混ぜないと奇襲は成功しない」
「つまりどういうことだよ?」
大地は頭を抱えていた。
「賀茂、奇襲をする作戦を立てろ」
「僕がですか!?」
忠陽は驚いていた。
「平助は嘘を見破る。だが、見破られて良い。重要なのは相手に何をしてくるか分からないと思わせることだ。言ってる意味分かるだろう?」
「はい……」
「ゆみは遠距離からの狙撃とアリスの魔術への対応。そこの二人は賀茂指示に従って動け。真堂は防御呪術でそこの二人をサポート。いいな?」
「八雲さんが言うなら従いますけど、ボンの作戦が失敗したら、俺、勝手に動きますよ」
大地は不満げだった。
「駄目だ! 勝手に作戦を変えるな。この作戦は心理戦だ。相手の心を動かす。お前が勝手な行動をするとチームが負ける。お前が勝手に動かなければ、勝つかどうかはさておき、負けはしない」
「どうしてそう言えるのよ」
朝子は不思議に思った。
「ビリー隊の特徴はその防御力だ。攻勢に転じると狙撃手をもったチームは機動力に足枷かせがつくことになる。狙撃手は撃つ度に、狙撃ポイントを移動をする。攻勢の場合や、機動戦に持ち込まれると、ビリーが狙いを付ける前に味方がヤラれる場合があるんだ。だから、ビリー隊は手堅い蔵人と魔術防御の高いアリスを前衛にして、防御陣地を作り、相手の作戦に乗らないようにしてるんだよ」
由美子は八雲の説明に頷く。
「でも、あのビリー隊長って、双銃でそこのパーマと戦ってたわよ」
朝子は八雲に疑問を投げかける。
「双銃はあくまでも近接戦の護身用だ。攻撃力は宮袋の炎と変わらないと思って良い」
「ぜんぜん違うわよ。パーマより強いじゃない」
「てめぇ!」
大地は立ち上がり、朝子を睨みつける。
「止めろ。今は身内で争うな!」
大地は八雲からげんこつを喰らい、頭を抱える。
「氷見の言う通り、デバフがかかったとしても相手は軍人だし、個々の戦力はお前たちよりも強い。それでも、お前らが負けないと言えるのは、心理戦に持ち込めば、この一戦は時間制限まで引っ張れると思っている」
「それって、兄さんの希望的観測でしょう? 兄さんの思惑以上に相手が攻めてきたらどうするの?」
「どうするのって、それを考えるのが賀茂の役割だろ?」
「どうして、兄さんはそう適当なのかしら……」
「適材適所だろ? 俺には作戦の細かな内容まで考える頭はない。だけど、お前たちの中で、頭で考えて戦うのが一番得意そうなのは、賀茂のじゃないか。だったら、できるやつに任せる。それがチームじゃないのか? ゆみ」
由美子は深呼吸をする。
「……わかったわ。賀茂君に任せる」
忠陽に視線が集まる。
「ぼ、ぼくは……」
「漢だったら覚悟を決めなさいよ。このヘタレ」
「だな。ボン、作戦を言えよ……」
「急に言われても……」
忠陽は困っていた。
「もう、時間がない。賀茂、現場で考えろ」
八雲は時計を見ながらそう言った。
「ちょ、ちょっと待ってくださいよ」
「大丈夫だ。攻めないということはそれだけ時間を作れる。今まで攻めてきたお前らが攻めてこないんだ。相手は警戒しながら攻めてくるよ。それに、お前の隠形は見つけにくい。相手はそれだけ注意散漫になりながら攻めてくるってことだ。時間はある」
八雲は全員を見回す。
「今回が駄目でもいい。今は失敗をしろ。失敗できないときに、いかに冷静に対応できるか、そのための訓練が今なんだよ」
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