第九話 演習 四日目 其の一
五
四日目の朝、起床の喇叭が鳴り、忠陽は目を擦りながら、体を起こした。体の節々は軋み、悲鳴を上げている。
昨日と同じように寝ている大地を起こそうとベットを見ると、支度を整えていた。
「何してんだよ、ボン。速く支度しろ」
呆気にとられながら支度をし、朝礼に出た。
その後は庁舎の掃除、早朝ランニングを行い、朝食を取った。
由美子以外は気分が重いようで、合宿の疲労が蓄積されている事がひと目見ても分かる。
午前の演習は学生五人とビリー隊と行うことになった。
演習を始める前に伏見が、珍しく全員を集め指示をした。
「検証試験も今日で四日目や。皆の顔色もすこぶる良うなってきてるな」
伏見は全員からの非難の目をものともせず、話し続ける。
「さて、薄々は勘づいてるかも知れへんけど、この検証試験はそれだけが目的やない」
忠陽は周りを見回したが、鞘夏以外はため息をついていた。
「で、一体何が目的よ?」
由美子は珍しく伏見に問いただす。
「それは……」
「それは……?」
忠陽が聞き返した。
「君らで学戦トーナメントを優勝してもろうて、僕の給料を上げるんや!」
一瞬、静寂が訪れる。そして、全員、声を揃えて「えっ?」と聞き返す。
「え? やない。僕だって、金が出へえんのに、好き好んで休みの日に君らとおるわけないやろ。すべては金のため……そうせな、いつも君らの厄介事を処理している僕の身には割に合わんで!」
藤は眉間にシワを寄せる。
「伏見先生……。つまり、私はあなたの給料のために休みを返上して、あなたの馬鹿げた理由に協力させられてるんですか?」
「馬鹿げたやない。死活問題や! 藤くん、安心せい。君の給料も上げてもらえるように算段は取ってる。基本給二割増し、来年の上期ボーナスは四ヶ月分や」
藤は顔色を変え、伏見に詰め寄る。
「き、き、基本給、二割増し!? ぼ、ぼ、ボーナスは来年の上期は、四ヶ月!!」
「そうやで、二割増しの、四ヶ月や!」
藤は壊れたように回りだした。その顔はなんとも幸せそうな顔だった。
「二割増しの四ヶ月……あは、あははは……」
次第に顔は欲望に満たされた顔になり、生徒たちから目を引く。
「藤ちゃん……」
朝子の声に藤は正気を取り戻し、顔をもとに戻す。
「あ、あなたたち、学戦トーナメント、優勝しましょう!」
「藤ちゃん、それはないよ……」
朝子の目は失望の眼差しであった。
「なに、君らもええことがあるんやで」
「なんすか? トロフィーとかくだらないやつ?」
大地は半信半疑で聞いていた。
「天谷市において、君たちの願いを一つ叶えてくれる」
伏見の言葉に誰も信じようとはしてなかった。
「願いって……。なら、私は貴方が教師をやめることを願おうかしら」
由美子は呆れながら呟いた。
「それ、良いわね。私は藤ちゃん以外ここに居るやつかしら」
朝子が吐き捨てると、由美子は立ち上がり、朝子を威圧した。
「例えば、百万円が欲しいとかでも大丈夫なのか?」
大地は適当に言ってみた。
「大丈夫やろう。天谷市の高級マンションの分譲でもかまへん」
「結構、太っ腹じゃん」
「それ本当に大丈夫なの? 天谷の高級マンションの分譲って、六千万ぐらいでしょ?」
「今回、学戦トーナメントのスポンサーには一条がついてるからな」
忠陽と由美子は納得の声を上げる。
「ボン、何納得してんだよ……」
忠陽は大地の問には答えなかったが、内心は一条財閥の会長ならやりかねないと思っていた。
「例えばさ、大学の進学資金とかでも……大丈夫なの?」
朝子は伏見に視線を合わせず、恥ずかしがりながら言っていた。
「お前、大学に行きたいのか?」
大地は身を乗り出し、朝子に聞いていた。
「うっさい!」
「別にいいじゃねえか。俺は勉強が嫌いだから行く気はないけど、何を学びに行くくらい教えてくれたってよう」
「いいじゃない、それくらい考えたって……」
朝子は不機嫌そうにそっぽを向く。
大地はその行動に腑に落ちない様子だった。
「宮袋君……」
藤に窘められ、大地はつまんなそうにしていた。
「まあ、願いを叶えてくれるのは君たちが優勝してからの話や。せやけど、人はその前からそれを望むことが多い。宝クジなんてそうや。当たってるわけやないのに自分の買いたいものリストを書いてく。なあ? 藤くん」
生徒たちの視線が集まり、藤は顔を赤くした。
「京介!」
皆、その反応に笑っていた。
「学戦トーナメントに参加するかどうかはこの合宿が終わるまで答えをくれればええ。それよりも今は君らがビリー隊に勝つために必要なものを決めなあかん。まずはチームリーダーやな。これは僕が勝手に決めさせてもらう」
それに対して誰も反論をしようとしなかった。
「異論はないようやな。なら、チームリーダーは由美子くんで行く」
由美子は驚いたが顔をして、伏見を見る。伏見はいつものヘラヘラとした顔だった。それから周りを見回したが、その指示に異論があるものはいない様子だった。
「……私でいいの?」
「いいんじゃねえの? お前で」
大地は面倒くさそうに答える。
「私はリーダーっていうのは嫌だし、あんたの方が性に合ってるでしょ。お姫様」
朝子の言い方に由美子はムッと来ていた。
「僕も神宮さんがいいと思うよ。これまでの演習でまともに戦えてるのは神宮さんだし」
忠陽に続くように鞘夏が頷く。
「由美子くんを選んだのは、他にも理由がある。その一つは作戦立案や。演習の一日目の八雲への狙撃、昨日の奏ちゃんとの単独戦闘。まだまだ作戦としては甘いが、他の人よりは周りが見えている。これが宮袋くんやったら全員特攻になってしまうやろうな」
「うるッせい!」
周りから笑いが起きる。
「二つ目は、この部隊で他の人間に指示できる人は由美子くん、宮袋くん、朝子くんの三人や。その中で最も意見を言いやすいのは由美子くんやな。というより。反発しやすいやろう? 姫には」
「あなたね……」
周りからクスクスと笑いが起きる。
「立案、指示、聴取、この三つから由美子くんや。意義はあるか?」
全員が首を振る。
「ほな、由美子くん、あとはよろしくな」
由美子は立ち上がり、伏見を呼び止める。
「急にこっちに渡されても、困るじゃない!」
伏見はヘラヘラとしていた。
「何をいうとんねん。今日からこのチームは君のチームや。チームが勝つために君が考えるんや」
「伏見先生!」
藤は思うところがあったのか、伏見に抗議の意を示していた。
「言ったやろ? 作戦の立案、指示、聴取ができる人物は君や。何度だって失敗せい。八雲にあって、君に足りないものは果敢さや。……っといっても、アイツはただのバカかもしれへんけど」
伏見は笑いながら演習場から出ていく。
「藤くん、行くでえ。僕らが邪魔しちゃあかん」
藤はため息を吐く。そして、気分を入れ替え由美子に話しかける。
「えっと……私も一緒に作戦を考えようか?」
「ありがとうございます。お気持ちだけ受け取っておきます」
「藤ちゃん、行きなよ。ここは私達で考えるからさ」
「そ、そう?」
藤は後ろ髪をひかれながらも、部屋から出ていった。
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