第九話 演習 三日目 その八
忠陽は目の前に入る女性を見て、手を止める。
周りは大地とビリーの空気が燃え盛る音と銃撃が交錯する。鞭の空気を破る音が鳴り響き、アリスを襲っていた。
忠陽は息を呑む。眼の前の女性は明らかに自分と対峙している。
凛とした佇まいはこの戦場でも目を引き、忠陽の心を揺さぶる。
鞘夏は一度俯き、徐に顔を上げた。
「陽様、戦う前にお願いがございます」
忠陽は頷く。
「まず、これから陽様に危害を加えることお許しください」
そう言うと、鞘夏は一旦目を閉じ、呼吸をするとともに目を開いた。
「陽様、参ります」
鞘夏は走った。直線ではなく、左に弧を描くように。
忠陽は小さな石礫を数個飛ばし、鞘夏に当てようとする。
礫は直線的な動きで鞘夏に襲いかかる。
飛翔する石礫を鞘夏は自らに当たるものだけを叩き落とし、前進する。
忠陽は瞬時に頭を切り替え、風の突風を生み出した。
その突風に鞘夏は地面に警棒を突き刺し、耐え凌ぐ。
風で鞘夏の表情が歪むのが見えて、忠陽はその風の力を弱めてしまった。
鞘夏はそれを分かったのか、警棒を抜きゆっくりと歩き出す。その進行方向に一発の銃弾が着弾し、鞘夏は飛び退いた。風の呪術もあってか、最初には走り出した位置よりも後ろに飛ばされた。
「賀茂!」
大地を連れてビリーが駆け寄る。
そこに遠くから銃声が鳴るも、ビリーと忠陽にアリスの魔術防壁が展開され、ビリーに放たれた銃弾を弾き飛ばした。
アリスも朝子を引き連れて、忠陽に合流する。
「アリスちゃん、ありがとよ」
「いえ」
「それにしても、太郎の奴は厄介だな……。ピンポイントで邪魔してくる」
鞘夏、朝子、大地は忠陽たちを囲むように位置取り、相手の出方を見ている。
アリスは囲む三人の動きを見ながら、忠陽に話しかける。
「賀茂さん……。仲間と戦うのが嫌ですか?」
忠陽はアリスを見る。アリスは周りを警戒しながら続ける。
「私も嫌です。ですが、もし、戦わないといけないとき、今のままではあなたは死にます」
忠陽は奥歯に力を入れ、地面を見る。
「相手を傷つけない方法は少ないと思います。だから、短時間に数の少ない攻撃で相手を制圧してください。制圧できれば、殺さずに捕縛できます」
忠陽は意表を突かられ、アリスを見返すと、優しい笑みを返してくれた。
「由美子ちゃんが奏ちゃんを抑えてる間に制圧するぞ。蔵人と由美子ちゃんの負担はデカイからな」
ビリーは双銃を構える。
「おい、賀茂。おれは前衛が得意なわけじゃない。俺の背中はお前に任せた。いいか、腹を括れ! 由美子ちゃんはとっくに腹を括ってる。てめえ、女の子にだけ痛い思いをさせてんじゃあねぇぞ」
忠陽の心に迷いが生まれていた。目の前にいる鞘夏を見る。その凛とした姿とは違い、自身の心は揺れていた。
「賀茂!」
「はい……」
忠陽はビリーの声掛けに仕方なく返事をする。
「いい子だ」
ビリーを戦闘に陣形を組む。
忠陽はその後ろで呪符を取り出す。
「アリスちゃん、頼むぜ!」
「はい! 牽制をかけます。アイスニードル」
氷の棘が発生し、大地へと降り注ぐ。大地は炎で溶かしながら、その攻撃を避けていた。
朝子はアリスに近付こうとしたが、忠陽がそれに気づき、石礫を朝子に向け放つ。
朝子はその全てを鞭で薙ぎ払いながら前に進む。術を使った後に硬直をする二人を見て、朝子はほくそ笑んだ。
「まずは二人、貰うわ!」
鞭を振り回し、穂先を横薙ぎにした。
だが、穂先は忠陽が放った風の刃にぶつかり、弾き返された。
弾き返された同時にアリスが炎の円月輪を放つ。
「フレイムドライブ!」
その攻撃を避けきれず、朝子の一回目の呪防壁が働いた。
「何やってんだ、バカ!」
大地の怒声が響き渡る。
大地は前進すると、ビリーが待ち構えていたように双銃で足止めをする。
その足止めをすり抜けるように鞘夏は走り、ビリーを警棒で払おうとする。
ビリーはその攻撃を片側の銃で受け止め、もう片方の銃撃で反撃を行い、距離を引き離した。
その間に再度、大地は再度ビリーとの距離を詰め、炎の攻撃を放つ。
「賀茂!」
「はい!」
忠陽はビリーの前に土壁を作り出した。大地が放った炎の攻撃は土壁で防がれるが、大地は続けて土壁を壊せるほどの火力を上乗せしようと炎を練り上げる。
「ウインドショット!」
アリスは土壁の上ぐらいに大気を乱流させ、そこから集束させた四発の風弾を解き放った。
大地は炎を練り上げるを止めて、風弾から逃げた。一発目、二発目は簡単に避けられたが、三発目の風弾は追尾型であり、大地を追い詰める。大地は炎を使い薙ぎ払って相殺したが、時間差で来た四発目を直撃し、呪防壁を発動させてしまった。
「いいぞ、賀茂。その調子だ」
忠陽は褒められているのに嬉しくなかった。そう思っているとビリーから念話が入ってきた。
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