第九話 演習 三日目 その二
廃墟の中を颯爽と駆け抜ける人物が一人居た。あとに続く二人は息を切らしながらも前に行く加織を追いかけていた。
「遅いぞー。ダッシュ、ダッーシュ、ダッシュ!」
大地は意気揚々とする加織を見て、呆れていた。走る速度は二人からするとほぼ全力に近い。心臓は体全体に足りない酸素を送り続けているが、それでも足りないと全力で稼働している。そんな速度の動きでも息を上げることなく、戦う前から楽しんでいる。
大地はその笑みで松島や玉子を思い出す。あの二人が戦うときに出す笑み、それに似ている。劣勢であろうと楽しむその顔と戦うことを想像すると体が震える。
「二人が居たよー。二人は蔵人君ね。私はアリスちゃん。無理に倒さなくていいよ。奏ちゃんが言ったように二人は蔵人君の足止めをよろしく」
三人が蔵人とアリスと接敵する前に大群の鴉が空に舞い始めた。それが開戦の狼煙かのように加織は抑えていた闘気を開放し、足に集中させ、地面にを蹴り上げる。
蔵人とアリスは大群の鴉に一瞬目を奪われ、加織の動きに気づかず、意図せず不意打ちを食らうことになる。
加織は拳に闘気を集中させ、アリスに突進する。
アリスは自身の目の前に、魔力による防壁を一点集中させ、固くし、加織の拳を受ける。
その衝突の余波が空気を振動させ、周りに伝わる。その振動で大地は鳥肌がたった。
加織は笑いながら防壁ごとアリスを吹き飛ばした。
奏が指示した内容通り、アリスは蔵人から引き離され、加織と一対一となる形になり、蔵人は大地と朝子と対峙することになった。
アリスの顔が歪む。対象的に加織は口から歯が見えていた。
アリスは手のひらから光り輝く球体を七、八個生み出す。生み出された球体はアリスの体に纏わりつく。その後にアリスは腰にかけている鞘から細剣を抜き出す。加織に片手持ちの細剣を突き出すように正眼の構えを取る。
加織は右拳を前に出しながら構えを取り、威嚇のように闘気を放つ。
アリスはその闘気を受けても、怯んだりはぜず、加織を見ていた。
大地はその気配で引き始めていた鳥肌が再度立ってしまった。普段は陽気なふりをしていて、こんなにも恐ろしい牙を隠していたことに段々と背中に冷や汗が出てくることが分かる。
「余所見をして、いいのかい?」
蔵人の言葉に大地は笑ってみせた。
「俺たちの役目はアンタの足止めだ。アンタが動かなければいい」
「ちょっと、あんた!」
朝子は怒声をあげる。
「うっせぇ! どうせ、もう分かってんだ」
蔵人は前回の演習とは違い、構えを取る。
「ああ、君の言うとおりだ。だから、今回は、手を抜いてはいられないみたいだよ」
蔵人から発せられる闘気で大地は足が震える。
「へっ! 言ってろ……」
隣から地面の咆哮が発せられる。コンクリートの地面は隆起し、アリスへと槍衾が襲い掛かる。アリスはその鋼鉄にも見たコンクリートの槍を体に纏わりつく三つの球体を前に出し、応戦を開始する。
球体は数本の魔力のビームを放ち、コンクリートの槍をいとも簡単に壊していく。槍を三つ、四つぐらい壊したところで、球体は霧散する。他の球体もアリスに当たりそうなコンクリートの槍を破壊し、土煙を上げていた。
その煙を煙幕として利用し、加織はアリスとの距離を縮めていた。壊された槍衾の隙間を縫うように現れ、拳を振りかぶる。
アリスはその拳を受けずに、後ろに飛び退く。
攻撃を避けれた加織は闘気の纏った両手を猛獣が口を開くかのように合わせ、口から牙を見せるかのように手を前に突き出す。その口に闘気が収束し始め、口の中に貯まると一気に闘気は開放された。
「獣牙穿哮!!」
アリスは収束した闘気を光の球体を三つ使い、自身の目の前に出た。三つの球体を回転させ特殊な防護壁を作る。加織から放たれた闘気をその防護壁で受け止め、横へと弾き出した。弾き終わると同時に三つのうち二つが消滅した。
アリスは残りの一つの球体を一つから十個ぐらい分割し、先程より小さい魔力の球体になったものを散弾のように放つ。
加織は地面を叩き、隆起させ、壁を作り、アリスから放たれた光の散弾を防いだ。
散弾で削れた壁は崩れ、そこから楽しそうな顔をしている加織の顔がアリスには見えていた
「アリスちゃん、今日はちょっと本気だね」
アリスの顔がまた歪む。
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