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呪賦ナイル YA  作者: 城山古城


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第九話 演習 二日目 その四

 座学の後、五人はビリー隊とともに標的を制圧するための演習を行った。一人ずつビリー隊に入り、作戦行動をする。


 五人には訓練弾の小銃を持たせ、建物内に入り、拠点制圧の演習を行った。


 そこで見せつけられたのはビリー隊の精密機械のように動くさまだった。今までの演習とは違い、普通科歩兵と同じく、突撃の際にはビリーが指示を出し、閃光弾を投げ込み、すぐに入り、標的の的を正確に射抜いていく。その行動を何度も繰り返すが、ミスを起こさない。置いてけぼりになった忠陽たちは引き金を引く暇さえなかった。


 良子はこの演習を忠陽たちが正確に的に当てられるようなるまで続けさせた。


 それが終わると山岳地帯の演習場に移り、地形を使った移動訓練を行った。ただの移動訓練ではなく、ビリーと樹からの狙撃から逃げつつ、目標地点に移動する。忠陽たちは任務失敗の証としてペイント弾で、顔を赤く染めたり、お腹が青くなったりして出発地点に戻ってくる。


 その様をみて、お互いを嘲り合っていた。特に、大地は二人からお尻を集中的に狙われており、お尻が真っ赤になっている様を、訓練終了後にあった八雲に笑われていた。


 移動訓練が終わると、日は落ち、課業終了の喇叭が鳴り響く。


 忠陽と大地は夕食を食べ終わると、数十分後に蔵人の案内で入浴場に向かった。体を洗い、浴槽に浸かると二人とも何とも言われない声が自然と出た。


「君たち、すごい声を出すね」


 二人の声を聞いて、蔵人は笑っていた。


 浴槽に浸かろうとする蔵人のそれを見て、大地は驚愕の顔をした。


「今日も一日お疲れ様。明日も頑張ろうね」


「はい、頑張ります」


 忠陽は蔵人の笑顔に答えた。


「どう、うちの部隊は?」


「どうって……」


 忠陽はその問いの意図が分からなかった。


「入る気にはならない?」


 忠陽は息を吐く。


「諦めてなかったんですね……」


「そりゃね。優秀な人材は欲しいから」


 嫌味ない笑顔に忠陽は内心呆れていた。


「俺はパスだ。確かに強くなれるけど、楽しくはないぜ」


 大地は屈託のない意見を述べた。


「そりゃあ、軍隊だからね。楽しくはないよ」


「あんたが軍人になったのは親の影響なんだろ? でも、そういう生き方をしなくても良かったんじゃないか?」


「それもそうだね。考えつかなかった」


 大地はその笑顔に何故か苛ついた。


「なんだよ、それ? 生まれつき軍人であることを肯定してんな」


「大地くん!」


 忠陽は思わず大地を止めようとした。


「そんな挑発じゃ僕らは動かないよ。そう、訓練してるからね。君の言うとおり、僕は母さんや父さんからそう生きるように育てられた。でも、僕はそれが悪いことじゃないと思ってる。ぼくとってはそれが家族の絆さ」


「なんだ、その絆。普通じゃねえな……」


「普通じゃないさ。普通じゃない……」


 蔵人の顔が一瞬歪んだように見えた。


「でも、それがうちの家族の形なんだよ。君の家はどうなんだい?」


 蔵人は元の笑顔に戻り、大地に聞いていた。


 大地は少し沈黙をして、口を開く。


「普通だよ。親父がたまに帰ってくる以外は」


「そっか……。もし良ければでいいけど、お父さんはなんの仕事してるの?」


「船乗りだよ。貨物船の」


 蔵人はそれ以上は何もそのことには何も言わなかった。


 忠陽はその意味が分からず、ただ何となく大地が父親との確執があることだけを察した。そのことに親近感を覚える。


 その後、忠陽たちは昨日と同じく伏見により講義室に集められた。


「今日もお疲れさん。午後は戦う上での具体的な講習と演習やったけど、どないやった? ためにはなったか?」


「ええ、あんたを倒すというのは面白いわ」


 朝子は挑発していたが、伏見は意に介さずだった。


「あの女も言うとったけど、戦術を組み立てるうえで大事なのは相手を知ることや。呪術にも、火、水、土、風の四大属性があるように兵士も戦い方や位置によって大まかな属性化ができる」


 伏見は黒板に書き始めた。


「例えば、八雲隊を見れば、部隊編成として攻撃手が二、万能手が一、狙撃手が一やな。距離で分けるなら、近距離が二、遠距離が一、全域が一になる。ここから戦術として縦陣陣形は前衛二、真ん中一、後衛一やろうな。前衛が二からして、攻撃に重きをとった編成や。藤くん、あの女が言っとった八雲隊の特徴を皆に話し」


「えっと……確か、八雲隊の要は月影さんだって、葛城二佐もビリー隊長も言ってたわ。遠矢隊長は前衛で戦うことが多いから、指揮をするのは月影さんが多い。でも、あくまでもこの隊は遠矢隊長の部隊だって言ってた」


「そこで君らに問題や何故八雲の隊だと言えるのか?」


「そりゃ、八雲さんが隊長だからだろう?」


「あんた馬鹿じゃないの? それがなんでかって、あいつは聞いてるのよ」


 大地の答えに朝子は呆れていた。大地は苦虫を噛み潰した顔をする。


「でも、ビリー隊長のとこだって、ビリーさんが隊長だからビリー隊なんだろう?」


「藤ちゃんが言ってたのは、八雲隊は実質的に月影が――」


「月影さん!」


 朝子は藤に注意され、悔しそうな顔をした。


「その月影さんが指揮をしてるけど、あの女が――」


「葛城二佐! 氷見さん、敬称ぐらい使いなさい」


「わかってるよ、藤ちゃん!」


 自分のことはちゃん付けしても何も言わない藤の甘さに、忠陽たちは可笑しく思えた。


「……月影さんが指揮してるのに八雲隊っていうのはおかしいってことよ」


「そうか? ウチだって誰かが命令するわけじゃないだろう?」


「私達にはそもそも隊長なんていないじゃない」


「じゃあ、なんで八雲隊なんだよ!」


 忠陽たちは溜息が出る。


「あの部隊が攻撃的なのは兄さんが居るからよ。月影隊であるなら、多分部隊の戦術はビリー隊に似て、手堅い防御戦術になると思うわ」


「へえー、流石兄弟だな」


 大地の言葉に由美子は頭を悩ませた。


「ビリー隊が防御戦術を取っているってどういうこと?」


 忠陽は由美子に聞いていた。


「ビリー隊長の戦い方は無理に攻めない。相手のミスを確実にビリー隊長の狙撃で取っているの。前衛である蔵人さんは敵の足止め、側衛であるアリスさんと服部さんは索敵と陽動、後衛のビリー隊長が相手を仕留める役割。あの部隊だけで防御陣形を築いてる」


「なんで、それを速く言わねえんだよ。それが分かってたらやりようがあったんじゃねえか?」


 大地は席を立ち、由美子に食って掛かる。


「最初に言ったわよ。協力しましょうって。でも、断ったのはあなたたちの方よね!」


 大地は気まずくなり、座った。


「それで姫、八雲隊と呼ばれる明確な答えはなんや?」


 由美子は伏見を睨みつける。


「さっきも言ったけど、兄さんが居るから。兄さんが持つ突破力を戦術のベースとして、足らない要素を構築したのが八雲隊。兄さんは頭に血が登ると前しか見なくなるんだもん……」


「ええ答えや。姫が言うように八雲隊は戦術としてその攻撃力の高さを売りにしてる。恐らく有事の際、連隊内の役目としては切り込み隊で、最前線に出される。それと同時に相手の戦力を測る道具でもあり、機動戦を仕掛けるためのトリガーにもなる」


 大地は頭を抱えた。


「切り込み隊ってのはわかるけどよ、なんで戦力を測れるんだ? あと機動戦ってなんだ?」


「英雄と呼ばれる八雲が勝てないなら、作戦を一から考え直す必要があるやろう」


「なるほど……。機動戦は?」


「機動戦の主なものは、突破、迂回、包囲の三つ。八雲隊は敵と正面からぶつかり、突破を行い、そこから敵を分断し、各個撃破。もしくは背後に回り、敵を包囲する形に持ち込む。つまり味方に優位な状況を作れる」


「すげえーな、八雲隊」


 大地は驚嘆していた。


「それが戦術のミソちゅーうことや。ということで、君らも自分の仲間のことを知らんとな。まずは姫や。改めて聞くけど、皆からすると姫には何ができる?」


 全員に口をへの字にして黙っていた。


「皆、姫のことを嫌いなのは分かるけど、露骨に態度に示さんでも……」


「ちょっ! 伏見先生ぇ!」


 あからさまに不機嫌になる由美子を見て、藤は伏見の言葉に反応した。


 大地は頭を掻いて口を開く。


「いや、そうじゃねえんだよ。改めて、姫が何ができるかって言われるとさ、そいつは何でもできちまうんだろうなって思うんだよ」


「確かにね。結局、遠距離もできれば近距離も戦えるんでしょう?だったら、万能手かなって……。でも、本当は遠距離が得意なんでしょう? だから、言葉に詰まるわけ」


「僕も氷見さんの意見に賛成です。神宮さんの強さは遠距離で一番光るんだけど、近距離でも僕なんかより強いと思うし……」


 由美子は三人の意見が意外だった。


「なんや、おもろないな。悪口ぐらい言えへんのか」


 伏見の悪態に藤は声を上げる。


「実際、お前何ができるんだよ?」


 大地は由美子に聞いた。


「えっ! 私?」


「うちのメンバーで何でもできるのはお前だろ……。知ってて損はないと思っただけだよ」


 由美子は少し顔を赤らめさせ、黙ってしまった。


「私は……弓を使った技と、風の魔術が得意よ……。あと、簡単な治癒術もできるわ」


「あんた、確かに呪術を無効にできたわよね? あれってどういう仕組みなの?」


 朝子の問に、由美子は眉間にシワを寄せる。


「何? 言えないの?」


 朝子は訝しむ顔をした。忠陽は割って入ろうとしたとき、伏見が口を開いていた。


「あれは浄化や。神宮の秘伝の一つで、人においそれと仕組みを教えられへん」


「そういや、八雲さんも言ってたな。たしか、神宮はマナってやつを浄化するって。なあ、ボン?」


 大地の声に忠陽は賛同した。


「秘伝と呼ばれるものは、人には話せないことが多い。姫がええなら僕が話すけど――」


「別に、そんな知りたいわけじゃないし……。賀茂の姿を消すやつも秘伝なの?」


 朝子はすぐに切り返した。


「隠形は誰でもできるもんや。ただ、忠陽くんのは気配をその場と同化できる」


「同化?」


「所謂、カメレオンや」


「ボン、てめえはカメレオンだったのか?」


 大地はマジマジと忠陽を見る。


「あんた、馬鹿じゃないの? そんなことあるわけ無いでしょう?」


 朝子は大地には本気で突っ込んでいた。


「うっせぇ、分かってるよ。ボンは、それ以外に何ができるんだよ?」


「僕は神宮さんみたいに大規模だったり、威力がある呪術は無理かな。使えるのは風と土の呪術、あとは式紙を扱える」


「式紙って、あのカラスよね? 感覚を共有できるだっけ?」


 朝子の問に忠陽は頷く。


「感覚を共有できるのは二体かな。僕の処理能力じゃあ、それぐらいが限界……」


 忠陽は苦笑いしていた。


「グラサン先生もできるよな? どのくらいの出せるだ?」


「聞きたいか?」


 大地の問に伏見は不敵に笑う。


「伏見先生は、私が知ってるだけで数十匹、天谷に放っているわ」


「藤くん、あっさり言うとはイケずやな」


「数十匹? 桁が違うやん!」


 大地はただ愕然としていた。


「だから、天谷では貴方達も式紙で見張られてると思いなさい」


「最悪なんだけど……」


 朝子は気分を害していた。


「常に見張ってるわけやないで。そりゃ同時並行を何十匹もしよったら脳が焼ききれるわ。オンとオフは大事なんや」


「なあ、姫も式紙を使えるのか?」


「私は使えないわ。式紙を使えるのは陰陽師よ」


「じゃあ、お前のジョブはなんだよ?」


 藤が口から吹き出す。


「宮袋君、ゲームじゃないんだからジョブって言わないわよ。この場合は職名かしら?」


「そういう意味であれば、私は巫女か神職かしら……」


「巫女って……」


 大地や朝子は笑っていた。


「何よ! しょうがないじゃない。家が代々宮司なんですもの」


「ボンの陰陽師も職名なのか?」


「そうだね。昔は多かったけど、今は数えるくらいじゃないかな」


「人気ねえーんだな。グラサン先生はその職名からすると陰陽師なのか?」


「僕は教師やがな」


「胡散臭いな。信じられねえよ」


 全員が笑っていた。


「そういう貴方は職名からすると、僧侶かしら?」


 由美子は大地には聞いた。


「僧侶? 俺は一般人だぜ」


「でも、お寺の息子じゃないの?」


「ちげーよ。あれは幼馴染の家だよ」


 大地は何故か余所余所しい。


「じゃあ、あの火の呪術はどうやって覚えたのよ?」


「どうやってって…………おっちゃんが呪文みたいなのを教えてくれた」


「真言? 貴方って以外に信仰者だったのね」


「おい、その信仰者ってのは聞こえが悪い……」


 忠陽と由美子は笑っていた。


「でも、私達のなかで、一番打たれ強いわよね。良く言えば前衛というか。兄さんにあれだけやられてもめげないってすごいわ」


「褒めてのか、貶してるのか分かんねえよ」


 大地はしかめっ面になる。


「それなら、地稽古のとき私達と替わりなさいよ。葛城二佐、相手にするの、嫌なんだけど」


 朝子は大地に提案した。


「いや、あれは俺だって嫌だぜ。息子の方で充分だ。お嬢は身体強化と短鞭を鞭にすれば中距離も行けるだろう?」


「そうね」


「その、ボンの使用人は何ができるんだ?」


 全員が鞘夏に視線が向く。


「わ、私は特にできることはありません」


「でも、あんた、主人より呪力量があるんでしょ?」


 朝子は鞘夏を問い詰める。


「確かに、鞘夏が呪術を使ってるのを見たことないわね。でも、氷見さんと同じく身体強化はできるわよね?」


「はい。旦那様から護身術として習いました」


「賀茂くんは鞘夏が何ができるか知ってる?」


「えっ?」


 忠陽は鞘夏を見ると、気まずくなってしまった。実際、忠陽は鞘夏がどういう呪術を使えるか知らなかった。


「なんだよ、知らねえのか? 冷たいご主人様だこと」


 大地の言葉が胸に突き刺さる。確かに彼女のことを知ろうとしていなかったかもしれない。


「忠陽様は関係ありません」


 鞘夏の威圧的な視線を見て、大地は顔を掻く。


「今までの話をまとめると、このメンバーは近接が三に、遠中距離一、全域が一ってことよね?」


 朝子の言葉に忠陽たちは頷く。


「でも、お姫様はどっちかって言うと、遠距離が得意なんでしょ?賀茂は中距離? それとも遠距離?」


 忠陽は考える。その役割によって今日の演習で索敵を主にするときと、戦闘に入るときでは位置が違う。それで深く悩みこんだ。


「別にその距離を限定で戦うと考えでもええよ。今はお互い得意な距離と何が得意かが分かればええ。あの女が言うとったようにその場で戦術を組み直す必要がでてくるやろう。その目安になればええよ」


「なんか、曖昧ね」


「曖昧でええねん。戦術はあくまでも机上のものだと思ってないと、実際に戦った際に、上手くいかないときに身動きが取れなくなる」

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