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3話 最強の母

途中、「氷天下」という魔法が出てきますが、誤字(氷点下と氷天下)ではなくてわざとなので、誤解しないでください。

 たまたま母上の予定が空いたので、今日は母上による戦闘訓練。ジャックも人外レベルに強いのだが、母上は次元が違う。白銀の長い髪に雪兎のような赤い目、スラッとした背の高い、かっこいい女性といった印象だ。母上の得物は刀、対する私は長槍。相性はいいように見えるが勝てる気はしない。


「では、試合開始!」


 ジャックの掛け声とともに保護結界が張られる。この結界は解除したとき、結界内の全ての事象を張る直前に戻すという、戦闘訓練用の魔導具だ。つまりはこの中なら死んでもOKということ。

 考えることが怖い。ちなみにこれを作れるのは時空属性を使える父上だけだ。


「久々だね、手合わせは。」


「母上に勝てるとは思いませんが、全力で行きます!!」


 手合わせは昔から行っている。母曰く、「こんな逸材を鍛えないのなんて勿体ない」とのこと。最初は迷惑だったが、実際強くはなっているし、魔王の血を引いているからか、戦いが嫌という訳でも無いので今では楽しみの一つなっている。


「闇属性魔法《闇黒槍・極位》」


 私の〈死滅〉属性は、闇、破壊、命、氷に派生させることができるので、闇属性魔法も使える。

 私の槍が黒く染まる。


「死滅属性魔法、神位《戦場ヲ駆ル死神》」


 私の槍が大鎌の形に変形し、俊足で相手の元へ跳ぶ。


「華月流、桐の滓」


 刀で受け流される。流麗な受け流し。


「華月流、梅の滓」


 続いて鮮やかな梅の花びら形の斬撃。馬鹿みたいな数。


「闇属性魔法、極位《闇夜ノ護リ》」


 闇属性の防御魔法を展開するが、隙間を抜けてきた花びら一枚に左手が飛ばされる。

 即、命属性の回復魔法で止血し、氷の義手を作る。


「氷属性魔法、神位《氷天下》」


 超広域の氷の結界。結界内の生物は凍え死ぬ。はずである。


「華月流、桜に赤短冊」


 相手の周りに桜の花と赤い短冊のようなものが舞う。なんか周りだけ雪が溶けているんだが。


「華月流、芒の滓」


 私の結界が(すすき)の平原に上書きされていく。この芒、穏やかに見えてこの葉に触れるだけでさっきの花びらぐらいのダメージを負う。


「死属性魔法、神位《死屍累々》」


 大量のアンデッドモンスターの召喚。それらを肉の壁にして回避。


「破壊属性魔法、極位《壊ノ閃》」


 大量の光線。


「華月流、弦月奥義、(柳の滓)


 光線が間合いに入った瞬間全て斬られる。光線斬るってなに?


「溜まった。」


 母上がそう呟く。これを聞いたらもう終わりだ。


「華月流、梅に鶯」


 視界が梅の花と美しい文様に覆われる。遠くに(うぐいす)の声。

 聞くと同時に母上は視界から姿を消す。

 同時に視界が逆さまになり、暗くなった。首を落とされたようだ。



 ◆◇◆◇



「いくら結界で生き返るからと言って、娘の首を斬ることに抵抗は無いんですか!?」


「人を冷酷無比な人間みたいにいわないでよ。ちゃんと痛くないように斬ったじゃん。」


「そういう問題では・・・まあ、戦闘狂の母上に何を言っても無駄か。」


「戦闘狂って何よ。ちょっと強敵との戦闘になると血沸き肉躍るだけじゃん。」


「しっかり戦闘狂じゃないですか。」


 そう言うとお互い笑い合う。


「しっかし強くなったね~。魔力無しじゃ決め手に欠けるようになったか。」


 さっきの戦いを見るととても信じられないかもしれないが、母上は魔法が使えない。

 固有属性、『虚無』の性質上、母上の体には魔核が存在しないのである。


 昔は虚無属性保有者のことは「先天性魔核欠乏障害者」なんて呼ばれていた。


『虚無』は魔力を体力に還元する属性。身体能力は異常だが魔法が使えないという致命的な欠点があり、時代や国によっては差別対象となるものだ。


 それでもあそこまで強いのは、身体強化をたゆまぬ努力で極めきったことと、相棒である刀、妖刀・〈花弁ノ舞(ハナビラノマイ)〉の力でもある。この刀は魔法を斬り、魔力を喰らい花を咲かせる、中二心をくすぐりまくる刀だ。普通の人が持ったら所有者の魔力も喰われて死ぬ。


 つまり、魔法無しで戦うと最強。魔法を撃てばそれを喰われてさらに最強。魔法防御も魔力ごと斬られるので接近戦では意味無し。攻略法としては武器を魔法で強化して身体強化バリバリ掛けた上で接近戦。もしくは物理の遠隔攻撃での飽和攻撃といった感じだ。


 ちなみにこちらが魔法を撃たなくても、空気中の魔力を喰うから、少しは魔法を使える。少しであの威力なのだから笑う。しかもクールタイムが長いほど威力が上がるから、連撃を撃ちまくらないといけない。


 ある人は、魔力を喰われてスーパー最強になった状態からさらに上の実力で叩き潰すという、脳筋戦法を使った人もいるが、あの人にしかできない芸当だろう。


「今日はもう用事ないんだよね。だったらもう一回・・・」


「もちろ・・・あ。」


「どうしたの?」


「いや、その、ちょっと仕事では無いんだけど予定が・・・」


「デート?」


「デートというか・・・まあデートなんだけど・・・あ、お城抜け出していくから秘密にしておいてね。」


 父上と母上は万年・・・というか二人共時空属性魔法で不老だから億年バカップルである。国王が城を抜け出したりしたら普通大騒ぎのはずだが、父上も母上も最強で暗殺の心配など皆無なうえ、この二人の脱走を止めることは龍神にも鬼神にも不可能なので今や誰も騒がなくなっている。


「まあ・・いいけど。」


「やったー。あ、明日の朝には帰ってくるよ。」


「・・・」


 ◆◇◆◇


 暇だ。ジャックの課題地獄からは逃げ切ったし、魔法の練習も威力が上がりすぎて簡単に出来ない。王城暮らしゆえ友もいない。両親の不老魔法の副作用で兄弟もいない。召喚獣の黒猫又(ブラック・ケットシー)のクロスケは魔力隠蔽が魔力濃すぎて無理だから召喚すればジャックに魔力察知で居場所がバレる。


 街をぶらついていると、一人の女の人に声をかけられた。


「君、さっき“玄兎”と戦ってた娘だよね?もしかして君がエリリアちゃん?」


「・・・王城の中の訓練場は一般人立ち入り禁止で見えないはずですけど。」


「上から除いてたの。いつもの位置から。あそこから街を眺めるの好きだから。」


 王城内の訓練場が見える高いところ。そんなところはほとんど一つだ。

 そしてそこはある魔法騎士団隊長の定位置だ。


「もしかして、あなたがフウリ・ディア隊長ですか?」


「せーかい。よく今のヒントから私が分かったね。」


 フウリ・ディア。魔法騎士団4番隊隊長。6人の隊長の中の、3人の女騎士である、母上、ー紅蓮ーのホムラと並ぶ、もう一人の騎士である。彼女はいつも王城のてっぺん。屋根の上の国旗のポールの上に座っていて、街を見渡している。


 彼女の恐ろしいところは弓だ。風属性と身体強化の魔法で補正した矢。

 風より疾く、全てを貫く神技の一矢。王都全体を見渡し、野外での犯罪や、王都周囲の魔獣を見つけると、4キロ以上先のネズミ型魔獣の眉間すら撃ち抜く弓の腕で制裁を与える、冗談みたいな人だ。


 冗談みたいでもマジのガチなので、王都では魔獣の被害も、野外での犯罪も、喧嘩すらほとんど起こらない。それは彼女が風魔法の応用で街全体の音を聞き取り、空気のゆらぎすら感知して、正確無比な攻撃をしてくるからだ。


 ただ座っているだけで、王都での犯罪を阻止する。存在そのものが抑止力。ヒロ●カのNO.1ヒーローみたいだ。


「あなたみたいな大物が、何の用ですか?」


「まあまあ、それより君は城から抜け出してきたの?この国の王家は全員そんなのばかりだね。」


「まあ、全員暗殺の心配は無いぐらいには強いですし。私は二人と違って抜け出すのに苦労しますけど。」


「まあいいか。用っていうのは君がちょうどいいと思ったから。」


「何にちょうどいいんですか?」


「それはね~。私の妹の魔法の師匠。」


「・・・嫌ですよ。」

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[一言] 最強お母さんw 好きです
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