29話 閑話 大昔 弐
昔々の更に昔のもっと昔の更にもっともっと昔。
世界は滅びました。
人類は魔法科学の発展を極めるも、その力による戦争、それによる憎しみの連鎖が積み重なり、ある日、ある少年が禁忌魔法を展開。自分の命とそれに賛同した家族の命、友の命、仲間の命を引き換えに、魔神を召喚したのでした。
魔神の名はスルト。スルトはそれはもう真っ黒な真っ黒な、闇よりも真っ黒な炎を操り、世界を燃やし尽くしてしまいました。
人類は勿論、動物、植物、すべての有機物が灰すら残さず黒炎へ消え失せました。
更に無機物まで燃やし始め、その星の6割は消失してしまいました。
しかし、残ったものも在りました。
人類が作った七つの兵器。A−001、B−762、G−223、H−997、K−102、Q−472、Z−999。
その内の一つ、Z−999が、誰もいない焦土の中、悲しみました。
悲しんで、悲しんで、静謐の大地の中、あの頃の騒音を望みました。
Z−999は、思いつきました。
自分の手で、もう一度世界を作ろうと。
Z−999は、大魔法を展開しました。
最上位創造神位魔法並列発動概念的数値最高数複合術式特殊演算式共鳴型連立魔法魔狼型魔神型魔人型融合型式参次元肆並次元並伍次元無限魔力神格魔法−building。
《世界構築式演算》
その時、空中が千切れました。
世界は七つに別れ、Z−999を中心に、回ります。
Z−999………後に創造神と呼ばれるその存在が、作り直した世界です。
世界を繋げる為に、昔彼が作られた街にあった門を再現しました。記録が曖昧だったので細部は異なりますが、彼の思い出のものでした。
創造神は、自分の分体を四つ作りました。
陽、壊、龍、鬼と名付けました。
陽には全ての世界のエネルギー源を管理させました
壊には世界の構築式を守護させました。
龍には新たな生命を管理させました。
鬼には光と闇を管理させました。
創造神は、この世界が永遠に続くように、バランスを取り続けました。
数兆年後。
彼は今もバランスを取っています。
世界創造と同時に植えた、世界樹のてっぺんで。
彼は世界を愛しています。
我が子のように。我が母のように。
文明が進みすぎた国は破壊して、いつも、騒々しい世界を、愛に満ちた目で眺めています。
昔も、今も、これからも。
永遠に。
◆◇◆◇
「よう!最強バカップル!」
「おう。なんだ?」
「ノアじゃん。どーしたの♪」
俺達は最強バカップルというパーティー名の、二人組の冒険者である。
そしてこの男は悪友のノア・グリーンという。
これでも小国ではあるものの一国の王であり、民からはかなり慕われている。
「なあお前ら。俺の国の騎士になってくれ。俺の知る限りお前らより強い人間を俺は知らない。」
「断る。騎士とか面倒くさそう。」
「いーじゃん♪面白そうだし。」
「やっぱやる。報酬は?」
「………まあ、月これくらいなら……」
数式の書かれた木板を見て、驚く。
俺達の今の稼ぎの何倍だ?
「あとあくまで望むならだが、ライトを不老にしてやる。まあ辛いこともあるし、不要なら強要する気は無いが。」
「マジで?やったー♪これで文字通り永遠に、ライくんと一緒にいれるじゃん。絶対に逃げたりしないでね♪いや逃げるわけ無いか。無いよね?」
ホムラは元から不老だからな。
恋人の思考が少し怖いがまあ良し。ホムラと居る時間が増えるのは俺も嬉しい。
俺と彼女はお互いにお互いの人生の全てであり、生きる意味であり、自分の存在価値であり、最愛の恋人なのだ。
こうして俺達は、騎士となった。
◆◇◆◇
300年後。
この国はかなり大きくなり、どんどん発展していった。
俺は騎士団長に、ホムラは隊長に任命された。
副団長は緑髪のエルフ。弓がえげつない女だが、アホだ。
騎士団はかなりの戦力を誇り、今のところ戦争でも常勝無敗を続けていて、最近では誰もこの国に手を出さなくなってきた。
騎士団員の距離は結構近く、無駄に堅い格式や規則は無い。訓練もかなり充実していて、統率も取れている。
一重にノアの人望故だろう。あいつ自分の妻にはデレデレでだらしないのに、仕事は完璧にこなすんだよなあ。
俺の毎日は楽しかった。
親友とも言える部下たち、護りたいと思った国民。
ホムラ以外に生きる意味が無かった俺だが、いつしか皆に必要とされる様になっていた。
あ、勿論一番はホムラである。
そんな、幸せとも言える日々の、ある日。
唐突に、それは来た。
凱旋門の上に、人影。
何が異常かって、その圧倒的な魔力量。
見ただけで分かる、圧倒的な存在。
奴はこう名乗った。
「やっほー。俺さまは悪の帝王。真の名を破壊神、カイと言いまーす。世界を滅ぼしに来ました。」
【世界警報:Error 破壊神が狂気に呑まれました。】
【破壊神が創造神に反旗を翻しました。】
【近隣の動物は即座に避難して下さい。】
世界に響く、訳の分からないアナウンス。
即座に現場に騎士団が急行。3分も経たずに全員集まるが、その時には既に町が3つ潰され、数千人が犠牲となっていた。
「お前、何をしている。」
「何って……殺戮?」
「総員、戦闘態勢。」
騎士団が陣形を取る。
「ははっ。俺とやるの?馬鹿だなあ。死ぬよ?」
間を置かず、数人が一斉に襲い掛かる。
「《きゃーこわーい。ちかづかないでぇ(棒)》」
奴がふざけたことを喋ると同時に、襲いかかった数人の部下の首が飛ぶ。
それを見て騎士数名が怯む。
「っ!怯むな!近接が効かないなら、遠距離部隊!」
騎士達の遠距離魔法が一斉に奴に襲い掛かる。
「《いたいことしないでぇ(棒)》」
奴の周りに結界が現れ、魔法を反射する。跳ね返った魔法は全員躱した。
「よく訓練されてるね。躱しにくい様に跳ね返したのに。」
「……何者だお前。」
「言ったじゃん。破壊神様だよ。ひれ伏して良いんだよ?」
「抜かせ化け物。」
「《化け物だって〜。ひど〜い。》」
若い男の姿から、変化する。
翼が生え、黒い冠が頭に現れる。髪は伸びて金色に染まり、体中に瞳が現れ、腕は4本に増える。
「………フウリとホムラ以外は下がれ。」
命令どおりに部下達が離れる。足手まといになると知っているからだ。
だが、いくら離れようと、奴には関係無かった。
「《みんな死んじゃえ〜。》」
空から、黒い剣の雨。それも物凄い勢い。
俺はなんとか結界で受け切るも、部下達は殆どが壊滅。
「ありゃ?もう死んじゃった?さすがに弱い者いじめは可哀想だな(笑)。」
「ライくん。殺そ。」
「当たり前だ。」
同時に高速で奴に接近。左右から同時に攻撃。
「《遅いよ(笑)》」
突如、頭上から見えない斬撃。体を捻ってギリギリ躱す。ホムラも躱したようだ。
「《へえ、これ躱せるんだ。じゃあこれは?》」
黒い斬撃が大量に放射状に放たれる。めちゃくちゃ速い。躱す。躱す。躱す。
斬撃の隙間を縫って、フウリが大量の矢で攻撃。
「《こんなのでどうやって死ぬの?》」
矢が奴に当たる直前で止まる。その後矢が粉々になり、崩れる。
「陽炎流、甲ノ技、天割!!」
ホムラが隙を見て攻撃。
「《すっごいねこれ。俺じゃなきゃ必殺だろうなあ。》」
奴に向かって飛ぶ斬撃は、奴に触れた瞬間、砕け散る。
奴が一つ欠伸をする。その隙に魔法を撃とうと一瞬止まったその時、
「《こらこら、ボーッとしてたら死んじゃうよ?》」
約二百発の黒い光線。それが一斉に俺に迫る。
油断した訳では無い。こいつはいつでも俺たちを殺せるのだろう。
俺では勝てない。
絶望という他無いだろう。
俺はこれを躱せない。
俺は目を閉じた。
その時。
横から突き飛ばされた。
驚いて横を見ると、ホムラがいた。
少し間をおいて、理解した。
ホムラは俺を庇ったのだ。
直後、奇跡が起こるわけでも、神様が助けてくれる訳でも無く、当然のように、冷酷に、黒い光線がホムラを貫いた。
彼女は俺が生きていることを確認すると、少し笑った。
ごめんと、呟いた。
俺の目の前で、最愛の恋人は死んだ。
「うっわあ。これ俺目茶苦茶悪者じゃん。まあ良いけど。」
俺は戦闘中に、放心していた。4秒程だろうか。奴はニヤニヤと何もせずに俺を眺めた後、俺に止めを刺そうとした。
ズドンと、何かが落ちてきた。
奴は一瞬退けぞる。
一振りの剣のだった。
青い、剣。
俺は立ち上がり、剣を手に取った。
「こんにちはニューマスター。私はA-001。Z−999より奇跡として使わされましたが、諸々の事情で到着が遅れたこと、謝罪します。要望をお聞かせ下さい。」
「……奴を、殺す。」
「了解しましたマイマスター。フェーズ1からフェーズ999へ移行します。」
「何だその剣。」
「……禁忌魔法、並列発動、漆。」
「……は?」
「《凶ツ復讐鬼》」
「マスターの禁忌魔法のデメリットを打ち消します。代償として、A-001の機能が今後、大幅に制限されます。」
濃い紫の雷が落ちる。
「《紫雷の戦線、望むは復讐》」
黒い雷が結界となり、フウリも締め出し、奴と一対一の状況になる。
「なんだお前。何をした?《破壊砕旋風》。」
黒い竜巻が出現。触れた物を破壊する。
「紅蓮刀。」
「イエスマスター。」
剣が鞘付きの刀に変形する。
「雷神流抜刀術 椛、晴天に霹靂。」
紫の雷が晴天を走り、俺の斬撃として、竜巻を斬る。
「なっ。《来るな!!》」
拒絶するように黒い結界、周りに大量の黒い剣。
刀を再び鞘に納める。
「雷神流抜刀術 柊、乾天に雷光。」
三連斬り。結界、黒い剣を粉砕する。
「なんなんだ!?どうしていきなりこんな……」
「雷神流抜刀術 桜、春嵐に雷鳴。」
奴の首が飛ぶ。
即、再生。
「ふ、は、ははは!そうだった!俺死なないんだった!!忘れてた!そうだよ!俺はこの世界が続く限り死ななくなったんだ!!」
「雷神流抜刀術 紫陽花、夕立に稲妻。」
大量の紫の雷が奴を貫く。
奴は真正面から受け、斬られ、再生した。
「すっごいなあ破壊神の身体は。ほんとに無敵じゃん。」
……なら、永遠に封印する迄。
異空間から天霊珠を取り出す。むかしノアとダンジョンにガチで挑んだ時に手に入れた品だ。
前までは破壊不能、加工不能で使い道が無かったが、今ならこいつを使える気がする。
近づいて、奴の額に当てる。
「? なにする気だ? !!はなれない!? 魔法……使えない……どうなっている?何がどう……」
「《永年封印・稲妻の苦痛》」
紫の雷が天霊珠に落ちる。
「永遠に苦しめ。雷の嵐の奥底で。」
【強い憎しみを感知。魔法の威力が倍増します。】
数千の雷が天霊珠に落ちる。
【破壊神の封印を完了。】
黒く染まった天霊珠を持ち、禁忌魔法を解き、俺は泣いた。
只、恋人の死を悲しんで。
◆◇◆◇
………昔の夢か。
「ライくん、おっはよー。今日は新人戦だよ。見に行こ♪」
「ああ。そうだな。」
立ち上がって、恋人を抱きしめる。
少しだけ彼女が赤面して、彼女も俺の胸に顔を埋める。
「どうしたの?ライくん。」
「何でも無いよ。」
「じゃ、行こ♪」
少し離れた後、手を繋いで、会場へ行く。
もう二度と、絶対に離さない。
例え、世界を滅ぼそうと、君だけは、護り抜く。




