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「・・・それなら、騎士団から派遣するっていう方法も、あったんじゃ・・・?」

ジェイドさんの説明に、疑問が浮かんだ。

私は彼に連れられて、白の騎士団本部へと向かうところだ。

彼の話によると、私はこれから白の騎士団に所属することになるらしかった。

けれど、子守として雇用された私が騎士団に所属するのなら、いっそのこと騎士団に所属している者の中から適任者を選んでも良かったように思える。

これはきっと、おかしな疑問ではないはずだ。

窺うように尋ねた私を見て、彼は困ったように微笑んだ。

「・・・出来れば普通の女性を、とのことでしたので」

「陛下とレイラさんのご希望、ですか?」

小首を傾げて尋ねれば、彼はひとつ頷いて口を開く。

「ええ、レイラさんが一般家庭の出身なので、そう希望したようです。

 私や騎士団の考えとしては、信用がおける者であれば構わない、ということで・・・」

「・・・私、普通で良かったです・・・」

思わずついて出た呟きに、彼が噴出した。

「可笑しな人ですねぇ」

「・・・そう、ですか・・・?」


「そういえば、」

「はい」

気になっていたことを思い出して、言葉にする。

「昨日、食堂で見かけた侍女さん達は、手首に赤や白のコインを着けてました。

 それって、所属先が紅や白の騎士団ってことですか?」

「ええ」

結構ちゃんと見てるんですねぇ、と目を丸くして感嘆したかと思えば、彼は目を細めて教えてくれる。

「彼女たちは家柄や素質などの審査を通過して、それぞれの騎士団に就職したんですよ」

「でも・・・同じ侍女なのに、所属先は違うんですね?」

さらに質問すると、彼は悪戯っぽく口元を緩ませた。

「紅と白の、役割は知ってます?」

「ええと・・・確か紅は、王宮の警備と、貴族の監視ですよね?

 隠し財産がないかどうかや、諸国との繋がりを必要以上に持っていないかどうか・・・。

 ・・・あとは、王族の脅威の芽を摘む・・・なんていうのも、聞いたことがあります」

「・・・やけに詳しくご存知なんですね・・・?」

彼の水色の瞳に剣呑な光が宿って気がして、私は慌てて手を振った。

「あの、孤児院の院長に聞いたんです。

 私がこの世界にやって来て、いろいろ教えてもらいました」

「・・・ああ・・・なるほど・・・」

そう呟きながら、何かを考えているらしい彼が私を見つめる。

その瞳には、腑に落ちたものがあるのか、剣呑な光はすっかり消えていた。

「それじゃ、白の騎士団の役割も知っていますよね?」

疑惑の目を向けられずに済んで胸を撫で下ろした私は、気を取り直したらしい彼の問いかけに、呼吸を整えてから答えた。

「・・・国の持ち物の管理と、王族の警護、ですか・・・?」

「ええ、そうです。

 そして、各騎士団の役割の一端を、所属している侍女も担っているわけですね。」

彼が目を細めて頷いて、説明を続けれくれる。

「・・・紅所属の侍女は、基本的には来客の案内などを主な職務としてこなしながらも、

 同時に王宮の警備も任されています。

 男性の騎士だけでは、細部まで安全を確保することが難しい場面もありますからね。

 白の侍女は、王族の世話や所有物の管理が主な業務です。

 王宮での催し事がある時には、来客の世話や客室の管理を任されることもありますよ。

 そのあたりは警備との兼ね合いがあるので、紅侍女と一緒に仕事をすることもあります」

「・・・なるほど・・・」

そこまで聞いて納得する。

私は子守だから、王族の世話に分類されるというわけだ。

「ですから、あなたはリオン皇子のお世話を担当するので、白の所属になるんですね」

彼は人差し指をぴっ、と立てて話してくれた。

そして、コインの謎が解けたところで、もうひとつ納得できることがあった。

昨日、食堂以外で私の前に現れた侍女さんは全員、紅のコインを身につけた侍女だった。

今聞いたばかりの話では、夕食の準備を担当するのは白侍女だろうけれど、私の覚えている限りでは、彼女たちのコインの色は、赤だったと思う。

・・・私に対しての警戒の色だったのだ。

蒼鬼が連れてきた人間とはいえ、途中で立ち寄っただけの孤児院で働いていた渡り人がやって来たのだ、警戒して当然だと理解はしている。

ここはそういう場所なのだ。

そう理解しようとするのに、改めて突きつけられた現実に、心が萎んでしまいそうになる。

・・・必要があってやむを得ず傷つけられたのだと、渦巻いた感情を飲み込むのには、まだもう少し時間がかかるのかも知れない。

それでも、せっかく団長にもらった機会だからと、沈みかけた気持ちを立て直して、俯いていた顔を上げた、その時だ。


ふにっ


「な、なんですか・・・?」

思わず立ち止まって、彼のことを見上げる。

ジェイドさんが、私の頬に人差し指を突き刺しながらにこにこしていた。

「可愛い顔が台無しですよ?」

私が戸惑っていると彼は、ふにふにと、何度も頬を指で押しながら言う。

「どうせ昨日のことでも思い出してたんでしょう?」

「・・・否定はしません・・・」

「まだ怒ってますか・・・?」

指を止めて、私の顔を覗き込む。

その目は、透き通った空の色で、なんだか悲しそうに揺れていた。

「・・・いえ、怒ってるというか、悲しいというか、虚しいというか・・・」

子犬のような目を向けられて、私は返答に困ってしまった。

今思い出そうとしても、あの時はいろいろな感情が渦巻いていたから、自分でもひとつひとつが何なのかは分からないのだ。

彼が心配そうな表情で、言いよどんだ私の言葉を待っている。

昨日も今日も、私を試すことなんて歯牙にもかけないように見えたのに、実は他人の機微に敏感な人なのかも知れないな。

・・・すごい人なのに、私なんかの機嫌を気にしちゃうの・・・?

そう思うと、可愛いやら可笑しいやら、不思議な気持ちになってつい、噴出してしまう。

きっと私よりも年上だろう彼に対して抱いた、失礼なこの気持ちを許して欲しい。

そんなふうに思って口を押さえた私を見て、彼は訝しげに眉をひそめた。

私が黙ってしまったから、次に私の口から零れてくる言葉を拾い上げようと思っているのだろう。

「大丈夫ですよ、私、本当はジェイドさんが優しいの知ってますから。

 昨日のことは、仕方なかったって、これからちゃんと納得します・・・」

素直にそう告げたら、彼が思わず、といった風に格好を崩した。

「だから、これからは私の味方になってくれたら、とっても嬉しいです」

そう言って見上げれば、彼は見たことのない爽やかな笑顔で、しっかり頷いてくれた。




それからしばらく歩いて、ここは3階のつきあたりだろうか、ある部屋の前に辿り着いた。

ドアの真ん中には、細やかな細工が施された、白いタイルのような表札がかかっている。

「ここが白の騎士団の本部、ですか・・・?」

隣に並んだジェイドさんに尋ねる。

ドアを見ただけでも、華やかというか、格式高いというか・・・そんな雰囲気が伝わってくるようだ。

個人的には、騎士団はもっと無骨で飾り気のない場所をイメージしていた。

ドアを見た私の感じたことを、彼も察してくれたのか、

「3つの騎士団の中では、一番品があると思いますよ。

 王族関係の仕事なので、常に国民の目が向けられているという意識を持つように

 心がけているみたいですし」

・・・場違いな気が、とてもします・・・。

怖気づいて足の竦んだ私は、なんとか呟きを吐き出す。

「・・・私、全体の造りとして、人前に出ることに対応してないと自覚してるんですが」

「自分のことは、過小評価するんですねぇ」

まぁ、とりあえず開けてみましょうね、と言いながら、彼は宥めるように私の背中をぽんぽんと叩いて、ドアをノックした。


一瞬の間を空けて、ドアの向こうから返事が返ってくる。

それに対して、ジェイドさんはあっさりドアを開けて、部屋の中へ入って行った。

そして、ドアを開けたまま私を促して部屋に入れようとしてくれる。

私はその一連の流れが一瞬の出来事のようで、戸惑って足が竦んでしまった。

すると、彼が空いている方の手で私の手を掴んで、軽く、けれど抗うことは許されないような力加減で私を部屋の中へと引き込んだ。

「・・・失礼します」

加えられた力に数歩たたらを踏んだ私が、なんとか足に力を入れて真っ直ぐ立って頭を下げると、ふいに、いやに黄色く高い声が響いた。

「お兄様!」

およそ兄を呼ぶ時の声とは思えない。

そっと頭を上げて、声のした方に目をやれば、ジェイドさんに1人の女性が抱きついていた。

彼は慌てることなく、その女性を受け止めて、やんわり離れるように宥めている。

・・・どこかで見たことが・・・金髪で、背が高くて・・・。

「・・・あ」

思い当たって、思わず声がこぼれてしまう。

すると、自分にしか聞こえないような小さな声だったのに、ジェイドさんに抱きついた女性は、ゆっくりと彼から離れて身なりを整えた。

そして、咳払いをひとつ。

「・・・失礼。

 初めまして。私はヴィエッタ。白の騎士団副団長を務めています」

先程までの姿はどこにいったのか、彼女は綺麗な顔をキリリと引き締めて、私に向かって愛想の欠片もなく言い放った。

その横ではジェイドさんが苦笑している。

そんな彼を一瞥した私は、自己紹介した方が良さそうだと口を開いた。

「・・・ミナです。

 宜しくお願いします」

お辞儀をして顔を上げると、彼女がひとつ頷いたのが目に入る。

そして目の前で、形の良い、引き締まった唇が動いた。

「昨夜は、あなたを試すようなことをして、申し訳ありませんでした。

 通常、白の騎士団に属する侍女には、適性検査を行っているのですが・・・。

 今回ばかりは異例でしたので、あのような方法を取りました。

 蒼の団長のコインをお持ちですから、疑う余地はなかったのですが、念のためという

 ことでしたので・・・、どうか、お気を悪くなされませんよう」

とても丁寧な口調なのに反して、彼女の言葉には温度が感じられなかった。

彼女が一定に無表情だからか・・・それとも、私に対してあまり良い感情を抱いていないからなのか・・・。

観察するように見つめてしまった自分に気づいて、慌ててジェイドさんを一瞥して言葉を紡ぐ。

「・・・ジェイドさんからも、謝罪の言葉をいただきました。

 あとは自分の中で消化しますから・・・お気遣い、ありがとうございます」

そう言った私は彼と目が合って、お互いに微笑んだ。

自分の肩の力が抜けていく感覚に、彼女と相対して少なからず緊張していたことを知った。

どうやら、私に謝罪を、というのは昨日あの場にいた人達の総意のように感じる。

顔を上げるだけの気力がなかった私は、あの場に誰がいたのかすら、知らないけれど・・・。

・・・もしかしたら、団長が何か言ったのかも知れないな。

「さて、ひと通り挨拶も済んだところですし、ヴィエッタ?」

「はいお兄様」

私から視線を移して、ジェイドさんが彼女に向かって問いかけた。

すると、彼女は笑顔を浮かべて頷く。

ずいぶんと態度にムラがある人のようだ、と感想を抱きつつ私が2人のことを見ていることに気づいたのか、彼が教えてくれた。

「・・・あぁ、マツダさん。

 お気づきかと思いますが、ヴィエッタは私の妹なんですよ。

 歳が離れているので、陛下とは一緒に育っていないんですけどね。

 ・・・止めたのですが、どうしても白の騎士団に入ると聞かなくて・・・」

「だって、お兄様の側で働くには、ここが一番都合がよかったんですもの」

「まぁ、副団長まで上り詰めたのだから、認めなくもないですが・・・」

彼女の兄を見つめる時の表情を複雑な思いで見ていると、視線が集まっている気がして、私はおもむろに周囲に視線を投げた。

入ってきた部屋は仕事机が綺麗に並んでいて、事務官なのだろうか、黒い制服に身を包んだ人達が、せわしなく手を動かしたり書類を睨みつけたりしていたのだけれど・・・。

その場で仕事をしていた人達が、動きを止めて固まっていたのだ。

その視線の先を辿っていくと・・・そこにはヴィエッタさんがいることに気づく。

当の本人は、自分が注目されていることには全く気づいていないのだろう、ジェイドさんに何かを話しかけている。

私はこの空間の不思議な空気に飲まれつつ、どうしたものかと息を吐いた。

すると、ジェイドさんが一生懸命話をしているヴィエッタさんの肩を抱く。

「・・・ヴィエッタ、ここで話していると周りの皆さんのお仕事の邪魔になりますから、

 団長の執務室に行きましょうか」

そんな彼の言葉に、にっこり微笑んだ彼女を見ていた事務官達が、ほぅ、と見とれてため息をついていたのを、私の耳はしっかり捉えていた。

・・・私、ここに所属して大丈夫なんだろうか。





「ご足労いただいてありがとう、補佐官殿」

おっとりとした、聞く者をほっとさせる声が耳に心地良い。

「いえいえ、これくらい何でもないですよ」

涼やかな、穏やかな口調。

「団長、お兄様、私はこれから訓練がありますので・・・」

整った目鼻立ち。

3人が顔をつき合わせている光景は、神々しさすら漂う気がする。


最初に入った部屋からもう1つドアをくぐって団長の執務室に入った私は、仕事机で書類を手にした、女神のような美しい女性を目の当たりにして、固まっていた。

確かに、3つの騎士団の中で一番気品があるとジェイドさんは言っていた。

・・・気品というか、もはや神々しさと言い換えたくなるほど、綺麗な人が団長だったとは。

「・・・ではお兄様、たまには父上母上にお顔を見せてあげて下さいね」

気がつけば、可愛らしい挨拶をしてヴィエッタさんが出て行くところだった。

ずいぶん長いこと呆けていたらしい。

「そうですねぇ」

ジェイドさんは曖昧に言葉を濁して、それを見送っている。

私はどこか別の場所から、そのやりとりを見ている気持ちでいたのだが。

「すみません、せっかく来ていただいたのに。

 ・・・お待たせしました」

ふわっとした口調で話しかけられた私は、思わず背筋を伸ばした。

柔らかい物腰の向こうに凛とした何かがある気がして、自然と背中に緊張が走る。

「は、はい」

「私は、ディディアといいます。

 白の騎士団団長をしています」

「ミナ、です。宜しくお願いします」

穏やかな表情を崩さない彼女に、私は鼓動を速くしながらも自己紹介をしてお辞儀をすると、丁寧な会釈が返ってくる。

そして、ゆっくりと立ち上がって私の目の前にやって来たかと思えば、ひとつ息をついて、悲しげに目を伏せた。

私の隣ではジェイドさんが、その様子を静かに見守っている。

「・・・まずは、昨日のことをお詫びさせて下さい。

 必要なことだったとはいえ、女性を傷つけて良いはずがありません。

 そのへんに転がっている男ならば、剣のひと突きくらい許されるでしょうけど」

申し訳なさそうに綺麗な言葉を並べていた口から、だいぶ偏った内容が滑り出てきたことに困惑するけれど、とりあえず私に対して謝罪したい、という気持ちでいるらしい。

今朝目が覚めた時には、いつも見ているはずの自分の顔にすら嫌気がさしていた私だけれど、さすがに謝罪の言葉が3回目にもなれば、顰め面をする気にもなれなかった。

なんだか、私がぐずっているだけのような、そんな気分になってしまうのだ。

「あの、もう大丈夫ですから。

 わざわざ、ありがとうございます」

隣でジェイドさんが苦笑している。

それが私に向けられたものなのかは分からないけれど、くすくす聞こえる笑い声に、自分の眉が自然と八の字になってしまうのを感じて息を吐く。

「・・・昨日、蒼鬼殿があなたを連れて行ってから少し話し合ったのです。

 最初は【合否】についてだったのですけれど、結果として、やってはみたものの、

 結局誰ひとりとして、気持ちの良いものではなかったという話になりまして・・・」

沈んだ表情も綺麗だな、なんて、目の前にある彼女の顔を見て、そんなことを思う私は、どこか彼女の言葉を自分のことだと思えずに聞いていた。

どうやら私は、怒りや苛立ちといった感情が長続きする方ではないらしい。

「しかも、今朝は蒼鬼殿がいたくご立腹で・・・」

頬に手を当てて、ため息混じりに彼女が言ったのに対して、私は思わず呟いていた。

・・・何かあったのだろうか。

「・・・団長が・・・?」

「彼は、あなたが苛められるのは我慢がならないそうですよ?」

何を思い出しているのか、くすくす笑いながら彼女が教えてくれる。

その台詞が耳に入った途端、私は頭の中で自動再生された昨夜の出来事に顔が熱くなるのを、必死に抑えていた。

これで、私は何もなかったかのように振舞えるのだろうかと心配になる。

その横ではジェイドさんが「苛めただなんて、心外です」なんて、まなじりを上げながら誰にでもなく呟いていた。


「そういえば、」

何か別の話題を、と考えを巡らせて口にすれば、2人の視線が集まった。

「昨日のお昼に食堂に来た人、ヴィエッタさんでしたよね・・・?」

ジェイドさんが目を見開いた。

「よく覚えてますね」

私はひとつ頷いて、昨日の話をする。

「はい、綺麗だったから・・・。

 ヴィエッタさんが入り口でキョロキョロしてて・・・すごく目立ちますよね、彼女。

 ・・・ジェイドさんが急いで出て行ったので、覚えてました」

「そうでしたか。

 昨日、あなたを試す打ち合わせをするのに、彼女が探しに来ていたんですよ。

 あわよくば、直接言葉を交わそうと思っていたみたいですけど」

・・・大事なお兄様に近寄る、変な虫だと勘違いされたのだろうか。

思わず眉をひそめると、彼も軽く息をついていた。

「気持ちが先走ってしまうのが、あの子のよくない癖ですね。

 愛想のない子ですけど、悪気はないんですよ。

 ・・・接する機会が増えると思いますが、気を悪くしないで下さいね」

何かあったら、もちろん私にすぐ言って下さい、と付け加えて、ジェイドさんが微笑む。





そして、私は白の騎士団に所属する者として、ディディアさんから白いコインを受け取って、代わりに誓約書にサインをしたのだった。

誓約書といっても「王家、国家に対して不利益になることはしません」という極めてシンプルな内容がが書かれていた。

ジェイドさんの話では「不利益の基準は陛下の裁量」だけれど、各騎士団の団長達とジェイドさんを交えて判断することになっているのだそうだ。

普通に働いていれば大丈夫だとジェイドさんが囁いてくれたので、それを信じることにして、私は頷いた。

それから、気になっていた制服の件は、当分は私の手持ちの服で対応することになった。

王族と行動するので、それなりにいい物をこれから用意するのだそうだ。それも、これから採寸して発注するのだという。

経費かけすぎてませんか、と問えば、ジェイドさんもディディア団長も、驚いて目を丸くしている私を一笑に伏した。

「そんなことを気にする必要はありません」・・・だそうだ。

・・・後で高額な請求書とかが、私のところに来たらどうしよう。

「嫌な予感がします」と呟いて手首を見れば、今度は、そのコインは手首を切り落とすか団長がじかに外すかしない限りは返却不可能、とのこと。

・・・どこかで聞いた台詞だ。騎士団の間では常套句なのか。




かくして、そのあと無事に、私は子守1日目を迎えることとなったのだった。









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