小話 彼の隣に並んだら5
彼の手が、陽の光りを反射して輝く銀のペンを握る。
大きくてごつごつしているけれど、その手はとても器用だ。剣を握り締めるだけじゃなく、大抵のことは何でもこなす。そして、とても強くて優しいのを、私は知っている。
催促されるようにして彼の頬に唇を寄せた私は、案の定というべきか、彼の中にある何かの起爆スイッチを押してしまったらしい。祝福だなんて可愛い言葉の枠には収まらないような口付けを、どういうわけ与えるはずの私が受けて、参列者の歓声を誘ったのはついさっきのことだ。
彼の手が、さらさらと流れるように動いていく。
私はそれを隣で眺めながら、唇と一緒に体力気力まで奪われた瞬間のことを思い出して、とても居心地の悪い気持ちになっていた。
ちらりと視線を上げれば、参列者が彼が婚姻届にサインする様子を固唾を飲んで見守っているのが分かる。靴を履かせて、お返しに祝福を・・・という時とは、周囲の雰囲気がまるで違う。
・・・知っている顔を見てしまうと緊張がぶり返してきそうだ。
意識しないように、と内心で首を振った私は、そっと彼の書いた部分を覗き込んだ。日付や必要な欄を埋めていった彼は、最後の部分、氏名欄に自分の名前を書き込んでいく。
「・・・シュバリエルガ=ゼナワイト・・・」
誰にも聞こえないように、そっとその名前を読み上げる。彼の家名を知ったのは、ごく最近のこと。北の大国の大使から、誘拐紛いのご招待を受けた時に、かの国の軍人さんから聞いたのだ。
そのあと家名について尋ねたら、彼はあっさり「必要にならなかったから特に話題にしなかった」とのたまった。本当に、何でもないことのように。
確かにこれまで、家の名前なんて必要にならなかったのだ。私にとって、彼は彼。それだけで、私達には十分だったのだから。
けれど、今日からはそういうわけにもいかない。私も彼と同じ家名を名乗ることになるのだ。
そんな思いが囁きにこもってしまったのだろうか、サインし終えた彼の頬が、わずかに緩んだ。鼻を鳴らしながら、ペンを置いて私を見る。
「ミナ」
自分の番だ、と自覚した途端に緊張が湧き上がる。痺れを切らせたらしい彼が、すぐに動かなかった私の手を取って、ペンを握らせた。
・・・これを書いたら私は・・・。
意識すればするほど、手が震える。
白くて、ふんわりと優しい肌触りの生地が、手の揺れに合わせてさらりと揺れた。彼と一緒に選らんでウェディングドレスだ。いくらか重みを増したような気がする頭には、彼の母である院長が用意してくれた髪飾りがある。それでも視界がぐらつかないのは、彼の用意してくれた靴を履いて立っているからだ。
・・・そっか・・・。
考えがひと巡りしたところで腑に落ちた私は、そっと手を伸ばす。
呼吸を整えて、寄り添ってくれている彼の体温を意識したところで、私の耳は音を拾わなくなった。頭の芯が冷えていく。自分だけが時間から切り取られてしまったような感覚に陥った私は、もう一度だけ自分に確かめた。
・・・いいんだよね。
そして、自分の名前を記す。
それは、これまでの人生をずっと一緒に過ごした名前。生まれた世界で与えられた、私を表す大事なもの。愛情や喜びと一緒に、願いをもって与えられたものだ。
きっとこれが最後になる。
院長の養子として登録されているから、この世界の私の名前はミナ=ゼナワイトだった。知らなかったけれど。
けれどそういうことじゃ、ない。
私は確かに、松田未菜だった。
だからこの婚姻届に書くのは、やはり自分の名前でありたい。それでもし受理されなければ、その時は書き直そう。今は、もう会えない家族に感謝しながら名前を書きたかった。
「お世話に、」
書き上げた文字が、どこか神妙に鎮座している気がする。今の私の気持ち、そのままだ。ガチガチになって、緊張している。
今日までの私と対峙したような、おかしな気分になって頬が緩む。
「・・・なりました」
腰を抱いて寄り添っている体温が、ぐい、と近づいて、また頬が緩んだ。
ぱちん、と何かが弾けたように音が戻って、周りの人達が笑顔で手を叩いて祝福してくれている様子が、視界一杯に広がる。それは眩しくて、私は思わず目を細めた。
「うぇぇぇ・・・」
ずびずびしているのは、私ではなくアンだ。
2人がサインした婚姻届は額縁の中に収められて飾られていて、参列してくれた人達が自由に眺めることが出来るようにされていた。明日の朝、シュウと2人で白の役所へ提出しに行くことになっているから、忘れずに持って帰らなくては。
それも忘れてはならないのだけれど・・・今は何より目の前の泣き虫さんを宥めることにして、私は苦笑しながら背中を撫でてみる。
「ほんとに、泣き虫さんだねぇ・・・」
「け、けっこん・・・っ」
「ごめん、しちゃった」
先手を打ってみると、彼女は鼻を啜りながら首を振った。思い切り。
「ちがうもんっ」
隣のノルガまでが苦笑する泣きっぷりだ。
「・・・お、おめでとうっ!」
ずいぶんと乱暴なお祝いの言葉に、私はついに噴出した。もう我慢出来ない。可愛すぎて。
同じように、ぷっと噴出したノルガと目が合った。彼の方は、アンに申し訳ないと思っているのだろう、かなり控えめに噴出した。
「ありがと。アン、大好き」
怒られる前に、と抱きしめると、案の定彼女はまた泣いた。
「それにノルガもね。
来てくれて、ありがとう」
「う、うん・・・」
改めて告げた言葉に、照れくさそうに頬を掻くノルガに、私にしがみつくようにしていたアンが爆発する。
「でれでれすんなっ」
「・・・結局俺は怒られるのね」
怒られたのに甘い目つきをしたノルガは、威嚇する子猫のようになってしまったアンの頭をぽふぽふ叩いて、両手を広げた。
「はい、どうぞ」
「・・・ぅ、」
腕の中で小さく呻いた彼女が、次の瞬間彼の腕の中に飛び込んだ。ぽすん、というよりは、がしっ、とだけれど。
「うわぁぁん!」
「はいはい、よく言えたねー」
ぎゅぅぅ、と彼女を抱きしめたノルガの顔が幸せそうで、思わず私まで頬が緩む。中てられて赤面するのを飛び越えた気持ちに腕がむずむずする。私も一緒に抱きつこうか、なんて考えてしまったのも仕方ないと思うくらいに、嬉しい。
この2人も、いつか結婚するのだろうか。そうなったらいいな、という勝手な希望を抱いてきたけれど、あながち遠い夢でもなさそうだ。
アンとうまくいってからノルガの表情がまた大人びた気がして、お姉ちゃん気取りの私としては少し寂しくもあり、誇らしくもある。
そんな気持ちに浸っていると、彼が戻ってきた。
「何だ、これ」
両手に持っていたグラスの1つを私に寄越しながら、ちらりと2人を一瞥する。ひと括りで“これ”呼わばりされた彼らは、シュウの言葉には耳を貸さなかったらしい。未だに抱きしめ合っていて、離れる気配がない。
・・・まあ、今日はそういう日だとでも思ってみよう。
嬉しさが通り過ぎ、くっついている彼らを見て恥ずかしくなった私は、自分なりに気持ちに折り合いをつけて彼に向き直った。
「えっと、幸せいっぱいのアンとノルガですが」
ひな壇はすでに下げられて、代わりに大きなテーブルがいくつか、その上にはひと口で摘める軽食が用意されている。幸せのおすそ分け、という意味で、軽食が振舞われているのだ。
椅子もたくさん並んでいて、それぞれが腰掛けて歓談したり、食事を楽しんでいる。もちろん私とシュウの前にも、定位置として大きなソファとテーブルが用意されていた。
そして、飲み物を取ってくると言ったシュウが席を離れている間に、アンとノルガが声をかけに来てくれたというわけだ。
「ああ、まぁ、いいか。
とりあえず、放っておけ」
興味の対象範囲がものすごく狭い彼ですら目のやり場に困っているようで、ほんの少しだけ視線を彷徨わせてから私の隣に腰掛けた。
彼からもらった飲み物に口を付けて視線を投げる。まだひっついている彼らのことは一旦、視界から消してみることにして・・・。
ディディアさんとヴィエッタさんは、よく分からない男性集団に遠巻きに取り囲まれて、2人で何かを喋っているようだ。大方仕事の話だろう。表情が真剣だ。だから時折見せる微笑みに、遠巻きに視線を送る男性たちからため息が漏れる。さすが白百合と白薔薇だ。
「・・・おかしいな。今日は私も白いのに・・・」
自分とは体も顔も能力までも、造りがケタ外れなことを実感させられて、ため息が出る。決して、彼女たちのようになりたいとも思っていないのだけれど。
すると、ふに、と頬が抓られた。
「笑ってろ」
言葉を紡ぐ間もふにふにされて、楽しそうな彼の表情に笑みが浮かんでしまう。
「今日の何が不満なんだ」
お小言なのに、深い緑の瞳が優しく細められている。私も思わず目を細めた。
「何も。
・・・皆が楽しそうで良かったね」
私の言葉に、彼が遠くに視線を投げる。私もそれに倣うと、楽しそうに歓談していた人達が、目が合うたびに手を振ってくれた。私はそれに手を振り返して、彼は片手を軽く持ち上げる。
ひと通り皆さんの所へご挨拶にまわった後だからか、全く知らない参列者だった人達とも、少しお近づきになれた気がしていた。
「シュウも楽しそうで、良かった」
横顔を眺めながら囁いた私に、彼は視線を戻す。そして私の手からグラスを取ると、静かにテーブルの上へと手を伸ばした。そのままそっと、私の頬を撫でて立ち上がる。
小首を傾げた私を見下ろして、彼が微笑んだ。
「・・・え、っと・・・」
「さ、投げろ」
戸惑う私に、彼がさらりと言い放つ。眼下には参列者が集まっていて、わくわくした目をして私達を見上げている。
何も説明されずに私が連れてこられた場所は、2階のバルコニーだった。そして言葉と一緒に渡されたのは、私がどこかに置きっぱなしにしていたブーケ。
・・・これを、投げるのか。
やっと彼の意図を汲み取ることが出来た私は、頷いて一歩前へと踏み出した。
ブーケトスなら、向こうの世界で出席した結婚式で見たことがある。女性は皆さん前へどうぞと言われたけれど、華やかな女性陣に気後れした私は、最後尾になんとなく寄ってみたりして。
・・・今思えば、向こうで花嫁から幸せを分けてもらわなくて、良かったのかも・・・。
うっすら残る記憶を辿った私は、眼下で手を広げている人達に向かって声をかける。
「いきますよー!」
幸せのおすそ分けだ。
私は思い切り天へ向かってブーケを投げた。歓声が上がって、色とりどりの花で出来たそれが、一瞬弧を描く。それは空に向かって色を放ってから、参列者の手の中へ落ちていった。
「次はこれだ」
ブーケが誰の手に渡ったのかを確認する間もなく、彼が私の首飾りを外す。着替えた時に彼が着けてくれたものだけれど・・・。
「それ、投げちゃっていいの?」
首元から軽くなって、彼の手の中に収まった首飾りを見る。小さな真珠が何重にも連なっているそれは、ばら撒いていいものなのだろうか。
「ああ、問題ない。
これは本物に似せた、安物だ」
「・・・全然気づかなかった」
装飾品にはあまり頓着しないだけに、本物と偽者の違いも分からなかった私は、あっさり納得して白い粒を受けようと両手を差し出す。すると、器用に端の糸を引きちぎった彼が白い粒をたくさん私の手に乗せてくれた。
何重にもなっていたから、あともう1回分はありそうだ。
「今度は、シュウも投げようよ」
私の提案に、彼が頷いて白い粒を手に乗せる。私は両手なのに、彼は片手で十分こと足りるらしい。
眼下では、ブーケを取った女性が笑顔で手を振ってくれている。私は両手が塞がっているから、と彼に視線を送ると、彼は空いている方の手を振り返してくれた。
「・・・いきますよー!」
大きな声で合図をすると、歓声があがる。気づいてはいたけれど、騎士の割合が高いからなのか、歓声というよりも出征前の雄叫びのようだ。・・・いや、実際耳にしたことはないのだけれども。
節分で、神社の境内から豆をまく有名人の気分だ。なんだか、楽しい。
「えいっ」
体を捻って勢いをつけ、両手の白い粒を放り投げる。ざっ、という空気を裂く音がして、バラバラに散らばったそれらが階下へと落ちていった。
真っ白な雨が降ってきた参列者の、楽しそうな笑い声が響いてくる。楽しそうだ。
「シュウっ」
体がうずうずして、咄嗟に彼の腕を掴む。見上げた先で、深い緑色の瞳が優しく笑んで、彼の腕が伸びてくる。頬を撫でる指先に気を取られていたら、彼がそっと私の顔を覗きこんできた。
「ん?」
いつもなら、こんなふうに顔を囁かれたら、そのバリトンの声に浸ってしまうのに。今の私は、そうはいかないらしい。気づいた時には咄嗟に、彼の腕を掴んだまま言っていた。
「早くみんなの所、行こっ」
「・・・わかった」
楽しい気持ちに突き動かされた私に、彼が微笑んだ。これまでにないくらいの、笑顔だった。
そして、彼が動いた。
「えぇぇっ?!」
一瞬でその姿が視界から消える。
・・・バルコニーの手すりを、飛び越えたのだ。
綺麗に、滑らかな動作で芝生の上に着地する。重力なんか関係ない、そういう台詞が聞こえてきそうな着地だ。
慌てて手すりに掴まって体を乗り出した私に、余裕に満ちた表情で顔を上げた彼が、微笑んで両手を広げる。
私達が投げたものを、集めたり見せ合ったりしていたらしい人達が、続いて降ってきた彼に驚いてドーナツ状に広がった。そして、歓声をあげる。今度は雄叫びめいたものではなく、どちらかというと黄色い声が多数だ。
・・・いつかも、そう、あの白騎士の小火騒ぎでもこんなことがあった。あの時はもっと、心の中が恐怖でいっぱいだった。そして私を見上げた時の彼は、物凄く怖くて、必死さが滲む表情を浮かべていた・・・。
そんな記憶が頭をよぎった私は、何度か瞬きをして彼を見る。
「飛べ」
「・・・うんっ」
彼の浮かべた微笑みに、私は楽しい気持ちのまま、飛び降りた。もちろん、ドレスの裾を両手で押さえるのは忘れない。
自分の体が重力に逆らったのは一瞬で、すぐに落下するのを感じる。絶対に彼は受け止めてくれる・・・そういう自信が、あった。
2階なんて、飛び降りるにはそれほど時間のかからない距離だ。瞬きをしていた間に、彼の顔が間近に迫っていた。
ぶつかる・・・そう思ったけれど、彼の腕の中に着地するほんの刹那の間、私の体はふわりと重力から解放された。
・・・あの小火騒ぎの時と、同じだ。
不思議な浮遊感を感じた私は、咄嗟に彼の首に腕を回す。そして再び重力の働いた体が、彼の腕に抱きとめられた。
どこかから口笛が聞こえる。それに続いて、黄色い声が。
・・・シュウのファンが増えたら、それは嫌だな。
そう思ってしまうのは、私が幸せだからだろうか。
「楽しそうだな」
止めていた息を吐き出したところで、同じように息を吐いた彼が言う。その声は、腕の力に反して穏やかだった。
「うん!」
飛び降りておいて楽しいだなんて、可笑しい・・・自分でも分かっている。けれど、本当に楽しくて仕方ないのだ。鼓動が、いつもよりも速い。
「幸せそうだな、お前たち~」
突然響いた声に、体が硬直する。私ではなく、シュウだ。
その声は、黄色い声や拍手の音が響く庭で、その合間を縫うようにして私達の耳に入ってきた。
「アッシュ・・・!」
低く唸った彼が、私の足をそっと芝生に下ろす。私は自分の足でバランスを取って、彼の腕から抜け出した。
彼の視線の先には腰に両手を当てた、陛下がいる。
幸いというか、不幸というか、参列者として招待している人のほとんどは、陛下の顔を間近で見たことのない人達だ。当然だけれど、王宮内であってもごく普通の仕事をしている人達には、陛下と言葉を交わしたりなんて、とんでもない。擦れ違う機会すら皆無だ。
だからというか、やはりというか、この場にいるほとんどの人間が、ぽかんと口を開けて呆然としている。きっと「誰だこいつ・・・」くらいに思っているのだろう。ひそひそと何かを囁いては、意味ありげな視線を投げている。
・・・ディディアさんとヴィエッタさんは、さすがに沈痛な面持ちで、私達がバルコニーから投げたものをポケットにしまっているけれど。
「祝福しに来たのだ。怒るなよ」
「そういう問題じゃなくてだな・・・」
根拠のない自信たっぷり感は、いつものことだ。それから、脱走癖も。
「次はもう、密閉するしかないな」
「密閉はダメ、息出来なくなって死んじゃう」
「ああ、それは困る。代わりになんて、絶対になりたくない」
シュウと私が、額に手を当ててため息混じりに呟いたのには、全く耳を貸さなかったようだ。
陛下は、胸を張って白い粒を私達の目の前にかざした。
「確かにいただいたぞ、幸せのおすそ分け!」
「・・・祝福じゃなくて、そっちが本命ですね・・・?」
呆れ半分の私の言葉に、陛下の肩がびくっと動く。
・・・図星か。
「ディディア、ヴィエッタ」
彼の言葉に、音もなく白百合と白薔薇の2人が動いた。怒りのオーラのようなものが見えるのは、私だけではないはずだ。その証拠に、周囲の目がうっとりと細められている。
・・・それはそれで、何かが間違っているような。
「ミーナさんの晴れ姿、楽しみにしてましたのに・・・」
「落とし前、つけていただきますからね」
ひっ、と陛下が息を飲んでいる間に、2人が間を詰めて一気に挟み込む。そして、腕をしっかり確保された陛下は、半ば引き摺られるようにして離宮をあとにした。
「・・・ぷっ・・・くっ・・・」
遠ざかっていく悲鳴のような喚き声のようなものに、思わず噴出してしまう。そのまま彼の目を見上げると、目が合った。つられてしまったのか、彼まで噴出す。それを見たら、今度は声を上げて笑いたくなってしまった。
周囲は呆気に取られているけれど、そんなことは構わない。私達が楽しければ、今日はそれで。
「ね、シュウ・・・」
「ん?」
くすくす笑う彼に、そっと言葉を紡ぐ。
「10の瞳、一緒に頑張ろうね。
・・・あれじゃあ・・・私達がしっかりしなくちゃ、ね?」
彼の瞳がわずかに見開かれたのが分かって、私は小首を傾げる。
「・・・だな」
今日の彼はよく笑う。
微笑んだカオをそのままに、彼は私に口付けた。すぐに離れたけれど、今度は私がそれを追いかける。
一瞬時が止まったように静まり返った周囲に、黄色い悲鳴と歓声めいた雄叫びが響いた。




