なーんでオッサン共はああ言えばこう言うんだろうね。
さて、愛しのマイホームを掃除する予定だったのだが…
ガルド親方が女を作れって五月蝿いからな。
ポーズだけでも女との接点を作っておくか…
いや、実際にセックスの相手は欲しいのだ。
誰かに背中に押して貰えるのは、ある意味ありがたい事なんだがな…
うーん、俺の人生は女と接点無かったからな。
恋人作りとか急に言われても方法が分からない。
ワープはチートだが、恋人作りの役に立つとは到底思えない。
いや、ある程度異世界経験のある男なら、ワープを上手く異性関係構築に落とし込んでくるのだろうが…
俺には無理だ。
街をフラフラ歩いてみる。
それなりに女はみんな可愛いし良い身体をした者も多い。
ただ、そいつらと恋愛のような濃密な人間関係を築きたいかと言えば答えはNOだ。
そもそも誰かと友達や恋人になりたいと思った事がないし、俺なんかと親密になりたがっている奴が居るとは思えない。
(居たらそいつは底抜けの馬鹿だろう。)
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
『ちゅーっす。』
村上翁が巣鴨に帰宅してなかったので新宿の店舗に遊びに来た。
丁度、閉店のタイミングだったらしく飲みに誘われる。
「随分、機嫌がいいじゃないか。」
『へへへ、家を買っちゃったんです。』
「マジ!?
どこよ?」
『府中っす。』
「おお、その歳で都内に家を買うなんて勝ち組だな。」
『村上さんのお陰ですよ。』
「お?
随分殊勝じゃねーかw
家買って余裕出来たかー?」
『ははは、どうすっかね。
あー、でも精神的にはかなり安定してます。
居場所を確保出来たのはデカいっすね。』
「じゃあ、次は女だな。」
『えー、村上さんもその話ですか。
何でオッサンって若者をくっつけたがるんすか。』
「今の若い子はみんな草食系だから心配になるんだよ。
俺らが若い頃は喫茶店に通ってウェイトレスを必死に口説いたりしたんだぜ?
オマエ、誰か気になってる子いないの?
好きな子の1人くらい居るだろ?」
『いやあ、急に言われても。
そりゃあ、街を歩いてて可愛いと思う子は居ますよ。
結構みんなエロい恰好してるじゃないですか?
ヤリたいとは思いますけど、恋人とか…
そういうのはちょっと苦手ですね。』
「家買ったんだろ?
好きな子と同棲したいとか思わんのか?」
『あー、どうっすかねー。
本音を言えばパーソナルスペースに入って来て欲しくないです。
仮に恋人が出来ても、家にまでは侵入されたくないっすね。』
「マジかー。
Z世代怖いわー。
何考えてるか、さっぱり分からん。」
『そっすか?
俺に言わせれば村上さんの年代が一番分からないっすけどね。
いや、俺はそんなに深い考えないですよ?
金持ちになりたいとか、セックスをしたいとか、そういう平凡な欲しかないっす。』
「じゃあ、可愛い恋人が欲しいとかもあるだろ?」
『あー、スンマセン。
可愛い女子とセックスしてみたいとは思うんですけど…
それ以上踏み込んで来られるのは不快っていうか。』
「覇気があるのかないのか分からん男だなー。
じゃあ、純粋にセックスだけしたいってこと?
クリスマスに一緒に遊びに行ったり、誕生日を祝ったり…
俺らが若い頃は、そういう思い出を作れる相手をみんな欲しがってたんだけどな。」
『…うーーーん。
今までの人生で、そういうことを意識した事がなかったっすね。』
「なあ飛田。
オマエ、誕生日いつだ?」
『え?
今日っすけど?』
「え?」
『え?』
「言えよ!!!」
『わ、ごめんなさい。』
「おめでとう。」
『あざす。』
「家を確保したのと誕生日。
両方おめでとう。」
『あざす。』
「チャコちゃんに祝わせるわ。」
『チャコちゃん?』
「巣鴨に居るだろう。」
ああ、居酒屋ぴょん吉にバイトの女が居たな。
大学生か何かって聞いたような。
「prururururu
あ、チャコちゃん。
仕事中ゴメン。」
「あ、専務。
お疲れ様ですー。
まだお客さん来てないから大丈夫ですよー。」
「なあ、たまに来る飛田ってわかる?」
「分かりますよーww
専務がいつも飛田君の話をしてるじゃないですか。」
「…してねーよ。」
「えー、してますよーwww」
「今、その飛田と飲んでるんだけどさ。
コイツ、今日が誕生日なんだ。
チャコちゃんから祝ってあげて。
ほら、飛田。
電話代われ。」
『え?
いや、急に言われても。
あ、いつもお世話になっております。
飛田です。』
「あー、飛田君ー♪
誕生日おめでとうー。
幾つになったー?」
『18歳になりました。』
「あはは、18歳が居酒屋に居ちゃ駄目だよ。」
『明日から気を付けます。』
「ははは、サイコパスの答えだw
飛田君って政治家になったら汚職しそーww」
『…ははは。』
それは無理だな。
俺は1人で遂行する犯罪なら幾らでも犯す自信がある。
だが、汚職のように社会性を要求される犯罪は無理だろう。
「チャコちゃん。
飛田の奴、彼女が居ないんだ。
さっきから俺がアドバイスしてやってるのに、全然聞かねーんだよ。
何とか言ってやってくれよ。」
「えー、今はそういうの普通じゃないですか?
私も彼氏とか居た事無いし。」
「え?
そうなの?
女子大生ならオトコ遊びくらいするだろ?」
「あははww
凄い偏見ww
飛田君、専務に悪気はないから許してあげてね。」
『あ、いえ。
俺、東京で村上さん以外に話す相手も居ないし…
正直助かってます。』
「あはははははww
きっと似た者同士なんだよww」
「おいチャコちゃん。
結構真剣に頼むんだが…
フリーなら飛田と付き合ってやってくれないか。
別に酒が入ってるからとか、そういうのじゃ…」
「はい、OKですー。
じゃあ、飛田君。
予約のお客様来たから、またね。
専務も早めに帰って来て下さいね。」
「おーう。
幹康に鍋敷を3つ買い足したって伝えといてー。」
「りょ。 でーす。」
(ガチャ ツーツー)
「飛田、そういうことだから。」
『え?』
「え?」
『え? 今のは?』
「おめでとう。
家と女ゲットだな。
いやー、肩の荷が降りたわー。」
必死に記憶の糸を辿る。
そもそも【チャコちゃん】ってどんな顔してたっけ。
…思い出せない。
そもそも普通は店員の顔なんかジロジロ見ないからな。
向こうは仕事だから、こっちを見てはいるだろうが…
「何だ、不満か?
チャコちゃん美人だろうが。
歳も殆ど変わらないんじゃないか?」
『あ、いえ。
俺はいいんですけど。
チャコちゃんさんに迷惑なんじゃないかなって。』
「あのなあ。
2年働いてくれてる店員だぞ?
こっちも大体の好みは分かるよ。
飛田は嫌われてはないと判断してる。
ちなみに幹康も同じ意見だ。」
参ったなぁ。
恋人なんて出来たら…
『…落ち着かなきゃじゃないですか。』
「あっそ。
そう思うんなら落ち着けば?」
『…やっぱり恋人いらないです。』
「おうおう、チャコちゃんも可哀想に。
初彼氏に酷いフラれ方されちまったな。」
『あの…
要は危ない橋を渡るなって言いたいんですよね?』
「女と仕事のリスクは関係なくね?」
『いやいや、逮捕とかされたら恋人さんに迷惑掛かっちゃうじゃないですか。』
「最近の子は真面目だねー。
そりゃあ少子化進むわ。」
まあ、酒の上の話だからな。
その日は村上翁が泥酔してしまったので、タクシーを呼んで送迎させた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
自宅で寝転びながら、村上翁の真意を図る。
いや想像はつく。
俺が危ない橋を渡っているから、女を作る事でブレーキを掛けようとしているのだ。
『ワープ。』
洞窟。
松明は消されているが、こっちでも安酒の臭いがする。
『親方ー。
まだ起きてますー?』
「おーう。」
『一つ聞きたいんですけど。
オッサンが若者に恋人を作らせようとするのって、一種の親心ですかー?』
「半々だと思うぞー。
共同体の安全を保全する意味合いの方が強いかもな。」
『そっすか。
色々迷惑掛けて申し訳ないです。』
「…でも旅は続けるんだろ?」
『すみません。
多分、続けます。』
「謝る事はないさ。
男なんて本来そっちが正解だ。」
『…恋人が出来ました。』
「おめでと。
オマエならすんなり決まると思ってたよ。」
『でも、多分そこまで好きになれないと思います。』
「だから?
何か問題があるのか?」
『いや、相手の女性に失礼でしょ。』
「ふーん。
いいんじゃね。
世の中、そこまで気配りが出来ない奴が大半なんだからさ。
その子が配慮型の恋人を求めてるなら、オマエは拾いものだ。」
なーんでオッサン共はああ言えばこう言うんだろうね。
『俺、別れたいんですけど。』
「何?
ブスなの?」
『いやー、顔を見た事がないので。
それに俺、女子の容姿をゴチャゴチャ言うのが苦手で。』
「じゃあ一発ヤッてから別れたら?」
『いやいや、そんな酷いこと出来ませんよ。
相手に失礼じゃないですか。
距離を取って相手がこっちを忘れてくれるのを待ちます。』
「一番酷いのオマエじゃね?」
そうかなあ?
俺なりに大真面目なんだけどなあ。
大体さ。
俺のアイデンティティはワープだけなのだから、それと関係ない部分で話が進展しても困るんだよね。
そう。
ワープで獲得した女なら、少しは興味を持てるかも知れない。
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