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いや、急いでんだよ。

モンスタースタンピード無力化成功。

だが討ち取った個体は突出して来た百数十体のみ。



「ヒロヒコッ!」



『生きてます!!』



「見れば分かる!!」



『親方、右ッ!!

残りのジャンピングコング!!』



「俺が殺るっ!!

治療行け!!」



『まだやれます!!』



「判断は俺がする!!

オマエは止血に専念!!

親方命令だ!!

早く馬車に入れ!!」



『了解、すぐに戻ります。


ワープ。』



一旦、エヴァの元に戻る。



「ヒロヒコ!

その血!」



『すぐに戦場に戻る!!

止血を!!』



「後遺症が!!」



『止血だ!!!』



エヴァが唇を噛みながらポーションが入った瓢箪を渡して来る。

受け取ろうとするが、右手も左手も機能してない事に気付き、右腕を曲げて瓢箪を掴む。



「ゴメンナサイ、予備の消毒液がないの!」



『すぐ戻る!!

ワープ!!』



府中。



『南さん!!

救急箱を持って来て!!』



「ちょっ!!

その血!!」



『急げ!!!』



「危ない事しないでって言ったでしょ!!」



泣いて責めながらも救急箱を持って来る。

右腕でポーションを飲みながら、動かない左腕で救急箱を挟む。



『助かった、じゃあな。』



「行かないでよッ!!!」



『いや、急いでんだよ。

ワープ。


エヴァさんただいま!!

この緑の瓶。

消毒液だから、頼む!!』



「…わかった。

品質は信用していいのね?」



『人間種向けに作ってある!!』



「(コクン)」



エヴァに包帯を巻かせながら、駆け付けたバルンガの書生に状況報告。

虎の子のエクスポーションを飲ませてくれる。

…痛みが引く。



  「トビタ君!!

  エクスポーションの効力は4時間ッ!!」



『ワープ!!』



荷馬車に飛ぶ。

外では戦闘の気配、だがそこまで激しくはない。



『デサンタさん!!

怪我人は!?』



「ラルフがやられた!!

容体がヤバい!!」



『これエクスポーションッ!!』



「キミの分だろ!!」



『いえ、戦列に戻ります!!』



絡まったワイヤーから抜け出たモンスターは精彩を欠いている。

かなり動きが消極的になった。

ただ戦意の旺盛な者も全体の1割ほどおり渡河を試みて来る。

ガルドとロキは淡々と投石攻撃。

頭部を砕かれてその場で水飛沫を上げて倒れる個体もあれば、悲鳴を上げて逃げ去る個体もある。



「ヒロヒコ!!

オマエは今日から30日の負傷休暇な!!」



『不要です!』



「エヴァと達者で暮らせよ!!」



『親方と達者に暮らします!!』



  「ワシは!? ワシは!?」



『ロキ君係は最長老に返上します。』



  「ぴえん。」



ワチャワチャ叫びながらスタンピードを観察。

勢いはかなり削げたし、ガルドの足元には頭部を粉砕されたジャンピングコングの死骸が無造作に転がっている。

だが、気のせいかガルドの動きがやや鈍いか…



『親方!!

頭から血が出てます!!』



「殴らせたんだよ!!」



『何で!?』



「目立つ負傷があった方が交渉材料になるだろ!!」



何となく趣旨は理解出来る。

【合衆国の為にドワーフが身体を張った】

この構図を可視化する事が後々の利になるとガルドは考えたのだろう。



『ロキ先生も身体張ります?』



  「老人虐待ェ…」



それにしても数が多い。

特に八尺蟷螂が溺れる同胞を踏みつけながら川を渡ろうとしている。



「おい、ヤバいぞ!

キリがない!!」



  「ガルドさん!!

  燃やしていいっすよね?」



「おう、デサンタ君!!

やってくれ!!!」



デサンタが水上に火魔石(小)を連投し先頭の八尺蟷螂が火達磨になる。



  「トビタ君、流石にもうないよね?」



『馬車に積み込んでたかもです!』



馬車に転がり込んでワープ。



『エヴァさん、火魔石!!』



「小20・中15・大3!!!」



『ありがとう!』



  「トビタ君!!

  バルンガ先生の許可は得ている!

  追加のエクスポーションだ!!!」



『あざっす!!


ワープ!!』



ヤバいな。

口内に血の味が充満している。

ひょっとして俺が思っている以上に頬が深く抉れてるのか?



『フーッ! フーッ!

魔石です!!!』



  「トビタ君!!

  止血しろ!!」



『区切りが付いたら!!』



  「いつだよ、それ!!」



本当にね。

いつスタンピードは止まるんだろうね。

川向うでは、ようやく八尺蟷螂が減少して来たのだが、代わりにゴブリンが増えて…



『ゴブリン!?』



「ヒロヒコ、どうした!?」



『親方、あそこのゴブリンの群れ…

魔界の交易所で会った連中と同じ格好をしてますけど、何で?』



「え!?

いや、何でだろ?

…魔界から歩いて来た?」



そうなのだ。

スタンピードで沸いたコブリンとコボルト。

魔界人達と同じ服装をしているのだ。

オークの交易所にも何人か会計役っぽいゴブリンが居て、指示に従い淡々と計算をしていた。

俺も数言話しただけだが、普通にコミニュケーションは成立したのだ。


異世界に来た頃の俺は何の疑問もなくゴブリンやコボルトを殺した。

当時は彼らを意思疎通不可能なモンスターの一種と認識していたからである。

だが今の俺は、魔王と邂逅し魔界トンネルが開通し、彼らが単なる異種族であると理解している。


そういう知識のない合衆国住民が疑問を抱かないのは別にいいのだが、俺は強烈な違和感を抱いた。

【何故モンスタースタンピードに魔族が混じっている?】

まだ上手く言語化出来ない。

だが、頭の中でパズルが噛み合い掛けていた。



『親方ッ!

魔族は殺さない方向でって行けます?』



「お、おう。

あまり積極的に動いてないしな…

まあ、出来なくもないか。」



『時間を稼いで下さい。

1時間以内に戻ります!』



「分かった。

任せろ。」



『ワープ!』



◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



魔界トンネル出口に飛んだ俺はニヴル側の係員にアポなし来訪を詫びながらゲートに向かう。



『事前の約束もない来訪を謝罪します!

デンキリック主任!!

デンキリック主任はご在席でしょうか!?

大至急、相談したい旨があります!』



どうやら食事休憩中だったらしいが、部下と共に小走りでやって来てくれる。



「おお、トビタ殿?

え!?

その怪我は!?

トラブル!?」



『本題に入らせて下さい!

貴国民の安否について!!』



「え!?」



国境に配属されるだけあって能吏なのだろう。

戸惑いながらも来客用ソファーに座らせると、属僚達に俺の介抱を目線で指示。



『現在、合衆国内で貴国民が目撃されております。

種族はゴブリン種・コボルト種。

それぞれ100名前後。』



「え!?

何で?

何で合衆国!?

彼らは商用許可証を所持しているのですか?」



デンキリックの反応を見て改めて確信する。

合衆国内のスタンピードに参加している魔族達は、少なくとも魔界本国の指示によってそこに居る訳ではない。

ゴブリンの話題と聞いて2名のゴブリン官吏が駆けて来る。

俺は彼らの風貌を目に焼き付け、ゴブリンなる種族をはっきりと認識する。



  「我々の同胞が何か問題でも起こしましたか?」



不安そうに問うゴブリン官吏。

口腔構造が異なる為に声域も声振も人間種とは異なるが、意思疎通可能な知能と感性は存在する。

そりゃそうだ。

二足歩行をして服を着て社会を成立させて居るのなら、社会性らしきものは多かれ少なかれどの種族も備えているだろう。



『現在、合衆国内で大規模なモンスタースタンピードが発生しております。

それに貴国民が巻き込まれている可能性が非常に高いです。』



  「…え?」



『それも加害者側として。』



  「えー!?

  そんな馬鹿な!?」



ゴブリン官吏氏は二重にショックを受けていた。

大量の同胞が何故か合衆国内で発見されたこと。

そして何より自分達が人間種から見てモンスターの一種として認識されている事に改めて。



『この問題を解決したいのです。

大至急知恵を貸して下さい。』



俺は早口でゴブリン・コボルトの事情を聞き出す。

まず大前提として、両種族は大半が魔界に住んでおり合衆国に纏まった数が住んでいるとは考えにくい。

(かつて徹底虐殺されたので合衆国にはゴブリンの痕跡すらない。)

またゴブリンは部族単位、コボルトは氏族単位でしか動かない種族なので、正式な動員令もなしに百もの個体が国外に出て集団戦闘を行うとは考えにくい。

両種族共に、とてつもなく統制が厳しいので個別行動を取ること自体が難しいのだ。


【魔王→魔界政府→ゴブリン種→各部族長→構成員】


社会構造上、ゴブリンもコボルトも上記の命令系統でしか動けないのだ。

そしてそういう命令が下されているのであれば、この交易所に住むゴブリン官吏の耳に話は絶対に入って来る。

何故なら、彼らはゴブリン社会の中で他種族との折衝を担当する【外務部】に所属しているからである。

仮に魔王が密命のつもりで秘密作戦を発令したとしても、種族防衛の観点から外務部には絶対にその話が通報される。

寄り合い所帯の魔界だからこそ、皆が必死に種族防衛に励んでいるのだ。



◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



ニヴル側詰所のトイレに急ぎ籠る。



『ワープ!』



荷馬車。

俺が戻るなりデサンタが状況を教えてくれる。

一番厄介だった八尺蟷螂がほぼ無力化され、渡河を試みる個体は見当たらなくなったとのこと。

また巨大なブラッドバッファローが突撃して来たが、ロキが仕留めたらしい。

問題はその死骸が川の狭隘部を塞いでしまい、それを橋代わりに大型のサソリの様なモンスター(名称っ不明)が渡っているとのこと。

従って前線は下流に移行している。



『デサンタさん!

ゴブリンは渡ってますか?』



「ゴメン!!

突出して来た2匹だけ斬った!」



『その死骸はありますか!?』



「岩の上に乗せてある!!」



『あざす!』



どうやら、俺の不殺指定を皆が極力守ってくれているらしい。

対岸でウロウロしているゴブリン・コボルトを目の端に捉えながら戦ってくれている。

ゴブリン達は目が真っ赤に輝いており、人間種の俺から見ると圧迫感が凄い。

赤目?

さっきの官吏氏は目は人間種と大して変わらないものだったぞ?

そういう部族なのか?


首を捻りながらデサンタが指さした岩に近づく。

岩の上に無造作に転がされている二体のゴブリン種。

先程の官吏氏よりも更に小柄である。

ゴブリン種を見慣れていない俺から見ても戦士階級ではない。

俺は無言で彼が身に着けている装飾品を外して手元に確保。



『デサンタさん!

もう一度飛びます!!

危なくなったら、全員で逃げて下さい!!』



「了解!」



『ワープ!』



一旦バルンガ庵に飛んでバルンガ本人に手早く事情説明。

そして詰所のトイレにワープし交易所までラマで移動。

移動だけで数分のロス。



『デンキリック主任!!

大至急、これを確かめて下さい!』



「え?

これ?

これって合衆国内で?」



交易所に勤務していたゴブリンは6名全員が招集されており、装飾品を見た瞬間に「アグン部族です」と一斉に断定する。

アグンは魔界の奥地に住んでいる部族であり、ゴブリン社会では田舎者の代名詞として小馬鹿にされている部族。

ゴブリン種では地下養魚が盛んなのだが、アグン族は特に熱心な部族であり、魚粉を周辺部族に販売していることで有名。

問題は彼らの所領から合衆国までは途方もない距離であり、百名以上も同地で発見されるということ自体があり得ない。

そもそもアグン族は貧乏所帯なので、人間種の領内に辿り着く為の旅費が支払えるとは思えないとのこと。



『…もう1つ教えて下さい。

目の赤い部族はゴブリン種の皆様の中におられますか?』



「いや、眼球はみんな白いし眼玉はふつう黒いでしょう。

人間種さんとそこは変わらないですよ。

バーサクの魔法でも掛けられない限り、赤目のゴブリンなんて居る訳がない。」



『…それです。』



要は、彼らはバーサク(精神異常)状態にされてから、合衆国に送り込まれているのだ。

デサンタ曰く、用いられているのは魔物を召喚する魔方陣との話だったので、俺達が王国に呼ばれたように突然アグー領から合衆国に意識を奪われて飛ばされた。

いや、それこそワープさせられたのだろうな。



『バーサク魔法を解く方法はありますか?』



「え?

死ねば解けるよ?」



『生きたまま解く方法は?』



「カネさえ掛ければ何とかなるかも。

人間種の医療部隊は状態異常を回復する技術も持ってるみたいだし。」



ちなみに、魔界には医療部隊が存在しない。

何度か設立が検討されているのだが、どうしても予算的に難しいらしい。



『誰か!

誰か、この中に解決方法を御存知の方はおられませんか!?』



「え?

私は学者でも医者でも何でもないから…

そういう知見は…」



『申し訳ありません。

急に言われても困りますよね。

世の中には出来る事と出来ない事があります。』



…そうだよな。

一旦、バルンガに相談するか。



「ちょと待ったぁッ!!!」



ん?

何だ?

この声には聞き覚えが…



『あ、マグダリオンD(ディレクター)

御無沙汰しております。』



エルフの老コンサル。

かつてニヴル債に全ツッパして出世ルートから転げ落ちて400年ほど冷や飯を食わされている男。

いやあ、この老人の存在を忘れてたよ。

彼に何か重要な報告をしなければならない気がしていたのだが、俺も忙しいから忘れてた。



「やあトビタ君。」



『あ、御無沙汰しております。』



「御無沙汰?

つい前に会ったばかりじゃないか。」



あ、そっか。

エルフは俺達の10倍の寿命があるって話だからな。

この老人にとっては、俺は会いたてホヤホヤの存在なのだろう。



「そんな事よりお困りのようだね!」



『あ、すみません。

ちょっと立て込んでおりますので、話はまた後日。』



「オイオイオイww

さっき自分で言ってたじゃないか?

【世の中には出来る事と出来ない事があります。】

ってね?」



『あ、いや。』



「ところが世界には【出来ない事がない者】が存在する!」



『えっと、急いでおりますので。』



「それが【コンサルタント】だ!!!」



『じゃあまた後日。』



さてと。

ワープでバルンガの指示を仰ごう。

いや、最長老に直接会った方が無難か…



「私なら出来る!!!

エルセンチュアの最年長アソシエイト・ディレクター!!!

風魔石債個人投資額ナンバーワンのッ!!!

このレイ・マグダリオンならね!!」



『じゃ、俺はこれで。』



「ゴブリンとコボルトの救出!!

私のコンサルティングなら必ず!!」



『え、今からでも入れるコンサルがあるんですか!?』



「HAHAHAHAHA!!

ニヴルみたいな最底辺格付け氏族なんかに契約してやる訳ねーだろーがww」



『ですよねー。

じゃ。』



「どうしても解決方法を知りたいなら私個人に依頼するのだね。

弊社もほんの90年前から副業解禁されてるから。

いやあ、手元のキャッシュも全額風魔石債に投入して、ちょっと生活がね。

ハハハ。

ほんの金貨100枚でキミの軍師的存在になってあげるよ。」



『…。』



ジャララララララ。



「え?」



『頼りにしてますよ、軍師。』



「うおおおおおおおおおおおおッ!!!

脳が脳が反転するううううううう!!!!!

あれだけニヴルに抱いていた恨みつらみ憎しみが!!!

僅かな小銭で反転してしまううううう!!!!」



いや、急いでんだよ。

空気読め馬鹿。

この話が面白いと思った方は★★★★★を押していただけると幸いです。

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この状況から入れるコンサルが? ↓ できらぁ! ↓ ええっ!バーサークさせられたゴブリンを正気に!?
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