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好きだ。

俺は遠藤が嫌いだ。


情が薄く、強欲で、独善的で、人を小馬鹿にした態度。

周囲からそう非難され続けて来た俺が言うのだから間違いない。

遠藤は嫌な奴だ。



『…それは。

梢さんにだけ2倍の生活費を支払えということ?』



「私も飛呂彦様の負担になるつもりはないのです。

…でも仕方ないではありませんか。」



『…。』



「…。」



超音波検査の結果、遠藤の子が双子である事が判明した。

それが要求の論拠。



【私は2人産むのだからリソースは他の女の2倍注がれるべきだ。】



理には適っている。

実際問題、1人だけ産むよりも双子で産む方が大変に決まっている。

俺だって理解はしているさ。



『まずベッドを追加で用意する。

他の支給品も2倍にする。』



「ありがとうございます。」



『遠藤敬一郎氏には報告した?』



「…。」



『どうする?

俺から連絡しようか?

でも、本来は実の娘から報告するべきだと思うよ。』



「飛呂彦様にお任せします。」



『…分かった。

敬一郎氏には俺から報告しておく。

梢さんは御実家で出産するべきだと思うけど、それは嫌なんだよね?』



「子供の出身地を熊本なんかにしたくないのです。

東京の子として育てたい。」



『地方にコネがあるのは財産だと思うけどね。』



「…なら飛呂彦様は熊本に永住したいと思いますか?」



『…いや、そうだね。

俺の配慮が足りなかった。

梢さんの判断が正しいんだと思う。』



「九州は民度が低いです。

その中でも熊本の人間は性根が曲がってます。

縁を切るのが我が子の為なのです。」



語るほど熊本を知っている訳ではない。

ただ、民度云々を置いておいても人間に癖があるし、悪い意味での男性性は感じた。

少なくとも俺は住む自信がない。

自分が住めない場所に我が子を住ませる気もない。



『熊本に住む必要はないよ。

ある程度、実家の支援を受けてくれれば嬉しいという話で。』



「…私の実家は飛呂彦様だけです。」



『ありがとう。』



嬉しくはないけど。



『じゃあ、今から早速。

遠藤敬一郎氏に挨拶がてら報告に行って来るよ。

何か伝言ある?』



「ご当選おめでとうございます、とお伝え下さい。(ニヤニヤ)」



『分かった。

いつか彼が当選したら、その言葉を伝えるよ。』



先日開催された熊本県議会議員選挙。

遠藤敬一郎候補は前回から著しく票数を失う形で落選した。

得票数6804票(得票率4.1%)と当確ラインの9500票を大きく下回っており、最下位当選の佐伯一則候補には3000票以上の差を付けられていた。


選挙期間中、遠藤陣営に投げ込まれ続けた怪文書。

内容は娘が醜業に従事しているとの内容。

寺社の多い選挙区ということもあり、少なくない支持者が支持取り下げを表明して去って行った。



『どうも、御無沙汰しております。』



「キミ!

いつも当然やって来て!」



そりゃあ相手が議員なら公務もあるだろうからアポを取るけどさ。

いいじゃん落選したんだから。

どうせ暇だろ?



『梢さんの件でご報告が。』



「あ!

そん前にちょっとよか?」



『え?

はい。』



「キミ、伊津野建設しゃんと仲が良かってホント?」



不意に名前が出たので驚く。

犬童が紹介してくれた建材メーカーである。

犬童が殺された後にWhatsAppで事後処理について語り合った。

香港の趙を繋いだことを非常に喜んでくれた。



『は?

伊津野会長とは共同でプロジェクトを進めさせて頂いてますが。』



「うんにゃ、そぎゃん大切な事は選挙前に言いなっせ!!」



『…。』



絶句。

あまりにアホらしいので返す言葉もない。

この男1人を見て肥後人全てを論ずる気はないが、遠藤が帰りたがらない気持ちはよく分かる。



『梢さんが産むのは双子です。』



「え?

ああ、子供の話。」



『それだけ報告に来ました。』



「男? 女?」



『性別までは分かりませんね。』



「男が生まれたらさぁ!」



『いえ、それを決めるのは俺と梢さんです。』



「ええ!?

最近ん若者は常識あなかねえ。

じゃあせめて伊津野会長ば紹介しなっせ!!」



『申し訳ありませんが、本物にしか興味のない方ですので。』



「?」



『では、失礼。』



勝手知ったる遠藤邸である。

軒から飛び降りてワープ。

犬童のタワマンに着地して、奥様にお悔やみ。

位牌に拝礼して辞去した。

WhatsAppで伊津野会長に報告すると着信が来たので小一時間話し込んだ。

ラピスラズリ建材の案件は犬童の忘れ形見なので、これを実現する事により供養に代える事を誓い合った。



◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



『敬一郎氏は元気そうだったよ。』



「ちゃんと当選祝いを伝えてくれましたか? (ニヤニヤ)」



『いや、双子の件を伝えただけだから。』



「…ハア。(退屈そうな溜息)

何か言ってましたか?」



『男か女かを気にしていたね。』



「女が生まれますように (ニヤニヤ)

女が生まれますように (ニヤニヤ)」



『まあ、どっちの性別が生まれても大事にしてやって。』



「男が生まれたら名前は次郎にしましょう!」



『子供で遊ぶな。』



その他にも遠藤は満面の笑みで敬一郎氏の選挙妨害案を提示し続ける。

もうコイツが立候補しろよ…



『もう熊本の実家には戻らないんだね?』



「私、あの家きらーい。」



『咎めるべき場面なんだけど、その気も湧かないわ。』



「ですよね、ですよね。

飛呂彦様も分かってくれるでしょう?」



この女って誰かを攻撃する時だけ目が輝くんだよね。

俺も周りから見てこんな風に映っているのだろうか?



『…俺の知り合いが九州で商売やっててさ。』



「?」



『双子が生まれるって報告したら喜んでくれたんだ。

今度紹介するわ。』



「ええ、まあ。」



『東京で生きるかどうかは子供達が決めればいいと思う。

梢さんが九州を嫌がってるのは知ってるよ。

でも、縁くらいは俺から贈る事を許して欲しい。』



「…。」



それに関して遠藤は何も言わない。

少しでも気に入らない事があるとこの態度。

親が親なら娘も娘だな。



『…俺の所為で親父もゴチャゴチャ言われてたのかもな。』



「?」



『何でもない。

子供に因果を回さないように努力するって話さ。』



「…飛呂彦様は何でもかんでも子供なのですね。

口を開けば子供の話ばかり。」



『そうかな、そうかも。』



「…女は子供を産む道具なのですか?」



『…どうだろう?

俺の場合、そういう事を意識する前に妊娠が分かったから。』



「あの男に言われたんです。

【女は親の決めた相手と結婚して男子を産め】

と。」



『やっぱり、それは嫌?』



「…子供の頃から結婚や出産や家庭が嫌でした。

浮世を離れたいな、と。」



『妊娠させたことは謝るよ。

でも浮世離れしている自信はある。』



「離れれるのは飛呂彦様だけではありませんか。

私は自分が飛びたかったのです。」



『そっか。

…じゃあ、どこかに行く?』



「私はどこにも行けませんよ。

知ってるんでしょう?」



『うん、梢さんはそこに居た方が良いと思う。』



旅とは自身の開拓である。

変わる気の無い奴が無理に旅立つ必要はない。



「…。」



『…。』



「…。」



『…。』



「…私、泣けないんです。」



『そうなの?』



「何一つ思い通りにならないのに、嫌なことばかりなのに。

他の子みたいに泣けないんです。

可愛気がなくてゴメンさい。」



『敬一郎氏にそう言われたの?』



「子供の頃からそればっかりです。

女として一番大事な愛嬌が欠落していると。」



『…俺は梢さんのそういう所は好きだよ。』



「可愛気のないところが?」



『うん、好きだ。』



嘘ではない。

話しやすい人間ではあると思う。

但し俺にとってという意味だが。



「飛呂彦様は理解に苦しみます。

貴方の事は未だに何も分かりません。」



『1個謎なんだけどさ。』



「?」



『俺なんかの何が良かったの?』



「悪いところです。」



『?』



「女は悪い殿方に惹かれる生き物なのですよ。」



『俺は普通だと思うけどなあ。』



「やはり素晴らしい感性です。

次の熊本県議会選を狙ってみてはどうです?」



『…うん、やっぱり東京で住もう。』



「はい!」



『梢さんの理想の将来は?』



「お店屋さんです!!」



『カウンターには立てそう?』



「私は経営者視点で!!」



『…議員の嫁ってこんな女が多いよね。』



俺は遠藤が嫌いだ。

情が薄く、強欲で、独善的で、人を小馬鹿にした態度。

子供達はきっと俺達の性根が遺伝してしまうと思うので、せめて環境だけでも整えてやらなきゃな。

この話が面白いと思った方は★★★★★を押していただけると幸いです。

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双子かぁ、いやそうでなくても金に糸目をつけなくてもいいならこれが欲しいという短期使用人として「夜寝ている時に赤ん坊を世話する人」を雇う事が出来たならなと思っており、育児における夜の世話睡眠不足は人生観…
遠藤さんは縁が遠いさん?小遣いくれる婆ちゃんやらオバサンならありがたいが、縁が直結なママは、はあ。が感想。
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