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トロフィーそのものを愛している訳ではないのだ。

らぁら(本名)の事はよく知らない。

それもその筈で、酔った村上翁に連れて行かれたピンサロの店員だったからだ。

これもチートのなせる業なのだがフェラチオのみで妊娠させてしまった。

随分と荒唐無稽な話ではあるのだが、俺もらぁら(本名)も飛田飛呂彦の種である事を確信している。

無論、村上翁との取り決めで3人共DNA鑑定を行う。

万が一、俺以外の子だった場合でも手切れ金は渡すつもりでいる。

だが、この可能性は低い気がする。



「前にスマホの履歴全部見せるって言ったじゃん。」



『そこまでしなくていいよ。』



「浮気とか托卵とかしてないって信じて欲しかっただけなんだよ。」



『仮にそうだとしても、女の子のスマホを見るのは良くないことだよ。』



「私がいいって言ってるのに?」



『親しき仲にも礼儀ありって言うだろ。』



「親しいの?」



『一緒に暮らしてるから親しいだろ。』



「私が一緒に暮らしてるのアイツらじゃん!」



『せやな。』



らぁら(本名)の不満は良く分かる。

まさか同業者2人と共同生活させられるなんて夢にも思わないよな。



「大体さー。

私、夜職の女って大嫌いなんだよね。」



『職業差別は良くないよ。』



「飛呂彦も待機室に1分居たら同意してくれると思うけどね。」



『そんなに酷いの?』



「ロクな奴いないよ。

まぁ、私も回りからそう思われてたんだろうけどさ。」



『…。』



「股を開くしか能が無いのはまだ許せるよ。

でもドロボー多過ぎ、時間守れなさ過ぎ、ブスの癖に勘違いし過ぎ。」



『まあまあ。』



「あーあ。

夜職やってない時に飛呂彦に会いたかったな。」



『他に何かやりたい仕事はあったの?』



「そもそもどんな仕事があるのか知らないしね。

私達にとって仕事って夜職と昼職しか無いんだよ。

子供の頃はさぁ。

ケーキ屋さんとかパン屋さんになりたかった。」



『ならないの?』



「安月給のブラック労働だって知っちゃったからね。

単価の低い商売は駄目だわ。」



『ああ、それは村上さんも言ってたな。

商売は意識して高単価商材を扱うべきなんだってさ。

らぁら(本名) さんもいつか店を出すならそこを意識してみたら?』



「もう若い女って高単価商品を売ってたからね。

後は値崩れするだけだよ。」



『そっか。』



らぁら(本名)は嫌がったが、その母親が住む八王子の団地に挨拶に行った。

娘と同業者だった。

そしてらぁら(本名)は父親の顔を知らない。



「ゴメンね。

私そっくりだったでしょ。」



『…ああ、綺麗な人だったね。』



「気を遣わなくていいよ。

逆に傷つくから。」



らぁら(本名)の母親は典型的な夜職女だった。

本人の名誉の為にもこれ以上はコメントしたくない。

会うなりこちらの挨拶を遮って年収を聞いてきた、とだけ言っておく。

結局、最後まで型通りの挨拶を交わせない人だった。



「ゴメンね。

でも、だから言ったでしょ。

あんな人なの。

私なんか中卒デキ婚の娘。」



『俺も高校卒業していなから中卒だよ。』



「じゃあ結局、母娘でおんなじ人生歩んでるんだね。」



『ごめんな。』



「子供のことを考えてくれてるだけ上出来だよ。」



『らぁら(本名)さんの事も考えるよ。』



「…期待せず待ってる。」



八王子からの帰り、公園のベンチに座ってただ前を眺めていた。

デートスポットなのかカップルが多い。

ベビーカーを押してる夫婦もそれなりの数だ。

夫婦同士はニコニコと挨拶を交わしていたが、俺達に頭を下げる夫婦は一組も居なかった。


つまり結局そういうことなのだ。



◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



「私さぁ。

結構期待してたんだよ。

いっつも店に来てくれたから…

気があるんじゃないかって。

ひょっとして彼氏になるんじゃないかって。」



『俺の唯一の趣味だったんだよ。

新宿の店に行くこと以外に趣味が無かったから。』



「もうちょっと健全な趣味を持ちなよ。」



『そんな暇はこれからもないよ、多分。』



「ねぇ。

ピンサロって男の人から見てそんなにコスパいいの?

カネドブの典型だと思うんだけど。」



『楽しい子が相手だったから。

結構気に入ってたんだよ。』



「今は全然楽しくなさそうな癖に。」



『もう生活だから。』



言葉の通りである。

俺は4人の妊婦と生まれて来る子供の生活を考えなくてはならない。

本当に余裕が無いのだ。

最近は常に頭の中で次世代の算盤勘定をしている。

楽しい、という感情があるとすれば、仕事で止む無く遠出する時だけである。



「男の人って出張好きだよねえ。」



『そうなの?』



「地方のリーマンが出張記念にウチで抜いてた。

楽しそうだった。

たから男の人の出張って信用出来ない。」



『出張の夜くらいは勘弁してやってよ。』



「ねえ、飛呂彦は今でも風俗行くの?」



『行かない。

これ以上子供が増えたら養う自信がない。』



「もしも5人目が欲しくなったらさぁ。」



『うん。』



「私とちゃんとしたセックスしようよ。」



『え?』



「驚かないでよ。

私は勝手に飛呂彦のお嫁さんになったと思ってるから。

そっちは私のことメカケ扱いしているけどさ。」



『分かった。

5人目が生まれても困らないように頑張る。』



「そーゆーことじゃないんだけどな。」



『俺は努力しか出来ないんだよ。』



「ワープがあるじゃん。」



『でも飛ぶのは所詮俺だしな。

色々大変なんだよ。』



「釣った魚を見に来るのがそんな難しい?」



俺じゃなくても難しいかもな。

男はトロフィーが欲しいだけであって、トロフィーそのものを愛している訳ではないのだ。



「コストもリスクも掛からないんでしょ?

秒で異世界行って戻ってみてよ。」



『らぁら(本名)さんって無茶振りするよな。』



「お土産もね!」



『行ってきます、ワープ。


…プ、ただいま。』



「うわキモッ!

空間がラグった!


…って何コレ?」



『異世界のスパナ。

地球とは設計理念が全然違うでしょ。』



「ゴメン、スパナって工具がある事は知ってるけど実物見たことないし…」



『いやいや、地球とは工具に対する価値観が全然違うのが分かるでしょ!』



「ゴメン。

そもそも地球人同士でも、男女で全然価値観が違うと思う。」



『ぐぬぬ。』



「何?

飛呂彦って異世界で工場勤めしてるの?」



『鉱山。』



「えー、鉱山?

何か底辺っぽくてヤダなー。」



『職業差別やめてよー。』



「そもそもさぁ。

何でチート持ちの癖に鉱山?」



『言わなかった?

俺、ドワーフに婿入りしたんだけど。

鉱業は神聖な職務だから、あまりdisらないでね。』



「え!

ちょっと待って!

いきなり面白要素ぶっ込んで来ないで!

え!?

ドワーフ!?

じゃあ本妻さんドワーフ!?」



『あれー、言ったと思ってたんだけど。』



「女は旦那さんが仕事の話をしてくれないから怒るの!

飛呂彦はその典型ッ!!」



『ゴメン、自分では言ったつもりだった。』



そんな話をしていると約束の時間になる。



『じゃあ、悪いけど。』



「…うん、行ってらっしゃい。

話の続きが気になって眠れそうにないけど!

でもお仕事は応援してる、ご安全にね。」



『怒らないんだな。』



「事前に予定を教えてくれてたら奥さんは怒らないよ。」



『…うん。』



「直前に何かを言い出す旦那さんには、どこの奥さんも怒ってる。

大切な事を伏せてる場合とかね!」



『なるほど、勉強になる。』



ドワーフの話は既にしたと思ったんだけどな。

4人も女が居ると、個々に何を話したかなんて把握不可能だわ。



「今日はどこにワープするの?」



『荷馬車。

キャラバンの指揮を執る事になったから。』



「…あのさあ。

出世したなら言いなよ。」



『え?

出世も何も馬車3台の小規模キャラバンだよ?』



「それのリーダーになったんでしょ?」



『リーダーって程じゃないけど。

名簿の一番上に名前が載ってた。』



「女はね、そういう話を聞かせて欲しいの。

旦那さんの口から。」



『ゴメン。』



「おめでとう。」



『ありがとう。』



打ち合わせ通り車両に飛ぶ。

らぁら(本名)は電車で府中に帰らせた。



◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



『親方、遅れてすみません。』



「いや、問題ない。

価格表の読み合わせが必要だから、バルンガ組合長の執務室に顔を出してくれ。」



『はい!』



振り返るとデサンタ達が予備の車輪・車軸をチェックしている。

どうやら順調そうだ。



『組合長。

トビタです。』



「おお、お疲れ様。

全商品のチェック通ったから。

じゃあ早速で申し訳ないが、価格表の読み合わせするぞ。」



『はい!』



本来、キャラバンの代表には全商品の詳細を暗記しておく義務がある。

そりゃあそうだろう。

責任者が売り物を知らないんじゃ話にならないからな。

ただ俺は知識も含めて色々な義務を免除して貰っている。

余所者だし他人種だし若造だし障碍者だし軍隊経験が無いからだ。

勿論、ビジネス現場でそんな言い訳が通じる筈もないので覚えたてのドワーフ文字を必死に読み込む。

苦しいが気は紛れる。



◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



思いのほか事務的な確認が多かったので、バルンガ庵に戻ったのは夜遅くだった。

暗い坑道生活だからこそ、ドワーフは昼夜のケジメをしっかりつける癖があるので皆が就寝していた。



「おかえり。」



『ゴメン、起こしちゃった?』



「私が勝手に待ってただけ。」



『ありがとう。』



「上手く行ってる?」



『うん。

荷物のチェックも通ったし、明日の朝には出発可能。』



「奥さん達の話よ。」



『ああ、そっちの。』



「…何か言ってた ?」



『男の出張は遊び半分だから信用出来ないんだってさ。』



エヴァは少しだけ難しい顔をしていたが、枕に顔を押し当てて静かに笑い始めた。



『言っとくけど俺は真面目だからね。』



それでもエヴァは上機嫌で俺の肩にずっと頭を乗せていた。

この話が面白いと思った方は★★★★★を押していただけると幸いです。

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― 新着の感想 ―
次の話も読んだあとで、らぁら(本名)が一番まともそうに見えるけどどうなんだろうなぁ…本番したら豹変しそうな怖さある みんな問題抱えすぎだ
らぁら(本名)の母親、夜職の中でも対話系が出来ないタイプとなるとこれまた生き方が限られてくタイプですね、らぁら(本名)本人もコミュニティから孤立するのが明白な家族像でもある、そんな人に年収の話はしたく…
「もうこれ以上鉄火場なんて無くていい……」と思うけど、無いはずがない、そんな情勢……
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