表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

125/132

クラスで友達が出来なかったら辛い。

沼袋南。


俺にとっては村上翁との付き合いで遊びに行った吉原のソープ嬢に過ぎない。

その後も暇な時に吉原に通い、無意識的に沼袋ばかりを指名し続けていた。

他の女に食指が伸びなたかったと言う事は、或いは余程ルックスが好みだったのかも知れない。

申し訳ないが、ただそれだけの関係である。


2度、祖母とも挨拶を交わした。

当然の事として、あまり歓迎されなかった。

まあな、沼袋が夜の世界で働いている事なんて、女同士なら何となく悟ってしまうのだろう。

(しかも肉親同士である)

祖母も母親も、沼袋が身体を売っている事に気づいているし、俺も夜の世界の一員と思われている。



『突然申し訳ありません。』



「…いえ、南がお世話になっております。

今日は?」



『…南さんの事でお話に上がりました。』



アポなしなので門前払いも覚悟していたが、敷居の中に入れて貰えたしお茶も出た。

大した話ではないので割愛するが、要は俺の万が一に備えて纏まった生活費を渡しただけである。

纏まった額の日本円とインゴット少々。



「やはり南に問題がありましたか?」



不安そうな表情で尋ねられたので、沼袋に不満のない旨を時間を掛けて説明する。

そして俺は獄死した沼袋の父親にも不満は感じていない。

何故なら鳥取と違って都内には匿名性があるからだ。

黙っていれば沼袋南の父親が強盗殺人犯だとは誰にも分からない。

逆に鳥取市内に住んでいる沼袋の母親はいろいろ大変だとは思う。



『生活費に関しては問題ありません。

私の後見人である村上顕康もフォローに回ってくれております。』



「ええ、それは…

分かります。」



『ただ…

本人は強がってますが女手が必要な時期ではあると思います。

必要であれば助けてやって下さい。』



「…東京に住めと?」



『南さんが御実家に戻られる選択肢もアリだと思います。』



「鳥取は閉鎖的な土地なので本当に難しいんです。」



『でしょうね。』



「…。」



『このお金は転居費用という意味でしょうか?』



『いえ、用途までは考えておりません。

お母様がご自由にお使い下さい。』



無論、その場で結論が出る話でもない。

最後に子供の名前についての希望を聞いてからお暇した。




◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇




「お母さん、何か言ってた?」



『女が生まれた場合は保守的な名前を付けて欲しいってさ。

キラキラネームとか源氏名っぽい名前は遠慮してくれって。』



「私もこの名前が嫌いなんだけどね。

一々由来を聞かれるから。」



『由来は何なの?』



「…言いたくない。

でも父は博打好きだった。」



『そっか。』



「うん、キラキラネームは私も反対って伝えておいて。」



『自分で言いなよ。』



「嫌よ。

お母さんと話すと絶対喧嘩になるもん。」



『…。』



purururu



「ちょっと、やめてよ!」



『お母様ですか。

本日はありがとうございました。

はい、一言御礼をと思いまして。

突然申し訳ありませんでした。

南さんに替わります。』



親子の話に立ち入る気は無かったので距離を取る。

沼袋と言葉とは裏腹に口論にはならずに小一時間ほど会話が続いた。

途中で5分ほどキャラバンの積み込み進捗を確かめに帰ったが、それ以外は沼袋を見守っていた。



『結構、仲が良いじゃない。』



「飛呂彦君に見られてたからよ。」



『そっか。』



暗に【母娘が喧嘩せずに済むように側に居ろ】と言われていたのかも知れない。

側に居る気はないが、沼袋母娘が仲良く暮らしてくれるのなら嬉しい。



『ゴメン。

形見はまだ思い付いてない。

俺が戦士階級なら武具を贈ったんだけどな。』



「何?

治安悪い系の異世界なの?」



『随分マシになったよ。

平和なものさ。』



「その脚で言われてもね。」



『たまたま狼に噛まれただけだよ。

それ以外は問題ない。』



「手も駄目になってるじゃない。」



『犬に噛まれたようなモノだよ。』



「ねぇ。」



『うん。』



「まさか親を気に掛けてくれるとは思わなかった。」



『迷惑だったら、ゴメン。』



「迷惑とは言ってないよ。

単なるありがた迷惑。」



そんな下らない話をしただけ。

なので沼袋のパーソナリティは未だによく分からない。



『男が生まれたら…』



「うん。」



『東と書いてアズマとかでもいいいかもな。』



「…。」



『どうかした?』



「私が男に生まれてたら、その名前だったんだって。」



『そっか。』



「あーあ。

結局、親と同じ人生なのかな。」



『何かゴメンな。』



「別に。

飛呂彦君は気を遣ってくれてる方だよ。

妊娠中に相手に逃げられた子をいっぱい見てきたし。」



俺は本当に気を遣えてるのだろうか?

単に自分の過去を穴埋めしたがっているようにしか思えないけどな。



「お母さんに相談してみるよ。」



『?』



「アズマはどうだってね。」



『これ以上嫌われるとやりにくいな。』



沼袋南は吉原時代の在籍店とは連絡を取っていない。

同僚のアドレスも全て削除し携帯番号も変えた。

なので元から薄かった社会との繋がりが今は全くない。

せいぜい暇な時にチャコちゃんと煽り合うくらいのものだそうだ。



「女はそれでも構わないのよ。

旦那さんさえ側に居てくれたら無問題なの。」



『努力するよ。』



「じゃあワープをもっと活用してよ。」



『古武道だっての。

子供にはそう言ってくれよ。』



「はいはい古武道古武道。

じゃあ、合気道とか習わせようかな…」



『…あ、習い事の話なんだけどさ。』



「ん?」



『もし男が生まれてスポーツをやらせる事があったら…

野球とかサッカーとか、そういう団体競技をやらせておいて。』



「…どうして?」



『コミュ力って言うのかな。

男は集団の中で上手く立ち回る技術が一番必要だから。』



「どうして飛呂彦君って父と同じことばっかり言うの?」



聞けば、全く家庭を顧みなかった沼袋南の父親が妊娠中の妻に向かって、そればかりを執拗に繰り返していたらしい。

結局、生まれたのは女の南であり、その話は母娘の笑い話になったとのこと。



『…男にとってはそれくらい切実な話なんだと思うよ。』



「…そうなのかしら。」



『お父さんも俺も、子供がクラスでイジメられたりハブられたりするのが怖いんだよ。』



「野球とかサッカーとか関係あるの?」



『女の子だって教室の隅で漫画を読んでるようなオタクよりも体育会系と仲良くしたいだろ?』



「まあ、二択なら運動部の子の輪に入りたいかな。

チー牛にはするなって話?」



『笑われたり侮られたりするような原因は作らないでくれって話。

そう言う奴って殊更にコミュニティを敵視して、無駄に遠回り人生を歩むから。』



「見て来たように言うのね。」



『…見て来たから言ってるんだよ。』



「…。」



『俺さぁ、自分が孤立したり嫌われたりするのは何とも思ってなかったんだけど。

子供がクラスで友達が出来なかったら辛い。

想像しただけで心が苦しくなる。』



「分かった。

野球かサッカーをやらせればいんだね。」



『確率論だけど、お願いするよ。』



「うん。」



『子供のことばっかりでゴメン。

南さんが一番大変な時期なのにな。』



「…うん。」



◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



帰還すると荷物の大半は馬車に積み込まれていた。

後は小物や貴重品のサンプルを金庫に収納し、ヘルモーズ・バルンガ両名のチェックを受けてOKならばその翌日に出発。



「ヒロヒコ、故郷の様子はどうだった?」



『俺の故郷はここですよ、親方。』



「そっか。」



『…。』



「楽しい旅になるといいな。」



『ええ、楽しみましょう。』



地球でも異世界でも男がやる事に大した違いはない。

居場所を確保する為に身体を張るだけの事なのだ。

我が子が孤立せずに済むように。

この話が面白いと思った方は★★★★★を押していただけると幸いです。

感想・レビュー・評価も頂けると嬉しいです。

この続きが気になると思った方はブックマークもよろしくお願いいたします。



【異世界複利】単行本1巻好評発売中。


https://www.amazon.co.jp/dp/4046844639

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
>>コミュニティを敵視して、無駄に遠回り人生を歩む 二の鉄を踏む人生を送らせたくないからなぁ、そういった意味でいうとわが子に相応しい学校はどのあたりになるんだろうな、例のハイパー幼稚園は論外だと思うの…
今回の主人公、どんどん真人間になってくな。いや、違うな、クズなりに筋が通ってきてると言うのか。筋もんとでも言うのか。任侠映画の中の任侠みたいな筋の通し方してる。 あとワープ能力なんてあったらほんとなら…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ