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俺はなろうを凌駕する。

目が覚めるとエヴァの姿は既に寝所になかった。

奥から良い匂いがしているので、朝餉を用意してくれているのだろう。



「あら、おはようヒロヒコ。」



『おはようエヴァさん。』



  「遅いぞ少年。」



『いや、流石に老人と同じ時間帯には起きれませんよ。』



寝ぼけ眼を擦りながらエヴァの得意料理である舞茸のリゾットを啜る。

そして蜂蜜を混ぜた生姜湯。

旨い。

或いは人間種の味覚に近づけてくれているのかも知れないと思い、感謝しながら丁寧に味わう。



  「エヴァ君。

  ワシの朝飯はまだだったかの?」



「今、召し上がられたばかりでしょう。」



  「そうじゃったかのう。」



『エヴァさん。

出産用品で足りないものはありますか?』



「うーん。

どうかしら。

ある物で何とかするつもりだから。

配給所から清潔な布も貰えたしね。」



『赤ちゃん用のベッドとか、そういうのは必要ない?』



「ベッド?」



『あ、いや。

少し目を離す時に寝かせる場所が必要かなと。』



「?

母親が赤子から目を離してはならないわ。」



『あ、うん。』



恐らく現代日本人とドワーフでは家庭観が異なるのだろう。

育児に関して男が口を挟む余地はあまりない。



『父親の役割って何だろう?

バルンガさんにでも聞いてみるか。』



  「ちょっと待ったぁ!」



『うわっ、びっくりした。

ロキ先生、急にデカい声を出さないで下さいよ。』



  「父の役割って話なら、まずワシに聞けよ!

  孫までいるんじゃぞ!」



『いや、絶縁されてる人の意見を聞いても仕方ないと申しましょうか。』



  「ワシはキミの師じゃぞ!」



『いや、貴方を【先生】と呼んでいるのは公職に就いていない年長者に対する消去法な敬称であって、そこに敬意はあまり含まれてないのですよ。

ニュアンスとしては【先生(笑)】くらいに受け止めて頂けると幸いです。』



  「いいかぁ。

  男というものはだなぁ。」



『あー、長くなるパターン。』



案の定、長話だったので要約する。

あくまでロキ爺さん曰くの話だが…



◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



ドワーフ社会では、出産前の父親はあまり家に留まらない。

むしろ積極的に前線に志願する。

理由はシンプル、武功を挙げて報奨金を得れば妻子を楽に養えるし、華々しく戦死すれば生まれて来る赤子は【英雄の子】として氏族から庇護されるから。


例えばヨルム戦士長がそうだ。

彼の父親であるトールは戦士長を務めており、ブンゴロド族との合戦において大いに勇戦し仲間を庇って死んだ。

そして、まさしくその日にヨルムが生誕した為、トールの部下たちは父の生まれ変わりであると信じた。

彼は戦士団に入る事を半ば宿命付けられ、周囲からの庇護と重圧に囲まれて育った。

結果、既定路線のような形でヨルムは戦士長の座に就いた。

戦士団OB達の強い推挙があった為に同世代の者は口の出しようがなかったらしい。


その幸不幸を論ずるつもりはないが、氏族内の優遇枠である事には変わらない。

言うまでもない事だが、ヨルムは戦士長を引退すると同時に長老会議入りすることが決まっている。


無論、常に戦争がある訳ではない。

敵のいない時期の父親は積極的に狩りを行う。

狂ったように猟果を挙げ、配給所に寄付をする。

すると【氏族に忠実な者】として認識され、万が一があった場合でも庇護され易くなる。

盆地の開拓に志願した連中に新婚男が多いのはそういう理由である。


要は、家で嫁を案じている暇があれば、共同体の中で存在感を示せという話。




◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇




『ロキ先生。

今の俺の氏族内での評判はどうですか?』



「悪くない。

いや、かなり好意的じゃぞ?」



『本当に?』



「だって、ずっとワシがキミを批判してたから。」



マイナスにマイナスを掛けるとプラスになるように、嫌われ者に嫌われると好かれるのだ。

この法則は地球も異世界も一緒。



『なるほど。

少し安心しました。』



「でも、最近少しトビタ少年の評判が落ちとる。」



『え!?

何で!?』



「だってワシと一緒に暮らしとるから。」



『なるほどー。』



そりゃあ息子夫婦さんから絶縁されるわ。

何度か息子さん(俺にとっては親世代だが)と話した事があるのだが、若い頃のロキ爺さんは今以上のトラブルメーカーであり、そのとばっちりでの苦労譚は相当なものだった。



  「親は選べないからねぇ。」



涙ながらにしみじみ語る息子さんを見ていると、薄情な俺ですら貰い泣きしてしまう程であり、嫌でも父親としての自覚を迫られる思いであった。

俺は良い父親にはなれないだろうが、眼前の悪例を見て背筋を正すことくらいは出来る。



「まあまあ、機嫌直せよぉ。

ガルド君も混ぜて3人で何かパーッと手柄挙げちまおうぜww」



『息子さんも仰ってましたけど。

そいう一発屋みたいな考え方で何度も御家族に御迷惑を掛けて来られたんですよね?』



「(…スン)」



『まあ、先生がそういう方だから波長は合うんでしょうけど。』



「だよなぁwww

ワシら無敵のコンビだよなあwwww」



『すみません、俺はガルド親方の徒弟なので…

許可なくコンビは組めないんです。』



「(…スン)」



調子に乗らせたくないので本人には厳しく当たっているが、俺は完全にロキ寄りなのだ。

確かにこの老人の独断専行癖は数多くのトラブルを引き起こして来たが、功績は絶大である。

賛否両論ながらも若い頃から戦場では奇功を積み重ねているし、記憶に新しい所では王国から大量の山羊を奪還した手柄もある。

何よりも皆が役職者のブラギに遠慮して言えなかった【ハーフドワーフ脅威論】を言語化して長老会議の議題に押し上げた。

この老人は誰よりも共同体に貢献している。


一見冷遇されているようにも見えるが、それも違う。

何故なら無役でありながら、公然と長老会議に闖入し続けているからだ。

評価されていない訳ではない。

評価の土俵に昇らない特権を勝ち取っているのだ。


内心、俺はこの老人が羨ましい。



◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



さて、デサンタを始めとする王国脱走兵。

僭主ピエールが領内において恩赦令を布告した為に大半の者がアイル準自治区に転居した。

残存者18名。



『随分減りましたねぇ。』



「逆だよ、王国には絶対住みたくない人間が18人も残った。

目の前の難民達も同じ気持ちだってさ。」



『デサンタさんはそこまで王国アンチではないでしょ?』



「僕は脱走兵の取り締まり部署に居た事もあるからね。

帰還するのは筋が通らないかな。」



この行き場所のない18名を上手く活用して氏族の利益に換えよ、というのが義父ブラギの出した結論。

俺が戦士階級でない以上、ビジネス面で分かり易い貢献をするしかないのだ。

デサンタ達の使い道、バルバリ峡谷に残っている百数十人の難民の使い道、氏族に対して数字で示さなければならない。



『デサンタさんには申し訳ないのですが、俺達が欲しているのは王国方面へのキャラバンです。』



「やはりニヴルの皆さんは王国には行きたがらない?」



『途中で難癖付けられて結局損をするんじゃないかって疑ってます。』



「まあ、そう思われても仕方がないよね。」



『みんな理屈では分かってるんです。

この立地で俺達が生き残る為には中継貿易に特化せざるを得ないと。』



これは嘘。

魔界トンネルの開通や盆地の発見で情勢は大きく変わっている。

今の俺達なら貿易相手は合衆国だけでも問題ないほどなのだ。

(無論、デサンタ達にそこまで手の内を明かす気はない。)



「分かった。

王国に販路を作れないか模索する。」



『出所の分からないビジネスって可能ですか?

ドワーフのキャラバンは嫌がる人間が多いので…』



「了解、王国人に対しては合衆国系商社を名乗り。

逆に合衆国人に対しては王国系商社を名乗る。

その方向性でスキームを組んでOK?」



『ええ、理想的です。』



「じゃあ、まずは合衆国で法人設立させて欲しい。

合衆国系商社がニヴルの商品を仕入れて王国に売りに行く形で。

勿論、帳簿は全て提出するし監査役を同行させてくれても構わない。」



『…。』



デサンタの発案がどう考えても玄人染みていたので、バルンガ一門を呼んでプレゼンさせる。



『何でそんなに商売に詳しいんですか?』



「軍隊に居るとさ、【退役したら何をするか】って話題しかないから。

皆で夢を語り合うんだ。

農地が欲しいとか、漁船が欲しいとか…

王都で店を出したいとか…

毎晩皆で無数のアイデアを出すんだ。

小商いやってた奴も居るから結構具体的なんだぜ。


…僕以外が死んで夢だけが残った。

それだけの話さ。」



『そっすか。』



長老会議から、最長老と運送を司るヘルモーズ氏もやって来てデサンタチームにどこまで商品を預けるかで議論。

結果、第一弾に関しては俺個人が私有している商品のみを売らせることになる。



「デサンタ君達を疑う訳ではないんだ。

ただ、氏族もこういう状況だからね。

商売に関しては慎重に行きたい。」



口ではそう言っているが、ヘルモーズ氏の目は猜疑心に満ち溢れていた。

そりゃあね、自分達が汗水垂らして手に入れた商品を他種族(それも脱走兵)なんかに触らせたくないよね。

ニヴルは王国への販路が喉から手が出る程欲しい。

だが、これまでの因縁から簡単に商売させてくれるとも楽観していない。

僭主ピエールは王国本国よりも柔軟な気がするが、彼はタフネゴシエーターである。



「トビタ君。

オーク材木の件だがな…

共和国と話はついた、極めて薄利だが一応プラスにはなる。

但しスギは駄目、どう計算しても採算が取れない。」



『それは残念ですね。

オーク側もスギ材木を売りたがっていたのに。』



「…王国の材木相場を探って欲しい。

あわよくば、な。」



『ヘルモーズ局長。

お言葉ですが、王国に材木を買い入れる余力があるでしょうか?』



「それも含めての話だよ。

俯瞰で探って欲しいんだ。

トビタ君は聡明だ。

副産物を獲得してくれるのではないかと私は考えている。」



『買い被りだとは思いますが…

光栄です。』



王国方面のキャラバン、俺が差配することになった。

主力はデサンタチーム。

ガルドが家族枠で同行。

ロキ爺さんは勝手に付いて来る可能性が高いので、その対策を教わる。

まずは合衆国で法人登記出来るか否かを探り、それが叶ったら馬車3台でアイル準自治区に向かう。

入国が許されれば、王国本国との販路を作れないか探りを入れる。

これが俺の仕事。

要は生まれて来る子供の為の点数稼ぎである。



◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



『ワープ。』



まずは府中に飛ぶ。

デサンタ達に合衆国人が喜びそうな手土産を持たせなければならない。

白砂糖・黒胡椒・海塩・シナモンを各100㌔ずつ。

25㌔袋×4をブラギ邸に持ち込み、ドワーフ製の50㌔箱に詰め替える算段。



「ねえ、飛呂彦。

また仕事?」



らぁら(本名)か。



『君達の顔を見に来たんだよ。』



「仕事のついでだよね?」



『あ、いや。

そういう事では。』



「…。」



らぁら(本名)が泣きだしたタイミングで沼袋と遠藤がやって来て俺を責める。

彼女達曰く、自分達が中継ポイントとしてしか扱われないのが屈辱極まりないらしい。



『あ、アンパンマンのベビーカーを買ってやろうと思って…』



何がいけなかったのか、泣きながら胸を叩かれる。

参ったなぁ。

ワープってチートなんだが、女のヒステリーを鎮める効能がないんだよなぁ。



『違うよー。

生まれて来る我が子の為に走り回ってるんだよ。

小学校の校区とか少しでも良い所を選んでやりたいじゃん。』



「ヒックヒック…

じゃあ慶應義塾幼稚舎。」



『え?』



「ぐすん、ぐすん

慶應義塾幼稚舎、」



『え?』



「慶應義塾幼稚舎ッ!!」



いやいやいや。

確かに同世代に比べばカネは持ってる方だと思うよ?

でも慶應×3は流石に無理無理無理。

っていうか、ああいう名門私学って普通に親の経歴調べられるだろ?

言っちゃ悪いがソープ嬢の子供なんて真っ先に排除されると思うぞ。



「愛されてるって証が欲しいの!!」



『あ、愛してるよぉ。』



「ワンセットは嫌なのッ!!」



『それぞれに住処を与える為に仕事を頑張ってるんだよぉ。』



「じゃあ!!

インスタにアップして!!」



『え?え?え?』



女の思考は心底分からない。

分からないなりに近所のライトオンで小奇麗な服を買って、マタニティウェアの沼袋と写メを撮る。

他の2人とも別の場所で撮る約束をさせられる。



「ねえ飛呂彦。」



『あ、はい。』



「これが貴方の遺影になるような事だけはやめてね。」



『縁起でもない事言わないでよぉ。』



「危ない橋はもう渡らないでって言ってるの!!」



…女共の言い分は理解出来る。

この短期間で脚は潰れたし、顔の傷跡も増えた。

右手をチャコられたのは犬に噛まれたようなものだが。



『分った。

リスクは取らない。

ビジネスは安全圏のみで行う。』



ゴメン、これも嘘。

アイル準自治区へのキャラバン。

言うまでもなく安全は保証されていない。

そもそも俺はグリンヒル・アリアス・ウィリアムと王国王族を3人連続で殺害している。

そして僭主ピエールに見抜かれている可能性すらある。

本来、あまり王国に近づくべきではないのだ。

だが、エヴァが子を産む前に、確固たる功績を氏族に示しておきたい。

例え死んだとしても殉職扱いになるので悪い目ではない、俺はそう考えている。

そして眼前の3人はそういう俺の心理を敏感に感じ取っているのだ。

本妻の子には命を懸ける癖に、自分達は中古住宅に3人纏めて押し込められて、ケアは村上翁に丸投げ。

…良くはないよな。


当然コイツラだって理解はしている。

名門私学は我が子を風俗嬢の子供なんぞと関わらせない為の装置なのだ。

慶應が門を開く訳ないではないか。

それでも言わずにはいられなかったのだろう。



『…本妻に許可を取っていいか?』



「…何の?」



『ここに来る回数を増やす。

君達個々にももっとリソースを注ぐ。』



「…。」



『分ってるよ。

相対化されている時点で腹も立つよな。』



「…そうね。

結構辛い。」



『今からさあ。

市場に買い物に行くんだけど来るか?』



「大きいタクシー呼ぶ?」



『呼ぶ。』



「フェラーリ女が近所を走っているけど。」



『これ以上話を複雑化させたくない。』



チャコちゃん何やってんだか。

聞けば関東各地をフェラーリで走り回って廃風車を買い叩いているらしい。

もうあの女が主人公でいいよ。


遠藤が体調不良で自宅に残ったので、沼袋・らぁら(本名)の2人を連れて府中市場に向かう。

ヘルモーズ局長との打ち合わせ通りに、合衆国で販売する白砂糖・黒胡椒・海塩・シナモンを100㌔ずつ仕入れる。

(但し全くの自腹という訳ではなく、長老会議から幾らかの王国金貨が調査経費名目で支払われる。)

同時に王国領に売れる物産品の目星をつけておかなくてならない。

彼らが喜ぶのは穀類なのだがニヴルとて放出する気はない。



「どうせ異世界なんでしょ。」



『え!?

いせッ!?

いや、何を?』



「須藤さんが言ってた。」



『…な、なるほど。』



チャコちゃん余計なことしかしないよな。

俺のチートが何一つあの女に通じてない件について小一時間愚痴りたい。



「要するにワープで異世界人相手に塩を売って荒稼ぎしてるのね?」



『…あ、いや。

それはどうだろう、ははは。』



「誤魔化さなくていいよ。

なろうで親の顔より見た展開だから。」



『流石に親の顔を見ようよ。』



「うん、生まれてくる赤ちゃんにはそうさせたい。」



『…。』



らぁら(本名)はゆっくりと己の腹に語り掛ける。



「後はパパ次第でちゅねー。」



『分った。

俺はなろうを凌駕する。』



「私、2日に1回はなろう読んでるから。」



『結構、頻度高いね。』



2日に1回以上のペースでコイツらと会わなきゃなのか…

結構キツいな。

週1くらいで勘弁してくれないかな。



「ついつい旦那への復讐系に目が行く。」



『女の人ってああいう陰湿な話が好きだよね。』



「それだけ抑圧されてるってこと。

一々言わせないでよ恥ずかしい。」



『…うん。』



ジト目の3人が見守る中、俺は階段下の収納に香辛料を運び入れる。

俺は障碍者だが誰も手伝ってはくれない。



「飛呂彦様。」



『はい。』



「私達にも異世界土産を下さい。」



『え!?』



「須藤千夜がこれみよがしに自慢して来るんです!

見て下さい!

このLINE動画。」



  「やっほー。

  3人ワンセットで元気ー?

  私、チャコちゃん❤


  昨日飛呂彦と寝たよ♪

  こっちは仕事で疲れてたんだけどさー。

  しつこく迫られたから仕方なくね♪

  あー、つれー。

  マジつれーわww


  あ、コレ?

  気になる?


  飛呂彦の異世界土産❤

  私はやめとけって言ったんだけどさあw


  『どうしてもキミに持っていて欲しい』


  ってしつこいから。

  仕方なくねww

  いやあ、仕方ねーなーwww


  これ、土魔法(極)だからww

  何? 魔石って奴?

  確かにパワーあるわ。


  男の子はこういうの好きだよねー。

  合うコーデが無いって

  分からないんだろうねぇw

  

  かー、つれー。

  愛され過ぎてマジツレーわww」



前から思っていた事だが、チャコちゃんって同性を煽ってる時が一番輝いてるよな。



『ある意味仲が良いとも言えるね。』



「私は御免です。」



『だろうね。』



遠藤もチャコちゃんも友達が居ない。

俺に言わせればぼっち同士で仲良くすればいいと思うのだが、それが出来る位なら両名はもう少し軽やかに生きていたことだろう。



「悔しいので異世界土産を下さい!」



『えー。

ブンカマサツガー。

シャカイコンランガー。』



「どうせ向こうで死ぬおつもりでしょう。」



『…どうだろうね。』



「飛呂彦様が帰って来なかった場合の形見が必要なんです。」



『居るかな、そんなもの。』



「ご自分が一番御存知でしょうに。」



『まあな。

子供だって信じたいよな。

親が自分を捨てたのではなく、不幸にして早死にしたのだ、と。』



「そういう事です。

誠実に向き合って下されば、私も子供に遺言を伝える事が出来ます。」



『…。』



「嫉妬や好奇のみで申し上げているのではありません。

必要なのです、私と飛呂彦様の子供にとって。」



『分かった。

形見の分配を約束する。

但し、銃刀法の赦す範囲内でな。』



◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



『ワープ。』



ブラギ家の空き倉庫兼作業場に香辛料を運び入れる。

今はガルドが武具整備に使っているので、俺にとってのセーフスペースだ。



「ヒロヒコか。」



『親方、お疲れ様です。』



「いや、俺はのんびりさせて貰ってるが。

大丈夫か?

オマエこそお疲れ様な顔色だぞ。」



『女に詰められていて…』



「ああ、外で娼婦を孕ませたって話だったな。」



『それが×3です。』



「地味にキツいな。」



『派手にキツいっス。』



「生活費は渡しているの?」



『一応。』



「取り敢えず多めに渡してやれ。

短期雇いの使用人を用意してやると機嫌が良くなるぞ。」



『随分具体的ですね。』



「俺はオマエの師である前に人生の大先輩だからな。

大抵の失敗は先回り済みだ。」



『そいつは頼もしいです。』



話ながらもガルドは手早く香辛料の中身を詰め替え地球の袋を焼いてくれる。



「出発はいつだったか?」



『積み込みチェックの翌日を想定しております。』



「…積み込みは俺がやる。

オマエは、もう一度×3の面倒を見に行ってやれ。」



『エヴァさんに申し訳ないですよ。』



「ばーか。

本妻にとっては、そういうゴタゴタが残ってるのが一番迷惑なんだよ。」



『見て来たように言いますね。』



「…見て来たから言ってんだよ。」



『勉強になります。』



エヴァの元に飛び、地球の女性関係について正直に全てを打ち明ける。

ある程度の話はしていたが、ここまで詳細に語る日が来るとは思っていなかった。



『エヴァさんから、何か渡してやってくれない?』



「駄目。

私の私物だと何を贈っても皆さんにとっての屈辱になってしまうわ。」



『じゃあ、どうすれば。』



「ヒロヒコの目で選びなさい。

ミナミさん、コズエさん、ラァラさん。

それぞれに対して真剣に向かい合いながら選びなさい。

3人同じ物にしては駄目よ。

個々と真面目に向かい合いなさい。」



『…うん。

でも、さっきも言っただろう。

3人とは今年会ったばかりなんだよ。

そんなに深くは知らないし。』



「じゃあ、知ろうとしてあげて。

それを怠るのは子供を捨てるのと同じ事よ。」



『…うん、そうする。』



俺の目的は極めてシンプル。

合衆国で法人登記してからアイル準自治領に向かい王国での販路開拓に勤しむ。

その傍らで地球で生まれる我が子の為に形見を用意する。


そう。

いつの間にか俺は決めていたのだ。

この異世界でくたばる、と。

この話が面白いと思った方は★★★★★を押していただけると幸いです。

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― 新着の感想 ―
アイル準自治区に転居した元脱走兵、王国への怒りを飲み込みピエールに賭けるのは悪くない判断だと思うので彼らの選んだ人生に幸あれと思う、むしろこうした連中から販路や情報を得られるのではと思うのでトビタやデ…
素晴らしい! 感動した! タイトル回収ッ!
ちゃこちゃん、、、ほんま主人公やなあ。さあて、楽しいクリスマスプレゼント回ですかね?なにお土産すんのかな?
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