危険人物を事前に逮捕する法律を誰か作ってくれないかなー。
新宿の警察寮からドバイに飛ぶ。
気温差の所為か右手右脚が少し疼いた。
「おお!
飛田君!!
来るんなら声を掛けてよ!!
どうする?
今からレストラン予約しようか?
シラジが行きつけなんだけど。」
なるほど。
この橋本コージも仮想通貨の買い煽りでやらかしてドバイに逃げて来た口である。
確かにあぶく銭を持った犯罪者が潜伏するなら丁度いいかもな。
『あ、いえ。
晩飯は先約を入れちゃってて。』
「残念ww」
『これ、良かったら。
つまらない物ですが。』
「おおおwww
名古屋のソウルフード【つけてみそかけてみそ】ww
よくドバイに持ち込めたねww」
『たまには故郷の味も必要かなと思って。』
「いつもすまないねえ。」
どうやら名古屋風ケバブを楽しむつもりらしい。
それから数分、橋本コージと雑談しながら打ち明ける機会を待つ。
『コージさん、1つだけお願いさせて下さい。』
「え?」
『前にこのマンションで会ったヤクザって
まだ住んでます?』
「…何?
ヤバい話?」
『コージさんには迷惑を掛けません。
ちょっと話を付けたいんです。』
「いやいやいや!!
ヤバいって!!
最近、ヤクザやら半グレやらがドバイに集まってるんだけど
アイツはその中でもリーダーっぽいポジションなんだよ。
いっつもこのタワマンの向かいのクラブのVIP席で豪遊してるんだ。」
『かなり儲けてるんですね。』
「うん、前も少し話しただろ。
どうも日本のオレオレ詐欺組織に指示を出してるっぽい。
だから滅茶苦茶なカネの使い方してるんだよ。
限定のランボルギーニを乗り回してるしさ。」
タワマンの駐車場まで降りて橋本のポルシェに乗り込む。
反対側には真っ赤なランボルギーニ。
『4億!?』
「ヴェネーノだからね。
中古市場だと20億越えてるよ。」
たかが車に億?
その感覚が理解出来ない。
たが、自動車大国たる愛知県出身の橋本は理解出来るそうだ。
『まあ、少なくともカタギのカネじゃないですね。』
「ヤクザでも中々買える額じゃないよ。」
『そっすか。』
「ねえ、揉めちゃ駄目だよ?」
『実は喧嘩売りに来ました。』
「ええ!?
キミ、喧嘩とか出来るの?
ってかガチの障碍者じゃん!」
『いや、もう正直に言ってしまうと
ぶっ殺す予定なんです。』
「ええええええ!?
いやいやいや!!
無理無理無理!!!
みたでしょあのガタイ!!
ってかヴェネーノに格闘団体のステッカー貼ってるじゃん!
ヤバいって!!
え?
何かされたの!?」
『えっと、俺が何かされた訳ではないんですけど。
まあ日本で闇バイトが問題になってて。』
「ああ、かなりなってるね。
僕2ちゃんねるで見た!」
『それで黒幕を探してて。』
「なるほど。」
『とりあえず、手始めにアイツらを血祭りに挙げようかと。』
「怖い怖い怖い!!
え? そんな事出来るの?
ってか、あの人達が黒幕なの?」
『あー、どうなんでしょう。
知り合いの刑事さんがパタヤかマニラかドバイに居るだろって。』
「えー!!
そんな大雑把な根拠でヤクザとバトルするの?」
『まあ、どうせ悪い奴らでしょうから死んでも問題ないでしょう。』
「いやいやいや!!
決め付け捜査は良くないよ!!
ニュースとかでもやってるでしょ!
冤罪は駄目だって!!」
『え?
でもヤクザだし刺青だしランボルギーニだし。
何らかの罪は犯してるんじゃないっすか?』
「うーーーん。
僕は反対かな。
たまたまヤクザで、たまたま刺青してて、たまたま格闘団体に所属してて、たまたま4億のランボルギーニに乗って、たまたま半グレ仲間と徒党を組んでるだけで、犯罪はしてない可能性も微レ存な訳じゃない?
いや、僕は左翼マスコミも嫌いなんだけどさ。
でも、決め付けは良くないと思う。
ダメ冤罪ゼッタイ。」
『そうですね。
言われてみれば良くないですね。
うん、襲撃は保留します。』
「うっわー、ガチで襲うつもりだったんだ。」
『いや、取り敢えず片っ端から海外在住の半グレを殺して回れば。
どれかが黒幕なんじゃないかな、と。』
「怖い怖い怖い!!!
全ての人間には裁判を受ける権利があるんだって!
キミ、絶対にお巡りさんになっちゃ駄目な人だよ!!」
『実はさっき新宿の警部さんから警察官登用試験に誘われまして。』
「駄目ーー!!
飛田君みたいな効率厨って、住んでる人間を不幸にする形で社会を正しくする!!」
『一理あるかも知れませんね。』
「厳しい事を言うようだけど、キミは自分の損得だけを考えて生きるべき。
具体的には市町村の長者番付レベルの金持ちで満足するべき!」
『善処します。
ちな府中市住み。』
「じゃあ府中市で一番の金持ちを目指そう。
多分、そこら辺が無難な落とし所。」
『分りました。
闇バイト問題を解決したら、目指します。』
「えー、襲撃止めるって言ったじゃん。」
『コージさんの顔を立てて、殺害ではなく捜査で我慢します。』
「えーー!!!!
ヤバいヤバいヤバい!!!
殺すよりヤバいって!!」
『大丈夫!
大丈夫です!』
「いやいやいや!!
だいじょばない!
だいじょばない!」
『じゃあこうしましょう!!
一旦コージさんの部屋に戻ります。』
「うん、それは賛成。」
橋本の部屋に戻る。
マイケルジャクソンのミュージックビデオを一緒に見ながら説教される。
「友達が危ない橋を渡ろうとしてたら止めるだろ、普通!」
『それはもう誠にごめんなさい。』
「ヤクザと揉めるなんて一番駄目なことだよ!」
『いや俺も揉めるのは怖いので確実に始末しますけど。』
「怖い怖い怖い!!
飛田君て普段は目が死んでるのに、どうして殺す話の時だけキラキラ輝くの!!
言っとくけど、世界広しとは言え瞳に反射機能が備わっていないのキミだけだからね!」
『えー、俺の目って死んでますか?
比喩ですよね?』
「うん、じゃあ鏡を見ておいで。」
『コージさんは一々大袈裟なんだから。
…あれ?
俺の目ってどういう訳か光が…
緑内障の前兆でしょうか?』
「いやー、精神的なモノだと思うよ。
キミ、ガチのマジで闇寄りだもん。」
『そっすかねえ?
いや確かにグレーな一面もありますよ?
それは認めますけど、自分ではアウト寄りのギリギリセーフかな、と。』
「まあ、自意識はそれぞれの自由だしね。
ちなみに、今からどうするの?」
『いや、ランボルヤクザの車を漁って捜査を…』
「駄目駄目駄目!!!!
えー、怖!!
何そのZ世代!!!
キミ、Zを越えたZだよ!!
飛田君って僕の中でドラゴンボールやフェアレディをとっくに抜いてるからね!!」
『コージさんは大袈裟だなあ。
じゃあ、ちょっとトイレ借りますね。』
「トイレに行くフリして駐車場に行くのは禁止カードね。」
『やだなあ、ははは。』
流石にドバイのタワマンだけあってトイレも完璧だ。
中東はウォーターホース文化圏だが、リフォームしたのか橋本邸は日本製ウォシュレットだった。
『ワープ。』
ふむ、流石にランボルギーニだ。
シートの座り心地が気持ちいい。
どれどれ…
『ワープ。
うわっ、コージさん。
扉の前で見張ってたんですか!?』
「飛田君の性格ならワープしてでもランボり兼ねないからね。
厳重に監視しなきゃ。」
『あ、スミマセン。
もうランボっちゃいました。』
俺はワープでランボって来た収穫を見せる。
「もーーー!!
駄目って言ったでしょ!!」
『ダッシュボードにポーチが入ってたんすよ。
何か悪事の証拠があるんじゃないかと思って。』
「あ、うん。
人の車に勝手に乗り込んだり荷物を持ち去るのも悪事だからね?」
『いや、確かに悪事です。
その自覚はありますよ?
ただね?
今回は、今回はあくまでも正義の為の悪事。
少なくとも私利私欲ではないと信じて欲しい。』
「キミはああ言えばこういうよねえ。
政治家みたい。」
『政治的に必要なんですよぉ。
ほら、ポーチ開けますよ。
コージさんも見て。』
「うわあ、巻き込まれてしまったあ!」
ポーチの中には各種カード。
ガソリンスタンドとかショッピングモールのカード。
俺は悪の組織の名簿か何かを期待していたのだが、世の中そんなに甘くない。
「ほーら、何も無かったでしょ。
車に貴重品を乗せる奴なんか居る訳ないじゃん!」
『あ、いえ。
収穫はありました。』
「何で?」
『だって、あのヤクザの名前がキムラ・トシヒコだって分かっちゃったから。』
「え?
名前何て知った所で。」
『でも同じ建物に住んでたコージさんも名前は知らなかった訳でしょ?』
「そりゃあ、まあ。
関わらないように全力で避けてたから。」
『ほら、部屋番号も分かっちゃった。
8801号室。
確か88階って最上階ですよね?』
「いやいやいや!
それが分かったからってどうするの!?」
『あの、もう一回トイレを貸していただく事は可能でしょうか?』
「え!
駄目駄目駄目!!
キミ絶対に何か企んでるもん!」
『ははは、やだなー。
何も企んでませんよ♪』
「うん、じゃあ鏡を見ておいで。」
『コージさんは一々大袈裟なんだから。
…あれ?
さっきとは逆に俺の目からどういう訳か光が…
白内障の前兆でしょうか?』
「ほーら。
言ったでしょ。
キミって暴力を振るうと決めたら目がギラギラするんだよ。」
『俺の家に居候爺さんが居るんですけど、たまにこういうギラギラした目で俺を観察してるんですよ。』
「あー、そのお爺さんに殺されるわ、キミ。」
『参ったなー。
危険人物を事前に逮捕する法律を誰か作ってくれないかなー。』
「ブーメラン刺さるよー。」
結局、トイレを借りる。
ドアの向こうに橋本がチョコンと座る。
本人なりに見張ってるつもりらしい。
『ワープ。』
まず、向かいのビルの屋上に飛ぶ。
突風に飛ばされそうになるが、チャコちゃんの風魔法に比べればそよ風。
そして正面から88階に無造作に突入。
あ、ヤバい。
インド風の内装、部屋には強い香料。
多分インド系住民の部屋だ。
慌てて見渡すと机の上に手紙の束。
8802号室。
なるほど、この隣か。
『ワープ。』
再度、向かいのビルに飛ぶ。
そして8802の隣に突入。
「ちょッ!!!」
『…。』
見覚えのある顔。
以前、ロビーですれ違ったヤクザか半グレかそんなのである。
「何だテメッ!?」
恐らく本当に格闘技か何かをやっているのだろう。
素早く襲い掛かって来る。
但し印西に比べれば、やや思い切りに欠ける。
掴みかかって来ている割には目線や重心が微妙に後ろに掛かっているのだ。
刺し違えてでも任務を遂行しようとする印西の凄みとは大違いだ。
そこで俺のプロファイリング。
このキムラ、確かにスペックは高いのだが余程必要に迫られらないと自分で手を下さない性格。
その証拠に手元のスマホでどこかに通話しようと試みている。
『ワープクラッシュ!!』
「ぐわッ!!」
テーブルに置かれていたアイスピックっぽいものでキムラの後頭部を突くが致命傷にはならない。
利き手なら確実に殺せていたのだが、チャコちゃんの所為で左しか使えないからな。
「ぐわあああああああ!!!」
キムラは血を噴き出しながら転げ回るが、あの程度で死んでくれるほど人間はヤワじゃない。
ロキやレオナール同様に俺も死の境界線の統計データは十分集め終わっているから分かる。
「ちょ!
ま、待てよおおおおッ!!!」
俺は悲鳴を挙げるキムラからスマホを拝借するとトイレに戻った。
『あ、コージさん。
ありがとうございました。』
「途中でキミの気配が完全に消えてたんだけど。」
『実は俺ワープ出来るんです。
今まで黙っててゴメンなさい。』
「いや、人の数だけ秘密はあるよ。
ちな、トランプ元大統領が日本を敵視してるのは僕の所為だから。」
『ちょ!!
何をやらかしたんすか!!
ちょ!! ちょ!!
え!? え!? え!?』
「言ったでしょ。
人の数だけ秘密があるんだよ。」
そんな話をしながら血塗れのスマホをビニール袋にしまう。
さて、ここからが本番。
『じゃ、気は進みませんけど。
警察に行って来ます。』
「えっと、僕はどうすれば?」
『コージさんにとばっちりが行くのが怖いんで、しばらく引き籠ってて下さい。』
「あ、うん。
別に引き籠るのは得意だけど。」
『じゃ、帰国します。』
「あ、うん。
何でトイレに入る訳?」
『じゃあコージさんのトイレが俺のワープポイントってことで。』
「えー、それ国際問題に発展するやつー。
ほら日産ゴーン問題あったじゃない。
それで我が国はプライベートジェット規制の論陣を張ってるんだよ。
キミがトイレをジェットしたら外交的齟齬が発生するでしょ。」
『その配慮をトランプ氏にも分けてやって下さいよ。』
「えー、やだよー。
2億ドルくらいでゴチャゴチャ言う人きらーい。」
*そのトランプ家の2億USDTは橋本コージのウォレットに移行済み。
「投資は自己責任って散々言い聞かせたんだけどね。
あの人他責思考だから嫌なんだよ。
再選したら日本潰しするつもりなんだってさ。
ちなバイデンもだけど。」
『じゃあ、ちょとお灸を据えてやらなきゃなりませんな。』
「分かったー。
アメリカ人の射幸心を煽ってドル安誘導しとくわ。」
『えー?
俺のキャッシュ比率ドルが殆どなんすけど。』
「大丈夫大丈夫、円はもっと下がるからw」
『なーんだ、それなら大丈夫ですねw』
『「あっはっはっはww」』
笑い合ってから便所でワープ。
まあ、いざとなれば渡米してワープクラッシュ×2すればいいだけだしな。
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