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俺の名前は飛田飛呂彦。

バルンガ庵の個室風呂を出る。



「トビタ君。

あまり細かい事は言いたくないけど…

時間はちゃんと守ってね。

バルンガ先生がお使いになられる事もあるんだからね。」



『…す、すみません。』



「ん?

どうした?

ちょっと顔色が悪いけど。」



『い、いえ。

長風呂が堪えてしまったようです。』



書生さんは冷茶入りの瓢箪を渡してくれる。

これを飲んで横になっていろ、という意味だ。

言葉に甘えてエヴァの元に戻る。



『…エヴァさん、お願いがあります。』



「…荒事?」



『…少しだけ帰省させて頂けませんか?

なるべく早く帰ります。』



そういう話はブラギにせよ、という常識的な返答が返って来たので義父に元に行き許可を得る。

当然、地球に行きっ放しのつもりはない。

定期帰還は欠かさないつもりだ。



「なあなあトビタ少年。

マジになってる時に申し訳ないけど、ワシも話に混ぜてー♪

荒事でしょ? 荒事でしょ?」



『じゃあ、強盗団の黒幕を見つける方法を教えて下さい。』



「んー?

そんな判別方法が出回ったらワシが不利になるじゃん。」



『まあまあ、不利はお互い様ということで。

俺は自分以外の悪党を許せないだけなんです。』



「うむ、すっごく分かる。

ワシも根が真面目だから他人が悪事を働いていると正義感がムクムク湧いて来るね。」



ロキ爺さんに犯罪者の捕捉方法を教わってから地球に飛ぶ。

勿論、夜にはエヴァの元に戻るよ。

自宅なんだから当然だよね。



◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



府中。



『梢さん。

梢さんは居るか?』



遠藤を呼んだのに沼袋とらぁら(本名)が登場。

たまには土産の一つでも寄越せと五月蠅いので婦人会で貰ったパエリアチマキをくれてやる。



「飛呂彦様❤

やっと私を指名してくれたのですね!!」



『犬童さんが死んだ。』



「…。」



『知っていたのか?

闇バイトに襲われた話。』



「ガルちゃんでも話題になってましたから。」



犬童が闇バイトに襲撃されて殺された。

犯人3名は既に逮捕されている。

いずれもタイミーで集められた近隣の貧困者。

実家を特定されて恫喝されていたとのこと。



『犬童社長は梢さんのことも、かなり心配しておられた。』



「…はぁ。」



ここまで言っても通じない。

俺はただ悲しむ素振りくらいは見せて欲しいだけなのだ。



「そんな事より、ベビーベッドを買って頂けませんか?」



『…。』



「ベビーベッドが居るんです!」



「…分かった。

誰かに搬入させる。』



まあな。

女衒に感謝する娼婦なんて居る訳がないからな。

遠藤梢の目線からすれば犬童なんて女に身体を売らせて荒稼ぎしている悪党にしか思えないのかも知れない。

いや、日頃の口ぶりからして確実にそういう視点で見ている。

女からすれば、闇バイトなんかよりソープランドの経営者の方がよっぽど酷い存在ではあるのだろう。

だが、少なくとも彼は彼の出来る範囲で従業員に配慮していたし、遠藤や産まれる子の前途も真剣に考えてくれていた。



「足りないベビー用品を買いに行って欲しいんです。

着せる服なんかも準備しなくてはならないですし。」



『なあ、犬童社長が殺されたんだぞ?

それに!!

足りてる分は犬童さんが送ってくれたものだ!!』



「??

はい。

ですから、知ってます。」



『それについて何か一言ないのか?』



「??

えっと、私妊娠中なんですよ?」



『…。』



「…。」



『子供を産むのは女の仕事だ。

専念してくれていい。』



「…では飛呂彦様の仕事は何なのですか!?」



『ケジメを付けることだ。』



「仰る意味が分かりません!

もうすぐ産まれるんですよ!!

貴方の子供です!!」



『だから、理解までは求めていない。

ベビーベッドは責任を持って用意する。』



「そういう話じゃないんです!!!」



日頃、遠藤を毛嫌いしている沼袋やらぁら(本名)も彼女の肩を持つ。

まあな、言い分は理解出来るよ。

もうすぐ出産ってタイミングでベビー用品が揃ってないのは不安だよな。

ソープランドの経営者が死のうが殺されようが知ったこっちゃないよな。


だが俺にとっては大切なことなのだ。

仲間が殺された。

必ず報復をしなくてはならない。

これは男の問題なのだ。



◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



ワイバーンを狩った日に出逢った倉田という名の運送屋と途切れ途切れではあるがWhatsAppで交流をしてた。

最初LINE交換して雑談をしていたのだが、『最近はWhatsAppをメインに使っている』と伝えると、その場でアカウントを作って友達申請してきた。

俺のアイコンがドバイで撮ったものだったので、「何か商売をしているのなら使ってくれ」とずっと懇願されていた。



『あ、倉田さん。

突然すみません。

今、通話宜しかったですか?』



  「おお!

  飛田さん!!

  連絡貰えないかと思って諦めてました!」



『すみません。

あちこち飛び回っていたので…

謝礼を支払うので個人的に色々お願いしていいですか?』



  「はい、是非!」



『以前本棚を届けてくれた府中の自宅。

ベビーベッドを用意して下さい。』



  「あ、ご結婚されてたんですか?

  おめでとうございます!」



『ありがとうございます。

ちょと事情が複雑で妊婦が3人居るんです。

3台揃えて頂けませんか?』



  「えっと、それは飛田さんのお子さん?」



『ええ、多分俺です。

報酬、ちょっと手元にドルしか無くて…

それでもいいですか?』



  「最高にクールじゃないですか!

  俺、飛田さんのそういう

  浮世離れした部分に惹かれたんですよ!」



『恐縮です。

ただ、これからは生まれてくる子供の為にも…

俺なりに地に足の付いた生き方を心掛けます。』



倉田への報酬、まずは手付金として5000$。

女共が信用出来ないので駅で落ち合い直接渡す。

彼には当面の準備を代行させるのだ。

ベビーベッドやら用品やら、それに伴う諸々。



◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



府中駅前のコンチネンタルホテルの屋上に飛び、村上翁に電話。

ここは人目が無い上に電波状況がいいから素晴らしい。



  「おう、指名手配犯。

  たまには顔を見せろよ。」



『捜査網が厳重過ぎて村上さんに近づけないんですよ。

今、どこに住んでるんですか?』



  「教えてやってもいいけど。

  この通話もチャコちゃん警察に

  盗聴されてるぞ。」



『マジっすかー。』



  「マジ。

  だって俺の動きが筒抜けだもん。」



『…チャコちゃんさーん。

聞いているんですよね?

晩飯はお店で食べるので、幹康さんに予約だけしといて下さい。

人数2名で。

じゃ、村上さん、そういう事で。』



  「えー、参ったなぁ。

  今、宇都宮なんだけどなー。

  まあいいや、頑張って東京に戻るわ。」



被害妄想かも知れないが、確かに村上翁と通話するだけ妙な雑音が聞こえるような気がする。

きっとそういう盗聴アプリや機器が世の中にはあるのだろう。



『ワープ。』




◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇




「おい、警察官舎まで尾行して来るっていい度胸だな。」



流石は刑事課である。

俺の遠方からの観察や拙い尾行は全部お見通しだったようである。

あっさりと手首を掴まれる。



『印西刑事、ご無沙汰しております。』



「…オマエの声、どこかで聞いたな。」



『以前、新宿署でお目に掛かりました。』



「…。」



後から知った話だが、この印西広志刑事。

高校生の頃に日本拳法の大会で優勝した事もある猛者らしい。

それだけに膂力も迫力も相当なものだ。



「…オマエ馬鹿か?

何で覆面してない訳?

ここ、警視庁の独身寮って理解してる?

俺は非番だけど、不法侵入は現行犯で逮捕出来るんだぞ?」



『…不躾なお願いで申し訳ないんですけど。

水岡刑事を紹介して頂けませんか?』



「オイオイオイ。

今のそのセリフで俺的犯罪者ランキングの首位に躍り出たぞオマエ。

ダントツでヤベーわ。」



『申し訳ありません。

どうしても水岡刑事に相談したい事があるんです。』



「オマエなー。

立場分かってんのか?

警察署に不法侵入した時点で話し合いの余地なんかねーんだよ。」



『俺の名前は飛田飛呂彦。

飛躍の【飛】に田んぼの【田】。

ファーストネームはジャンプ漫画家の荒木さんと同じ字です。』



「…。」



『…。』



「…もしもし警部。

印西です、勤務中申し訳ありません。

少しだけお時間宜しいでしょうか?」



  「おお、印西。

  非番だろオマエ。

  何かあったか?」



「今、仮面の男が側に居ます。

自分を追って独身寮に侵入して来たんです。

向こうから接触して来ました。」



  「待て。

  それ署に入った子だよな?」



「はい、岩永の件の日の男です。」



  「署の次は寮か…

  顔さえ隠せば大胆になれるもんだ。」



「いえ、今は素顔です。

本名も名乗ってます。。」



  「自首…

  ってタマじゃねーよな。」



「この男、飛田を名乗っているのですが…

水岡さんとの面談を希望しておりまして。」



  「替わってくれ。」



「はい。」



『お電話替わりました。

飛田と申します。』



  「おう久しぶり。

  警察官登用試験を受験したいのなら

  推薦状を書いてやるぞ。」



『生憎ですが盗泉の水は飲まない主義なんです。

それよりも一手ご教授頂けませんか?』



  「いいよ。

  最初の配属は少年課だったからな。」



『今月の頭。

熊本でソープランド経営者が殺害された事件があります。』



  「ああ、シャンクス事件な。」



『それです。

シャンクスはいつ逮捕されますか?

教えて頂きたい。』



  「おお、奇遇だな。

  警視総監(ウチのボス)も総理大臣から

  同じ詰められ方をしたよ。」



『真面目に答えて下さい。

犯人の目星くらいはついてるんでしょ?』



  「ふははは。

  飛田、もうオマエが総理やれよww」



『シャンクス事件について教えて下さい。

ヒントで構いません。』



  「何?

  オマエが代わりに逮捕してくれるの?」



『…。』



  「そっか、じゃあやっぱり。

  岩永を殺ったのはオマエなんだな。

  で、次の標的をシャンクスに定めた、と。」



『シャンクスの正体を知りたいです。

ヒントだけでも構わない。』



  「岩永も可哀想な奴でさー。

  ネグレクトって奴?

  親がヤクザだったから

  かなり悲惨な少年時代だったよ。

  その頃の俺、少年課でさあ。

  餓死寸前だった岩永を保護したんだ。

  酷いと思わんか?

  実母が子供を虐待するんだぞ?

  俺、思わず泣いちゃたもん。

  決意したね。

  この子だけは何としても

  社会全体で育ててやらなきゃって。

  でもまあ、その岩永が結局半グレになって。

  下の世代を苦しめる側に回るんだが…

  不毛な仕事だよな、警察って。

  そりゃあ税金泥棒扱いされるわ。」



『…水岡さん。

昔話は署内でして下さいよ。

俺は情報が欲しいんです。』



  「最近はパワハラだアルハラだと五月蠅くてな。

  ちょっと昔話しただけでも

  若い奴が文句言うんだ。

  そこの印西なんかも酷いんだぜ?」



『…。』



  「…オマエ。

  正義の味方か何かを気取っちゃってる訳?」 



『気取るのは警察に任せます。

執行は俺が自腹でやります。』



  「うはははwww

  マジで次の総理はオマエがやってくれよ。

  ハニトラ野郎と構文野郎の2択なんて

  我慢できねーからよ。」



『可能な限り警察庁の顔を立てます。

水岡さんの言える範囲でヒントを下さい。

後は全部俺が解決します。』



  「マニラ、パタヤ、ドバイ。」



『え?』



  「その3都市である確率が8割。」



『警察はもう特定してるんですか!?』



  「いや、俺が勝手に特定してるだけ。

  シャンクス一派は相当稼いでいる。

  暗号通貨だけで最低27億円を保有してるし。

  つまりあぶく銭を持った犯罪者だ。

  そんな奴らが滞在するトコは限られる。

  フィリピン、タイ、アラブのドバイ。

  カネさえあれば気楽な場所だからな。」



『じゃあ、その3カ国で捜査中なんですね?』



  「いや、スマン。

  俺が提案したのが偉いさんの癪に

  障ったらしくてな。

  高卒ノンキャリ如きの発言は

  採用出来ないんだってさ。」



『…そっすか。』



  「そして、その3か国なら十中八九ドバイ。」



『…根拠は?』



水岡の根拠はシンプル。

反社との関係を誇示しているyoutube配信者がドバイに住んでいるのだが、以前別の配信者と口論になった時に【闇バイトの矛先になるぞ】と恫喝した事があったらしい。

(印西が無言で当時のニュースを検索して見せてくれる。)

あくまで刑事の勘。

口ぶりからして、その配信者は闇バイトを動かせるような存在と直接面識ある。



「水岡さんも上層部にその配信者を洗うように提案したんだがな…

アイツらは少しでもリスクのありそうな捜査は…」



  「印西。」



「…申し訳ありません。」



  「いや。

  オマエまで上にゴチャゴチャ

  言われてるんだろ。

  俺の所為でスマンな。」



「いえ。」



『印西さん。』



「んー?」



『何で俺の手を離してるんですか?』



「警部、スミマセン。

手が滑って逃げられました。」



  「そりゃあオマエ。  

  手が滑ったなら仕方ねーよ。」



『…ありがとうございます。

お2人にこの埋め合わせは必ず。』



  「バーカ。

  埋め合わせされたら癒着だろうが。」



「ああ、それこそ汚職だ。」



『じゃあ、どうすればいいんですか。』



  「正業に就いて税金を払え」



全くの正論だったので返す言葉も無かった。

俺は印西に一礼すると近所のデパートに入ってワープ。


行先?

刑事の勘に従うに決まってるだろ?

この話が面白いと思った方は★★★★★を押していただけると幸いです。

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