無関心こそが最も残忍な兵器なのだ。
エルフは魔界や首長国の更に向こうに住んでいるらしい。
俺も未だに異世界の地理感覚が掴めてないのだが、「天竺は唐の向こうにあるらしい。」レベルの遠隔地のようだ。
ニヴルの中でエルフの実物を見た事があるのは放蕩者のロキ爺さんのみ。
「見たと言っても共和国で傭兵働きをしていた時期に一言二言挨拶しただけじゃぞ?
こっちは一介の傭兵だったし、相手は出資者サイドだったし。」
『出資者?』
「そりゃあ、エルフは総じて金持ちだもの。
首長国や共和国じゃあ株主名簿にちらほら名前が乗っとるよ。」
ちなみに王国・帝国・合衆国の企業には一切出資してくれないらしい。
理由は、かつて3国がエルフに対して未曽有の大虐殺を行ったから。
(首長国はちょっとしか虐殺してないのでギリセーフ。)
ドワーフが発行する債券も買ってはくれない。
無論、過去の大戦争の記憶が根強い事も原因なのだが、それ以上に息を吐くようにデフォルトするドワーフに投資価値が無いだけなのだ。
「何?
トビタ少年は今度はエルフの嫁を娶るの?」
『勘弁して下さいよ。
これ以上子供が生まれちゃったら、養う自信がないです。』
「キミ、カネなら相当持ってるだろう?」
『いえ、おカネさえ渡せば良いというものではなく…
ちゃんと子供1人1人に向き合ってやりたいですし…
俺、今思えば親父からはかなり真剣に育てられたって最近ようやく気づいて…
いや、あの人が生きてるうちにもっと感謝しておくべきだったんですけど…
そんな俺だからこそ、自分の子供にはしっかり関心を持って向き合う義務があると思うんです。』
「真面目だなー。
どこぞの放蕩親父に言い聞かせたいわ。
ちな、長男も長女もワシを嫌い抜いとる。」
『それでいつも1人でフラフラしてるんですね。』
「ぐぬぬ。
キミくらいしか構ってくれる奴がいなくてな。
寂しい老後よ。」
『楽しんでる癖にw』
「バレたかw」
『「あっはっはっはww」』
「でも、キミだって家庭には向いとらんだろ?」
『本来向いてないっすねー。
何もかも放り捨てて、一生行商して暮らしたいですわ。』
「分かる。
すっごくアグリー。」
そんな下らない話をしながら、ロキ爺さんとエルフや風魔法の話題で盛り上がる。
首長国は遠いので断念。
単に距離があるだけではなく、間に絶賛出禁中の王国があり、その奥にはドワーフ三大氏族のブンゴロド族の支配地があるからだ。
同氏族に対しては数年前に債務を派手に踏み倒したばかりなので、無事に通行させてくれるとは思えない。
「魔界にも…
僅かに出資しているから、ひょっとするとエルフが住んでるかも…
あー、どうかなー。
魔界は貧乏所帯だからな。
分からんなー。」
『いや、そういうヒントがあるだけでも心強いです。
じゃあ、どのみち盆地探索班に合流するように指示されてるので…
ちょっくら行って来ます。』
「あ、ワシも行くー。」
『えー、ロキ先生が一緒だと背中を斬られそうww』
「バレたかーww」
『「あっはっはww」』
という訳でガルドを誘って盆地へ進む事に決めた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
『親方ぁ。
俺、ドワーフ舐めてました。』
「安心しろ、その年頃だと世の中全体を舐めてるのが普通だ。」
俺とガルドが乗っているのは魔界トンネルの中に敷かれたトロッコ。
ちゃんと往路用と復路用に線路が分かれている。
ニヴルがこのバルバリ峡谷に到着してから、まだそんなに経ってない気がするのだが…
やっぱりコイツら凄くないか?
「ヒロヒコ。
これは急場凌ぎの民生用だ。
俺個人でも敷けるレベル。
こんなモンで驚いてたらニヴルが本気で作る産業用トロッコを見た時にひっくり返るぞ(笑)
あー、王国に住んでた時に、オマエにも見せておけば良かったなぁ。」
『今は産業用トロッコは作らないんですか?』
「…風魔法。
しっかりとした風がないと高炉用の鋼が精錬出来ない。
そして高炉が無ければ俺達ドワーフの真髄である、工業用鉄鋼が作れん。
こればかりはなぁ…」
『はい、風魔法使いですね。』
「魔界にエルフが居てくれたらなぁ…
スカウトに応じずとも、せめて風魔法をロック鳥の卵に注入してくれたら…
うーーーーん。」
『話を聞く限り難しいんでしょ?』
繰り返すが、エルフとドワーフは対立している。
かつて大戦争を繰り広げた間柄であるし、そもそも開拓主義者のドワーフを自然主義者のエルフが助けてくれるとは思えないのだ。
カネで解決出来れば御の字なのだが、エルフは裕福で知られる種族なので期待は出来ない。
「ヒロヒコ。
風魔法使いの雇用費。
長老会議は幾らって見積もってた?」
『あ、はい。
年俸で金貨1000枚、2年契約。
定数3名が希望とのことです。』
「おお、奮発したなあ。
まあ、高炉が作れなきゃ詰むから仕方ないか。」
ニヴル族にとっての理想パターンは王国・合衆国の公共事業入札に食い込むこと。
橋梁工事に自信があるので、何としても鉄橋を売り込みたい。
両国としても鉄橋は喉から手が出る程欲しいが、ニヴルにこれ以上デカい顔をされたくないので中々発注はくれない。
だが、今はそういう綱引きの土俵にすら登れていない状況。
歯痒い思いをしているのだ。
『親方ぁ。』
「んー?」
『俺、祖国の線路技術が世界最高だと思ってたんですけど。
ニヴルには敵いませんわ。
即興でここまで静音性の高い路線を敷くなんて神業です。』
「はっはっは!
そうか、気に入ってくれたか!!
あー、ヒロヒコに産業用トロッコを見せてやりてえなぁ。」
リップサービスではない。
本当に凄いのだ。
まずトンネルからして別格。
突貫工事にも関わらず、完全に直線かつ水平。
しかも天井にはビッシリとヒカリゴケが敷き詰められ明るい。
更には中継ポイント毎に駅があり、坑道が分譲されていた。
どうやら一族毎に採掘権を購入して暮らすらしい。
そして特筆すべきは圧倒的静音性。
そこそこのスピードで走っている筈なのに、ガルドと平常の音量で会話が出来ている。
内心、日本こそが技術大国であり異世界は中近世レベルと思っていただけにショックは大きい。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
2時間31分。
灰色鉄鉱山から盆地までの所要時間である。
決して近場ではない。
かなりの距離はあった筈だ…
体感、東京から静岡くらいの距離は走った気がする。
…凄い技術だ。
「おいヒロヒコ。
早く降りろ。
後続が迷惑する。」
『あ、すみません。』
俺達がトロッコを回送レーンに戻すと、すぐに整備班を乗せたトロッコが通り過ぎた。
思わず勤勉に舌を巻く。
そして空圧エレベーターで盆地まで登る。
『おおおおおッ!!!!』
「うおっ、びっくりした。
急にどうした?」
『空が見えます!!
平地も!!』
「あ、うん。
ここが発見した盆地な。」
想像より広い。
山脈の合間にぽっかり空いた空間。
…下手をすると甲州大月市くらいの規模感はあるやも知れん。
盆地の入り口が探索隊の詰め所になっており、俺はガルドと共に到着報告。
「おう!
トビタ君じゃないか!
それにガルド先輩も!」
「よう久しぶりー。
俺は単なる付き添いな。」
『遅くなりました。
トビタ出頭しました。』
「ははは、相変わらず仕事熱心だなあ。
ま、見ての通りの場所だ。」
「開拓進捗はどんな感じ?」
「当面は生態調査ですね。
今の所、スライム系は見当たりません。
て言うかモンスターをあまり見掛けません。
ジャイアントタートルくらいっすかね?」
『ジャイアントタートル?』
「ああ、ただのデカい亀だよ。
尻尾を煮込むと安産にいいらしいから嫁に喰わせてやれ。」
『へー。』
「あ、裏に一匹死体があるから解体してやろうか?
後で送ってやるよ。
今は惣堀の外側に住んでるだっけ?」
『あ、いえ。
バルンガ組合長の所に居候というか…』
「お?
政治性w? 政治性w?」
『そんなのじゃないっすよーw』
3人で笑い合いながら詰所の裏手に…
『うわああああ!!!!』
「ん? どうした?」
「ヒロヒコ?」
『で、デカいッ!!!』
俺が見たのは4㌧トラック級の巨大なカメ。
「いや、そりゃあ。
ジャイアントタートルなんだからデカいっしょ。」
「アレ?
オマエは見るの始めてか?」
『あ、はい。
こんなに巨大だと思わなかったので。』
「ははは、ワイバーンを倒した癖に変な奴だなww」
俺が驚かされたのはドワーフがこの質量に一切怯んでいないこと。
それどころか向こうでは先遣隊が巨大なカメを一方的に追い回して遊び半分に撲殺していた。
どうやら彼らにとっては雑魚モンスターらしい。
…人間種にとっては、多分ヒグマや虎のように恐ろしい猛獣なのだろうけど。
『じゃあ、盆地の制圧は完了している訳ですね。』
「制圧?」
『あ、そうっすよね。』
制圧も何もない。
きっとこの未開の土地もニヴルの猛者達にとっては単なる無主の地に過ぎないのだ。
その後、巨大な猿の死体が無造作に転がされてる風景を見掛けた。
『あ、あれは!?』
「え?」
『あ、いや。
馬鹿デカい猿みたいな…』
「ガルド先輩、あの猿の名称分かります?」
「え?
ジャンピングコングじゃね?
知らんけど。」
「あー、ガキの頃にバーチャンが絵巻物で読んでくれましたわ。
じゃ、トビタ君。
コレ、ジャンピングコングってことで。」
『あ、はい。』
万事がこの調子、雑。
人間種の俺から見ると深刻なレベルで命の危険を感じるモンスターがそこそこ棲息している環境なのだが、彼らの視界には映ってすらいない。
そりゃあ傍若無人にもなるわ。
平気でデフォルトするようにもなるわ。
「でもガルド先輩。
ちょっと残念なんです。」
「え?
何?」
「まだ簡単な地質調査しかしてないんすけど。
外れ地質ですね。
鉱物資源殆どないっす。」
「えー?
マジ?」
「マジっすマジっす。
辛うじて錫が点在しているくらい。
期待外れもいいトコですわ。」
「あー、そりゃあ痛いなぁ。
普通、こういう地形はなぁ。
銀脈に恵まれてるんだけどな。」
「そうっすねえ。
実は俺もそこらを見込んで探索隊に志願したんですけど。
あー、失敗した。」
聞けば探索隊には分譲優先権が与えられるらしく、後輩氏も夢のマイ鉱山を手に入れるべく勇んでやってきたらしい。
だが、この盆地周辺には鉱物資源が乏しく、モチベーションが激減しているとのこと。
「そこでトビタ君だよ。」
『あ、はい。』
「この盆地をカネにする方法を考えてよ。
このままじゃトロッコの敷き損だよ。」
『え?
俺ですか?』
「バルンガさんから聞いたよー。
カネに関する嗅覚凄いってさ。
何かアイデア捻り出してよ。」
後輩氏にせがまれ盆地を見渡す。
そこそこ広い平地。
美しい湖。
ふかふかした土。
「あー、やっぱ駄目だー。
こんな外れの土地をマネタイズする未来が思いつかねー。」
『あ、あの後輩さん。』
「んー?」
『この土地で農業はしないんですか?』
後輩氏もガルドも不思議そうな顔をする。
「やっぱりトビタ君。
人間種なんだねー。」
「種族ごとの好みってあるよな。」
『え?』
人間種が鉱業を嫌うように、ドワーフは農業を嫌う。
異世界でも地球でも人間種は鉱業への従事を刑罰として採用するケースが多いのだが、ドワーフの場合はそれが農業なのである。
気質的に余程合わないらしく、俺が【農業】という単語を出した途端に嫌悪感丸出しの反応をされてしまった。
「ははは、人間種は農業好きだよねー。
でも、俺はちょっと勘弁かな…」
「俺もパス。」
『あ、なんか余計なこと言っちゃったみたいで…
スミマセン。』
「いやいや、怒ってる訳じゃないからね。
俺達も穀物は食べたいし、農業を差別してる訳じゃないからね。」
わざわざ口に出したという事は、ドワーフ文化において農業とは差別の対象なのだろう。
そりゃあ人間種とは上手く行かないだろうな…
王国なんてガチガチの農本主義国家だったからな。
「大体、農業って専用の畑を整備しなきゃいけないんだろ?
出来る物なの?
ちな、俺はコメが好物。
後、合衆国のトウモロコシも案外良かった!」
『コメは…
陸稲なら行けるかもです。
トウモロコシの方がイケるんじゃないっすかね?』
「おー!!
流石人間種だ!!
え? すっげ。
土地を見ただけで分かるの!?」
後輩氏の反応を見て改めて思う。
ドワーフと人間種では鉱業と農業の職業価値がまるっきり正反対。
金属製品に囲まれて育った俺が一切鉱業に興味を持っていなかったように、穀物を喜んで頬張る彼らもまた農地に興味がない。
だから広い土地を見ても農業利用という発想が出てこない。
俺が山を眺めて採掘を思いつかないように。
『親方。
土だけ持って帰っていいですか?』
「え?
何で?」
『あ、いや。
本職の農夫に見て貰って…
育て易い作物を聞こうかと。』
「…あ、うん。
別にいいんじゃね?」
『俺が親方に岩の破片を見て貰ってるみたいなものですよ。
いつも親方が岩質から採れそうな鉱石を教えてくれてるじゃないですか。
その作物版ですよ。』
「お、おう。」
やはり半信半疑。
というより関心が乏しい。
きっとこれが文明ギャップなのだ。
さあ、エヴァが産む子の生き抜ける環境をどうやって作るかな。
…鉱業と農業の価値相違を利用して概念ごとアービトラージするしかないかもな。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
盆地への到着の旨をバルンガに対して伝書鷹で報告。
その間、探索班から新天地開拓のレクチャーを受ける。
「なあヒロヒコ。」
『はい?』
「どのみち魔界と貿易するんだからさ。
何も農業なんかしなくても、資材置き場かなんかでよくね?」
『…資材は地下でも貯めれますけど。
穀物は地下では成りませんので。』
「うーん、まあ、そうなるわな。」
要はガルドにしろ後輩氏にしろ、「万が一自分が農業をさせられたら」、という一抹の不安を抱いているのだ。
なので極力避けようとする。
『勿論、無理に農業をする必要はありません。
ただ、稲作であれば少なく見積もっても1万石…
つまり人間種を1万人食わせられる土地ではあります。』
「え!?
マジ!?
1万?
数字盛ってない?」
『だって、王国の人口規模がそんな感じだったじゃないですか。』
「農業は人口増えるもんなぁ。」
他人事の様にガルドが呟く。
そう、農業は途方も無い人口を養える。
なので狩猟や半牧畜で食料を確保しているドワーフよりも農業文明の人間種の方が遥かに人口が多い。
ドワーフが穀物を手に入れる為には人間種の定めたレートでの交易に応じざるを得ず、需給の力関係から得意の暴力も上手く活かせない。
それが肉体的に劣っている人間種がこの異世界の主流派である理由。
その点はドワーフも重々理解しているのだ。
ただ、ドワーフの価値観で農業は罪人への(極めて非人道的な)刑罰でもあるので、誰も真面目に取り組まない。
また、好きでやってる筈の人間種があまりに苦しそうな表情で農業に取り組んでいるのも忌避に拍車をかけていた。
人間種と来たら年貢を取り立てる側ですら、常に頭を抱えているのだ。
その光景を横目で見ているドワーフが農業に激しいアレルギーを抱くのも仕方がない。
「だって、国家を挙げて農業やってる王国人が何故か飢えてる訳じゃん。
いや、農奴が飢えるのはまだ理解出来るよ?
でも収奪している側の軍人階級が食糧難っておかしくね?」
『彼らは無駄に遠征し過ぎなんですよ。』
「いや、それでもさぁ。
あれだけ国中を田畑にしておいて、俺らよりも痩せ細ってるって絶対変だよ。」
1人の人間として耳が痛い。
ドワーフはなあ、個々が器用に狩猟や保存食作りをするからなぁ。
採鉱の片手間にキノコ部屋を作ってるし。
(キノコ栽培を含む屋内栽培は彼らの価値観では農業には含まれない。)
生活能力があり過ぎて、さほど食事に困ってないんだよな。
そんな彼らの目に飢えた農業種族はどう映っているのだろうか。
『どれだけ育てても税金で取られますし、どれだけ税金で徴収しても軍隊に支給しなきゃいけないし、どれだけ支給されても輸送段階で輜重用牛馬にカロリーを奪われるから人間種の口に作物が届いてないんですよ。』
「あー、じゃあ王国は更に飢えるかもな。」
『え?』
「掲示板見なかったのか?
王国情勢の欄が更新されてただろ。
年貢率が上がって九公一民になるんだってさ。」
『いやいやいやいや!
そんなの薩摩じゃないですか!』
「サツマ?」
『俺の地元では地獄の代名詞です。』
「ほーん。
王国さんも大変だねぇ。」
『避難民増えるかもです。』
「ほーん。
それって俺たちに得なの?損なの?」
『このまま上手く煽れば領土が手に入ります。』
「おお!
得なのか!
いやぁ良かった良かった。」
『但し!
煽ってるのがバレたら、人間種全体を敵に回します!』
「えー、それは困るなぁ。
穀物を売ってくれなくなるじゃないか。」
この緊張感の無さがドワーフの弱点。
なまじ戦闘力が突出している為か、憎まれる事への危機感が極度に乏しい。
事実、異世界の全人類が団結してもドワーフを滅ぼすのは不可能かも知れないからだ。
(その証拠に人間種の領域内でのうのうと生活し続けている。)
彼らにとって全人類との戦争も「コメが食えなくなるのは嫌だなぁ。」程度のものでしかないのだから仕方ない。
『安心して下さい。
足の付かない方法で煽っておきました。
後はひたすら知らん顔をしていれば俺達ニヴルの勝ちです。』
「ヒロヒコが言うならそうなんだろう。
じゃあ、人間種はしばらく放置して風魔法探しだな。」
『ええ、エルフに会えれば良いのですが…』
この盆地はバリバリ峡谷と魔界側出口との中間点。
ここからだとトロッコで2時間強の距離とのこと。
今日は1泊して明朝魔界に向かう事にした。
探索班と亀のBBQで親交を深める。
「それにしてもガルド先輩。
こうも金目のモノが無いと意欲湧きませんわ。」
「正式な調査を待とうぜ。
迂闊に騒ぐと農業をさせられるぞー(笑)」
「勘弁して下さいよー(笑)」
「「あっはっは。」」
「人間種がやってくれるなら褒賞は弾みますのにねぇ。」
「分かる、好きなだけ言い値で分配するから、勝手に耕作してくれないかなぁ。
別に折半でもいいのにな。」
「ははは。
もー、ガルド先輩w
折半は欲張り過ぎぃ(笑)」
「「はっはっは。」」
ん?
「トビタ君、どうした?」
『え?
人間種に耕させるのもアリなんですか?』
「え?
だって僕らは嫌だもん。」
『いや、それはそうですけど。
え?
年貢を払うなら農業使用も可なんですか?』
「え?
いや、年貢とか大袈裟だけどさ。
3割くらい分けてくれるなら、長老会議も大歓迎するんじゃね?」
『じゃあ、3割さえ払えば…
いや勿論ある程度の軍役は務めなきゃでしょうけど…』
「軍役?
そんな事させちゃったら勿体ないじゃん。
農業にリソースを集中して欲しいな。」
『…本来はそうですよね。』
後輩氏にとっては何気ない雑談。
だが、俺にとっては我が子を生かすヒントに聞こえた。
『親方。』
「んー?」
『多分、俺が勝ちます。』
「だから俺はオマエにずっとそう言ってるだろ。」
寝転がってから星明りに照らされた盆地を改めて眺める。
日本人の俺はこのサイズの山間地は嫌と言うほど見てきている。
鉱業に関しては想像も付かないのだが、ここに広がった水田の風景は何故か自然に目に浮かんだ。
『親方、ここが田畑になるって言ったら信じます?』
「いや、急に言われても困るよ。
俺には関係ないし。」
強靭な肉体、優れた採鉱技術、器用な生活能力。
これらは一般に知られたドワーフの長所である。
だが、俺は今改めて確信した。
彼らの圧倒的なアドバンテージ。
それは人間種やその文明への興味の乏しさ。
それこそが彼らの最大の武器であると。
無関心こそが最も残忍な兵器なのだ。
この話が面白いと思った方は★★★★★を押していただけると幸いです。
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