よし、エルフを探そう!
気圧を考慮せずに4000メートル級高山の頂上からロック鳥の卵を強奪。
計18個!
別に乱獲がしたかった訳ではない。
帰宅が億劫だっただけだ。
『はあ、疲れた。』
バルンガ庵に帰還してだらしなく寝転ぶ。
「男の人ってどうしてそんなに家を嫌がるの?」
『分からない…
ただ1カ所に留まる事でオスとしての何かが死ぬことだけは理解している。』
分からないなんて嘘。
男なら全員知っている。
妻を固定するという事は未来を固定されてしまうのと同義。
実質的なオスとしての死。
なので男は外に出て別の未来を探す。
端的に言えば別のメスとの生殖機会を探すという事だ。
(俺には絶対着床能力があるので、これ以上自分からメスを探す必要はない。)
無論、メスに対してバカ正直に打ち明ける必要もないので、【妻子を食わせる為に仕事を頑張る】という体を取る。
まあ、実際問題稼ぎは養育費用に充てているので嘘ではない。
「ヒロヒコ、書生さんが差し入れを持って来て下さったわ。」
『至れり尽くせりだな…』
「ありがたいわ。」
エヴァも満更ではなさそうだ。
女は旦那が重んぜられていると機嫌が良い生き物なのである。
差し入れられた干し餅を2人でもたれ合って齧る。
寝転がって食う飯ほど美味いものは無い。
『あ、ビヨンさん。
少し宜しいですか?』
「はい、何なりと!」
書生のビヨンに声を掛けて物置を見て貰う。
『えっと、コレ。
組合長に渡しておいて下さい。』
「え!? (絶句)」
『…頼まれてたので。
駄目っすかね?』
「いえ、可否は先生が判断されるので…」
『ですよねー。』
ビヨンが驚くのも無理は無い。
ロック鳥の卵なんて超レアアイテムだからな…
昨夜やって来た俺が今日倉庫に納め終えているのが異常なのだ。
「これがヒロヒコのやりたかった事なの?
もう十分生活出来てるじゃない。」
『…男はみんなそうだよ。』
女に言っても仕方無いことなので、それ以上は掘り下げない。
認められない男は死んでるのと同じなのだ。
親父も俺も嫌な目に遭い続けて来た。
軽んぜられる辛さ苦しさを味わい尽くして来た。
だから、もうあんな想いをしない為にも自分自身に対して証明し続けなければならないのだ。
「ヒロヒコは誰よりも結果を出してるよ。」
『…。』
この能力を持ったからこそ気付けた事だが…
男が欲しいのは【結果への評価】ではなく【力量への評価】なのだ。
俺が氏族から称えられているのはワープを使って掠め盗った【結果】のみに過ぎず、俺という男の【力量】ではない。
当然だろう、ワープとはまさしく力量に依らず結果に辿り着く能力なのだから。
だから皆はロック鳥だのルビーだの猟兵だの金貨だのの【結果】に驚く事はあっても、俺自身の【力量】と繋げて評価する事はない。
本心では全員知っているのだ、飛田飛呂彦如きではこれらの結果を獲得する事は不可能である、と。
その証拠がワープがバレた時の皆の態度。
村上翁もガルドもチャコちゃんもエヴァも遠藤も沼袋もらぁら(本名)もギガント族長も、俺がワープした瞬間を目撃しても微塵も驚かなかった。
寧ろ、手品師がヘマをしてトリックを知ってしまったかの様な冷ややかな目線。
俺自身の力量は最初から誰も信じてない。
だから、これだけ突出した異能を目撃したにも関わらず、皆は異口同音に言うのだ。
「程々にね。」と。
皆が世界よりも俺を案じる。
それが俺への偽らざる評価。
チート(ワープ)を差し引いてしまえば、俺は誰からも評価されていない。
だから、俺の中のオスとしての本能はいつまで経っても満足してくれないのだ。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
午後にバルンガ組合長が戻って来る。
そしてロック鳥の卵を一瞥。
「英雄の戦果だなぁ。」
『スミマセン。』
「何も謝る事もないだろう。
大国の大規模遠征団が数年掛けて得る成果を一瞬で出した。
ただそれだけの話さ。」
『程々にしておきます。』
「そうだね、程々にしておくのが無難かもね。
もっとも若者の野心に果てが無い事は経験者なら誰でも知っていることだが。」
ロック鳥の卵を丁寧に磨きながらバルンガは楽しげに言う。
「えっと、これ全部納品扱いにする?
現物は手元に残さなくていいのかな?」
『え?
いや、使い道も知らないので。』
「え!?
知らずに採取してたの!?」
『あ、スミマセン。』
「そっかぁ。
私の落ち度だったかもな。
簡単に説明するとロック鳥の卵の殻が錬金素材として超レアなんだよ。」
『あ、殻の方を使うんですね。』
「魔力を属性毎に蓄積可能なんだよ。
その特性が最高度な魔法研究・運用に必要不可欠でね。
各国政府が血眼になって買い漁っている。」
『蓄積ですか…?』
「例えば私は火魔法をレベル2まで扱えるのだけど、そのレベル2相当の魔力を殻に注入することが可能なんだ。
その殻さえ手にすれば火魔法の素養が無い者でもレベル2の火魔法を再現出来る。」
『あれ?
それって滅茶苦茶応用が効くんじゃないですか?』
「効くよ。
だからこそ軍事魔法の研究開発には必須とされているんだ。」
現代ではそうでもないが、遥か昔には各種族の間で軍事魔法が流行した時期があるそうだ。
人間もドワーフもエルフも魔族も嬉々として大量殺戮魔法の開発と行使に勤しんだ。
あまりに戦果が挙がり過ぎてしまったので、各種族内で過激派が粛清され異世界は何とか滅びずに済んだ。
今生きている彼らは穏健派の子孫とのこと。
「この卵は既に欠けがあるね。」
『あ、本当だ。
裏側が剥離しているの気付きませんでした。』
「ほら、こんな破片でも凄いんだぞ。
極大クラスの超魔力ですら、信じられない量を込められる。」
『へー。』
バルンガは一瞬だけ寝室を振り返る。
「分かっていると思うが、奥さんの魔力は絶対に入れるなよ?」
『ええ、あの伝説級の土魔法はニヴルが秘密裏に独占するということですね。』
「そうだ。
魔力を逆探知されれば我らの手の内を推測されてしまうし…
何よりあんなものが他種族に流出したら氏族の存亡に関わる。」
『はい。』
「反面、我々が持ってない属性の魔力は喉から手が出る程欲しいんだ。
つまり風魔法。」
『以前から議題に上がってましたものね。』
風魔法がなければ高炉が作れず、高炉がなければ鉄鋼製品が作れない。
これは鉄鋼製品を輸出の中軸に据えたいニヴル族にとって致命的。
「我々ドワーフの属性は土と火。
だから風魔法の習得が事実上不可能に近い。
だからこそ風魔法使いをスカウトする必要があるのだが…」
『それが得意なエルフとは不仲なのですよね。』
「そもそも論として彼らとは思想が相反しているからなぁ。
太古は派手に虐殺し合った仲だし…
まあ、普通は来てくれないだろうなぁ。
だから次善の手として、レベルの高い風魔石を探しているのだが…
王国が軍需で殆ど接収しちゃったからなぁ。」
風魔石は河川運搬船の帆に組み込んで使うらしい。
なので多方面作戦を展開している王国が軍隊の輸送の為に風魔石を独占してしまった。
他国も馬鹿ではないので王国に対して魔石全般が流出させない為に厳重な管理協定を結んでいる。
結果、市場から風魔石が消えて久しい。
「一応、トビタ君も持っていなさい。
そして風魔法使いと出会う事があれば分かってるね?」
『はい、魔力を込めて貰います。』
「スカウトなら無理でも、魔力注入なら応じてくれるかも知れん。
勿論、対価は吹っ掛けられると思うが、組合の経費で落としてくれて構わないから。」
ロック鳥の卵の破片を眺めていると、脳裏にあの女のドヤ顔がフラッシュバックする。
参ったなぁ。
世界がチャコちゃんを俺に押し付けようとしてくる。
よし、エルフを探そう!
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