第69話 矢倍高校連合軍VSマジック・モンス軍団その2 『超必殺技炸裂』
『中々の力のようだが、それではこのトロールには勝てんぞ!!!』
『ヌウッ!!!』
トロールの太すぎる棍棒が、戦いの中で練り上げられた確かな技によって魔皇我の胴体に直撃する。
それに対し、魔皇我はニヤリと笑って口を開いた。
『馬鹿メガ、脳味噌マデ筋肉デデキテイルノカ?』
『ぬおっ!?』
魔皇我が体を分離し、無数のパーツとなって飛行する。
全身が矢倍高校の生徒で構成されているからこそできる荒業だった。
『食ラエ!!! 破壊電磁砲!!!』
『ぐおおおお!?』
無数のパーツが電磁砲を撃ち出す砲身となり、破壊の雷が発射された。
生物が受ければ即座に身体が電気分解を起こし、元素の塵となって死ぬそれを、トロールは長年の勘を働かせることにより、棍棒で受けることに成功した。
『何のこれしき! お返しするぞ!!!』
『グムーッ!?』
それだけにとどまらず、あろうことか、致死の電磁砲を打ち返してきたのだった。
魔皇我の胴体に雷撃が直撃するが、幸いにして身体を構成する生徒はサイボーグ化によって生身を捨て去っていたので、電気分解は免れた。
だが、逆にこれは魔皇我にとっての好機だった。
『もう終わりか!?』
『……超電磁マグネット!!!』
『何っ!?』
膨大な電気を帯びた魔皇我がトロールに向けて手をかざし、その身を電磁力で拘束した。
『アレハ……丁度イイ、吹ッ飛ベェェェェ!!!』
『う、おおおおぉぉぉぉ!?』
未知の力に絡めとられたトロールは、成す術も無く吹き飛んだ。
その先は、尊敬する兄達。
『ククク! 終ワリヲクレテヤル!!!』
魔皇我は、莫大なエネルギーをその身に纏わせた……
◇
『こっちだ!』
『ええい、ちょこまかと動きおって!!!』
キズナとトロイの戦いは、目にも留まらぬ速度で行われた。
常人の目では、巨大な何かがぶつかり合っているとしか認識できないだろう。
そして、死闘の中にいる彼らにも、実際にお互いの残像が見えていた。
高速移動による翻弄、速攻、短期決戦……それこそが、彼らの最も得意とする戦法なのである。
『こっちはお前よりは小せぇけど、その分小回りが利くんだ!!!』
『そのようだな! しかしその槍では俺にダメージは与えられんぞ!?』
『そいつはどうかな?』
『なにっ』
アンドロマリウスが装備する、毒蛇の槍『フェルドランス』。
その名の通り、凶悪無比の致死毒を流し込むという悪夢の兵器。だが、木でできた……それも生木ではなくちゃんと加工された木材のトロイには、あまり効果が無い。
だが、この槍にはまだ隠された機能が存在した。
本間博士の天才的な頭脳と、マジック・モンスよりもたらされた魔導工学の悪魔合体。
一噛みで幾千万の生命を殺す猛毒の蛇が、牙を剥いた。
『こ、これは!?』
フェルドランスから、巻き付いた大蛇が分離する。
単なる装飾と思われていた蛇は、科学と魔法によって作り出された、意思を持った生命体。
それこそが、毒蛇の大蛇『フェルドランス』だった。
フェルドランスがトロイに巻き付く。
魔法によって物理法則を無視した巨大化や伸縮性を備えた結果、いかに魔怪獣といえど容易に抜け出せなくなっていた。
キズナは、フェルドランスの尻尾を掴む。
『アンドロマリウスは結構な馬力があるんだぜ』
『う、おおおおぉぉぉぉ!?』
アンドロマリウスが、ジャイアントスイングの要領でトロイを投げ飛ばす。その直前に、フェルドランスは離脱、主人の元へ戻った。
向かう先は、共に暮らした兄弟達。
魔法を得意とするトロイなら、魔法によって空を飛べると思われるが、それはできない。
何故なら、フェルドランスの毒には触れた魔力を破壊するという悪辣な隠し効果が存在するからだ。
毒が効かないといえど、全身にそれを浴びたトロイが飛ぶことはできない。
『トドメだぜ!』
キズナは無情に必殺技のエネルギーをチャージした。
◇
『フハハハハ!!! どうした、逃げるだけか!?』
トロ三兄弟の長兄、トロは強かった。
その身から放たれる不可視の斬撃、浮遊による高速移動、多彩な魔法、屈強な肉体……どれをとっても、他の兄弟の能力を超えていた。
『チィッ……』
そんな猛者に持ちこたえられるのは、偏にレイジアンガーの才覚と経験によるものであると断言してもいい。
怒れば怒るほどに増していく魔力と、それを利用した強力な魔法。
それらを直接撃ち出すことのできる『遥駆砲丸』は、レイジアンガーにピッタリの機体だった。
『相変わらずの技量ですなぁ……トロ殿ォッ!!!』
『調子が上がってきたようだな!』
キャノンボールの砲身から、無数の赤い魔力弾が乱射される。
これは、決してレイジアンガーが冷静さを失ったわけではない。彼女は、どんなに怒り狂った状態であろうと冷静さを保つことができるからだ。
そして、この行為にはある狙いがあった。
『逃げ場を無くしているようだが……それでは私は倒せんぞ!!!』
『そうですね。ですが……』
『!?』
逃げ場を無くし、一網打尽にしようという狙いがあることに気づいていたトロ。
しかし、それはあくまで主目的ではかった。
無数の魔力弾が突如として、細い糸のように形を変えた。
それらは複雑に絡み合い、一瞬で魔力の網へと変化したのだ。
『こ、これを狙っていたのか!?』
『それともう1つ』
『なっ!?』
赤い魔力の網が、更に赤みを増す。
レイジアンガーの憤怒の魔力によって深紅に染まったそれは、超高温の火属性を帯びた。
『ぐああああッッッ!!! 熱いッ! わ、私は新鮮な赤身魚の氏族……度を超えた高温には弱いのだ……!!!』
『知っていますよ……そして並の温度では弱点にならない。だから魔法と科学による特殊な炎を発生させる必要があったんです』
彼女の言う特殊な炎、それは……
『町を燃やした炎を使ったのか!?』
『そう、人が長く暮らした場所を燃やすことで、染みついた想いを燃料にし、更に燃焼させる……尤も、人的被害はありませんが』
想いの力は無限である。
それが、古くから続く長い戦争があった、狂人だらけの矢場谷園なら尚更だ。
『さあ、吹っ飛べぇ!!!』
『う、おおおおぉぉぉぉ!?』
トロが、網ごと飛んでいく。
その先は、契りを結んだ兄弟達。
魔力の網は、防御足りえない。
他の攻撃に反応し、より強い爆裂への触媒となるばかりである。
レイジアンガーは、砲身に無尽蔵の魔力を注ぎ込んだ……
◇
『おおおおぉぉぉぉ!?』
トロ三兄弟が、一カ所に集まる。
その瞬間、3人の溜めていた破壊エネルギーが火を噴いた。
『超絶合体技巧……』
『全てのパワーを1つに!』
『敵を粉砕せん!』
ぶっつけ本番での合体技。
しかし、彼らの連携は完璧だった。
『鬼炎蛮情!!! 魔神撃滅波動光ッッッ!!!』
その輝きは、まさに魔神の名に相応しい程の破壊光だった。
様々な色が絡み合った光線は、トロ三兄弟を貫き……
『み、見事なり!』
『良き戦いだった!』
『さらばだ勇者達よ!』
塵一つ残さず、消滅させた。
強者で知られるトロ三兄弟の伝説は、ここで幕を下ろしたのだ。
『やったな!!!』
『ウム。我ラニカカレバ一捻リヨ』
『あのトロ三兄弟が出てくるとは……マジック・モンスもいよいよ本気のようだ。まあ、何にせよ勝ててよかった』
3人は勝利の余韻に浸っていた。
しかし、そこに新たなる敵の影が現れた!
『ファァァァハハハハ!!! 』
『!』
『何奴!』
『この声は……』
光の粒子から、敵が現れる。
それは、人間大の大きさの、高級そうなローブを纏ったミイラか骸骨のような姿をしていた。
『あのカス共を殺したごときでいい気になっては困るなぁ、魔力も無いゴミ共と裏切者よ』
『何だァ、あの野郎いきなり出てきて』
『フン、ドウセ魔法至上主義ノ差別主義者ダロウ。話スダケ無駄ダ、スグニ殺スゾ』
『それがいい。奴はネクロマンサーのイスゲ・ミゴソク。見ての通りクソ野郎中のクソ野郎です。奴は殺すしかない。生かしておいても、百害あって一利なし……正真正銘、廃棄物以下の生にしがみつく環境汚染媒体、この世に存在すること自体が罪になる生きる価値無しのカス。それが奴です』
イスゲ・ミゴソク。
腕のいいネクロマンサーだが、悪い意味で有名な男だった。
そして、魔王の住むマジック・モンス城を永久出禁になった唯一の存在。本物のゴミである。
『この劣等種族共が! この俺様を愚弄するかー!!! 見ておれ、我が秘密兵器を!!!』
『! この気配……アンデッドです!』
イスゲの杖から放たれる闇から出現したのは、無数のアンデッド魔怪獣軍団だった。
その中で一際目を引くのが、ロンズデーライトゴーレムのような大きさをした、魔怪獣を無理矢理組み合わせたような肉塊ゴーレム。
そして……
『あいつは……!』
『ダルガング殿!? あの方は死んだはず……まさか!?』
シャークウェポンによって死んだはずの、ダルガングと隕鉄号だった。
その目に生気はなく、アンデッドとして操られていることは明白。
マジック・モンスに長く忠誠を捧げた英雄に対する、あまりにも非道な仕打ちに、彼らは義憤をあらわにした。
『どうやら本当に外道みたいだな!』
『数ノ利ヲ取ッタヨウダガ、無駄ダ。コチラニモ増援ガ存在スル!!!』
『……ダルガング殿の相手に相応しい方もね』
『愚か者めがぁ!!! この俺様に、貴様らクズ共が勝てると思い上がるなよ!!!』
かくして、新たなる敵、イスゲ・ミゴソク率いるアンデッド軍団との戦いが始まった。
無尽蔵のスタミナを有する、痛みも死も恐れぬ不死身のアンデッド達……だが、矢倍高校にも味方は多く存在する!!!




