別視点 四国攻めの軍議後
いつもお読みいただき、誠にありがとうございます。
楽しんでいただけると幸いです。
また、いつも誤字報告をしてくださる皆様、とても助かっております。自身でも確認はしておりますが、また間違うこともあるかと思います。その時はよろしくお願い致します。(ただし、誤字報告だけで、お願いします。)
なお、送り仮名は、どちらでも良い場合は、分かりやすくする為、多めになっている事がありますが、誤字では無い事もあります。誤字の場合は修正し、誤字じゃない場合は、ルビで対応しようと思います。
〜信虎side〜
木曾蹂躙か。腕が鳴るの。それにしても、三河守様は模擬戦や研修の時の威圧・殺気は本気ではなかったのだのぉ。武官としての意地でやっと堪えたが、本当に吉法師さまが好きじゃのぉ。儂らも木曽の二の舞とならんよう、しっかり教訓とせねば。
おや?小角衆の横目殿が寄って来よった。姿を現してこちらにくるという事は、儂に用かの?横目殿の件もそうじゃ。横目殿は儂が使っておった頃は、繋ぎ役の下人扱いだったからの。よく覚えておった。それでついああ言ったが、先程気絶した富城のように、地獄級の研修を想像したら震えが止まらん。
「陸奥守さま」
「さまは要らぬ、同僚なのじゃから。もう研修は嫌じゃ。」
「ははは。三河守様の本気の威圧さえなければ、研修も程よい修行なのですけれど。」
「真か?!あれが程よいのか?十日の方よの?まさか一ヶ月の方ではあるまい?」
「任務以外でこの地におる時は、だいたい研修に毎日いますので、期間は特にござらんよ?」
「無期限?!すまぬ、小角衆を尊敬する。横目殿、今までの非礼お詫び申す。」
「あくまで、三河守様の本気の威圧が無ければでござるよ?年に数回、三河守様は死刑確定の犯罪者どもで威圧実験をされておるが、その年の初めの実験台は、必ず死にますからな。毎年数人は硝丘送りですよ。」
「真か。」
「真です。なんでも元服するまではお力が毎年上がるとかで、調整が必要らしいです。元服してからも、武功なり内政実績なりで能力が上がるのだとか。逆に死ぬ一年ないし二年前くらいには衰えるのだとか。時折仰る三河守様の独り言の一つですが。」
「三河守様の独り言。もしやして、書にまとめておるのか?」
「各人が近侍している時には、書き止めておりまするよ。流石に生まれた頃からおられる岩室殿の冊数には劣りますが、三歳の頃からお仕えされておられる小角三忍の書物は多いかと。」
「それ何に使っておるのじゃ?」
「三河守様は、宗教一揆を憂いておいでで、民が犠牲になるかの一揆をどうにか抑えられないかと仰っていたので、六神の加護を持つ三河守様のお言葉の抜粋をそれらの宗教に入っておる農民たちに配っておりまする。」
「六神も加護を持っておらるるのか。というか経典を配る坊さんみたいな活動をしているの。それ宗教じゃないのか?」
「坊丸教?!良いですな。そうしましょう。」
「あ、勿論、三河守様には内緒でな。」
「勿論です。実のところ、熱田明神も砥鹿明神も呼ばれるのはかなりお嫌のようですし。」
「真か?!」
「統治・戦略上、民や他国者が呼ぶのは諦めてござるが、身内・家臣からはだいぶ嫌そうでござるよ?」
「ふむ。そう言えば、近臣らが呼ぶのを見た事はないな。」
「ああ、それは小五郎殿が。あ、こんな話をするつもりではなかったのです。」
小五郎よ、何をした。普段はしっかりした若武者な印象のある酒井小五郎は、三河守様が絡むと残念になる。特に弄られ倒されている印象が強い。家臣団に伝わる教訓集でも、例文に出てくるのは大概小五郎だ。しかも、おそらくあの教本も三河守様の小五郎弄りの道具だろう。一番最後の頁に奥書と書いてあり、編集長織田三河守の言葉というものがある。主君も目を通している教訓集の題材にされる小五郎が哀れに見える。あれでも、次の戦では当主以外の十代の若武者で唯一千人将を任される驍将なのだがな。
「はて、なんの話でこられたのかな?」
「実は、陸奥守殿の御息女たちは、既に安祥におられます。忍び御殿で何の不自由も無く暮らしておいでです。死んだとされている諏訪御料人も。」
「何と?!禰々もか。」
「はい。『全てを手にしたい独占欲の強い男が、追放した父親の政策をそのままにするものか。手に負えない(今川)と思えば継続するだろうが、組み伏せられる(諏訪)と思えば、必ず攻める』と仰られて、元三ツ者衆は交代で諏訪を張っていた時期がございまする。」
「流石三河守様」
「その際に、信虎の家族は救ってやれと仰り、流石に寅王丸殿や先代の諏訪殿は無理でしたが、禰々殿や他の娘たちは救い出しておりまする。」
「ついでに陸奥守殿の御子たちも十名ほどお連れしておりまする。陸奥守殿には悪いですが、三河守様は何故か陸奥守殿を畏れておいででしたので、人質にと。」
「三河守様が?儂はそんなに怖いのかのぉ。」
「やや。」
「否定してくれんのか。」
「そ、それでですね。特に衰弱の激しかった禰々殿や父・叔父たちを失い憔悴されていた麻姫殿は、三河守様自ら医師を手配しお救いされたので、その、だいぶ絆されておりまして。」
「ふむ。三河守様は出戻りと言った。おそらく夏の事じゃろう。いっそ禰々と夏二人を側室に入れるか。何人とは言われんかったしの。」
「ま、まずはお会いになりませぬか?」
「そうだの。それが良かろう。」




