第十五話 天文13年春時点での南信濃戦略
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なお、送り仮名は、どちらでも良い場合は、分かりやすくする為、多めになっている事がありますが、誤字では無い事もあります。誤字の場合は修正し、誤字じゃない場合は、ルビで対応しようと思います。
※2022/10/23から20時更新になりました。
陸奥守が逃げられなかったことに凹んではいるが、先に述べたように南信濃・甲斐の話が終わっていない。まずは南信濃だが、この国は群雄割拠を呈していると言っても過言ではない。守護大名家があり、武田家の進出があり、戦国大名未満の家が木曾家・高遠家などとあり、国人が細々といる。
遠江二十九家、駿河三十九家内応することが決まっている。現在、三河にも家臣家が百四十二家ある事を考えると二百十を超える家臣が今後生まれることになる。そして南信濃・甲斐の数はこれに含まれていない。南信濃だけで、大小合わせて百九十五家の武家がある。特に高遠家に多い。正確には、高遠家臣ではない藤沢とか大島とか坂西とか含まれているが、侵攻勢力(武田)に対して一致団結している状態なので、高遠として扱っている。他にも諏訪大祝家の残党もおり、あの縦長く狭い山国にわらわらと人がいるイメージだ。
「陸奥、調略は進んでいないと取っていいか?」
「ぐぬ、申し訳ありませぬ」
「良い。三河だけでも人が余っている。貫高制とは言え、役職だけの家臣に代官地を与えてやりたいのも君主たる者の悩みよ。」
「さよう。儂も元は国守であった身ならば、他国を取るなら今の家臣に報いる必要はあると存ず。」
「金や文物では足らぬか。」
「あ、いや、そういうつもりは。貫高制なればそれもありでしょうが、定期収入が増えるのも喜びの一つ。今までの領地経営がない分、分かりやすい功の報い方かと。」
「ふむ。木曾家も潰すなら、高遠に寄っているところも潰すか?」
「全てとは言いませぬが、それもよろしいかと。」
「こちらの損害はどれくらいと見積もる?」
「三河は豊かでござれば、他国では領民兵が着の身着のまま参戦するのとは違い、兵一人一人が武器武具を装備しておりまする。おそらく、損害は一割も行かぬかと。」
「理想論ではなく?」
「怪我をしても小便を飲んだり馬の糞を塗りたくる事はありませぬので、さらに死者は減りましょう。」
嘘のような本当の話。戦場での怪我人には人の小便を飲ませたり、傷口に馬の糞を塗れば治るという伝承。医学的に何の根拠もないこの伝承は、戦国時代の常識だった。三河で学問を推奨し、医学を学ばせているのもその一環である。医学と言っても簡単な漢方薬の処方から家庭医療の範疇なのだが、先進的だったようで、わざわざ他国から医師・薬師が学びにくる。詳しくは別に語るとして、現在では三河医学研究所なるものを立ち上げ、戦国時代の田代三喜とその弟子たちという医聖たちが日夜現代医学っぽい何かを学んでいる。坊丸も前世医者ではないので、家庭医療を前世の記憶で書き出したものしか作り出せていないのだから、っぽい何かで勘弁して欲しい。
さて南信濃の戦略に話を戻そう。現在、南信濃は信濃を維持したい小笠原家と、信濃を切り取りたい武田と、諏訪大祝を千代宮丸(別名寅王丸)に継いでもらいたい頼重残党と、諏訪大祝を簒奪したい高遠連合と、どうにか生き残りたい木曾家とが三つ巴ならぬ五つ巴状態である。そこに武田討伐を大義名分に三河家が乱入する。実は諏訪大祝は、既に諏訪頼重の叔父満隣の家系が引き継いでおり、武田の軍門に降っている。史実通りなら満隣の三男伊勢宮丸が継ぐだろう。
となると、小笠原家に中立を保ってもらえるなら、木曾家は勿論、他の三勢力は除いても構わない。陸奥守の言う通り、損害が一割未満なら大勝もいいところだが、おそらく織田包囲網が出来そうな気がする。
とは言え、現状の不安は本願寺派による一揆だが、三河を除けば遠江・駿河・信濃・甲斐の四国において本願寺勢力はそこまで幅を利かせていない。三河をどうにか抑えられれば、尾張で本願寺派の一揆が起きない限り、織田家包囲網はあまり怖くないのだ。今のところ、四国切り取りのあとに隣接しそうな国々だと後北条、扇谷上杉、村上、飛騨三木、斉藤、北伊勢四十八家、北畠だ。そのうち伝のないのは村上と三木くらいのもので、なんとかなりそうな気はする。
「左兵衛佐、小笠原は軍の通行と中立は了承したか?」
「はっ。逆にこちらにつきたい者もおりました。」
「どこか?」
「飯島大和守家、仁科安芸守家、溝口美作守家ですな。」
「望月遠江、秋山十郎兵衛おるか?」
「「ははっ。」」
「木曾家を滅した後、小笠原を臣従させよ。反対するなら三家以外は消しても構わん。ただし、主らの手は極力汚すな。汚させるなら三家を使え。」
「「ははっ。」」
「それと風鬼。二人を助けてやれ、伝承の通りなら可能なはずだ。」
「御意。」
「よし、陸奥。調略はそこまで力を入れなくても良い。残したい家が有れば申せ。」
「ならば、諏訪大祝の伊豆守一党、高遠は保科七騎、それと婿の下条を。」
「うむ。それで良い。次は甲斐か。」




