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百合ハーレムの作り方  作者: 乃麻カヲル
第1部二章「百合葉の美少女落とし」
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第10話「布団の中のぬくもり」

「おおうっ! コチラにおられたかぁ百合の君よぉ! ご無事であるかぁっ!?」



 時代劇のような妙な掛け声と共に開け放たれてしまったカーテン。縮こまった僕の視界に仄香、咲姫、譲羽の三人が飛び込む。



「あ、うん。大丈夫……かな?」



 全然大丈夫では無いんだけれども。ばくばくと心臓は早鐘はやがねを打ち鳴らし、布団の中は真夏のアスファルトの上みたいだ。蘭子との体温が合わさればなおのこと。



 そこで、もぞもぞと蘭子が動いてしまう。怪しまれないよう、それに合わせて僕も身をよじってみたり。しかし、やはり不自然なのだろう。咲姫が小首をかしげる。



「……なんでそんなに、お布団がこんもりしてるのぉ?」



「そんなに首まで隠してー真冬みたいだぜいー」



「い、いやぁー。雨に濡れた後だからねー。冷えちゃったからいっぱい布団かぶって、あったまろうと思って!」



「ゆーちゃんお顔が真っ赤だよう?」



「あ、あれー。もしかして熱出てきたのかなー。先生戻ってきたら体温を計らないとー」



「そこに体温計……アルっ。今すぐ状態異常を調べるベキ……!」



「いや! いいっ! あとで……ね!」



「ふぅ~ん……」



「ほほうほう」



 怪しむ咲姫と仄香。まさか布団の中に蘭子が居るとバレている……のだろうか。



 そこに譲羽が無垢な無表情で挙手。



「アタシも寒い、から乗っかって……イイ?」



「だだ、駄目だよ! 体調悪いから!」



「ソンナ……」



「ごめん。でも今度ね……?」



 何を言い出すのかと思えばこの子は……。しかし、そんな甘えんぼさんも可愛いものである。



「あーっ! せっかくゆずりんが甘えたがってるのに受け入れないだなんて! 冷たいぞー? ひとりぬくぬくなんてずるいずるーいだぞー?」



「調子悪いのに乗っかられるのは嫌でしょ!?」



 ちょっとよく分からない追撃をする仄香を尻目に、譲羽は布団のはしを掴んでいた僕の手を握る。



「ヤクソク……」



 なんて、差し出された小指と無理やり指切りげんまんさせられる。僕の上に彼女が乗る? 妙な約束をしてしまった気がするが。



「そういえば蘭ちゃんはぁ~? 百合ちゃん置いて行っちゃったのぉ~?」



「そ、そうだねぇ! どこいったんだろう……!」



「ひどいのねぇ~。待ってくれても良かったのにねぇ~」



「そ、そうだよねぇ! さみしいなぁっ!」



 あせあせと何を返してるのかも覚えてないくらいに。だがそこで、僕のお腹に何やら風が吹き込む。そして温かく柔らかい感触が、へそ横に当たって……。



「はひぃっ!」



「どったのゆーちゃん」



「な、なんでもないっ! 変なくしゃみが出そうになっただけだよ!」



 くちゅんと可愛らしいくしゃみで誤魔化す……って、ちょっ……。何やらお腹に吸い付いてるんですけれどっ!?



 あっ! さらに舐めてるよこの子っ!



 くすぐったくて笑ってしまいそうなのをこらえていれば、疑問顔の仄香と、いよいよ疑いの目を強めた咲姫……くっ、このままじゃあ時間の問題かぁ……っ。



「こっち、百合葉ちゃんの……ブレザー?」



 そこで思わぬ助け船。譲羽が隣のベッドのカーテンをめくったのだ。三人の視線がそちらに移る。



「ああそれっ! さっき乾かしてたんだよねぇ!」



 僕が言うと、すかさず咲姫ちゃんがそれを手に取る。パンパンと払ってじっと見つめて。



「駄目よぉ~? ブレザーもスカートも適当に放っちゃあ。シワになるじゃない。あぁ~っ! ブラウスなんて汚れたままにしちゃあいけませんっ!」



 なんて。咲姫は、僕の制服を伸ばしながら、ブラウスの汚れをどうしようか考えだした。



 よしっ。僕から意識は逸れた……っ。



 だが、そのとき、咲姫は視線をカーテンに隠れた小棚へ。手を伸ばす。



「あれぇ? こっちにも制服が――――?」



「あああ!!! 咲姫ほんとありがとね! シワにならないように伸ばしてくれるだなんて、助かるよ! 大好き! 愛してる!」



「え、うふふっ。どういたしまてぇ~?」



 完全に浮気する男みたいな誤魔化しだった。



 でも駄目だ、それに触れられてはいけない。その制服は蘭子の物なのだ。名札もあれば内側には持ち主を示す刺繍ししゅうもある。ならば、蘭子が脱ぎ去った事がバレるに決まっている。どうにか話をもっと逸らさないと……!



「いやー咲姫は気が利くし頼りになるし、お母さんにしたいねっ!」



 あっ! これは駄目なやつかもしれない……!



「つーか、まんまお母さんじゃーん。ウケるー」



 さらに僕の失言に追撃の仄香。



「えっ! そ、そんな年じゃ~ありませぇんっ!」



 当然、僕と仄香の言葉にショックを受け、咲姫はぷんぷんと怒り出す。ごめん、可愛いよ咲姫お母さん。



「咲姫ちゃん……ママ……」



「おういえっ! それだぜ! スナックバーの咲姫ちゃんママ。昭和のアイドルみたいな美人。だけれどだけれどだっけっどっ? 年齢三十八歳独身っ! ギャグが古臭いのが悩み!」



「リアリティある設定だね……」



「と、年増じゃないわよぉ~っ!」

「それは言ってないよ?」



 なんだろう。センスがずれているのを気にしているんだろうか。そんな短所も可愛いからウェルカムだよ? 仄香はさり気にひどい扱いをしている気がするけれど。



 ともかく、蘭子の制服がバレずに済んで安堵するが、そこにぐわっと仄香の視線が僕をとらえる。



「そういえばっ! こっちに制服があるってことは、その布団の中は下着姿かぁ! おパンツ丸見えチャレンジ出来るかなぁーッ!?」



「う、うぇ――ッ!?」



「そうねぇ。いつもこそこそ着替えてるし、しっかりと真正面から見てみたいわねぇ」



「写真……撮ル……」



「ち、違うしっ……やめてよぉっ! 咲姫はさっきの会話聞いてたよねぇ!? 僕はこの下にジャージを――――」



「さぁーって! ゆりはすのおブラとおパンツをその目に焼き付けよ!」



「逃がさないわよぉ?」



「シャッター……チャンス……」



「ひぃーッ!!!」



 全然僕の話を聞いてもらえない! 布団をぎゅっと抱きしめる僕に二人の魔の手が! ゆずりんなんて部活の小型デジカメを手に……って持ち歩いてるのっ!?



「観念しなさぁ~いっ!?」



「咲姫ちゃそ、いっせーのーせでいくんだぜっ!」



「おっけぇ~い!」



「なんでそこだけコンビネーション良いの!?」



「よっしゃ! そんじゃー? いっせーのー!」



 掛け声を上げる仄香。ぐぬぬっ、ここまでか……っ。



「せいっ!」



「せぇ~っ!」



「いやぁあ~っ!!!」



 と叫ぶ僕が抑えていた布団は無残に剥ぎ取られ……。



 んっ? 静かだ。



 つい顔を覆いつつ、ちらと指の隙間から彼女らを見る。ニヤニヤから落胆の顔に切り替わる三人。



 もう言い逃れは出来ない。おしまいだと、諦めて僕は視線をめくられた先へ……。



 居るんだ。そこには裸で僕に抱きつく彼女が……って、あれっ?



「なんだよぉ! ジャージ着てるだなんて聞いてないぞぉ!?」



「いや……言っても聞く耳持たなかった、じゃん……?」



「……つまらないわねぇ」



「百合葉ちゃんには……ガッカリ……」



「二人とも酷くないっ!?」

 やれやれとわざとらしく肩を落とす譲羽と……。比べて、本当につまらなさそうな表情の咲姫。彼女が狙っていたのはやはり違うことだったのだろうか。



 そう。そこには、蘭子の姿は無かった。



※ ※ ※



「じゃあお大事にねぇ~」



「しばしの別れじゃ」



「サラダ……バー」



「サバのっバー!」



 予鈴の鐘が鳴って、各々に別れを告げながら三人は保健室から出ていく。そこから少し時間を置いて、「ふぅーっ」とため息を付きながら、パンツ一丁の蘭子が。靴も履いたままだったので、ものすごいアンバランス。



「流石にこの姿は寒いな。レズセックスも、時期を考えねば」



「いつどこに隠れてたの……」



 レズい話には一切触れず、僕は彼女のスタイルバツグンな身体を見ないようにして訊ねる。



「先ほど、百合葉の制服に気を取られていただろう? その隙にベッド下へ移動したのさ」



「なるほどね……。寒いなら早く着替えなよ」



「心配するな。すぐに着る」



 そういって、本当に手際よく布をまとって。一分掛かるかどうかという内に、彼女はいつもの姿に戻っていた。



 僕も僕で薄汚れた制服を手に持つ。表面は乾いているようだけど、まだ着るにはちょっと気持ち悪いかな。今はハンガーに掛けておこう。今日一日は彼女のジャージで過ごすことになるかもしれないけれど。



「じゃあ僕は二時限目から出るよ。ちょっと寒気するし」



「そうか。しっかり休むと良い」



 言うと蘭子は、ベッドの上からタオルを片腕に掛け、そして何歩かドアに向かって歩く。しかし、そこで一度止まったかと思うと、僕に背を向けたまま……部屋の隅を見ながら……。



「裸の百合葉を拭いたタオルが私の手に……。私のジャージが百合葉を包んで……。フフッ……返ってくるときが楽しみだ……」



 なんて……呟いていた。



「えっ、なんだって?」



「いや何も。早く横になっていろ」



「うん。分かった。ありがとね」



 顔だけ振り向く彼女に微笑んで返す。僕が横になるのを見届けた蘭子はドアに手を掛けてゆっくりと保健室を出て行く。静かになったこの部屋で、僕の脳内では彼女の呟きがはっきりと残響している。



 当然、聞こえなかったのはフリで、僕の耳には届いていた。本当にうっとりと酔っていたんだろうか。独り言を慎まないのは、本音が筒抜けになるので大変助かる限りだけど……。やっぱり素でド変態レズじゃないかっ!



 聞こえた内容はやはり変態チックで、ジャージを返した後にナニに使用されるか解ったものではない……。ただ、たとえ彼女が夜な夜な脳内の僕を蹂躙じゅうりんしていようとも、他人の妄想にとやかく言うのはタブーであるし、今回は大目に見よう。もちろん美少女だからである。



 これでもし彼女が男だったら……と考えるだけで身の毛がよだつほどに怖気おぞけが走った。そんなの、彼氏だったとしても吐き気を催すし、死んでも許せない。ちょんぎってやる。



 やはり、僕には男なんて要らないのだ。

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