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百合ハーレムの作り方  作者: 乃麻カヲル
第1部一章「百合葉の美少女集め」
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第80話「ウイスキーボンボン」

 座学の授業ばかりでイヤになる月曜日を迎えて放課後。もうもうと暗い雲の立ち込める寒空から逃げるように僕達は部室に集まって、ダラダラ百合百合と過ごしていた。帰るのが遅くなればもっと寒くなることは間違いないのだけれど、月曜日特有のダルさを晴らすために、この場でのびのびしたいという考えは皆いっしょみたい。



 ちなみに休み時間、僕なんて百合百合ならぬ揉み揉みされたりしたけれど……。それでもおおむね、百合百合されるのは譲羽が多めだ。



「ゆずりんで今日の疲れ癒やさせてよー。勉強いっぱいで疲れたよー」



「そのセリフ、一日中飽き飽き……。いい加減ご遠慮願い……タイッ」



「そんなこと言わないでさー。……五分! 五分でいいからっ!」



 そう言って袖にすがる仄香だが、流石の譲羽も授業が終わる毎にムニムニされてウンザリしているよう。ジトーッと仄香をいぶかしげに見つめる。



「うへへぇー。そんなに見つめられたら照れちゃうよぉー」



「……動じて……ナイッ?」



 やれやれとわざとらしくため息をつくゆずりん。この過剰なスキンシップの甲斐あって、随分と譲羽の態度も変わったようだ。素直でよろしい。



「うふふ~。ユズちゃんのほっぺマシュマロみたぁ~い 」



「うぬぬ……セクハラ霊が移ッタ? おのれ悪霊メーッ、邪鬼メーッ!」



 なんて、次は仄香に便乗する咲姫に御祓おはらいする。少しずつ定型化しつつあるムニ百合な流れを、保護者の気分で眺めて微笑む僕と蘭子。この三人が集まると、仄香がお馬鹿をやるか、譲羽がもてあそばれるか、咲姫が保護者をするかの大体どれかで楽しんでいたり。仲良さそうで良いことだ。



 しかし、譲羽が言うように、毎度毎度変わらぬ繰り返しに、飽きはしないのだろうか? いいや、そんなことは無い。百合百合に飽き飽きなどありゃしない。百合こそは至高。平和の象徴である。もう世界中のみんな百合百合すればいいのに。



 はてさて。実を言うと、僕はこの放課後を心待ちにしていた。百合百合タイムも確かにそうだけれど、それとは別に、スーパーアイテムを用意している。鞄から手に取るはキラキラと輝くその怪しげな箱。ラブコメ漫画でも意外とお馴染み……お馴染みだと思う。ちょっとほろ苦い大人なお菓子。表紙を先に逆さまにしてしまって、内容が判らないようにし……。



「今日はおやつでチョコ持ってきたから、みんなで食べようよ」



 そう言いながら二十五個も入ったケースを机に置く。その名はウイスキーボンボン。こじゃれたアルミ箔に包まれたチョコレートは、分かりやすいボトル型ではなく卵のような丸型なので、察しの良い咲姫と蘭子でもぱっと見では気付けないだろう。



「んんんっ!? いやぁったぁあああ――ッ!!! こんな綺麗なのどうしたの!? これ一人五個食べれるよね!? 食べていい!? 食べていーいっ! いよっし!」



 耳がびっくりするほどのテンションの上がりっぷりで机をバンバン叩く仄香。譲羽が大変気分悪そうに顔をしかめる。まさか机酔いしたのかな? それはないか。



 それよりも仄香が割り算出来るとは……と驚きそうになったけれど、そんなレベルまでアホでは無いらしい。



「親から貰ったんだ。遠慮しないで、みんなもジャンジャン食べてよ」



「へへぇ~。それなら飲み物でも用意するわねぇ~」



 と、咲姫はすでに準備済みだったのか、先ほど部屋の隅で沸いていた電気ケトルから茶葉入りのティーポットにお湯を注ぐ。



「だそうだ。お茶まで待とうな?」



「うぅ……。目の前にご馳走があるというのに……」



 咲姫の言葉に蘭子が仄香に"待て"と言いつける。それはもう「ぐるる……」と、仄香も仄香で犬さながらであった。



 それにしても、良いとこのお嬢さんな筈なのに、数千円のチョコをご馳走だなんて、お土産冥利に尽きるというもの……僕が買ったわけじゃあないけれど。ちなみに僕にとっては高級品だ。



 この子は辛いものだけでなく甘いものも好きみたいで。とりあえず、美味しければなんでも良いという舌みたい。舌が下手に肥えていたら、共に味わう喜びが減ってしまうので、むしろ嬉しいことではある。



 そうして。いつもとは違い蒸らす時間など省いて、間もなく華やかな香りがカップへ注がれる。薄紫色のラベンダーティーだ。彼女が持参した砂糖替わりの蜂蜜やオリゴ糖などは入れず、そのままの味をいただくみたい。チョコとのバランスを考えてのことだろう。嫁に欲しい。



「さぁて、どうぞぉ~」



「みんな食べてね」



 咲姫と僕の共同作業でお茶とお菓子を配る。早く食べたくてウズウズしていた仄香は、

「ふぅううううーーーッ!!!  いっただっきまぁ~っす!」



 なんて、スーパーハイテンションで包みを豪快に開けるのだ。



「騒々しいぞ仄香。もう少し静かにしろ。さて私も頂くぞ、百合葉」



「南米ガーナが生み出した奇跡の秘宝……、アタシも頂戴……スルッ」



「食べるわねぇ~っ」



 仄香に続き、蘭子、譲羽、咲姫とが後を追って食べる。ガーナは南米じゃなくてアフリカなんだけれど……。なんてツッコミは野暮だろう。口にする前から盛り上がり楽しそうに皆が包みを剥がし始めたのを確認し、ここで僕は立ち上がり行動に移さねば。



「あ、食べる前にトイレ行きたくなってきたから、ちょっと行ってくるね」



「えーっ! 不思議な味でオイスィーのにぃーっ!」



「おいすぃ~とっ! よねぇ~?」



「オイスウェート……」



「おういえっ! スウィートでスウェートなスウィーツだぞぉっ!」



 なんて、いつもの不思議な言葉遊び。しかし、ここで足止めされてはいけない。



「はいはいっ、味わっててねー」



「"お花を摘みに"、行ってくるんでしょ~? 行ってらっしゃ~い」



 「スウィート」だの「スウェート」だの、チョコを持って僕を制そうとする仄香と譲羽だったが、咲姫が助け船を出してくれる……"お花摘み"って逆に恥ずかしいんだけれど……。



「大丈夫、すぐ戻ってくるよ」

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