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百合ハーレムの作り方  作者: 乃麻カヲル
第1部一章「百合葉の美少女集め」
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第53話「百合定め」

「さっきーもらんたんも来れなくて残念だねー」



「咲姫も蘭子も休みの間、出掛けるみたいだよ。僕らは明日もあるし、そのときにはショッピングセンターに行こうね」



「うっへっへー。土日どっちも会うとかうちらカップルなんじゃね?」



「三角関係……」



「修羅場になりそうだね……」



「いーやっ! 三人トリオだぜッ!? 手ぇつなごっ!」



「お、およ……っ?」



 言って仄香を中心に僕と譲羽。半ば強制的に手を繋がれ歩調に揃えて大きく腕振り。楽しそうで何よりではある。



 今は土曜日の正午。みんなと仲良くなって初めて遊びに行くワケだけれども、今日集まれるのは彼女らだけであった。実は明日の予定もあったり……?



 本当は今日みんなで出掛けたかったのだけれど、予定が空いていたのは仄香と譲羽だけだったのだ。だから、先にこの子たちと遊ぶことに。



「まさか昨日の今日で会うとは思わなかったよね……。さて、まず最初に……。ユズが行きたい場所あったんだっけ?」



 僕はあらかじめ、出掛けようかとは考えてたんだけどね。仄香を挟んで反対側の譲羽に問い掛ける。コクリと頷く彼女。



「ゆずりんが真っ先に行きたい場所を言うなんて意外だったなー」



「まあ、そういう時もあるさ」



 前日、三人で通話したときに「買いたい物がある……」ということであった。僕も意外に感じたり。でも、僕らはまだまだゆざりんの事を分かっていないのだ。ちょっと決め付けてしまわないようにしないと。



「とりあえず、どこに向かえばいいの?」



「じゃ……えーっと、大通りのほうに……」



 ユズが言うショップ名を携帯で検索して、地図アプリを見ながら歩くこと三十分ほど。バスだと余計に分からなくなりそうだからと徒歩。三人ともバスに慣れていなかったのだ。うーん、思わぬところで庶民離れしているな、僕は……。倹約家なだけなのだけれども。ドケチじゃない、ウォーキングもいいぞっ。



「バスって大変だよねー。だって小銭が足りなかったらお札を崩して崩したお金をまた崩して更に崩して料金を入れるんでしょー? 込んでるときとか大変だわー」



「崩しすぎだからね?」



「んんんーっ?」



 彼女の頭の中では崩す行程が一円単位まであるようだ。場所にも寄るけど、せいぜい百円玉と十円玉あたりが出れば事足りるのに。



 でも、それが嫌いなのもあってバスが苦手だったり。いや、電子マネーはあるけどさ。それでも足りなかったら怖くない? 足りないのは何円でーお金を崩してーなんて、計算得意な僕でも嫌だ。



 そんなこんがらがる計算をしているうちに、譲羽は立ち止まる。



「こ、ここ?」



「そう……ココ」



 人が行き交う中、僕らが見上げたお店。色とりどりのポスターが目に付く。



「す、すごいね……」



 そこまでして主張する存在。それは、美少女、美少女、美少女! よりどりみどり、色とりどりの二次元美少女たちが我よ我よとアピールする、オタク向けショップであった。



 僕だってよくアニメを見るオタクではあるし、こういう店の存在は噂に聞いていたけれど……。そりゃあもう、ザ、オタク文化まっしぐらで圧倒される。しかも、男性向けっぼくない? 僕は広く浅くなライト層なのだ。大型書店以外でこんなにも美少女系商品を眺めるのは初めてだなぁ。



 だなんて思いつつ、入り口で美少女看板が来客を出迎えているのを横目に入ってゆく。



「ふぇー。ゆずりんってこういうの好きなんだねー」



「そう……。でも、ただのオタクとっ、決めつけるにはっ、まだ……ハヤイッ」



 片目を隠し謎のポージング。ゆずりん中二病可愛い。ちなみに誰も『ただのオタク』と決めつけてはいない。



 肌色、桃色が中心に並び、お堅い雰囲気なんかいざ知らず。パステルでカラフルな空間をずんずんと突き進むゆずりん。お客さんの間をそそくさとぬって続く僕ら二人。



「ここ……ナノっ」



 譲羽が立ち止まった先、狭めの通路に三人が並び立つ。その棚に名付けられている名前は……。



「可憐なる乙女の花園……ゆ、百合コーナー?」



「そう」



「ほおうっ! 女の子同士オンリーだとぅっ!?」



「そう」



 商品広告のポップでは、綺麗なイラストの女の子二人が抱き合ったり見つめ合ったり……。いや、もちろん百合は好きだよ? でも、通販や電子書籍任せだと店に来ることは無いもので……。その品揃えはただただ圧巻であった。



「ユズは百合好きだったんだね」



 僕がそう言うと彼女は片手をビシッと高く上げ、宣誓のような体勢。



「そう……! アタシ……はっ、オタクです……がっ! 特に……女の子同士が、イチャイチャしてるのを見るのが大好きな……! ふぅっ。百合オタク――デスッ!」



「お、おぉ」



「わぁーお」



「百合小説も……書いて、マスッ!」



「まじか」



「まじでじま?」



「最近は百合葉ちゃんと……咲姫ちゃんと……蘭子ちゃんで、妄想……してマスッ!」



「ま、まじか……」



「まぁじでっ!?」



 矢継ぎ早に発表される新事実。あと二つは……その、すごいなぁ……。反応に困り語彙力が死んでしまっている。



「小説、書いてるんだ」



「そう……いつかバレるなら、あらかじめ……言っておきたかったノ……」



「へぇーっ! すっげぇなー!」



「ぼ、僕とかで百合妄想しちゃってるんだ」



「ソウっ。ハマリ役……っ」



 なんで自慢げに胸を張るの? まあ僕はウェルカムであるけれども。



「リアルで百合妄想する人って案外身近に居るもんなんだねーっ」



「まさか自分で妄想されるとは思ってなかったよ……。別に構わないけど」



「大丈夫。百合葉ちゃんはそこまで……ひどい目にはあってないから」



「そこまでってなに!?」



 思わぬ伏兵であった。いや、この僕がこの子の役に立てていたというのであればむしろ喜びたい所なんだけどね。



「へいへいゆずりーん。途中でもいいからさー。あとでゆーちゃんが……い、ろ、い、ろっ。される小説読ませてよー」



「いかがわしいことは……ないケド」



「まじかよっ。ざんねぇーん」



「残念がらないでよ……」



 ちょっと。なんで僕が色々されるかのようになってるの? 不服なんだけど?



「それに……」



 続ける譲羽。



「まだ初心者だから、下手なのハズカシイ……」



「……そっか」



 恥ずかしがる点はそこじゃあないと思う。



 とりあえず、この趣味は否定してはならない。彼女の創作に関して受け入れる姿勢でいないと。



「まっ、それはそれで良いと思うよ。人に見せた方が作品は伸びやすいとも言われるけど、見せたくないなら無理に見たりしないさ。僕で妄想するのも、ユズなら構わないし」



「まじかよっ! じゃああたしも妄想するー!」



「仄香は怖いから駄目」



「おうっ差別!?」



 ぐぬぬと悔しがる仄香。流石に僕が"色々"されるなんてちょっと嫌だよ……。



「いつか。自信がついたら見せてね?」



「ういうぃーっ。見せてくれるときが楽しみだぜぇ~」



「アリガト……頑張ルっ」



 僕らが言うと、ふんすっとやる気を見せる譲羽。不器用な中二病ロリっ子。そんな子が、勇気を出して趣味を打ち明けてくれたんだ。小説となると出来上がりはまだまだ先だろうけれど、楽しみに待ってよう。



「ところでそんな重大なこと、打ち明けて良かったの? 秘密だったら、わざわざバラさなくても大丈夫なんだよ?」



 そりゃあお互いの壁は無いに越したことはないけれど……。あらかじめとは言え、どこまでの心境だったのだろうと訊ねる。



「二人なら……いいかなと思って……」



「僕らなら?」



 咲姫蘭子に比べて優先順位が高いのかな? それはつまり、百合ハーレム作りが順調な証であるかも? その差が何を意味するのか気になってしまう。



「仄香ちゃんは同じ部屋だから……いずれ打ち明けないといけない、し……」



「たしかにねー。百合趣味に小説書きなんて隠しきれないし~、あたしなら暴きかねないもんねー」



「暴かないでよ……」



 この子はそういうお互いの隠し事は苦手そうだからありそうだけどね。自分でもよくわかっている様子。



「百合葉ちゃんは……」



「僕は?」



 途中で止めるゆずりん。おっ? やっぱり僕だけ好感度高かったりする。



「百合葉ちゃんは……百合アニメ、好きでしょ……」



 違ったようでした。



「な、何で知ってるの?」



 ものの数日で百合バレするようなヘマをしただろうか? もしそうだとしたら、百合百合大事件じゃん……と、ちょっと不安に。



「前見たノートに……漫画のキャラの落書きが描いてアッタ」



「んっ? ああ、アレかぁ……」



 そう言えば猫と共々消してなかったんだ……。クラゲの絵だけじゃあ、見られても分からないと思ったんだけどなぁ。バレたなら仕方がない。



 ともあれ、僕らの趣味自体は合っているんだから、より親密度を深められるんじゃない? むしろチャンスだチャンス。何事もプラスにねっ。



 そんなことを考えているうちに会話は終了したようで、譲羽は百合定め……もとい、百合マンガの品定めに入っていた。百合マンガって一括りにしてもやっぱり好みはあるもんね……。横に並ぶ仄香もサンプルを手に取って眺めてたり。



「すっげー。可愛い女の子がいっぱいだぜー」



 ウッキウキな仄香。しかし、そこで一つ生じた疑問。



「そういえば、仄香ってオタク文化は大丈夫なの? 嫌悪感とかさ」



「んっ? 萌えってことでしょ? あたしもたまにアニメ見てるし、女の子がかわいけりゃあなんだっていいよー」



「そっかぁ……」



 実に仄香らしい意見だった。お硬く言えば同性愛モノではあるけれど、意外と百合文化に対するハードルって低いものなのかもしれない。そもそも、この子はレズ疑惑が強すぎるし。



※ ※ ※



「っぷぁー。面白かったぁー」



「ビール飲んだおっさんじゃないんだから」



「うぇへへー」



 読み終えた様子の仄香にペシとツッコむ。僕もまた、サンプルの薄い冊子から手を離す。



 ゆずりんはまだ品定めを……って、だいぶ本棚がスッカスカになった気がするよ? 結構な量を買うみたいだ。まだまだ掛かりそうな様子を見て、他に何か無いかとキョロキョロ仄香ちゃん。



「おおっ? 奥にもまだコーナーがあるんだけどっ!?」



 そう言って、駆け出す構えを取る彼女の腕をゆずりんが掴む。



「そっちは行っちゃあ……ダメ……」



「まじかよー。カラフルなのにー」



 何があるんだろうと僕も目をやれば、



 んんんっ? やたらに肌色が多いような……?



「ああ、ありゃあダメだね」



 僕が言うと、「んんーっ?」と不服な様子の仄香ちゃん。



「ダメったって、ただナニがナニするアダルトでしょー? そんなん気にすること無いってー!」



「大きな声で言うもんじゃありませんっ」



「うへぇー」



 再びペシと叩けば渋顔の仄香。この子恥じらいとか色々抜け落ちてるんじゃない? たまに怖くなるよ……。



 そう思っていれば同じことを考えていたようで、



「デリバリーがないってやつだったかなー? ごめんごめーん」



「それを言うならデリカシーね。何をお届けするのさ……」



「……恥?」



「要らないよ、ノーセンキューだよ」



 とんだお馬鹿であった。



「そもそも、あっちはもう百合コーナーじゃない……」



「あ、それは確かに好きくないかなー。ただのエロじゃあなー」



「そこは線引きするんだね……」



 百合以外のアダルトには行く気が無かったみたいでとりあえず一安心……。一安心なのかなぁ……。



 そして僕らは会計へ。しかし、その譲羽の手元が気になっていた。



「ゆ、ゆず……。こんなに買うの……?」



「今まで買う機会無かったから……。買う機会待ってずっと調べてて……。欲しかったの……」



 どのくらい選んでいただろうか。時間をかけただけあって、カゴの中身は二十冊をゆうに越えようとしていた。しかも大判コミックが多いものだから、なおのこと大荷物である。レジに運び、両手で重たそうなカゴを引き上げる譲羽。



 唖然としてしまったけど、手伝えば良かった。でも、一人でなんとか持てたみたいで一安心……。



 そうしてレジの長いスキャン作業ののち、電子マネーで支払い店員さんから袋を受け取る。トテトテと、出口で待つ僕らに向かうが……。



「うぇええ。手伝ってぇ……」



※ ※ ※



「ごめん……ネ、荷物手伝って欲しいって、言うの……忘れてて……」



「大丈夫? ゆーちゃん。半分持とっか?」



「このくらい、平気さ。か弱い女の子に重い物なんて持たせてられないよ」



「もうっ、ゆーちゃんたらー」



「イケメン……」



「へへへ。もっと言ってくれてもいいんだよー?」



 頑張って微笑み返す。しかしこの量だ。ずっと持ち歩くには厳しいかもしれない。



 店の前で歩行者の邪魔にならないよう隅に寄る僕ら。昼過ぎとは言え、四月の風は涼しいと言うにはまだ少し寒く、油断すれば風邪を引いてしまいそう。まあ、大荷物で僕だけ暖かいんだけど。



「電子書籍は持ち運びが楽で管理もしやすい……。でも生の書籍を大事にしたい気持ちもある……カラ」



「そうだねぇ。紙をめくる感じとか、ただ読むだけとは違う味わいがあるもんね。人それぞれ読みやすい方で良いと思うよ。僕なんか両方使うし」



「うん。アタシは現物で揃えたい派……」



 でも一度にこの冊数なんて……。コレクター魂を持ってそうだ。百合漫画図書館を作るって言い出しても不思議じゃない。



 そして、聞いていた仄香ら「ほーほー」と思い出すように……下手なフクロウっぽくてかわいい。



「だからあんなおっきい本棚が入って来たのかー。ありゃあ百冊はくだらないねー。五百は超えるんじゃない?」



「えっ? それほんと?」



 僕が見ると、ニカァッと不器用に笑いサムズアップするゆずりん。今日の分だけで済ませるつもりは無いみたい。やっぱり図書館だ……。



「ま、まあ。そのたびに呼んでくれれば僕が手伝うよ。とりあえず、次はどこだっけ」



「いや……まだ……」



「えっ……」



 ついせかしてしまった僕に譲羽が手で制止を促す。そして彼女が指差した先。見える看板のブックという文字。



「そこ中古本屋さんでも……探したい……」



「そっか……よっし!」



 筋肉痛なんて……どんとこいだぁ……っ!

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