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百合ハーレムの作り方  作者: 乃麻カヲル
第2部三章「百合葉と美少女たちの冬」
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第10話「年越しそば」

 クリスマスの慌ただしさから一気に駆け抜けるように大晦日になってしまった。まさに師走という感じだ。年末に向けた準備、イベントの連続、そして年を越す為の準備。本当に大変な一月だった。



 そんな月ももう終わり。年賀状も大掃除も終わらせた僕の大晦日の予定は……? いつもは家族と過ごすのが定番だし、みんなもそうだと思うんだけれど、今回僕らはみんなで話合って、仄香と譲羽の寮で五人で過ごすことになった。



 冬の日没は早いもので。夕方の時間なのにもう外は暗い。オレンジ灯に照らされた雪と照らされない青い雪の景色となっていた。そんな薄暗い中、学校最寄りの駅で咲姫と蘭子と待ち合わせ。三人で学校方面行きのバスに乗って学生寮を目指す。



「いやぁ、大掃除がさっきギリギリ終わってさぁ。もう大慌てだよね。肩と腰が痛いよ」



「そうなのか。私は無理したくないから、親に言われた所を一ヶ月の間に何度かかけて掃除したな。少しずつだから楽だったぞ」



「わたしは、油汚れとか整理整頓とか苦労しそうなのは今月頭からぁ~。あとは仕上げにいつも掃除してる範囲を細かくって感じかしらねぇ~」



「そっかぁ。二人の方が効率良さそうだねぇ。僕は結局いつも、年末まで掃除したくないんだよ。困ったもんだよね」



 僕から切り出して蘭子と咲姫と大掃除トーク。この子らもそこそこイイトコの家庭だけど、仄香と譲羽に比べたらまだ庶民感があるから、話が合って助かるなぁ。仄香とか、大掃除? 何それ? って言いそう。



「蘭子は年賀状書いたりする?」



「いや。めんどうだからそんなもの書いた記憶がないな。前に宣言した通り、百合葉であっても送らないから期待しないでくれ」



「そ、そうなんだ……。確かに印刷にしても面倒は面倒だからね。咲姫は?」



「わたしは親戚とかお世話になった人にぃ~。歳が近い人はlimeでメッセージかなぁ。百合ちゃんにはもう送ったわよぉ~? でも、年賀状よりも新年はわたしと会う方が先って、なんだか良いわねぇ……」



「そうだね……お泊まりだしそうなるかな……。僕も送ったよ」



「えへへぇ~。良いわよねぇ~」



「そうだねぇ」



 思わぬところで咲姫ちゃんといちゃつきトークが出てしまった。めっちゃイイ……。でも、そんなのをこのタイミングで出すとめんどうな事もある。



「くっ……。私も百合葉に、愛で埋め尽くされた年賀状を送れば良かったか……」



「変なこと書いてあったら破り捨てるわ……。無理しなくていいよ」



 なんて、完全に年末トークであった。年賀状文化もめんどくさいから強制するのは良くないけど、文化としてはこれはこれで良いものなのだ。



 そうこうしているうちに、学校前バス停に付いた。この辺は高台の高級住宅地だからなのか、年末年始もある程度バスが通ってて助かるものだ。いや、それでも黒塗りピカピカの高級車とかが断然多いけどね。この辺の防犯カメラの数とかえげつないし、交番も近いしセキュリティばっちりだし。



 歩いて数分もしないうちに学校敷地内の寮に付く。limeでもう着くと連絡してあるから、すぐに二人が来るだろう。



 そして、開かれたドア。



「いぇーいっ! 待ってたぞよー!」



「ここまで、お疲れ様……」



「やあ、お待たせ」



「お邪魔しまぁ~す」



「お邪魔する」



 扉を開けて出迎えてくれる仄香と譲羽。僕と咲姫と蘭子が寮の玄関に入る。そして、相変わらず掃除もセンスも行き届いた寮の中を進んでいき、二人の部屋へ。



「年末なのにみんなみんなようこそー! あたしたちの部屋へー!」



「ヨウコソ……年末はみんなでゴロゴロ……っ」



「まあそうだね。外寒いし。朝までゴロゴロしよう」



「イイヤ……明日も夜までゴロゴロ……スルっ」



「初詣はっ!? それに、明日は帰るからねっ!?」



 なんて出不精な娘なんだ……。僕はゆずりんの将来が心配だよ……。あれっ? でも結婚して面倒見ちゃえば全く問題ないんじゃない? よぉ~っし! パパ、譲羽ちゃんを養う為に頑張っちゃうぞ~っ。それ結婚なの? 養子じゃないの?



「寮母さんに年越しそば作ってもらってるんだけどさー。気が早いよねーまだ夜が始まったばっかだってのにー」



「えっ? むしろベストじゃないの?」



「年越しそばって新年迎えたら食べるんでしょー? それまで放置するのは伸びちゃうよねー」



「それじゃあ年越した蕎麦だよっ! それとも年明けた蕎麦!? 新年迎える前に食べるんだからね!? 元旦に食べるんじゃあ、おせちを食べるタイミングが無くなっちゃうでしょ……?」



「深夜に食べればいいじゃん!」



「なんて不健康な……っ」



 そんな事をしたら太っちゃうし肌も荒れちゃそうだ……。いいなー美少女は。そういうの気にしなくても綺麗なんだからなー。僕も美少女に生まれたかったなー。



 まあ、どんなに言い訳しようが妬もうが、生まれ持った特性は変えられないわけで。僕とてなんか顔と声が良いらしいし、そのお陰か僕はモテるようになったワケだし。結局の話、自分の持ち味や体質を生かしていくしかないのだ。



 流石はお嬢様学校の寮母さんなのか、頼めばその人数分だけ年越し蕎麦を作ってくれるのだそうだ。あらかじめ伝えておいた人数分を仄香が部屋に運び込み、テレビで歌合戦を見ながらコタツを囲んで五人、天ぷら蕎麦を食べる。この食べる並びは部室のコタツを囲うのとと同じような感じだ。



「ああ美味しい……。やっぱり、僕が作る素人の料理とは大違いだよ……。麺も安物とはぜんぜん違うし、ダシもしっかり効いてて、あっという間に食べ終わっちゃいそうだ」



「ゆーちゃんそんな美味しいのー? こんなもんじゃないー? 普通においしーってかんじー」



「オールウェイズ、いつも通りの高いクオリティを提供してくれる……。ヨイ……」



「そ、そうなんだ……」



 仄香も譲羽も質の良い食べ物に慣れてる様子……。きっと、激安スーパーとか値引きした食材とは無縁なんだろうなぁ……。それだけでお嬢様とは言わないけど、やっぱり育ち自体は良いみたい。



 そう食べてる中で、蘭子は仄香を手で指す。その顔がどこか悪どいように見えるから、何か企んでいるのだろう……。



「仄香、年越し蕎麦の意味は分かるか?」



「そんな……さっきまで勘違いしてたのに酷な質問だなぁ……」



「まあまあ。仄香がどういう答えを出すか気になってな」



 蘭子に言われ、黙ったままうーんと唸る仄香。考えてる考えてる。そして、ボタン早押しクイズみたいに机をパーンと叩く。揺れる蕎麦つゆ。しかし面白いので注意はしない。



「蕎麦を打って悪運を取っ払うー!」



「ほう。なかなか悪くない線だな」



「ならばっ! 蕎麦を食いちぎって悪運を断ち切るっ!」



「ほう。合ってるかもしれないな」



「なんだよー! 蘭たんも分からないのかよーっ!」



 また机をダンダンと叩いて怒る。揺れる蕎麦つゆ。う~ん、ギリギリっ!



「まあ落ち着け。切れやくい蕎麦のように、今年の不運を切り捨て、来年を幸運で迎えられる様にという意味や、蕎麦のように無病息災で長生きできるようにという意味らしいからな。多分あってるのだろう。おめでとう仄香、頭が冴えているじゃないか。褒めてつかわす」



「落ちつけおみおつけー! やったぜー!」



「何様なの蘭子……。仄香も喜んでいいのそれ……」



 と、蘭子ちゃんの雑学タイムだった。中々面白かったので、これもまたよし。



 そんな込められた意味を噛み締めながら、蕎麦を食べてテレビを見る。毎年恒例の歌合戦だ。生まれる前のバンドブーム時代の曲などが好きな僕にとっては、アイドルばかりでちょっと物足りないけれど、それでも見ていてやっぱり楽しいものだ。それは結局、音楽そのものが好きだからなのかもしれない。



 蕎麦は食べ終わり、今度は譲羽に運んで行ってもらう。こぼしてしまわないか心配だったけど、大丈夫だったみたいで良かった。



「へぇーい! 見て見てーっ! じゃがじゃがじゃが……」



「リスじゃんそれっ」



「うふふっ。頬袋とかに溜め込みそうねぇ」



 みんな大好きなお菓子、じゃが棒をカリカリと食べる仄香。それを見て僕も咲姫もやっぱり彼女はリスとかそういう小動物が似合うなぁ……。お目目パッチリなチワワと迷うところ。むしろチワワリスとかにしちゃう? 何かゲームに出てきそうな安直な名前だなぁ……。



 プチシュークリームを持ち寄ったりお高いチョコ菓子を持ち寄ったり。もちろんいつものお菓子にサイダーがあったりと、クリスマスと同様なノリだった。



 そんな僕らの大晦日がゆったりと更けていく。

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