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百合ハーレムの作り方  作者: 乃麻カヲル
第1部一章「百合葉の美少女集め」
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第25話「ゆりはすノート」

「もう外国語なんてやってられませんよー! ここは日本じゃけんねぇっ!」



「でも次は国語だよ? 古典だけど」



「うっげぇ……古い日本語だって不要だよ、まじで……」



 英語の授業を乗り越え、そして昼休み前に国語の古典を残すこととなった休み時間。



主要教科の連続に仄香はげんなり辟易している。



「もう授業の最初っからウトウトしちゃってさー。ノート書き切れなかったかんね」



 そして、わざわざ見せるために持ってきたのか、ばーんっとノートのミミズ字を晒す。



「あわわ……」



「うーん、字じゃないね」



「でっしょー!」



「いや褒めてないからね」



「うげげ」



 そんな彼女だが、よろよろ歩き咲姫の机に突っ伏した。ちょっとちょっと、人が居ないからって。



「だからさー。さっきーに写させてもらおうと思ったんよー。でも当の本人が居ないじゃん? これ終わり確定だわ」



 まだまだガイダンスが終わって間もないのに、既に授業に絶望しているのか。彼女は「うえーっ」と溜め息を吐く。でも、やってる内容は基本の確認であって、そんなに難しくないんだけどなぁ。



「ユズは? 字は綺麗だったよね」



 僕が訊ねると、途端に目を逸らす譲羽ゆずりは。彼女も眠かったのだろうか。遠目にはそんなように見えなかったけれど。



「あ、あたしのは古文書と化しているから……見せられ、ナイ」



「コモンジョ?」



 歴史ファンタジー的な? やはり彼女も漫画やゲームの空想に耽る中二病なのだろうか。



「あぁーそれねー。瑠璃って書いた上にラピスラズリとか、翡翠でエメラルドとか、ずらーって難しい漢字いっぱい埋めてたよー」



「はっ……。ほ、仄香ちゃん……バ、バラさないで……」



「えっ? 秘密だった? ごめんごめん」



 小指と人差し指を立ててキラッとポーズを取りながら「テヘッ」と言う仄香。絶対謝る気ないでしょ可愛すぎだよ……。



「でもそんな漢字よく読めたね」



「えっへっへー。視力には自信があるんだー」



「いや難しい漢字って意味なんだけど……」





 お馬鹿なのか頭がいいのかわからないなぁ。



「とりあえず、翡翠はエメラルドじゃなくてジェイドだからね」



「……はっ!? 驚愕……」



 驚く譲羽。さてはちゃんと英訳を調べなかったね? こちらはホントのお馬鹿可愛いご様子。



「まあ結果として、仄香もユズもノートを取れなかったワケだ」



「うぅ……」



 譲羽がうめき声をあげる。しかしその横で訝しげに僕を見る仄香。



「ゆーちゃんはどうなのさー? ひとりだけ見せてないぞよ?」



「えっ、ぼ……僕?」



「アタシにこんな辱めを与えたのだから、百合葉ちゃんも受けて当然の摂理……」



「いやユズは落書きばかりで板書すらしてないんでしょ? 僕は、み……見せられないよ?」



「ひとりだけズルイ……」



 不満げに唇を尖らせジトっとした目で譲羽が詰め寄る。後ずさる僕。しかし、すぐに壁へと追いやられ、二十センチほど差のある彼女に押され気味となってしまった。



 その横からしたり顔に表情を歪ませる仄香。



「ぐっへっへー。あんたの恥ずかしいところ全部ぅ~、見せてもらおうかっ!」



「変態がいるッ!?」



 ツッコミつつも目が泳ぎ焦る。そんなものだから、無意識のうちに僕が机に置きっぱなしにしていたノートを見やってしまった。その視線に気付いてか、仄香が目をキラリと輝かせて……僕は手を伸ばすも――ッ



「くっ、間に合わなかった!」



「甘いぜっ! ノートはすでに我が手中にある!」



「おおー」



 ジャジャーンと大きく掲げる仄香。譲羽もその勇姿に称賛の拍手を送る。



「か、返しなさいっ!」



「やだねー」



「ほんと! 勘弁だから! ……やめてっ!」



 ま、まずい。なんとか取り返さないと……!



 とは思うのに、焦れば焦るほどに僕の手の猛攻もむなしくヒラヒラと避けられる。



「そんなに必死だとむしろ楽しみだぜぇー! さーって、ゆりはすノートをぉー、オープンっ!」



「い、いやぁ……!」



 顔を両手で覆う。くっ……。"アレ"がバレてしまっては恥ずかしいなんてもんじゃない……。もうここまでか……。



「うん?」



「え、えーっと……」



 戸惑う二人……ほら、僕のイメージが変わってしまったのだろう。さらば、スーパークールなイケメン女子を目指していた僕……。



「ネコ?」



 二人の声がハモる。



「しかもめっちゃ描いてあるんだけどー。同じ子がいっぱいー」



「でも表情とか服装違う……マフラーかわいい……」



「こっちは踊るアンブレラ猫~。超好きだわー」



 各々が感想を述べる。うぐぐぐ……見られてしまったからにはこれから先イジられ続けるのだろう……。



「これ……見られたくなかったの……?」



「そうだよ、猫だよ。男っぽい僕が猫好きだなんておかしいでしょ。笑うといいよ」



 首を傾げ無言になる二人。ノートと僕を交互に見やる。



「まじかよかわいいかよ」



「そうだよ、僕にかわいいのなんて似合わないんだよ」



「あっはっは! かわいいかよぉー!」



「やめてぇ……」



「百合葉ちゃんかわいい……」



「うぅ……」



 よしよしと顔を塞ぐ僕の頭を撫でる譲羽。は、恥ずかしい……。



「でもいいじゃんいいじゃん? 字は……まあ普通だけどぉ、色使い見やすくて綺麗だし、要点をネコちゃんが解説してくれたりさ。頑張ってノート取ってるんだなぁってわかるもん。努力家ってやつぅ~?」



「解説ねこ……イイ……」



「ねっ。こりゃあ覚えられるわー」



「慰めは要らないよぉ……」



 ノートを広げながら告げられる、子どもをなだめるかのようなご機嫌取りに顔から火が出そうだ。



「いいじゃんかぁ、個性的でさっ」



「アタシ、これ欲しい。一冊完成したらいちまんえん出ス……」



「まじかよー! そんならウチは二万出すわ!」



「じゃあさんまんえん出すことを辞さナイ……」



「なんとっ! おぬしやりおるなー!」



「オークションするんじゃないよ全く……」



 いつものお馬鹿なやりとりに呆れてしまう。しかし、不思議と羞恥心は薄らいでいたのは、ちょっぴり感謝である。



 ただそれよりも、この子らの金銭感覚が不安でしかないんだけど。本気じゃないよね? お嬢様方。



「ま、かわいいの好きでもいいんじゃな~い? たとえ男子でもそういう人って居ると思うし、関係ないよー」



「そう……そもそも百合葉ちゃんは可愛いから問題ナイ」



「それなー。そもそも男っぽいってよりボーイッシュ? 中性顔だからむしろアリだわー」



「猫好きの王子とか……イイ」



「おっ? それ響き良すぎんてぃぬすじゃね? ゆりはす王子最高かよー」



 盛り上がる二人。どうやら猫趣味が受け入れられたみたいだ……。それより『ゆりはす』って何?



「ところでさぁーっ? 保健のノートも貸してもらえないかなぁー、なんてっ!」



 唐突の話題変換であった。



「もう、都合がいいんだから……」



 僕はやれやれと、自分のカバンの中から取り出す……が、



「あっ……」



「どったの?」



 僕が開いたノートを覗き見る仄香。その内容にはところどころ空白があって……。



「書き切れなかったんだ……」



「ネコも居ない……」



「いやそこは問題じゃないでしょ」



 どれだけネコが好きなんだ……内容よりもネコ重視みたい。



「どーする? さきさきさっきーが帰ってきたら借りる?」



「でも咲姫もノート取れてないと思う……」



「あぁー見つめ合ってたもんねー。まじ嫉妬やわー」



「や、違うけど」



 でも、あながち間違いじゃないような気もして……またまた恥ずかしいな……。



「そいじゃあどーすっかなぁー」



 仄香がうぅーんと悩む。その横でピコーンと背伸びし閃く表情の譲羽。



「い、良い人が……イルッ」



「えっ、だれだれー?」



 彼女に他の友だちでも出来ていたのだろうか。



 仄香が訊くと、とてとてーっと譲羽が声を掛けに行ったのは……。



「す、鈴城さん……保健のノート貸シテ……」



 またしても蘭子ちゃんなのであった。

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